ねえたんブログ 前半

800 ねえたんブログ1 sage 2008/08/16(土) 02:03:56 ID:5t3+7t5o
「政人君、深川家にようこそ」

目の前の美女は、同じ学年とは思えないほどに大人っぽい。
さすがはカリスマ読者モデル、深川未来。
ギャルという華やかさだけではない。整った目鼻立ちと伸びやかな肢体は品格すらも漂わせる。
その有名人と二人きりで和室に座っているなんて。それどころか、これから彼女の家で一緒に暮らすなんて、夢にも思わなかった。
シングルマザーだった政人の母と、同じく独りだった未来の父が再婚し、二人は家族になったのだ。
政人は緊張に汗ばみつつ、たどたどしく返事をする。
「うん、よろしくね…その…」
同じ深川の姓になったのだから、必然的に名を呼び合うことになる。
「み、未来ちゃん」
照れつつも未来の名を口にした。
が、
「『未来ちゃん』…?」
不服そうに未来がそれを繰り返す。
政人は慌てた。やはり自分の様な田舎者の一般男子が名前を呼ぶのは馴れ馴れしかったのだろうか。
未来は政人にゆっくりと言い聞かせる。
「あのね、お義母さんに聞いたんだけど政人君は一月六日生まれなんでしょ?私は十二月三日生まれなの」
未来はにっこりと笑いかける。


801 ねえたんブログ3 sage 2008/08/16(土) 02:10:21 ID:5t3+7t5o
「私のほうがお姉さんだから、私のことはねえたんって呼んで。私は政人君のことまーちゃんって呼ぶから」
…………は?
政人は、体中から変な汗が吹き出るのを感じた。
「ねっ、まーちゃん」
未来はそう呼びかけ、まーちゃんの響きに幸せそうに瞳を細めた。

ふらふらとリビングに戻ってきた政人に気付き、母が声をかけた。
「あら、未来ちゃんは一緒じゃないの?」
あの後、トイレに行くだのなんだのと言って和室から逃げ出してきたのだ。未来はまだ和室だろう。
母と共にソファーでくつろぐ義父も政人に微笑む。
「未来は政人君が来るのをとても楽しみにしていたからなぁ。はしゃいでいただろう?すまないね」
言葉に詰まった政人が愛想笑いを返していた時、タタタッとフローリングの床を駆ける足音がした。
身構える暇もなく、リビングのドアが勢いよく開かれ未来が飛び込んできた。
政人の首に後ろから抱きつき、満面の笑みで父と母に報告する。
「あのね!まーちゃんは私の弟になったの!私のことねえたんって呼んでくれるんだよ」
驚き顔を見合わせる親達の前で、政人は恥ずかさと首に絡む腕の重さで真っ赤になっていった。
政人はねえたんと呼ぶなんて了承はしていない。



802 ねえたんブログ3 sage 2008/08/16(土) 02:13:30 ID:5t3+7t5o
だが、政人はハッと気付く。
未来が妙な関係を強要しているのだと主張したいが、その発言でこの再婚が気まずくならないだろうか。
娘を責められた義父が気分を悪くするかもしれないし、優しい母は自分の再婚のせいで息子が苦労していると落ち込むだろう。
今まで、女手一つで昼も夜も無く働き、自分を育ててくれた母がようやく手にした幸せなのだ。
ここは立派な豪邸だし、義父はかなりの資産家だ。今まで苦労してきた母もこれからは贅沢な暮らしができる。
自分のせいでこの夫婦にヒビを入れることなど、決してできない。
政人は覚悟をきめて、明るい声を張り上げた。
「だ、だって俺、お姉ちゃんが…ねえたんができて嬉しいんだよ」
キャアアアと未来が歓喜の声を上げる。
「私も嬉しい!もっとねえたんって呼んで!」
そんな仲のいい二人の様子に、義父がおおらかに笑った。
「いいじゃないか。籍の上ではきょうだいなんだし。こんなにすぐに打ち解けて良いことだ」
義父の言葉に未来は頷いている。母も説得されたようだ。
「まーちゃんの甘えん坊さんっ」
肩にすりすりと顔を擦り寄られ、恥ずかしいやら情けないやら。
政人は心の中で男泣きをするしかなかった。


803 ねえたんブログ4 sage 2008/08/16(土) 02:18:44 ID:5t3+7t5o
政人が風呂からあがって一息ついた時、時計は夜の11時を回っていた。
(今日は大変な1日だった…)
屋敷の中をうろうろ迷いながらようやく自室に辿り着き、ベッドに倒れ込む。
今日引越してきたばかりのこの部屋には、まだ荷ほどきの済んでいない段ボールが並んでいた。
しかし、この一室の面積だけで、自分と母親が暮らしていたアパートより広いのではないか。
広すぎる部屋に落ち着かず何度も寝返りをうち、政人は深々とため息をついた。
(…未来ちゃんがあんな人だったなんて…。これからどうしよう…)
彼女のせいでとんでもない生活が幕を開けてしまった。先を考えるだけで気が重い。
「…あ!…そうだ」
政人はベッドから起きると、荷物から携帯を取り出す。
「未来ちゃん、ブログやってたはずだ」
アクセス数がすごいだとか、記事で未来が褒めたコスメが即日完売だとか、TVで何度も取り上げられている人気ブログがあったはず。
彼女のブログを見れば、何か上手く付き合うヒントが見つかるかもしれない。
政人は不安と期待を胸に『深川未来 ブログ』で検索をかける。
公式のブログは先頭にヒットした


804 ねえたんブログ5 sage 2008/08/16(土) 02:26:31 ID:5t3+7t5o
『みりゃいDay's』のタイトルと未来の写真のトップ画像。そのすぐ下に記事の一覧が先着順に並んでいた。
と、NEWが付いた本日日付の記事がある。政人はその記事タイトルに息を飲んだ。
『NEW おとうと! XX/08/20 コメント(3528)』
「弟!?」
まさか自分のことだろうか。記事タイトルをクリックすると、記事のページへとジャンプする。

――――――
おとうと!
XX/08/20

皆に大発表がありますっ
今日はなんと…私に弟ができましたぁ!!(≧ω≦)
ちょっと年下で、名前はまーちゃんっていうの☆
弟なのら!弟!(●^o^●)テンション高いのら~!
んもぉ~まーちゃん超カワイイよぉ~!可愛いkawaeeeeeeeeee(_Д_)ヒャッフー
というわけで、弟のまーちゃんをこれからよろしくお願いします_(._.)_

by ねえたんになった未来☆ミ
――――――

(………な…、なんだこれは…)
政人の携帯を持つ手が震えた。このクレイジーな文章は一体何だ…。
そして、知らぬ間に自らが有名人のブログで紹介されている異常な事態に青ざめる。
また、コメント欄もひどかった。
『未来チャン弟ゲットおめでとー☆弟クン超見たい!未来チャンに似て絶対イケメンですよね(*^o^*)』『私もおとうと欲しい!』

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最終更新:2008年08月17日 20:40
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