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『転生恋生』序幕 ◆U4keKIluqE sage 2008/10/09(木) 02:12:11 ID:SnefjSDy
昔々あるところに、人と鬼の間に生まれた娘がいた。
娘は人並み外れて美しく、膂力に勝っていたが、気が優しく人を傷つけるようなことは一切しなかった。
それでも村人は人外の娘を恐れ、娘が長じると村八分にして、村から追い出してしまった。
追い出された娘は村外れの大きな川にある中州に小屋を建てて住みついた。いつしかその中州は「鬼が島」と呼ばれ、恐れられて人が寄りつかなくなった。
ある日、一人の若い侍が村を訪れた。侍は人語を解する猿・雉・犬を家来に連れており、自らの武勇を誇る機会を探して旅をしていた。
村人は侍に鬼が島の鬼を退治してくれるよう頼んだ。二つ返事で引き受けた侍は意気揚揚と鬼が島へ乗り込んだが、出てきたのは恐ろしい鬼どころか、美しく気立ての優しい娘だった。
拍子抜けした侍は娘の身の上話を聞いて同情し、退治する気をなくしてしまった。そして三匹の家来が諌めるのも聞かず、娘の小屋に住み着いて夫婦になった。
主に裏切られたと憤慨した家来たちは村人に、「侍が鬼に誑かされて村を焼き打ちするつもりでいる」と虚言を吹き込んだ。
そうとは知らない侍は、何とか村人に娘のことを受け入れてもらおうと考えるようになった。危ぶむ娘が止めるのも聞かず、侍は一月ぶりに村へ向かった。
その夜、村人が大挙して鬼が島に押し寄せた。驚いた娘が小屋を出ると、足元に何かが放り投げられた。それは侍の首だった。
半狂乱になって首を抱きしめた娘に、村人の放った矢が夥しく刺さった。そして油がかけられ、火がつけられた。
炎に包まれながら、娘は侍に詫びていた。
私に情けをかけたせいで命を落とすことになってごめんなさい。次に生まれてきたときは、必ず私があなたを守り、二人で幸せになりましょう。
末期の願いが天に通じたのか、娘と侍の魂は千年の時を経て同じ国に転生した。しかしながら、二つばかり問題が生じた。
一つは、娘は前世の記憶を持っていたのに侍の方は忘れていたこと。
もう一つは、二人が姉弟として生まれたということだった。
534 『転生恋生』第一幕1/5 ◆U4keKIluqE sage 2008/10/09(木) 02:15:28 ID:SnefjSDy
目覚まし時計の音で目が覚めた。
反射的にボタンを押さえて音を消すと、「あと5分……」とつぶやきながらベッドの中でまどろむ。
まあ、これが平均的男子高校生だろうと思う。俺は凡人だから毎朝これを繰り返している。
だが普通の人と違うのは、きっちり5分を超えると怪物が起こしに来るということだ。
わかっていたはずなのに、昨夜ゲームで夜更かししたのが祟って、俺は5分を過ぎても布団から出られなかった。
目覚まし時計が鳴ってからちょうど5分後、勢いよく俺の部屋のドアが開けられた。すぐに影が俺の真上におおいかぶさる。
「おっはよーっ! たろーちゃん、朝だよーっ!」
衝撃でうめき声をあげながら、俺はもそもそとベッドから這い出る。
寝ぼけ眼に映るのは、やや癖のある黒髪を背中まで流している若い女。
俺の姉貴だ。身内の眼から見ても器量よしで、スタイルもいい。
とはいえ美人は三日で飽きるという言葉があるくらいだから、かれこれ十数年も一緒に暮らしている俺は免疫ができている。なんとも思わない。
「おは…よ。……つーか、離れろ」
一応朝の挨拶をしながらも、俺は抱きつこうとする姉貴を引き剥がそうとする。高校生にもなって、過剰なスキンシップは恥ずかしいし、うっとうしい。
「んー、たろーちゃんはあったかいなー」
……聞いちゃいねぇ。
「離れろってんだろ!」
姉貴の顔を手で押しのけて離そうとするが、凄い力で俺を抱きしめていてびくともしない。姉貴は女とは思えないほど腕力が強いからだ。毎年身体測定で背筋力と握力の計測器を壊している。
「……頼む。お願いします。離して下さい」
こうなると俺は下手に出てしまう。我ながら情けないが、しかたがない。
535 『転生恋生』第一幕2/5 ◆U4keKIluqE sage 2008/10/09(木) 02:16:32 ID:SnefjSDy
体格も容姿も成績も運動神経も、ありとあらゆる要素が平均値でできている俺の、ただ一つ特異な点がこの姉貴だ。
同じ両親から生まれたとは思えないほど容姿端麗、文武両道な女子高生でありながら、レベルMAXに達した怪力ブラコン女なのだ。
おまけに、前世で自分たちは恋人同士だったなどと真昼間から公言する電波女でもある。俺以外の人間に対してはその話をしないのが救いだが、対象である俺としては相当に辛い。
実際、中学二年で俺が精通を迎えてからは、入浴中や就寝中に姉貴が乱入してきて、貞操の危機に瀕したことが一度や二度ではない。
というより、姉貴がブルーデイである日を除いて、常に俺は性的暴行一歩手前の仕打ちを受けている。
なにせ人間離れした怪力だから、本気で襲ってきたら洒落にならない。
……今もうっとりした顔で俺のトランクスの中に手を入れようとしていやがるし。
「いいかげんにしろっ! DVで警察呼ぶぞ! おふくろーっ、助けろーっ!」
俺が母親に助けを求めようとしたので、姉貴はしぶしぶながら俺を解放した。「初めてはたろーちゃんから求めてほしい」という乙女らしい願望を捨てきれていない姉貴は、いつも最後の一線を自分から越えることはかろうじて自制している。
これでも俺を誘惑しているつもりらしいが、俺としては本気でうざい。とりあえず姉貴を部屋から追い出して、手早く着替える。今は春休みだから、私服だ。
536 『転生恋生』第一幕3/5 ◆U4keKIluqE sage 2008/10/09(木) 02:20:22 ID:SnefjSDy
傍から見ると美人の姉にスキンシップをされるのは羨ましい境遇ということになるらしいが、俺は姉貴に全く劣情を催さない。小さいときから一緒に育ってきた慣れがあるというのも理由だが、決定的な転機があった。
あれは自慰を覚えて最初の夏だった。俺がなけなしの勇気を出して、隣町のコンビニで、客がいない時間帯、それもわざわざ中年のオヤジがレジに立っている時を選ぶという細心の注意で人生初のエロ本を買った。
家に帰って、部屋でじっくり堪能した後、俺はそのエロ本をベッドの下に隠して、風呂へ入って思いっきり抜いた。平均的中学生としてはちょっとした冒険を達成したという満足感と、これからはオカズが常備してあるという余裕を味わっていた。
だが、翌朝には隠したはずのエロ本が消失していた。代わりにあったのはミニアルバムで、中には姉貴のヘアヌード写真がびっちり貼り付けてあった。自分で撮ったらしい。
実の姉がそんなことをするのもショックだったが、初めて見る女性器は中学生にはグロ過ぎた。興奮するどころかトラウマになってしまった。
それ以来、俺は姉貴がキモくてしかたがない。
朝食の席で、姉貴がにこにこしながら話しかけてきた。
「ねぇ、たろーちゃん。今日はデートしてくれる約束だよね? 忘れてないよね?」
「……買物に付き合う約束はした」
俺はきっちり訂正する。どうしても欲しいソフトを買うために、先だって姉貴から借金をした。その代償として約束させられたのだ。あくまでも「買物」であって「デート」ではないと理解しているが。
もっとも姉貴は既に電波時空に入り込んでいる。これも一つの心神喪失状態だろうか。だとすると俺に犯罪行為をしても責任が問えないから困るな。
「映画みてー、買物してー、お食事してー、最後はホテルでお泊りしよーねー。あ、お母さん、夕食はいらないから」
「馬鹿なこと言ってんじゃないよ、この子はっ!」
お袋がお盆で姉貴の頭を叩く。まるで容赦がないが、やたら頑丈にできているらしい姉貴はびくともしない。
ため息をつきながら俺は朝食を終える。
538 『転生恋生』第一幕4/5 ◆U4keKIluqE sage 2008/10/09(木) 02:26:39 ID:SnefjSDy
結局お泊りこそ断念させたものの、俺は姉弟相姦ものの映画と、カップル向きのカフェでのラブラブランチ2人前用と、ランジェリーショップでの買物に付き合わされて春休み最後の1日を終えることになった。
特に最後のはきつかった。他の女性客にじろじろ見られて、羞恥プレイもいいところだった。
その帰り道、俺と姉貴はチンピラ3人にからまれた。俺は平均的男子高校生としてケンカ慣れしていない上に姉の買物の荷物持ちで手が塞がっていたが、まるで慌てる必要はなかった。
むしろ、相手のことを心配しなければならなかった。「見せつけてくれるじゃねーか」「金を貸せ」「ちょっと付き合え」といった定番の台詞を口にする連中に、俺は紳士的に忠告した。
「俺たちは姉弟で、あんたらに貸す金は持っていなくて、もう家に帰らないといけないんだ。構わないでくれないかな、怪我してほしくないから」
俺の言葉はチンピラ3人組に届かなかった。連中はゲラゲラと下品に笑い、そのうちの1人が殴りかかってきた。……はい、入院確定。
姉貴の手が脇から伸びて、俺の顔面に到達するはずだった拳を掴み取った。俺を殴ろうとした男は予想外のことに驚いたが、すぐに顔色が変わる。
「うふふ、正当防衛成立ね」
位置的に俺からは見えなかったが、姉貴は酷薄な笑いを浮かべていたに違いないと思う。チンピラたちの表情が恐怖に歪んだ。
まず、姉貴は1人目の拳を握り潰した。皮膚から細い骨が飛び出して血まみれになっているのが見える。俺を殴ろうとした男は聴くに堪えない悲鳴をあげてのたうち回る。
「てっ、てめぇぇっっ!」
よせばいいのに、2人目が姉貴に掴みかかろうとした。が、それより早く姉貴のボディブローが炸裂し、相手の男は5メートルほど後方に吹っ飛んだ。
体を「く」の字に曲げて倒れ、泡を吹いて痙攣を起こしている。肋骨が砕けて、内臓も破裂していると見た。
「ひっ……」
3人目は戦意を喪失しているのが明らかだったが、走って逃げればいいものを立ちすくんで動けないようだ。
「キミはこれで勘弁してあげる」
姉貴はその男の鼻先にデコピンを食らわした。男は両手で鼻を押さえてもんどりうった。おそらく鼻骨骨折だろう。
539 『転生恋生』第一幕5/5 ◆U4keKIluqE sage 2008/10/09(木) 02:30:56 ID:SnefjSDy
俺にはこの結果が見えていた。
過去にも、俺がチンピラや野良犬に遭遇する度に、どこからともなく姉貴が駆けつけて、相手を武力鎮圧した。俺に危害を加える者は、姉貴にとって存在自体を許すべからざる大罪人だ。
まして二人でいるときなら尚更だ。俺と一緒に過ごす時間を邪魔する罪は常に倍して重い。
全員を一撃で倒した姉貴は、満足そうに振り返る。
「それじゃあ、帰ろっか」
さわやかに言う姉貴を俺は止めた。
「駄目だろ、救急車呼ばないと。正当防衛ったって、瀕死の怪我人放っておいたら、何かの罪になるんじゃないのか?」
「えー? これは害獣駆除だよぅ」
可愛らしく拗ねて見せるのがかえって怖い。
「俺は姉貴に逮捕歴がつくのが心配なんだ」
「……そっか。たろーちゃんは私のことを心配してくれるんだね。愛されてるなぁ、私。
やっぱり私たちは前世から変わらぬ愛を誓って結ばれている運命的恋人だから、きっとたろーちゃんも普段は素直じゃないけど本当は私とラブラブファックしたいのよね。
それなのにあえて嫌がるそぶりをするなんて、それなんて焦らしプレイ?
でもやっぱり最初は男の人から求めてほしいと思うのが可憐な女心ってものだし、そんなこと考えて我慢する私ったら、なんていじらしい……」
「いいから、電話しろ」
救急車と一緒に警察も来た。1人につき1回しか手を出していないということで正当防衛は認められたが、俺は買物に加えて警察への説明で、心身ともに疲れた。
明日から新学期だ。平和に過ごせますように。姉貴が学校で恥ずかしいことをしませんように。とりあえず今晩はぐっすり安眠したいので、姉貴が夜這いをかけてきませんように。
そんなことを思いながら眠りに落ちた。
最終更新:2008年10月13日 00:00