貴方だけを愛し続けます 第七話

287 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/12(土) 15:21:05 ID:hmTJ8nbX

[kai side]



現れた会長はこ洒落た、けれど如何にも落ち着きあるお嬢様・・・という格好でやってきた。
べ、べつに俺がファッションが解らないとか言うわけじゃないんだからねっ!!
その実、オシャレというのに疎いのは否めないわけだが。

なんか、どこぞのお嬢様みたいだなぁ。
それに彼女に振り返る、通りすがりの人々は少なくはない。

「会長・・・」
「やぁ、奇遇だね」
「兄さん・・・」

会長の私服を見るのは久しい、
というよりもまったく無いと云って良かった。
学校以外で遭うこと自体が少なかったし、去年の修学旅行の際にチラッと見たという話だ。



しかし、なんでこう女って奴ぁ化けるんだろう?

俺が会長の”横”に立つことはまず可能性として有り得ない。
でも、そいつはその立場としてなる奴は幸せ者だろうな。

「いた、って痛い痛い」
「兄さん。鼻の下伸びてます」

対して、頬をつねりヒールの踵でグリグリと踏む妹。
スニーカーを履いた俺としては止めてほしい、ってか止めろ。
これならば、安全靴でも履いてくりゃーよかった。最もそんな物所持してないが。



288 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/12(土) 15:22:11 ID:hmTJ8nbX

[Yuki side]

「兄さんを尻に敷いちゃいけませんか?」

ずっと、私は兄さんといるのだから、していいのだ。

そう、ずっと。

例え、就職しても、結婚できなくとも、
ゆっくりと老いてなお、いつまでも。

「いやいや、そうは言っておらなんだ。
 しかし、まるで長年連れ添った夫婦だね」

お前は絶対にそうなることはない、と嘲笑うかの如く言い放った。
その隠喩に兄さんは気づいているだろうか?鈍感だから無茶だろうか?

私の手はぎゅっと袖を握り締め、兄さんの手を、
私の手を優しく包んでくれるぬくもりを探っていた。

「兄さん、帰りましょう」
「え、いや、どうして?」
「いいから、帰るのっ!!」
「そう、残念だわ。それはそうと魁君、
 雪ちゃんは休日まで『実の兄』を随分と独占したいようだね」

『独占欲が強い、私なんか捨ててしまえと』雌はそう暗に言っていた。
探り当てた手を強く握り締め、腕も絡めた。

「私と兄さんは義理の兄妹だッ。結婚できるんだッ」と
取り乱し叫びそうになったが刹那、兄さんとの約束を思い出した。
中学で義理であることを一時期騒がれて、
兄さんはそのことを芳しく思っていなかったのだ。


289 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/12(土) 15:23:35 ID:hmTJ8nbX
そのときから”出来るだけこのことは伏せる”こと。
それが兄さんとの約束だった。

「ははは、こいつ人見知りですから」
「・・・」
「まぁ、でも雪が嫁入りするまでは、
 俺が護ってやらなきゃいけないのかもしれません。
 それにとても、とても、掛け替えのない"家族"だから」

私は、抱きついた兄さんの腕を一層抱きしめた。
今自分を占めてるのは、先ほどまでの空虚じゃない。

兄さんへと気持ち、家族愛/性愛/渇愛が。
抑えていた気持ちが溢れだしそうになった。


「ふふ、雪ちゃん。まだ、戦いは始まったばかりだよ」
「の、ぐすっ、臨むところ、ぐすっ、です」

「ど、どうした、雪?」

つまりは、兄さんを奪うとの宣戦布告。
私は、絶対にあなたなんか認めない!!

あの雌はスカートを翻し、曲がり角を颯爽と去っていった。



290 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/12(土) 15:24:22 ID:hmTJ8nbX







私の突然の号泣にあたふたする兄さん、
周囲を通る人は不可解な視線を投げ掛けていく。

けれど、けれども、知らなくて良いのだ。
知るのは、私一人だけで。






嗚呼、兄さん、あなたを愛しています。









291 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/12(土) 15:24:44 ID:hmTJ8nbX
兄さんに、商店街から離れたベンチへと腰掛け、
子供をあやかすように、落ち着かせてもらった。
それを思い出すと、とても恥ずかしい行為だったけど、
それよりも、嬉しさ/幸福/女としての悦び/妹としての喜びが勝っていた。

ようやく泣きやまった私に兄さんは、頭を撫でてくれた。
元は兄さんの癖なのだけども、心なしかいつもより落ち着いていった。

「兄さん、良かったんですか?」
「どっちにしろお前腕外すつもりなかったろ。
 その上、泣き出すし。どのような攻防があったんだ?」
「禁則事項です♪ 兄さんが解らないなら解らないでいいの」

「そりゃ、”みく○”だろ」と呟く兄さんに、肩に首を預ける。
兄さんはどうとでもなれと、ややヤケクソぎみに甘受していた。

「・・・・・・うん」
「まぁ、しかし」
「何?、兄さん」
「前言撤回だ」
「えっ?どいうこと?」
「やっぱり恋人みたいだ、俺達」
「にぃさんのばぁかぁ」



やっぱり兄さんは、最高の兄さんです。

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最終更新:2008年07月13日 20:26
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