Night Food前編

86 :【Night Food(1)】:2007/12/06(木) 23:50:51 ID:jPMqsQtM
 ――こんこん。

 ベランダのガラス戸が叩かれた。
「……たーつーやーくん……」
 押し殺した――しかし、緊張感なく間延びした声。

 ――こんこんこん。

「……たーつーやーくん、いーれーてー……」
「……ったく!」
 間宮達也は舌打ちすると、机の前を離れて、カーテンを引き開けた。
 ガラス戸の向こうに、にこにこ微笑みながら立つ姉――間宮美夜の姿があった。
「えへへへー、達也くんのおウチに入れてもらっても、いーい?」
「……ああ」
 達也は仏頂面でガラス戸を開けた。初めから鍵はかけていない。
 冷たい冬の夜の空気が、部屋の中に流れ込んでくる。
 だが、美夜は、にこにこ微笑みながらその場を動かない。
 達也は聞こえよがしにため息をついてから、棒読み口調で言った。
「どうぞ、お入りください」
「えへっ、ありがとー」
 それでようやく美夜は、ローファーを脱いで部屋に上がりこんで来た。
 達也は、もう一度、ため息をつき、
「なあ、毎晩、コレやんなくちゃダメなのか? だいたい、ここは自分の家だったのに」
「うーん、ホントのルールではねー、一度招待された家には出入り自由なんだけど」
 美夜は、くるりと弟を振り返り、にっこり微笑む。
「でも、達也くんがお姉ちゃんを歓迎してくれてるってこと、毎晩でも確認したくて」
「……ったく」
 達也はもう一度、舌打ちした。だが、今度のは照れ隠しだ。
 自分の頬が火照っているのはわかったが、冷たい夜風に触れたせいだと決めつけておく。
 美夜は通学用のハーフコートを羽織り、マフラーを結んだ姿だった。
 そのまま外の街を歩けば、普通の高校生に見えるだろう。
 深夜零時を回ってはいたが、いまどき高校生の夜遊びなど珍しいことではない。
 だが、ここはマンションの九階である。
 ベランダは隣の部屋とは繋がっていない、達也の部屋専用のものだ。
 ならば彼女は、どこから現れたのか?
 黒髪は絹糸のように艶やかで、やんわりと柔和な笑みを浮かべた顔は美形に分類されていい。
 その割には大きな野暮ったい黒縁眼鏡をかけ、ファッションの感覚はいくらかズレているらしい。
 それが芸能人の変装のように、自分をわざと地味に見せる意図でなければ、だが。


87 :【Night Food(2)】:2007/12/06(木) 23:52:49 ID:jPMqsQtM
 ガラス戸を閉めかけた達也を、美夜は「あ、待って」と制止した。
「お鍋」
「え? ああ……」
 美夜の言葉に、達也は頷いて、ガラス戸を開け直す。
「相変わらず自分は手ぶらで、料理は魔力だか超能力だかで運んで来たのか」
「だって、お姉ちゃん自分の手で運んだら、ひっくり返しちゃいそうでしょ? 経験からの学習ってやつね」
「自慢にならねーよ、ドジっ子アネキ」
「えへへへー」
 美夜は照れ笑いしながら、ぱちりと指を鳴らす。
 すると――
 外から黒い霧のようなものが室内に流れ込んで来た――宙に浮かんだ土鍋とともに。
 いや、その霧が土鍋を運んでいるのか。
「えっと、どこに置けばいいかなー? きょうは机、使ってるの? 勉強中?」
「期末テストが近いからな。待てよ、いま座卓、広げるから」
 達也はベッドと壁の隙間にしまっていた座卓を引っぱり出し、部屋の真ん中に広げて置いた。
 それからクロゼットを開けて、高校の制服や私服のコートなどが掛けてある下から、卓上コンロを出す。
 座卓の上に達也が据えたコンロに向かって、土鍋は(霧に運ばれて)ふわふわと降下していき――
 しかし、最後の一、二センチで霧は風に吹き散らされたように消え、がしゃんと土鍋は乱暴に落下した。
「あー、またコントロール失敗。いつも最後の詰めが甘いのよね、えへっ」
 美夜は、ぺろりと舌を出す。
「中身をこぼさなかっただけ上等だよ」
 達也は、やれやれと肩をすくめて、ガラス戸とカーテンを閉めた。
 美夜はマフラーを解いてコートを脱ぎ、それぞれをくるくると丸めてベッドの上に置いた。
 コートの下は高校の制服姿で、街を歩けば人目を惹くほど豊かな胸がブレザーを押し上げている。
 だが、スカートは校則通りの膝丈で、膝下までのソックスとあわせて素脚をほとんど隠している。
 達也はベッドの上からクッションを二つとって、一つを美夜に渡した。
「ありがとー」
 にっこりと微笑み、美夜はクッションを敷いた上に正座する。
 達也も座卓を挟んで姉の向かいに胡坐をかいた。
「んで、きょうの夜食は何?」
「えへへー、冬に嬉しい牡蠣雑炊でーす」
 美夜はにっこりとして、鍋の蓋を開けてみせる。達也は眼を丸くして、
「あ、すげ。牡蠣が四つ……五つ? これ全部、オレ喰っていいのかよ?」
「うん。だって、お姉ちゃん食べられないもん」
 にこにこ笑顔のまま美夜は言い、蓋を戻してコンロを点火した。
 達也はちょっぴり気まずい顔になり、上目遣いに美夜を見て、
「でも、姉貴……牡蠣は好物だったじゃん? よくオレと牡蠣フライ奪い合って喧嘩したり」
「そうだけどほら、食べ物の好みって変わるじゃない? 子供の頃は苦手なトマトが好きになるとか」


88 :【Night Food(3)】:2007/12/06(木) 23:56:03 ID:jPMqsQtM
 美夜は達也に、にっこりと微笑みかけた。
「普通に人間として生きてたって、そうだもん。ましてや吸血鬼になっちゃったら、ね」
「姉貴……」
 達也は姉の顔を、じっと見つめて、
「……それで、いまの好物はオレってことか?」
「えへへへー」
 美夜は照れ笑いして鼻の頭を掻く。
「いっぱい食べて精をつけてね? そのあと、お姉ちゃんにも少し元気を分けてほしいな、なんて」
「テストが近いって言ってるのにさ……」
 達也は、わざと憮然としてみせるが、本心ではない。
 吸血鬼である美夜は、達也が血液を与えなければ「生き続け」られないという。
 最愛の姉を「再び」喪わないため、達也は自らも望んで血を吸われているのだ。


 美夜は三ヶ月前に「病死」した。半年にわたる入院と闘病を経てのことだった。
 いつかは訪れる筈だった結末とはいえ、家族の悲嘆は相当のものだった。
 その姉が、納骨を終えた日の夜、ひょっこり達也の前に現れた――吸血鬼となって。
 達也の驚愕は相当のものだった。
 当然であろう。骨になって墓の下で眠っている筈の相手が、「生前」よりよほど元気な様子で現れたのだ。
 美夜は達也を魔法で金縛りにして無理やり落ち着かせてから、自身が吸血鬼になった経緯を説明した。
 それは彼女が「亡くなる」一週間前のことだったという。
 夜、寝つけずにいた美夜は病室のカーテンを開けて月を眺めていた。
 そして、出会ってしまったのだ。月の光を浴びて翔ぶ彼女と――
「真祖」と呼ばれる吸血鬼の一匹、真綺(まき)と。
 自分は、いつの間にか眠ってしまったのだろうと美夜は最初、思った。
 眼にしているものは夢なのだろうと。
 だから素直な気持ちで、彼女に願った。
 自分も一緒に翔びたい、と。
 吸血鬼は、それに応えてくれた――「いいわ、暇つぶし」と言いながら。
 神話と呼ばれる物語が同時代的な事件だった頃から生き続けてきた彼女も、また退屈していたのだ。
「あなた血液の病気ね。ひどい味だわ」
 ぼやきながらも真綺は、美夜の生き血を啜り上げた。
 そして自身の柔肌を爪で切り裂き、滲み出した血液を、瀕死となった美夜に舐めさせた。
「吸血鬼に血を吸われた犠牲者が、そのまま吸血鬼になるなんて無責任な俗説」
 真綺は美夜に語って聞かせた。
「私がどれだけの人間の血を吸ってきたと思う? 獲物がみんな転化していたら、世界は吸血鬼で埋まってる」
「ブラム・ストーカーをよく読むことね。ドラキュラがどうやってミナ・ハーカーを転化させようとしたか」
「いくつもの伝説を繋ぎ合わせて小説のドラキュラは造形されたの。その伝説に真実も含まれてたってこと」


89 :【Night Food(4)】:2007/12/06(木) 23:59:07 ID:jPMqsQtM
「そうよ――吸血鬼になるためには、吸血鬼の血を飲めばいい」
 それからの一週間で、美夜は「人間としての死」に近づいた。
 日増しに容態の悪化する彼女に、医師たちは手の施しようがなかった。
 最後の二日間は意識のない重篤状態だった。
 だが、その時点で美夜は、真綺が造り出した「ゴーレム」とすり代わっていた。
 魂を持たない人造人間は見事に「死に行く少女」を演じきり、最後は火葬場で骨となった。
 一方、美夜は真綺の保護下で無事、吸血鬼としての「再生」を果たした――


「……ごちそうさま」
 達也は箸を置き、空になった土鍋に両手を合わせた。
「はい、お粗末さまでしたー」
 美夜は、にっこり微笑みながら言う。
「さて、鍋奉行してて、お姉ちゃん暑くなっちゃった。上着、脱がせてもらおうかなー……」
「……姉貴さー」
 達也は美夜を、じっと見つめて、
「わざとらしいマネしなくても、オレの食事のあとは、毎晩ちゃんとつき合ってるだろ?」
「えへへへー」
 美夜は照れ笑いで頭を掻いた。
「じゃあさ、じゃあさ、達也くん」
「なんだよ」
「ぎゅっとして、チューして。えへっ?」
 漫画だったら台詞のあとにハートマークがついているだろう。
「…………」
 達也は立ち上がると、姉の手をとった。
「ベッドの上、来いよ」
「あ……うん」
 急にしおらしく頬を赤らめ、美夜は弟に導かれるまま、ベッドに上がって横座りする。
 達也は姉の手を握ったまま、相手に顔を近づけていった。
 長い睫毛を伏せ、眼を閉じた美夜に、唇を重ねた。
 やわらかで、ひんやりした感触が心地よかった。髪の芳香が鼻腔をくすぐる。
 美夜の手から手を離し、しかしその手で、望み通りに抱き締めてやる。
 温もりは感じないが、氷のように冷たいわけでもない。
 いくらか豊満なその身体は、やわらかく抱き応えがあった。
 唇を離すと、瞳を潤ませた美夜が、悪戯っぽく笑って言う。
「えへっ、間接牡蠣雑炊。美味しいね」
「やっぱり食いたかったんじゃん、姉貴」
「えへへへ……実はお料理中に味見でスープは飲んだ。固形物は胃が受けつけないけど、味はわかるから」


90 :【Night Food(5)】:2007/12/07(金) 00:02:13 ID:jPMqsQtM
「不便だな、吸血鬼って」
「でもね、吸血鬼になったおかげで、わかるようになった味もあるよ」
「オレの血だろ?」
 苦笑いする達也に、美夜は「えへへへへー」と悪戯っぽく笑って首を振り、
「違うよ、達也くんそのものだよ。お姉ちゃんが吸血鬼になってなきゃ、エッチしてくれなかったでしょ?」
「そりゃ……だって」
 達也は赤くなって眼をそらし、
「エッチで発散しなきゃ、吸血鬼の凶暴な本性を抑えられないっていうから。他人を襲ったら困るだろ」
「他人となんて絶対エッチしないよ、達也くんとだけだよ。お姉ちゃん、その程度の理性はあるよ」
「何だそれ、騙したのかよ」
 口をとがらせる達也に、美夜は「えへっ」と笑って、
「騙してないよ。お姉ちゃんが凶暴化したら、達也くん朝まで寝られなくなっちゃうよ?」
「ぜってー詐欺だ」
「怒らない怒らない。達也くんだって、お姉ちゃんとそういう関係になって、新しい味を知ったでしょ?」
 くすくす笑いながら、美夜はブレザーを脱ぐ。
 張りつめた乳房を包むパステルピンクのブラジャーがブラウスに透けていた。
「さあ、達也くんの大好物。召し上がれ……えへっ?」
「くそっ、そうやって誤魔化して……頂くものは頂くけど……」
 照れ隠しにぶつぶつ言いながら、達也は最愛の姉の乳房を両手で包み込むようにして触れた。
「んっ……」
 美夜は心地よさそうに眼をつむる。
 張りがあるのにやわらかく、この上ない触感の乳房だった。手に余るほどの大きさも最高だ。
 達也はそれを下から上へ、かき上げるように揉みしだいた。
「……んあっ、達也くん……」
 美夜は首を反らし、うっとりと声を上げる。
 達也は美夜のリボンタイを解き、それからブラウスのボタンを外していった。
 だが、全て外し終える前に我慢できなくなった。
 前をはだけさせ、露わになった乳房の谷間に鼻面を埋め、思いきり息を吸い込んだ。
 温もりは感じない肌なのに、なぜだか温めたミルクのように甘く、やさしい匂いがした。
「……んふっ、達也くぅん……」
 美夜に頭を抱かれて、撫でられる。
 子供が甘えているみたいだと、我ながら達也は思う。だが、恥ずかしいとか情けないとは思わなかった。
 吸血鬼となった姉は、弟としかエッチしないという。つまり美夜は、達也の独占物なのだ。
 自分のモノを、どのように愛するかは自由だろう。
「姉貴が吸血鬼になる前は、オレ、姉貴とこんなことしようなんて思わなかったんだぜ……」
 乳房に顔を埋めたまま相手の背中を探り、ブラウスの裾をスカートから引き出しながら達也は言った。
 くすっと、美夜は笑い声を上げ、
「お姉ちゃんも、達也くんとしたいと思っても、できなかった。姉弟じゃ、いけないことだもんね」


93 :【Night Food(6)】:2007/12/07(金) 00:25:55 ID:lUWpIZbe
「したいと思ったって……」
 あきれる達也に、美夜は「えへへへ」と笑い、
「いつか達也くんが気づいてくれるかなと思って、ずっとラブラブ電波を送ってたんだよ?」
「受信してたら逃げてたよ、そんな危険な電波」
「えーっ、ひどいなあ」
 美夜は、くすくす笑って、
「達也くんはお姉ちゃんのこと、オンナとして見てくれてなかったの?」
「見られるわけないじゃん。実の姉だぜ、血の繋がった」
 姉の豊かな乳房から顔を上げた。
 にこにこと屈託のない笑顔で、美夜は弟の顔を見下ろしている。
 達也は照れ隠しに眼を伏せ、口をとがらせながら、
「まあ……正直、全く意識してなかったわけじゃねーけど。こんな立派な胸した女が同じ家の中にいたら」
「えへっ、ありがとー。オッパイだけでもオンナとして見てくれて、お姉ちゃん嬉しいな」
 美夜は達也の頭を、ぎゅっと掻き抱いた。
「わぷっ! 苦しいって、姉貴!」
「えへへへ、このまま大好きなお姉ちゃんのオッパイで、達也くん溺れちゃえー」
「それじゃ胸以外は何もしてやれねーだろ!」
「それもそうだね」
 美夜は、あっさりと達也を解放した。再び弟の顔を見下ろし、にこにこ微笑みながら、
「それでオッパイ以外は、何をどうしてくれるのかなー?」
「……全部可愛がってやるよ、どこもかしこも」
 達也は赤くなりながら言って、美夜の頬に、ちゅっとキスをする。
「え?」
 一瞬、きょとんとした美夜は、何を言われたか認識して蕩けそうな笑顔になった。
「……えへへへへー。全部ってやっぱり、えへへ、アレもコレもだよね……えへへへへー」
「全部って言ったら全部だよ、というか毎晩やってることじゃん。とりあえず、眼鏡とるぜ」
 達也は姉の顔から眼鏡を外した。美人の素顔が、すっかり露わになった。
「ホントは吸血鬼になってからは必要ないんだろ? 邪魔だし、かけなきゃいいのに」
「でも、顔に眼鏡がのっかってないと落ち着かないし。幼稚園の頃から、ずっとかけてるもん」
「だったら、もっとオシャレなのに替えろよ。真綺さんってヒトに頼んで、買って来てもらえばいいじゃん」
「そりゃ真綺さん、お金持ちだけど、そんなに何でも頼っちゃうのはなー」
 美夜は考え込むように首をかしげたが、すぐに何か思いついたように、にっこりとして、
「達也くんがプレゼントしてくれたら嬉しいんだけど」
「えっ、オレが?」
 眉をしかめる達也に、にこにこ笑顔で美夜は、
「達也くんが、お姉ちゃんに似合うと思うのを選んできてほしいな」
「……わかったよ」
 達也はしかめ面で、しかし決心したように頷いた。


95 :【Night Food(7)】:2007/12/07(金) 00:29:43 ID:lUWpIZbe
「クリスマスには間に合わないけど、冬休みにバイトして、お年玉と合わせて買ってやる」
「ホント?」
「ああ。伊達ならレンズ代かからないし、フレームだけなら二、三万で買えるだろ」
「ホントにホント? お姉ちゃんに買ってくれるの、達也くんが? ……ありがとー!」
 美夜は笑顔を輝かせ、ぎゅっと再び達也の頭を自らの胸に掻き抱いた。
「わぷっ! だから苦しいってばっ、姉貴っ!」
「お姉ちゃん幸せすぎて死んじゃうかもっ! というか吸血鬼だし半分死んでるけどっ!」
「俺まで殺す気かっ! 放せってのっ!」
「えへへへー……あ、興奮しすぎて、よだれ垂れちゃう」
 じゅるりと、よだれを啜り上げ、それでも間に合わず口元を拭ってから、美夜は達也を解放した。
「……ぷはっ! はぁっ、一瞬お花畑みてーのが見えたぞ。臨死体験一歩手前だっての……」
 苦しげに喘ぐ達也に、美夜は「えへへへー」と、にこにこ笑顔で、
「でも冬休みだけとか無理しないで、春休みまでかかってもいいからね」
「ああ……、けほっ、けほっ」
 達也は咳き込みながら頷き、
「でも、その分、クリスマスは大したことしてやれねーぞ」
「それは気にしなくていいよ。吸血鬼にクリスマスなんて似合わないもの」
「そりゃそうか」
「それより、ねえ、達也くん……」
 美夜は達也の手をとると、自分の両手で優しく包み込み、微笑んだ。
「プレゼントは、まだ先でいいからさ。いまは約束通り可愛がって、お姉ちゃんを全部。ね?」
「あ……、ああ」
 達也は赤くなりながら頷くと、美夜の背に腕を回し、ゆっくりとその身体をベッドに寝かせた。
 あらためてブラウスのボタンを全て外し、前を完全にはだけさせてから、のしかかるように唇にキスをする。
「んあっ……」
 美夜は達也との触れ合いとしては一番、キスが好きだと言っていた。
 唇を重ねる瞬間が、「愛されている」と感じるのだそうだ。
 愛する姉が、それを求めているのである。応えてやらなければなるまい。
 美夜の舌が達也の唇に触れるのと、達也が舌を突き出したのが、ほぼ同時だった。
 ふたりは――吸血鬼と人間の姉弟は――当然のように舌を絡め合った。互いの口腔を舌でまさぐった。
 姉の舌は濡れている分、唇以上に冷たかったが、決して不快感はない。
 そうしながら達也は、美夜の背の下に手を入れて、探り当てたブラジャーのホックを外した。
 何度も繰り返して慣れた行為だ。そして緩んだブラジャーを、下からめくり上げた。
 ぷるんっと、豊かな乳房が弾み、桜色のバストトップが露わになった。
「巨」とか「爆」という形容詞がふさわしいような豊乳なのに、乳暈はあくまで小ぶりで幼ささえ漂う。
 色白のきめ細やかな肌と比べて、ほんの少しだけ色づいた乳頭は砂糖菓子のような可憐さだ。
 美夜と結ばれることがなければ、達也がその美しい乳房の全容を眼にする機会もなかっただろう。
 それ以前で姉の裸を眼にしたのは、二人が小学三年生と二年生だった夏休みの家族旅行の温泉が最後だ。


96 :【Night Food(8)】:2007/12/07(金) 00:32:52 ID:lUWpIZbe
 当時、達也は姉のふくらみかけの胸を見て「デブが胸までデブになった」と莫迦にしたものだった。
 ひどく罰当たりなことを言ったものだと反省している。
 当時もいまも、姉はいくらか「ぽっちゃり」型ではあるがデブと呼んでいいほどではない。
 むしろ、その程よい肉づきのおかげで、やわらかな抱き心地がもたらされるのだ。
 こりこりと乳頭を指で弄んでやった。
「んんっ……、達也くんっ……」
 美夜はブラウスをはだけられた乳白の肢体をよじらせ、切なげに吐息を漏らす。
 唇から頬へ、首筋へ、胸元へ――キスを移動させていき、乳房のふくらみに達した。
 だが、すぐには乳頭を責めないつもりだった。
 これが初めての「行為」ではない。その余裕はできている、つもりだ。
「姉貴……」
 乳頭ぎりぎりにキスを繰り返しながら、囁きかけた。
「姉貴が、オレのところに帰って来てくれてよかったよ。オレの血を欲しがってくれてよかった」
「達也くん以外の人間の血を飲みたいとは、お姉ちゃん思ってないもの」
 美夜は言って、微笑む。手を伸ばし、弟の頬を愛しげに撫で、
「拒絶されたらどうしようか不安だったけど。だって姉弟だし、それに……吸血鬼なんてバケモノだし」
「姉貴はバケモノなんかじゃねーよ」
 達也は、きっぱりと言った。だが急に照れくさくなり、わざと憎まれ口を叩く。
「……むしろ、ドジっ子の大バカモノだな」
「ひどいなー、最近は大したドジはしてないのに」
 美夜は、くすくす笑う。
「……あのね、達也くん」
「あん?」
「お姉ちゃんのオッパイ、まだ可愛がってもらってないところがあるよ。全部可愛がってくれる約束でしょ?」
「ああ……」
 ここでもう少し美夜を焦らすというテクニックもあるだろう。主導権をとり続けたいなら、そうするべきだ。
 だが、達也としても、姉の愛らしい乳頭の誘惑には抗えなかった。それを早く味わいたかった。
 ゆっくりと唇を近づけ……ちゅっと、音を立ててキスをした。
「ああああん……っ!」
 過剰なほどの反応だった。ぎゅっと眼をつむった美夜は、大きく身をよじる。
「お姉ちゃん、達也くんに毎日こうしてもらったら、きっとオッパイだけでイけるように……ああああっ!」
 ちゅぱっ、ちゅぱっ、と、達也は乳頭へのキスを繰り返しながら、
「姉貴、さ……」
「え……?」
「可愛いよ。すげえ可愛い」
「えへっ……ずるいよ、そんな言葉責め……可愛いなんて……んああああっ!」
 れろれろれろ……と、舌で乳頭を弾く責めに、達也は転じたのだった。
 びくっ、びくっと、美夜は水揚げされた海老のように身体を仰け反らせる。

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最終更新:2008年04月21日 16:46
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