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監禁トイレ⑤-1 sage 2008/02/01(金) 22:39:10 ID:FXEDQWSn
「「達哉くんは何歳なの?」」
高音のユニゾンが少年に問い掛ける。
「二人とおんなじ。八歳」
一つ屋根の下で暮らし始めて早一か月、達哉少年もようやく二人に懐き始めていた。
「「お誕生日は?」」
「八月十九日。二人より三か月遅いねぇ。僕、おとうとになるのかぁ…」
「私、ずっと弟が欲しかったの」
「私、ずっとお兄ちゃんが欲しかったのに」
「じゃあ僕、二人の間に入ろうかな」
少年は無邪気に笑い、そう言った。
双子は驚いて顔を見合わせた。達哉の時系列を無視した答えにではない。初めての意見の分裂に。
亀裂は、一度入ってしまった以上後は砕けるまで深く進行するのみだった。
512 監禁トイレ⑤-2 sage 2008/02/01(金) 22:39:59 ID:FXEDQWSn
―――今何て言った!?
『お義父さんもお母さんも死んでますからね』
「嘘だろ…?」
「本当です」
いくら頭の中で反芻しても、実感の伴わない言葉。形を変える事なく、脳内を乱反射する言葉。
死んだ。
親父と花苗さんが。
死んだ。
何故?
決まっているだろう。
こいつだ。目の前でニタニタと笑っている、こいつだ。
「つぼみッ!!」
目の前の女に飛び掛かる。右手に強烈な反動が来る。手首の皮が少し削げたようだ。左手を伸ばしても、届かない。あの底意地の悪い笑い顔に拳を叩き込んでやりたいのに。
蕾が近付く。僕の伸ばした左手に悲しげに頬を擦り寄せる。
「義兄さん…。仕方なかったんですよ。だって二人とも邪魔するんですもの。絶対に駄目だ、って。
何度も何度も話し合いました。でも何一つ許してはくれなかった。それどころか私達は家族なんだからそんな感情を抱く事すら間違いだ、なんて言うんですよ?恋する事すら許されないなんて…それこそ間違ってるでしょう?
家族?そんなのあの人達が勝手に決めた事じゃないですか。勝手に結婚したのはあの人達じゃないですか。それなのに…。だからね、死んでもらいました」
513 監禁トイレ⑤-3 sage 2008/02/01(金) 22:42:47 ID:FXEDQWSn
「だから…?だからって何だよ!!それが殺して良い理由になる訳ないだろうッ!!」
「なります。少なくとも、私には」
力が抜けていく。いつかやりかねない、そんな事は分かっていた。花苗さんに容赦無しに暴力を振るう、二人の姿を見た時から。
どうしてこんな事になる…?
確かに問題はあった。長い時間をかけなければ氷解する事のない、たくさんの問題が。
でも時間をかければ解決出来た筈じゃなかったのか?
親父が僕を追いやったのは二人の娘を想って。
花苗さんが何をされても側にいようとしたのは二人を愛していたから。
けれどそれは全部、二人にとって障害以外の何者でもなかったのだ。
充満していた力が体から空中へ霧散していく。支える事すら出来なくなった足はくの字に曲がり、僕は膝をつく。涙は出ない。まだ真実と決まった訳じゃない。自分の目で見るまで絶対に信じるものか。
「義兄さん…悲しいですか?」
蕾が僕の頭を抱き締め、耳元で囁く。
「なら義兄さんと私で、家族を作りましょう。あの二人の愚行を理解している私達なら、こんな悲しい事は二度と起きません…。私が、起こさせません」
愚行。
愚行だって?心の底からお前達を心配してくれた人だぞ?それを…
不快感がミミズのように体内を這いまわり、全身を埋めていく。
514 監禁トイレ⑤-4 sage 2008/02/01(金) 22:46:20 ID:FXEDQWSn
「早く、帰してくれ」
「駄目です」
「放せ」
「嫌です」
「いい加減にしてくれ…!姉ちゃんにも聞こえてるんだろ!?もうこんな茶番は終わりだ!!僕は、どっちも選ばない!好きになんかならない!!」
「義兄さん…」
「今すぐこれを外せ!!扉を開けろ!!もう二度と…お前らには会わない!!」
「義兄さん…」
駄々をこねる子供をあやすように背中をさすられる。
「萌
姉さんはね、今何を話しかけても答えません。何をしても起きません」
おい…まさか…死…
「これは二人で決めた事なんです。私と義兄さん、姉さんと義兄さん。互いに二人だけの時間を作って義兄さんにどちらかを選んでもらう。そういうルールなんです。
だから私と義兄さんの時間の間、姉さんはひたすら寝たフリをしなくちゃならない。逆に姉さんと義兄さんの時間の間は、私が寝たフリをするんです。」
ホッとした。また、殺した死んだの話になるのかと思ったから。
「じゃあアレは…今寝たフリしているのか?」
「さぁ…本当に寝ているかもしれませんね。何せ昨日から全く寝てませんでしたから、あの人」
本当に無駄な努力だ。不眠不休で計画したのが義弟の監禁か。
呆れると同時に冷静さを取り戻す。とにかく、なんとしてもここから逃げなければ。
蕾の手で後頭部を撫でられながら、考える。
515 監禁トイレ⑤-5 sage 2008/02/01(金) 22:47:08 ID:FXEDQWSn
そして、気付いた。
「うわっ!馬鹿…おま…!!」
腕で頭を抱き締められているという事は、僕の頭は彼女の胸の位置にあるわけで。
その…ふ、二つの膨らみが…。
慌てて後ろに下がる。
「何故逃げるんですか、義兄さん」
「そこに胸があるからだ」
「胸がお嫌いなんですか?何なら削ぎ落としますか…。義兄さんが貧乳好きとは思いませんでした」
恐ろしいことを言うな。
「そういう意味じゃない!喜んで義妹の胸に顔を埋める人間が何処にいる!!」
ちなみに大きいのは全く、全然、断じて、嫌いじゃない。
「今、私の目の前に」
「いや…だから…気付いたのが遅かったから…その…ごめん」
「謝っても許しません」
「…」
心の狭い義妹だ。監禁されて尚、こうやってお前と親しげに話す義兄を見習うべきだ。
「許してほしいなら…一つだけ言う事を聞いてください」
この際だから許してくれなくても良いのだが。だが蕾は萌姉ちゃんと違ってまだ話が分かる方だ。(というより姉ちゃんが極端に人の話を聞かないだけなのだが)ここで悪感情を持たせるのは得策ではあるまい。
「なんだよ…?」
蕾が俯く。
ポニーテールが微かに揺れる。
震えている?
俯く彼女の顔は見えない。
「その…ご飯を食べさせてください」
一気に脱力した。
最終更新:2008年02月04日 23:39