818 ねえたんブログ6 sage New! 2008/08/17(日) 14:22:21 ID:Dd02lDZD
『弟クン気になる~!まーちゃんとのラブラブツーショ期待してます!』『まーちゃん見たい!ジュニ系ですか?』
無邪気で無責任なコメントが飛び交う。弟というよりペットか何かの扱いじゃないか。
いつの間にかイケメン設定にされたまーちゃん画像を、全国の未来ファンのギャル達が激しく求めていた。
(顔出し写真なんて絶対嫌だ!だいたい俺なんてダセェフツメンだぞ。何が可愛いだよ)
のどかな田舎で貧しいながらも穏やかに生きてきた政人にとって、大量のギャル達に騒ぎ立てられるなど生きた心地がしない。
さらに、しょぼい顔を晒せば最後、キモイだの未来ちゃんと似合わないだの罵倒の嵐になるに決まっている。
「…とりあえず明日、ブログに俺の写真は絶対載せちゃ駄目だって未来ちゃんに言ってみよう」
有名人のブログの影響力に恐ろしさを覚えながらも、記事の下の『TOPへ』を押した。
「あれ…?」
トップの記事一覧にNEWの文字が増えている。
『NEW まーちゃん続報! XX/08/20 コメント(12)
NEW おとうと! XX/08/20 コメント(5431)』
(こ、更新されている…!?)
コメント数の少なさから見ても、リアルタイムでの更新に出くわしたらしい。
819 ねえたんブログ7 sage New! 2008/08/17(日) 14:23:03 ID:Dd02lDZD
額を冷たい汗が流れ落ちる。追い詰められる様な恐怖が政人を襲った。
怖々と記事へとジャンプする。
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まーちゃん続報!
XX/08/20
(o^v^o)エヘ
テンション静まらないから弟続報更新すゆ☆
さっそくまーちゃんについてたくさんコメントくれてありがとうo(>u<*)oのらー
皆まーちゃんを見たいって書いてくれたけど。。
まーちゃんは一般のコだから顔写真UPはできないんだ。。。ゴメンネ(つ_;)グスン
私も皆にも自慢のおと~とを見せたいよぅ。。
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政人はそこまで読んでホッと安堵の息をついた。
(良かった…未来ちゃんは俺のプライバシーとかちゃんと考えてるんだ…)
気が抜けて、何気なく記事を下にスクロールさせていく。
そこで、ブーッ!と激しく吹き出した。
――――――
だから、まーちゃんのパンツUPしちゃいますっ♪(o^-’)b
画像 76KB
イヤーン(/∀\*)ねえたん恥ずかしいのら☆
――――――
キャアアアという女の子の様な悲鳴が政人の喉元から上がる。
そこに載せられている写メの画像は、間違いなく政人のグレーのブリーフだった。
「何がっ!?なんっ…何でっ?俺のパンツを何で未来ちゃんが?」
820 ねえたんブログ8 sage New! 2008/08/17(日) 14:23:43 ID:Dd02lDZD
政人はパニックになりつつも立ち上がり、部屋を見渡した。
衣類はまだ段ボールに半分以上つっこんだままだ。
その段ボールを急いで確かめると、確かに荒らされた形跡がある。犯行現場である。
(いつの間に!…風呂…。俺が風呂に入ってる間に盗ったのか!)
政人の留守中にパンツを持ち出し、つい先ほど撮影しUPしたのだろう。それも、同じ屋根の下で。
プルプルと政人は震える。
泣きたいのか怒りたいのか分からない。何故自分がこんな目にあっているのかすら分からない。
ふと、手に握ったままの携帯に気付き、まだ記事に続きはあるのかと下のボタンを押す。
そこには……。
――――――
なんかもう、愛する気持ちが止まらないって感じデス(*´∀`人)ラブラブ
うぁあーん!このままじゃ眠れないよぅ(ρ_-)~゚
まーちゃんはもうねんねしたのかナァ。
よし!決めました!
ワタクシ、今からまーちゃんと添い寝して来ます!(≧▽≦)ゞビシッ☆
夜食じゃなくて、まーちゃんを食べちゃうのら(「・ω・)「ガオー
行ってまいりま~す!
後で皆にも報告(明日になるカモ///)するね
ノシ*゚;・。;・☆
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記事はそこで途切れていた。
821 ねえたんブログ9 sage New! 2008/08/17(日) 14:24:25 ID:Dd02lDZD
後は、早くもこの更新に気付いたファンのコメントが並んでいるだけだ。
『(ノ>ε<*)キャー!未来チャン行ってらっしゃいませ(≧ω≦)ゞキリッ☆』『ナイスぱんちゅ!頑張れねえたん!』……
政人は全身の血が引いていくのを感じた。凍えた様に体が震える。
今から行く―――?食べる?
ガチャリ
静まりかえった室内にドアノブの音が響き渡った。
「ぃいやぁあああっ!!」
政人は悲鳴を上げて飛びあがった。
転がるようにドアに駆け寄り、必死でドアノブを掴んで閉める。
「あ、まーちゃん起きてたんだぁ。へへへ、ねえたん遊びに来ちゃったぁ」
ドタ越しに未来の猫なで声が聞こえる。ノブは依然ガチャガチャと捻られたままだ。
政人は渾身の力でノブとドアを押さえながら、念仏を唱える様に一心に訴えた。
「お帰り下さい!お帰り下さい!静まり下さい!」
「ねぇ~…まーちゃん開けてよぉ…まーちゃぁん…開けてぇ…」
まるでホラーだ、恐ろしすぎる。政人は涙目でガタガタ揺れるドアを支え続けた。
「俺はもう寝るんだ!や、やめてくれ!入って来ないでっ」
「一緒に寝ようよぉ…ねえたんが抱っこしてあげるよ…ふふふ…」
822 ねえたんブログ10 sage New! 2008/08/17(日) 14:27:02 ID:Dd02lDZD
もう耐えきれない!政人は叫んだ。
「もうやめてよっ!!本当のお
姉さんなら弟が嫌がることはしないはずだ!!
俺のねえたんだって言うなら、帰ってくれ!!!」
ドアの動きも、未来の声も止んだ。
政人がハアハアと息を整える音だけが部屋に響く。
しばらくの後、ドアの向こうでポツリと未来が呟いた。
「……ごめんね…ねえたん帰るね…。おやすみ……」
力なく引きずるような足音が、政人の部屋から遠ざかる。
(……帰った…)
政人はドアノブを掴んだままへたりこんだ。自分は助かったのだ。
10分は放心していただろうか。ノロノロと立ち上がり重い体でベッドへと戻ろうとすると、開いたままの携帯床に転がっていた。
夢中でドアに走った時に投げ捨てていたのだろう。
政人はそれを拾い上げる。ボタンを軽く押せば、暗くなっていた画面に未来のブログが眩しく灯った。
(まさか…)
トップに戻り再読み込みをしてみる。
『NEW たいせつな弟 XX/08/21 コメント(9761)』
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たいせつな弟
XX/08/21
皆、ただいま
まーちゃんの部屋の前まで行ったけど、帰ってきちゃった。。。
まーちゃんね、眠いから一人で寝たいんだって。。。
823 ねえたんブログ11(完) sage New! 2008/08/17(日) 14:31:42 ID:Dd02lDZD
私は本当は一緒に寝たかったケド。。。こうして帰って来たんだ
だって、メイワクをかけちゃいけないから
まーちゃんのこと
アイシテルから。。。
今はまだ寂しくて、チョット胸がイタイです
でも、これがお姉さんになるってコトなんだよね。。。
本当に大切なことを、まーちゃんに教えてもらった気がする
また明日から元気ださなきゃo(^-^)o
ねえたんだからしっかりしなくちゃね。。!
おやすみなさい☆ミ
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『マジで感動しました(;_;)私も、本物の愛を未来チャン&まーチャンに教わりました』『未来ちゃんの弟を想う気持ちがセツナイくらい伝わってきて、私も泣いちゃった』
『真実の絆って…こんなに強いんですね…。すごく温かいキモチになりました』『ホントすごい尊敬…。二人のHappyな明日を願ってやまないです(つ_T)』
…………。
政人からはもう乾いた笑いしか浮かんでこない。
思わず「この馬鹿ども!」とコメントしたくなったが、周りからボコボコに叩かれて終わりだろう。
政人はため息をつくと、記事へのコメント投稿フォームを開く。
自分の願いを託す様に、一つコメントを残した。
『これからも、優しいねえたんでいてあげてください』
おしまい
最終更新:2008年08月17日 20:41