監禁トイレ⑫

482 監禁トイレ⑫ sage 2008/05/06(火) 14:07:59 ID:g5ZblnWF
とん、とん、とん。
双子は階段を下りる。リビングに近付くといつものコーヒーの香りがする。この家で育ってきた間、
いつも嗅いできた香りだ。
摩季が出て行こうと。
達哉が出て行こうと。
この匂いは何も変わらず漂っていた。だからこそ、喪失感を一層浮き彫りにする。
達哉の不在を思い知らされる。
二人の間に会話は無い。
五年間の憤怒と殺意を寄り合わせたロープを握り締めて、双子はリビングのドアを開けた。









483 監禁トイレ⑫ sage 2008/05/06(火) 14:09:27 ID:g5ZblnWF
摩季は、その遊園地に行った事が無かった。
よりによって当日に風邪をこじらせてしまったからだ。
当時、達哉は九歳、摩季は十五歳。
父が「知人から割引券を貰ったから、家族で今度の休みにでも行こうか」と提案し、訪れたその日、
摩季は高熱を出し、寝込んでしまった。もちろん最初は、中止にしようという話になった。
だが、姉を心配する気持ち半分、遊園地への未練半分、といった弟の顔を見てしまった摩季は、
「私に気にせず行ってきて」
と言うしかなかった。
「お土産いっぱい買ってくるからね」
「そんな事気にしないで楽しんでらっしゃい」
「今度は姉さんも一緒に行こうね」
頬を撫でる摩季の手を、気持ち良さそうに受け入れながら達哉は言った。
朦朧としながらも摩季は弟に頷き返した。
だが、約束はついに実現する事は無かった。
それから二年と経たないうちに遊園地が閉園してしまったからである。
その遊園地とは別の場所にもう一つのテーマパークができたからだ。
元々人気の高かった海外のキャラクターを主軸にした遊園地へ皆が殺到し、目に見えて人気は無くなっていった。
その後もテーマパークは拡大を続け、様々なアトラクション、凝った演出を使って着実に動員人数を
増やしていき、どれも平均的なアトラクションしか持ち合わせておらず、更なる発展をしようともしなかった遊園地は、
あっという間に閉鎖に追い込まれた。
同時に、その遊園地に向かう為だけに敷かれた国道も文字通り無用の長物となり、利用者はいなくなった。

『角倉ッ!!何勝手な事してるんだ!!』
イヤホンから怒声が耳へと飛び込む。
「申し訳ありません。人命保護を最優先し、行動しました」
『一人で何が出来る!?まだ何の調べもついてないんだぞ!すぐに現場に戻れ!!』

―――うるさい。

『お前は刑事だ!!仮にお前の弟が巻き込まれていたとしたら、ますます慎重な対応が必要になる!!』

―――うるさい。

『私の指示に従え!!』

―――うるさい。

『角倉ッ…』

「うるさいッ!!」

『お前…上司に向かって…』
普段とは百八十度違う部下の態度に、おののく上司には返せる言葉がほとんど無かった。
「うるさいって言ってるのよ!!黙れ!!今すぐ黙れッ!!」
ちょいとすいませんね、と声が聞こえる。
『お嬢…』
「徳嶋さん…」


484 監禁トイレ⑫ sage 2008/05/06(火) 14:10:38 ID:g5ZblnWF
『焦るのは分かる…でも少し落ちつけや。前に言ったろ?悪い予感ってのは』
「悪い結果を引き寄せる、ですよね。でも、違うんです。コレはずっと、ずっと、
私達家族が目を逸らしてきた結果だったんです。起こるべくして起きたんです。
もう達哉しかいないんです、達哉だけは、失いたくないんです」
その言葉は真実ではない。
『…』
「すいません、ごめんなさい。でも、やめません。通信を切ります」
本当は、達哉以外はどうでも良かったのだ。傷つこうが、失おうが、どうでも良かったのだ。
皮肉にもそれに気付いたのは、実際に失ってからだけれども。
『…ッ!!待てお嬢ッ!!今いる場所だけ言えッ!!』
これから向かう場所の住所を告げると、摩季は電話を切った。
目的地はまだ3km程あるが車を止める。ここからは徒歩で行く。相手に接近を知られるわけには
いかないからだ。
「達哉…今行くからね…」
摩季は歩く。影だけが彼女の従者となって後を追う。









485 監禁トイレ⑫ sage 2008/05/06(火) 14:12:21 ID:g5ZblnWF
「ん、ン、ン、ンッ…!!あっ…ンッはぁっ……んんッ…!!」
にち、にち、にち。
赤いキャップは白い床に映える。どこもかしこも赤と白に埋められていた。
揺れる白い双丘の上で赤く色付いた乳首も。紅く染まった頬も。
二人の間で粘ついた泡が時折弾ける。白濁に朱が混じり、グロテスクなマーブル模様を作る。
「たっ…くんッ…ちゅーしてぇ…」
そう言いながら萌姉ちゃんは自ら唇を押し当ててきた。訳が分からぬまま、口内の侵入者に応える。
「はぁ…んむっ…ふん、ぁむッ」
いつジーンズを脱いだのか。
いつ挿入したのか。
いつ射精したのか。

分からない。

気付けば僕は、上に跨がった姉ちゃんを突き上げていた。
「んんッ…!!さっき出したばっ…か…はンッ!!」
三回目の射精を終えたばかりだというのに、まだ勃起が治まらない。
ナイフはいまだ心臓の上に、でも今度は背中側に突き付けられている。
一体僕は何をしてるんだろう。こんなところで監禁されて、義妹の側で義姉に犯されて。
それでも性欲は治まらず、目の前で揺れる肉壺にひたすら自分を注ぎ込む。
「気持ちいいよぉ…すごいよぉ…たっくん、たっくん、たっくんッ…!!」
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。
きっと狂ってしまったんだ。こんな所に閉じ込められてるんだからそうなるさ。
おかしくなるのくらい、当たり前さ。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。
「あッ…はぁッはぁッはぁッ!!私の中えぐってるッ!!もっと!もっとぉッ!!」
姉ちゃんはそう言いながら、上に羽織っていたジャケットを脱ぎ捨てた。ジャケットのボタンが
床にぶつかって音を立てる。
姉ちゃんの口内の唾を吸い取りながら、蕾を見る。起きないでくれ。見ないでくれ。頼むから寝ててくれ。
「ン、ぱぁっ…こっちッ!!こっちちゃんと見てッ」
左手が僕の髪を掴み無理矢理、唇を引きはがされた。親指で瞼を引っ張られる。
見つめ合いながら、僕らは何度目かの絶頂へと登り詰めて行く。
「ン、ン、ンッ、あ、ああッ…!!はンぐッ!!」
「ひぐッ!!」
突如、焼け付くような痛みを覚えた。きっと刺されたんだ。これで死ぬんだ。これで終わるんだ。
けれどそれは、ナイフじゃなかった。
姉ちゃんが首筋に噛み付いたのだ。甘噛みなんて生易しいやつじゃない。思い切り歯を立てている。
犬歯が肉にがっちりと食い込む。


486 監禁トイレ⑫ sage 2008/05/06(火) 14:13:36 ID:g5ZblnWF
それこそ、ごちそうを噛み締めるように。
痛みに反応した体が跳ね上がる。肉棒が姉ちゃんの膣内、奥深くに押し込まれた。
「フぐぅッ…!!」
まだ終わらない。いつになったら終わるんだ。ここから出たい。
何で監禁されてるんだっけ…?何でこんな事してるんだっけ…?
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。
さっきまで僕は何を考えてたんだっけ…?
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。
は、は、は、は、意味わかんねえ。ねちゃねちゃしてる。全部ぬらぬらしてる。
『イッちゃ…イッちゃう!!』
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。
頭が混濁していく。
『一緒にイこ?たっくんたっくんたっくんたっくん!!』
意識が白濁していく。
ああ、そうだ。姉ちゃんにキスで妙な錠剤を飲まされて…。
外に出たい。でも手段が無い。寝ている義妹。
『もッ…もうダメぇッ!はぁ…ッい゛ッ…!!』

閉ざされた扉。無くなりかけの薬。ボタン。
床から奇妙にくぐもった振動音。
興奮剤?だからこんなにたぎっている?
いかに手繰り寄せようとも思考の糸はほつれ、千切れていく。

ブーンブーンブーン。
脱ぎ捨てたジャケットの中にある携帯が鳴ったのだ。また、眠りの時間が来る。
『ああああッ!イくッ!!来てッ、いっぱい、ちょうだぁい…』
時間交代制。手錠。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。
ハンカチが口に押しつけられた。すがりつくように腰を動かし突き込む。
「たっくん、もっといっぱいしたいよね!?だから選んで!!お願い!!私を選んで!!」

必死に首を振った。背中の凶器にかかる圧力が少し増した。眠らされる理由。眠る理由。
「そう…、まだ、駄目なんだ…」
苛立ちを含んだ声。
見つけた。
分かった。
ボタン。
蠢く肉の隙間で射精すると同時に、目を閉じた。








487 監禁トイレ⑫ sage 2008/05/06(火) 14:15:30 ID:g5ZblnWF
ごそごそと音が聞こえる。
トイレットペーパーを回す音も聞こえる。下半身を拭かれているようだ。粘液が拭い去られると、
空気が冷え込んでいる事に気付く。
熱が退いて、じわじわと痺れがやってくる。酷使し過ぎたせいなんだろう。
さらにトイレ内を動き回る気配がする。ガチャンッ、と金属音がした。
続いてゴトッと鈍い音。最後に、何かが地面と擦れるような音がトイレ内に響き渡った。



静寂が訪れた。



僕はうっすらと目を開けた。
―――萌姉ちゃんがいない―――
ドアの施錠が外されている。つっかえ棒も床に倒れている。
僕の演技力もなかなか捨てたものじゃないらしい。ハンカチを押しつけられる寸前に息を止め、
苦しむ素振りを見せながら寝たフリをする…。
萌姉ちゃんは見事に騙されてくれた訳だ。しかし、まだこの空間には蕾がいる。さっき観察した限り、
寝ているようだが油断は出来ない。
そのうえで迅速に行動しなければならない。

食糧を食べ切ってしまう事で、姉ちゃんの説得を有利に進めようとしたが、失敗した。
けれど思わぬところで決め手になってくれた。
長時間の監禁を計画するなら通常、もっと大量に食事―――それも可能なら日持ちのきくもの―――を用意するはずだ。
なのに、二人が用意したのは明らかに少量の、しかも保存のきかない食事ばかりだ。
多分、近くに食料を供給する場所があるのだ。第三者に見つかる危険性の無いトイレの近くで、
食料を問題なく供給出来る場所、おそらく車だろう。
僕を気絶させ、ここまで運んできた車の中に保存食が溜め込んであるのだろう。
少ない食料を見せることで僕を焦らせて決断を早める意図でもあったのか。

さあ、そろそろ動きだそう。
早く家に帰りたい。
帰れるさ、ようやくチャンスを掴んだんだから。
体中がべたつく。風呂に入りたい。
入れるさ、ここを出たらいくらでも。
みんなの、家族や友人の顔を見たい。
見れるさ、だってもうすぐ自由になるんだから。

手錠の音を立てないようにゆっくりと動く。眠り続ける義妹の下へ近付く。
障害者用のトイレは確かに、監禁に向いているかもしれない。
でも穴がある。
何故、わざわざ僕の『ぎりぎり』手の届く範囲に彼女がいるのか。あるモノを隠す為だ。唯一にして
致命的な、欠陥。
万が一、利用者が何らかの事態(勿論、こんな事態は想像していないだろうけれど)に陥った時の為の、連絡手段。


488 監禁トイレ⑫ sage 2008/05/06(火) 14:17:14 ID:g5ZblnWF
それは、今も眠り続ける義妹の背中の裏にあるはずなのだ。僕と同様に薬で眠らされ、一種の壁として
利用された義妹の後ろに。

非常用の連絡ボタンが、必ずあるはずだった。

薬の効果はおそらくそろそろ切れる。迅速に行動しよう。
体を伸ばすと至る所の関節がごきりと鳴る。何をしようと決して歪む事のない手錠が食い込む。
手を伸ばし、蕾の体を体で抱きとめた。
(…あった)
小さなスピーカーのついた連絡用ボタンに、指を伸ばす。
それを押そうとした時、予想外の負荷がかかった。眠りこけて脱力した人間の体は、こんなにも重いのか。
ぐらつく足を静かに踏みしめて、体勢を立て直す。舌打ちしたいのを堪えて彼女の顔を覗き込むと、
半目で蕾がこちらを見ていた。
(マズい…起きた…!?)
その瞳は真っ黒で、まるで死んでいるみたいに…。

「おい…嘘だろ…?」

何でこんなに体が冷たいんだ?何で呼吸が止まっているんだ?何で、何で、何で何で何で何で何で――――

蕾の手首に指を当て、脈拍を計る。いくら探してみても、彼女の鼓動を感じない。
耳を唇に寄せても、くすぐられる事は無い。

蕾は、完璧に、死んでいた。「う゛ッ……!!」
盛大に吐いた。
びちゃびちゃっと、床に胃の中の物がぶちまけられる。ああ、くそ、トイレが近くにあるのに。
胃酸によって口内がじくじくと痛む。ごわごわになった口腔は、息の通過にすら過敏に反応する。
「あ…え…え?何で…?」
どんなに揺すっても蕾は覚醒しない。目を覚まさない。黒曜石みたいな艶のある瞳が、彼女が
抜け殻である事を示していた。魂の不在を記していた。
「なぁ、起きろよ、起きてくれよ…」

―――ガチャ―――

風が吹いた。
何十時間ぶりかの、外界からの自然風がトイレ内に注がれる。
爽やかな風には何の恨みもないが、場違いにも程がある。そんな事に苛つくくらい、混乱していたのだ。
この状況の中、思考をどこに向かわせれば良いのか分からない苛立ちは、矛先の対象を選ぶ余地も
無かった。
目をやった先に、女が立っていた。
「あ…」
彼女に何を言えばいいのか、分からない。何かを言いたいのに、発するべき言葉は何も見つからなかった。

「……ああ、」
一瞬、驚いた表情になった後、起きてたんですか、そう言って“そいつ”はニヤリと笑った。

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最終更新:2008年05月11日 21:39
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