未来のあなたへ1.5

595 未来のあなたへ1.5 sage New! 2008/11/21(金) 12:54:05 ID:qlrlB/Jb
兄の下着を盗ってしまった、死にたい。


犯行は計画的に行った。
まず平日に早退して兄の部屋に押し入り、タンスの中にある下着を撮影。
次の休日に衣料量販店に出向き、写真のものと似た柄の下着を数点購入。
そして兄の入浴直後を狙い、洗濯機に放り込んであるトランクスと、同じ柄のものを入れ替えた。
この方法なら下着が足りないと気付かれることもない。
そして自室のベッドに潜り込み、布団の下で兄のトランクスを握りしめたところで今に至る。
正に計画的犯行だった。
死にたい……

そもそも、私が何故こんな犯行に及んだのか。動機と言えば、単に欲求不満だった。
最近、あまり兄と話せていない。いや、話すとしても大抵は説教の類なのだが、それすらできていないのだ。
理由は、部活の大会に向けて兄が練習に励んでいるからだった。毎日毎日、泥だらけになって帰ってきては、夕食と入浴を済ませて寝てしまう。朝練もあるので、下手をすれば一日言葉を交せないこともある。
これでは堪ったものではない。
無論、兄を見てはいる。放課後は復習と称して図書室でノートを広げ、窓からグラウンドで動く兄の姿を探している。流石に双眼鏡の使用は断念した。
けれど、何も会話できないというのは辛すぎる。感情の起伏が少ない私だけれど、胸に空いた穴から、ぽろぽろと自我の欠片がこぼれていく気がする。
私が、壊れる。
最初は無理矢理捕まえて話をしていた。だけど今になっては私が兄にかける言葉は罵倒しかない。例えばこんな感じだ。

「兄さん」
「んー。なんだ優香?」
「最近随分忙しそうだけど、ちゃんと勉強はしているの?」
「えーと…まあ、うん、普通にやってるよ」
「兄さんの言う普通と、私の思う普通には随分と差がありそうね。帰って来てすぐ寝ているようだけど、一体何時勉強してるのかしら」
「う……そりゃ、えーと、まあ」
「今も随分眠たそうだけど、授業中に居眠りなんてしてないでしょうね。兄さんが評判を落とすと、私まで巻き込まれるんだから」
「い、いや……ほら、夏の大会が終わったらちゃんと勉強するからさ」
「当然です。そもそも兄さんは受験生ですよ。他の競争相手は今から備えているというのに、兄さんは夏までの時間を棒に振るんですか」
「え、えーと。まあ、どうせ俺はあんまりいい高校には進学できないだろうし……」
「逆でしょう。成績が悪いからこそ、今から準備をすべきなんです。そもそも、高校受験という未来を決める試練と、あと何年続けるかもわからない趣味と、一体どちらを重視すべきだと思っているんですか?」
「うー、あー、とにかく俺は寝るから! じゃ!」
「兄さん、逃げてばかりでは何も解決しませんよ」

……死にたい。特に最後の台詞、お前が言うな。
眠いところを捕まえて、こんな会話を繰り返していれば、どんどん嫌われていくだけだ。四回で取りやめた。
私だって、今の兄がどれだけ部活に打ち込んでいるかよく知っている。三年かけて毎日やってきたことの、最後の成果を出す機会なのだ。
兄にとっては、進路とどちらかを選ぶような話ではない。というより兄は、二つのことを比べてどちらかを切り捨てられるような人間ではない。
だというのに、どうして私は。あんな言い方をすれば嫌われるに決まっているのに、ただ素直に抱きつけばそれで満たされるのに。

けれど、そんなことは何時からか出来なくなっていた。
それは私の自業自得にすぎない。
私が実の兄を想うという異常性を獲得したとき。その時既に私は、この異常を受け入れない世界の在り方に気付いていた。
思えば私は老けた子供だった。無邪気に「おにいちゃんのおよめさんになる」などと、口走る時期すらなかったのだから。
物心ついたときから、私にとって世界は敵だった。この世界は、兄と妹が結ばれることを許してはいない。そして兄自身もまた、その世界の一員だったから。
私は兄にも本心を隠すしかなかった。私の異常性に気付いたとき、兄が私をどんな目で見るか、想像しただけで狂いそうになる。世界と敵対することではなく、ただそれだけが嫌だった。



596 未来のあなたへ1.5 sage New! 2008/11/21(金) 12:55:35 ID:qlrlB/Jb

そうして私は兄から遠ざかっていった。
その過程で私の立ち位置は冷血優等生という形になっていった。おそらく、兄は仲の良い兄妹だとは思ってはいないだろう。
けれども私にはわからない。普通に仲の良い兄妹が、一体どういうものなのか。私は物心ついたときから、兄を異性として捉えていたのだ。
普通の妹と、異常な妹の線引きは、一体どこにあるのだろう。その限度を知らずに超えたとき、兄の視線から親しみが消える。私はそれが恐ろしくて、必要以上に距離をとったのだ。
父のことを私は信頼している、母とはよく買い物するほど仲が良い。けれどそれが果たして、普通の親子関係の範疇にあるのかどうか。それが私には何もわからない。同じことだ。
他人との距離の取り方が、直感としてわからない。それもまた、私が抱えた欠落の一つなのだろう。

私は本心を隠すために兄と距離をとり、冷血優等生という立ち位置をとった。常に勉強して学力を高めるのも、そのイメージを維持するために他ならない。
けれども極めて愚かしいことに、私は兄との会話を求めていた。前述の通り、兄との会話がないと胸の穴から自我がこぼれていく気がするのだ。
冷血優等生という立ち位置からかける言葉は、徐々に説教の形になっていく。日々が過ぎるほど傾向は顕著になっていき、とうとう私は冷たい言葉しか兄にかけることが出来なくなっていた。
言葉を交わせば交わすだけ嫌われていく悪循環。どうして私はこんな、ああ、ああ……
そんな仮面を全て脱ぎ捨ててしまえれば、どれだけ楽なことだろう。けれど今更に過ぎる。突然態度を豹変させれば、周囲全てが不審に思う。私の本心は、決して気付かれるわけにはいかないのだ。

だから、私は
言葉を交さずとも満たされるための手段として、兄の下着を盗ったのだ。
……どんなに理屈を詰めても、行っていることは変態以外の何物でもない。あまりにも情けなさ過ぎた。
近親相姦願望の時点で既に変態だが、だからといって輪をかけていいというわけではないだろう。
布団の中で、兄のトランクスを握りしめたまま、枕に突っ伏す。

性別を逆にしてみればわかる。例えば、兄が妹の下着を盗むというのは危険人物以外の何者でもない。やればいいのに。
倫理は置いておくにしても、リスクの問題もある。私は本心を隠すために兄から離れ、会話に飢え、下着を盗んだ。
だが兄の下着を握っているところを発見されたら、これはもうどんな弁解も不可能だ。
リスクを避けることに努めてきたのに、結果的にリスクを高めるような行動に走っている。これもまた論理の矛盾だ。本末転倒も甚だしい。



597 未来のあなたへ1.5 sage New! 2008/11/21(金) 12:56:54 ID:qlrlB/Jb

「…………」
矛盾に突き当たったところで、手の中にある下着は消えない。そもそも、これをどうするべきなのだろう。どうしたいのだろう。何を求めているというのか。
兄の下着。分類はトランクス。基調色は青で、意味のない英単語が模様としてプリントされている。少し湿っぽいのは、三十分前まで兄が履いていたからだろう。素手で強く握ると、何かが皮膚に浸透してくるような気がした。股間の部分が僅かに濡れている。
なぜ濡れているのかといえば、論理的に考えて二種類の原因が考えられる。①排尿行為を行ったときの残滓 ②性的興奮を催したときに分泌される腺液。
「……はー、はー、はー」
気付けば息が荒くなっていた。変態でしかない。
兄にも性欲がある。その証拠は、私の理性を強烈に打ちのめした。
頭の中では理解していた。兄の年代の男性は、強い性欲を保持していることが多い。第二次性徴の最中なのだ。ならば当然、兄も例外ではないだろう、と。
けれど、想像上で理解しているのと、目の前に事実を突きつけられるのとでは、衝撃がまるで違った。兄にも性欲があるのだ。子供のように笑って泣くあの人も、自室で自慰をするのだ。
反射的に、壁に耳を付けた。隣は兄の部屋だ。息を潜める、鼓動が弾む、一階のテレビが五月蠅い。
…………
衣擦れの音は、聞こえない。どうやら今日はもう、眠ってしまったようだ。
知識を動員して想像する。兄がどのように自慰をするのか。私たちの部屋には鍵がかからない。行為をするなら私と同じように布団を被って行うはずだ。
姿勢は特定できる。男性器は勃起するから、仰向けでは布団が邪魔だ。横向きに寝ておこなっているはずだ。
材料は何を使用しているのだろう。ビデオ、雑誌、写真集、小説、漫画、あるいは妄想。考えられる媒体は様々だ。兄は何を対象に性欲を高ぶらせるのだろう。兄の部屋を徹底的に探せば、それは私にもわかるのだろうか。
気付けば、私は両手を下着の中に突っ込んでいた。ぐじゅりと水気。局所は自分でも驚くほどぬめっていた。熱い。
想像の中で、兄は息を荒げながら自分の男性器を擦っている。ぐじゅぐじゅと皮と腺液のこすれる卑猥な音がする。
ぐちゃぐちゃの局所をいじる。想像の中の兄と同じ姿勢で、兄が絶頂に至るのを待つ。
最後の瞬間。手にしたトランクスを顔に当てて思い切り鼻で吸い込んだ。アンモニアの刺激臭と、生臭い雄の臭い。
私は容易く絶頂に至った。何度も何度も、しばらくは身動きがとれなくなるほど、連続で体が痙攣した。
快楽の薄い私が、それまで経験したことの無いような、深い深い絶頂だった。


後日。

兄の部屋から、使用済みティッシュとエロ雑誌を盗ってきてしまった。死にたい。

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最終更新:2008年11月23日 22:31
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