『白と黒のクラウディア』その1

835 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 13:59:01 ID:NlFiVWY8
1
 掌が良い。と拳の先人達は言う。

 掌底、平拳、正拳、抜手、指拳。
 拳の握りは数有れど、掌底こそが相手を選ばず確実にダメージを与える術(すべ)だと。拳の先人達は言う。
 その気になれば、女子供でも使いこなせる拳。
 筋力では無く遠心力。強靭さでは無く柔軟さ。
 外からでは無く、内から壊す掌の拳。気を纏えば浸透勁へと変わる臨機応変な八卦掌。
 そこまでにメリットが有り、目立つデメリットは何も無い。なれば拳の先人達は言うだろう。「掌こそが最強の拳だ」と。

 しかし、はたしてそうか?

 異議を唱えるのは若き拳人。
 掌が良いのならば何故、他の拳が存在するのか?
 平手、正拳、抜手、指拳。それらが掌と同等に必要だから存在するのではないか?
 本来は使い手の修練差だけで、五拳に差は無いのではないか?
 そこで若き拳人は、「なればこそ」と思う。
 掌と対極の拳、指拳を極める事こそが、新たな拳の開拓に繋がるのではないのかと。
 母指(ぼし)、示指(しし)、中指(ちゅうし)、薬指(やくし)、小指(しょうし)。その中で使うのは一本。母指のみ。

 「だがしかし」、
 それを見た拳の先人達は嘲笑う。
 相手の身体が鋼の様に固ければどうするのか?
 鍛え上げられた肉体に指一本の指拳は有効なのか?
 そう問われ、若き拳人は嗚呼(ああ)と哭く。
 拳が衰退していった過程に心から嘆いた。
 そんな考えだから拳は衰退するのだと。
 だから頼らねばならない、氣に。
 だから武の最強の座を渡さねばならない、魔法(ペテン)に。
 だから証明せねばならない、最強の武を。
 生涯の殆どを鍛練に費し、拳人は拳神と成る。
 そして現代、その拳と意志を受け継ぐは一人。
 受け継ぐは指拳。完成された拳の集大成。
 受け継ぐは証明。引き起こす武の下克上。
「この世に仇成す邪悪を穿つは……」
 伝えられし積年の願いが、代弁者を代えてここに成就する。

「拳神四分家が一つ、祁答院家現当主」

 さぁ、現代の拳神よ……

「推して参るッ!!」

 最強を証明せよ。




836 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 14:00:35 ID:NlFiVWY8
2

 その早さ、天翔ける星の閃光。



 四の腕と四の脚から繰り出される無呼吸連撃。
 相手を畳み掛けるべくして放つ無制限弾膜。
 『喰らえ』『喰らえ』と、一撃毎に祈りを付加して擲(なげう)たれる会心の一撃達。
 されど見よ。
 その祈りは高望みである。
 そして知れ。
 その願いは決して叶わぬと。
「くッ、どうなってんのよ!!?」
 責め手は二人、受け手は一人の圧倒的有利な展開。
「全力で飛ばしてるのにっ、どうしてっ!!?」
 責め手は二人、受け手は一人の圧倒的有利な展開……だった筈。
 優劣は直ぐに五分と成り、
「純粋な殴り合いで、祁答院の名に勝てると夢見るなッ!!」
 責め手が一人、受け手が二人に。狩る側と狩られる側が事実シフト。
 二人が繰り出す拳と脚は、攻撃する為では無く、攻撃を防ぐ為に出されている。
「ライト、この距離で打ち合うのは!!」
 拳神が放つは命奪の拳。
 指拳を放てば肉を抉り、
 正拳を放てば骨を砕き、
 平手を放てば管を裂き、
 抜手を放てば臓器を削る。
姉さんッ!? クソッ!! ボクが押されてる? 引くっての!?」
 どれもが必殺。
 もし拳神の猛攻を凌ぐ手立てが有るとすれば、それは純粋な身体能力。幾年の歳月を鍛練に費やして得られる身体能力だけ。
 百歳やそこらのガキではどうしようもない、まして魔法(ペテン)に頼るなど愚の骨頂。この状況では糞の役にも立たない。
 だが、意識を高め、簡単な一節魔法を使うとしての詠唱、魔法の名唱、放つ動作。この四行程を僅か0.5秒で行える者が存在する。
 一部の才有る者と人の力を超えた者。拳神と対する二人も漏れずに該当する。これが最速。最速の発動時間。

 されど悲しいかな。拳神を前にして0.5秒と言う時間は、秋日に夜を願う蛍の命よりも長い。拳神は0.01秒で相手の喉をブチ破るだろう。
 他の武では追い付けない……百分の一、千分の一の世界がここに有る。

 神殺しを最良の糧に、最強の武は解答されるだろう。




837 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 14:01:36 ID:NlFiVWY8
3

     『白と黒 クラウディア』
  【白色悪夢~LightMare Syndrome~症候群】




 12月23日。
 ひらひらと初雪が降った。
 街はゆっくりと白に染色され、唯一色のメイクアップを施して行く。

「すごいね、ボクを見つけるなんて」

 そして一人。
 降り続く雪に誘われて、白色の街に導かれて、降り続く粉雪の中、少女と出会った。
「ご褒美に、『君の願いを叶えて』あげるよ。あっ……勿論、代償は貰うけどね」
 高層ビル間の細い路地奥。数メートル前後で二人は対峙し、互いに姿を確認し合う。
「さぁ、願い事の準備は出来たかな?」
 少女の髪はシルバーアッシュ。根元まで同色の天然ショート。顔の幼さや身長から推測すれば、年齢は15程度だろう。
 服は白地の『タンクトップ』で、胸元にアルバのロゴが入り、ホワイトゴールドのスカルネックレスを首から垂らす。
 パンツとブーツも白で統一され、白の風景に現れた白の支配者。
「良い夢を……祁答院(けどういん)」
 少女は真っすぐ前に左手を翳し、『背中に生えた白い双翼』を大きく広げる。
 途端。
「永遠への手向けだ、ボクの名を刻んで落ちると良い」
 グラリと、全身の力が抜けるのを実感。
 膝から崩れ落ち、視界の中すらも白に侵される。
「ボクの名はライトメア=フィアード。白色悪夢のライトメアだ」
 耐え切れず……
 思考回路は、闇に落ちた。




838 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 14:04:56 ID:NlFiVWY8
4
 太陽の様に明るい笑顔を持つ貴女。その活力が僕にまで感染する。今日も頑張ろうって気にしてくれる。


 LightMareDays 1日目


 眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も俺は意識を呼び起こす。
「ふあぁ……っと。ううっ、寒い寒い」
 一声を発し、伸びをした処で身体が震える。
「まぁ、寒い筈だよなー」
 理由は即効で身に染みる。俺が寝て居たのはリビング。
椅子に腰掛け、テーブルに突っ伏しながら寝て居たのだ。
「12月24日って言ったら、すっかり冬だ」
 テレビも点いたまま。朝のニュースでクリスマスイヴ特集が組まれているのを見て、今日で有る日付を知る。
「おはようございます、お兄ちゃん」
「んっ、おはよう紫琉」
 聞き慣れた声に名を呼ばれ、腰を上げてから挨拶を返す。
 障子を開けて部屋に入って来たのは双子の妹、紫琉(しりゅう)。
 黒く長い髪に、白く柔らかな肌に、切れ長でウサギのように赤い瞳。そして女を意識付ける最高のプロポーション。
 んなだから、双子なのに俺と全く似てない。
「もうっ、またリビングで寝てっ……ふふっ、こまったお兄ちゃんですねぇ♪」
 ここは仙台の街外れ。俺ら家族が経営する温泉旅館。
 でも今日から暫くは客も取らず、紫琉と二人きりで過ごす事になっている。
「今日ぐらい、朝から外食にしよう」
 友人とも会わない。平坂とも瀬戸山とも霧……きり、キリ、きりかわ、だったっけ?



839 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 14:06:18 ID:NlFiVWY8
5
 違うな、きりかわじゃない……んっ!? 待て待て。何で名前を間違えるんだ? もう一度、ちゃんと、思い出せ!
 いや、『思い出せ』ってこと自体がオカシイ。オカシイ。何かが、オカシイ。
「お兄ちゃんどうしたんです? 固まってますよ?」
 紫琉の問いすら答えれない。それまでに不可解。それまでに不理解。刹那で陥った最高級品の疑心暗鬼。
「ふぅぅっ、はぁぁぁっ……」
 落ち着け、落ち着け、落ち着け。
 即座に深呼吸で気を落ち着かせ、再度その名前を羅列させる。
 落ち着けよ、ゆっくりで良いんだ。ゆっくり、ゆっくり、名称しろ。
ひらさ×、せと××、き××……あれっ? さっきと違う気がする。

 最初から、もう一度。

 な×、も××、×××、××××××××××××××××。
 数少ない友人の名が、親の名が、出て来ない。例え名すら出て来ない。
「ッ!?」
 一筋垂れて、頬に汗さえ伝う。この寒い冬に汗……どんな意味か自分でも分かっている。
 だから俺は、思い出せない不安を拭いたくて、
「紫琉、今日ってみんな何してるんだっけ?」
 その解答を紫琉に求めていた。
「えっ……と、お兄ちゃん?」
 表情で分かる。これも駄目。これもオカシイ。紫琉はオカシイ台詞を紡ごうとしている。

「『みんな』って、誰の事を言っているんですか?」

 畜生。やっぱり言った。紫琉も忘れているのか?
「ほらっ、父さんとか母さんとかさ……」
 まだ諦めれない。紫琉が別の意味で解釈した可能性も有る。
 頼む、答えてくれ紫琉。俺の不安を払拭してくれ!
「あらっ……お兄ちゃん『何を』言ってるの? 私達は、ずっと二人だけで生活して来たじゃない」
 本当に分からないと言った顔で返してくれた問いの答えは、本当に分からない問いの答え。
 ずっと、二人で?
 ずっと、二人で。
 ずっと、二人で……

「そう……だったね。ゴメン紫琉。何だか寝ぼけてたみたいだ」
 そうだ。俺と紫琉は、ずっと二人だけで暮らしていたんだった。『みんな』何て最初から居ない。
「もうっ、今日ぐらいはしっかりしてくださいね」
「ああ、わかってるよ紫琉。今日は特別な……日だから」
 一年で一度の聖夜。こんな神聖な夜になら神様も目をつむっていてくれる。
 例え兄妹でも……愛し合う二人が育む、禁忌とされる行為を。



840 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 14:09:05 ID:NlFiVWY8
6
 月の様に優しい微笑みを持つ貴女。その気丈な言葉は、僕の身体を落ち着かせ、暑くする。
 明日になれば、また太陽の様な笑顔を見せてくれると信じて、今日も僕は眠りに着く。

 そんな紫琉に、これ以上何を求めたら良いのだろう?




「寒くないか紫琉?」
 サラサラと冬なる冷気の風が、頬と肩を撫でて吹きすさぶ。
「私は暖かいですよ。お兄ちゃんは、寒いですか?」
 舞い落ちるパウダースノーは、それだけで冷たさを連想させて体温を低く誘導する。
 そんな街中。紫琉はジーンズにブーツ。ダウンジャケットを羽織り、俺もお揃いのダウンジャケット。
「いや、暖かいよ」
 街を歩く俺達は、きっと兄妹に見られていない。
 紫琉は俺の左腕に身を寄せて、微かな隙間も空けない様に両腕でしっかりと抱いて歩む。
 俺の鼓動は紫琉に聞こえて、紫琉の鼓動は俺に聞こえて。相乗効果で心拍数は更に上昇。顔は紅潮し、身も心も暖かく。
「これから、どうするんですか?」
 紫琉は俺の上腕に頭を預けながら、ショッピングビルの液晶モニターで『2時30分』と言う時刻を確認して、信号待ちの次行動選択を促す。
「ん……紫琉は行きたい所とか有る?」
 二人で同色の黒いダウンジャケットを羽織り、温泉旅館を二人で出て、二人一緒にファーストフードで遅めの朝食を取ったのが11時。
 そこからクリスマスイルミネーションの施されたセンター街でウインドウショッピングをして、長い信号待ちの今に至る。
「私は……お兄ちゃんと離れなくて済む所だったら、本当にどこでも良いんです」
 俺の顔を上目で見つめ、離れたくないと願う妹の顔は、焦がれる程に愛しく思えて……
「紫琉と離れるなんて、考えもしなかったよ」
 甘ったるい台詞を囁き、微笑んで紫琉の瞳を見つめ返す。
「おにい、ちゃん……」
 紫琉は潤んだ瞳を静かに閉じて背伸びをし、
「紫琉……」
 俺も僅かに顔を下げ、妹の頬に右手を添える。
「ずっと、好きだった」
 それに今まで言えなかった告白を加えて、

「「んっ……」」

 唇を重ね合った。
 温もった声さえも重なる、とても神聖で、禁忌とされる行為。
 横を通り過ぎて行く視線を気にせず、気にならず、時間さえも止めて、二人だけの世界で愛を唄う。
「んちゅっ、はぁっ……信号、また赤になりましたね」
 惜しむ様に唇の重ねを解き、俺達は揃って目立つ赤を見る。
「ああ、ゆっくり行こうよ。まだまだ今日は長いから」
 言い終わる直前に赤は消え、人波を動かす緑に移り変わった。

 そして俺は、幸せな時を進む――

 二人で恋愛映画を見た。人気が無いのか、客入りの少ない作品だったけど、俺達は充分に楽しんだ。
 愛し合う義理の兄妹が、周りの祝福を受けて一緒になる話し。
 どんなに幸せなんだろうと、画中の二人に嫉妬しながら、決定済みのハッピーエンドを見守ってた。
 兄と妹の結婚式。現実の俺達には決して許されない背徳の儀式。
 紫琉は俺の左手に自らの右手を乗せたまま、声を殺して涙を流す。
 遠い日の紫琉と交した約束。『大きくなったら結婚しよう』。そんな幼い子供の盟約すらも無に返す、くだらない法律が存在する現実。
 ああ……
 ああ……神様どうか。
 ああ、神様どうか教えてください。いったい俺達は、どこに行けば許されるのですか?
 哀れな小羊達は、どこに行けば愛し合えるのですか?
 小羊達の愛し方を、どうか教えて下さい……




841 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 14:09:42 ID:NlFiVWY8
7

 LightMareDays 2日目


 眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も俺は意識を呼び起こす。
「ふあぁ……っと。ううっ、寒い寒い」
 一声を発し、伸びをした処で身体が震える。
「まぁ、寒い筈だよなー」
 理由は即効で身に染みる。俺が寝て居たのはリビング。椅子に腰掛け、テーブルに突っ伏しながら寝て居たのだ。
「12月24日って言ったら、すっかり冬だ」
 テレビも点いたまま。朝のニュースでクリスマスイヴ特集が組まれているのを見て、今日で有る日付を知る。
 確か昨日は紫琉とデートしたんだ。ウインドウショッピング、映画、高級レストランで食事、その後はラブホテルで紫琉と……ん?
 何か記憶が抜けてる。紫琉と一緒に寝た筈なのに、どうして俺は自宅で目覚めているのか? そもそも昨日は何でデートしたんだ? デートするなら、『イヴで有る今日』だろうに。
「状況を、把握する必要が有るな」
 椅子を引いて起立し、パジャマから着替える為に自室へと向かう。
 オカシイ。嫌な……予感がする。
「紫琉、まずは紫琉を探さないと」
 行動を起こすなら今だ。
 思考能力が『正常』な今だ。
 動いて、考えて、結論を出せ。
 何を考え、どう動くべきなのかを……




842 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 14:11:31 ID:NlFiVWY8
8
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
 深い呼吸で溜め込まれた脳内酸素までが、小休止の無い運動で尽き朽ちる。
「はぁっ、はぁっ、っ……ぐはぁっ!!」
 短いインターバルも取らずに走り続ければ、言わずとも出て来る当然の結果。

 もう何分走った?
 覚えていない。

 何時から走った?
 考えたくもない。

 視線をズラし、液晶モニターで映される時刻が、11時45分。旅館を出たのが11時。
 簡単な算数。やっぱり疲れる筈だ、こんなに走ってるんだから。
 雪が降り止み、夜の冷感温度でアイスバーンに変化した歩道。
 そこを俺は、
「どこ……っはあっ、に、居るんだよ紫琉!」

 12時間45分も走り続けたのだから。

「しりゅ、うっ……」
 終に両足は動かなくなり、激痛を上げて中断を申告。
 日付の変わる空を仰ぎ、異常な呼吸を正常に整える。
 街には俺が一人だけ。他には誰も居ない。後は何処かに居る紫琉。
そう。この世界は、俺達二人で出来ている。
 後は存在しないし、『後』なんて無い。
 記憶回路で覚えてる人名は、自分の名前と妹の名前だけ。たったそれだけなのに、それだけで満足してる。
 誰にも咎められない。
 誰にも非難されない。
 この世界には二人しかいないから。
 二人しかいないからオカシイ。
 俺が立ち止まった先、横断歩道の向こう側。ソイツは佇む。
 全身を白で纏め、視界に現れて異端を晒す。
 俺と白との距離は、目測で二桁メートル弱。
 読唇術を会得してる訳じゃないし、声が聞こえて来る訳でもない。でも分かる。白は口角を一字一字はっきりと動かし、俺に意味を理解させる。
「う、た……」
 言葉は5文字。
「が」
 視力は余り良くないし、読み違えてる可能性だって有る。でも解る。
「う、な」
 意識下に直接で刷り込むかの如く、白の言葉が頭に響く。
「うた、が、うな?」
 奴の言った台詞は、
 白の放った初言は、
「疑うな!?」
 その存在以上にオカシイ内容だった。




843 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 14:12:09 ID:NlFiVWY8
9
「どう言う……事だよ畜生」
 分かれ、分かれ、解れ。
 この状況を、この現状を!!
「畜生、畜生……」
 分かる、分かる、解る。
 俺は何をするべきなのかを。
「俺は、俺は……」
 今はただ、この溢れる感情のままに。
「俺はぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
 仙台の闇を降り払う為の咆哮。それまでに俺の叫びは大きく、
「ダメよ、お兄ちゃん」
 俺の驚きは大きかった。
「ッッ!? しっ……りゅう?」
 背後から探し求めた声が届き、身体中に小規模な衝撃が伝達。
「この世界が全て。私とお兄ちゃんだけの叶えられた世界」
 紫琉の右手が腹部に見える。
「それを『疑う』なんて、絶対に駄目!!」

 きっと、紫琉に背中から抱き締められてる。
「し、りゅ……がはッ!!?」
 それなのに俺は、最愛の名を呼ぶ事さえも許されない。
 代わりに口から溢れるのは、ハイペースで流れ落ちる鮮かな血液。
「もう一度やり直しましょう。直ぐに『元通り』になるから」
 確かに紫琉の右手は腹部に見える。
「なに、をいって……」
 右手は腹部に見える。
 右手は腹部から『生えて』見える。
 俺の背面から貫き、『腹部に穴を空け』て血塗れの五指を見せた。
「次は私だけを考えてくださいね、オニイ、チャン♪」
 後ろを振り向く事は出来ない。
 下を向けば血溜まりが造られ、
 前を向けば、
「なっ、ん、で……」
 白と紫琉が戦っていた。
 白は双翼を広げ、紫琉は長い刀を振るう。
 白と戦うのは、『もう一人の紫琉』。
 オカシイ。そう思いながら、俺の意識は消えて行く。
 痛みなんて全く感じてないのに、死ぬんだなって理解出来た。
 ゾプリと腕が引き抜かれ、腹にでっかい風穴が空く。
「お兄ちゃん!!? 嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
 駆け寄って来る紫琉の絶叫を聞きながら、俺は雪面の白夢に倒れた。




844 『白と黒のクラウディア』その1 ◆uC4PiS7dQ6 sage New! 2009/03/22(日) 14:12:45 ID:NlFiVWY8
10

 LightMareDays 3日目



 眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も俺は意識を呼び起こす。
「ふあぁ……っと。ううっ、寒い寒い」
 一声を発し、伸びをした処で身体が震える。
「まぁ、寒い筈だよなー」
 理由は即効で身に染みる。俺が寝て居たのはリビング。椅子に腰掛け、テーブルに突っ伏しながら寝て居たのだ。
「12月24日って言ったら、すっかり冬だ」
 テレビも点いたまま。朝のニュースでクリスマスイヴ特集が組まれているのを見て、今日で有る日付を知る。

 そして視線を廊下に向ければ赤。

 リビングの入口、
 血沼に浮かんで、
 仰向けに倒れ、
 紫琉が死んでた。



 続く。
 Next LightMareDays

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最終更新:2009年03月23日 01:01
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