愛憎表裏同体論

14 愛憎表裏同体論 (01/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 22:57:50 ID:8HoXg1iW

 それはある晴れた日の昼下がりのこと。
 とある地方都市の高校にある、体育館の裏手――人気のない場所。
 そこにいるのは、そこの高校の制服を着た、1人の男と2人の女。

「な、なんで貴女が――妹さんがここに来ているんですか!?」
「理由なんて必要? だったらちゃんと教えてあげるわ。
 私のいないところで、くだらない企てをされるのが、いやだからよ?」
「ちっ違いますっ! 私はそんな、何も企んでませんっ!
 私は――ただ私は、絹裡先輩のことが好きなだけで――」
「あっそう、あくまで自分のこと、恋する乙女だと言い張るのね?
 でもウチの馬鹿兄貴は、アンタになんか、靡かないわよ?」

 そしてそこは何故か、女2人による修羅場と化していた。
 片方は、俺にラブレターをくれた、名前も知らない後輩の女の子。
 そしてもう片方は、後輩と同じ年齢の――俺の、実の妹。
 当然だけど、妹には俺がラブレターをもらったことは、既にバレている。
 だからこそ、妹は俺とともに、こんな場所にいる。
 いや、正確には渋る俺を連れて、妹がこの場に来ているんだ。

「な、なんで妹さんに、そんなこと言われないと、いけないんですか……!?
 妹さんがそう思っていても、先輩はそうじゃないかもしれないでしょう!?
 私は……、ちゃんと絹裡先輩から返事を貰うまで、帰る気は――」

 最後まで食い下がろうと、必死で自分の言うことを聞かない妹に対抗する後輩。
 けれどそれは全くの無駄な行為で、逆に妹を煽るだけでしかない。
 現に俺の隣にいる妹から、異様なまでの憎しみの感情が、伝わってくるから。
「だから、そんな確認をする必要はないって、言ってんのよ。
 馬鹿兄貴には、アンタを選ばない理由があるの。
 なんだったら、今からそれを、見せてあげましょうか?」

 そう言って、置いてけぼりだった俺の手首を強く握る妹。
 その握力は相当のもので、ほんの一瞬で指先まで痺れてしまった。
 そしてそのまま、勢いよく自分のほうへと、俺の身体を引っ張る妹。
 俺はその力の流れに、一切の抵抗をしないままに流される。
 そう、抵抗はしない――抵抗できない理由があるから。

 そして無抵抗のまま引っ張られた俺は、妹に体勢を崩されて――
 名前も知らない後輩の目の前で、妹と濃厚なキスを、交わしてしまった。


15 愛憎表裏同体論 (02/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:00:08 ID:8HoXg1iW

「……っぷはぁっ! うふふっ♪ わかったかしら?
 ウチの馬鹿兄貴は、実の妹に欲情するような、変態さんなの。
 だって今、アタシからのキスに、いっさい抵抗しなかったでしょ?」
 妹の勝ち誇ったような宣言に、目の前の後輩は、ただ呆然としている。
 そりゃそうだ。目の前で血の繋がった実の兄妹が、あんなことをしたんだから。

 数秒後、ようやく復活した彼女は、ものすごい剣幕で捲くし立ててきた。
「な、なにをやってるんですか先輩っ!? 妹さんも、なんで、そんなっ!?
 2人とも、兄妹なんでしょう!? なんでそんな――わざとなんですか!?
 それって、私が嫌いだから、そんなことをしてるんでしょう!?
 今のキスだって、私の告白を断るための、演技なんでしょう!?」

 そんな彼女に対して、妹は微笑みかけながら、口を開き言葉を紡ぐ。
 半ば半狂乱になっている後輩に対して、辛辣にトドメを言い渡す。
「違うわ。『それって~』以降の前半は正解だけど、後半は不正解、かな?
 この馬鹿兄貴は、アタシ以外のキスも、抱擁も、性的接触も、すべて拒むわ。
 この男が、アンタなんかが好き? はっ、ありえないわねそんなことは……」

 そう言いながら、今度は俺の学生服の前ボタンを、ひとつずつ外してくる妹。
「いいわ、ここでこの馬鹿兄貴の過去の悪行を、全部再現してあげる。
 光栄に思えばいいわ。馬鹿兄貴はアタシ以外に、こんな痴態は――」

 妹の言葉を最後まで聞くこともなく、後輩はどこかへと走り去っていった。
「はっ、あんな純情ぶった小娘なんかが、この馬鹿兄貴に釣り合うもんか。
 これだけやれば、あんな貧弱な小娘ごとき、2度と兄貴に恋慕なんてしないわ。
 うふふっ♪ これでようやく、アタシの睡眠不足の原因が、なくなったわ……」

 そう独り言を呟く妹。同時に俺の右腕から、妹が腕を掴む力が抜けていく。
 今のうちに抜け出して、あの後輩に今回の件について、謝罪と口止めをしないと。
 そう思って、走る勢いで振りほどくために、1歩目を踏み出そうとして――


「どこへ行く気なのよ……? この変態! 鬼畜! 馬鹿兄貴っ!!
 アタシを放っておいて、どこに行こうっていうのかしら?
 ――というか、さっさとアタシから、その汚い手をどけなさいよ!?」

 妹は掴んでいた俺の腕を振り払って――払った腕を勢いのまま、高い軌道で翻す。
 裏拳になったその腕の振りは、妹の頭の少し上――俺の横面を正確に張り飛ばす。
 妹の体重は軽いものの、顎を横から打ち据える一撃で、しばらく前後不覚になる。

「痛い? 当然でしょうね。そんなことはどうだっていいのよ。
 あんなぶりっこ女、放っておいたって、なんにもできっこないわよ。
 いいから、さっさと教室に帰るわよ! ぐずぐずするなっ馬鹿兄貴っ!?」

 結局最後の最後まで、怒りの感情を抑えないままに、我儘に振舞う妹。
 俺はそんな妹に反抗などせず、従順に振舞いながら、この場を後にした。


16 愛憎表裏同体論 (03/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:03:16 ID:8HoXg1iW

 紹介が遅れたけれど、俺の名前は「絹裡角(きぬうちすみ)」。
 都内の某高校に通う、今年で2年目の『一般人』だ。
 そこそこ普通の家庭に生まれ、普通の学力を有する『凡人』だ。

 先ほど俺が妹と呼んでいた少女が「絹裡円(きぬうちまどか)」。
 間違いなく俺の実の妹であり、同じ高校へ1年生として通っている。
 彼女も間違いなく『凡人』――だったが、2ヵ月前にそれは一変した。
 いや、『した』なんて他人のフリをした発言なんて、するべきじゃない。
 俺が彼女に酷い仕打ちをしたから、彼女は歪な心を抱えてしまったんだ。
 俺のせいで彼女は、『一般』や『常識』という概念を、見失ったんだ。


「で、馬鹿兄貴。もうさっきの雌猫みたいな阿呆は、1人もいないよね?
 さっきみたいな手紙を出すヤツだけじゃなくて、告白してきた連中全部よ?
 もし黙ってたら、ソイツと同様に、兄貴も学校に居られないように――」
「だ、大丈夫だって円。俺はもともとそんなにモテないんだぜ?
 だから、さっきの後輩の娘で最後だから、心配することは――」

 俺の科白を最後まで聞かずに、妹がまた裏拳を叩きつけてくる。
 本当は紙一重で避けられたが、俺はあえて正面からまともに食らう。
「ってぇ~~………、なんで殴るん――」
「シンパイ? 兄貴、アタシが何を心配しているって言うの?
 まさか、兄貴のことを心配してるって、思いこんでいるの?」

 一通り俺を罵倒した後、妹は俺の瞳を覗き込みながら、言い含めてくる。
「ふん、ふざけないでくれる? 兄貴なんかどうでもいいの!
 むしろ兄貴が、寄って来る雌猫を孕ませないか心配なのよ?」
「な……俺がそんなこと、するわけが――」
「ふん、どうだかね。だって兄貴は――アンタは、アタシを――」

――♪き~ん、こ~ん、か~ん、こ~ん……

 妹の言葉を遮って、昼休みの終了を告げる予鈴が、廊下に響いた。
 それに不機嫌な顔を見せながらも、妹は止めていた歩みを進めた。
「まあいいわ。授業が始まるから、アタシはもう帰るね。
 馬鹿兄貴も、さっさと授業にいかないと、遅刻するわよ?」 

 遠ざかる妹を見送り、自分も教室に戻ろうとしたところで――
 突然妹が立ち止り、俺にだけ聞こえる声で、呼び掛けてきた。
「あ、そうだ馬鹿兄貴。今日はさっさとウチに帰ってきて。
 もうそろそろ、兄貴も我慢が出来ない――んでしょう?
 ――言っとくけど、逃げたりしたら、許さないからね?」


17 愛憎表裏同体論 (04/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:05:59 ID:8HoXg1iW

「なあ沫雪(あわゆき)、オマエは自分の姉さんと、どういう風に距離をとってるんだ?
 他意はないさ。まさか四六時中べったりってワケじゃないだろうから、聞いてみたいんだ」

 その日の放課後、俺はダチの唄方(うたかた)沫雪と一緒に下校していた。
 妹は俺より早く帰って、準備をするらしいから、今日は一緒にいない。
 そういう時だけ、このダチとゆっくり話をしながら帰宅することができる。
 だから、なんとなく質問してみた。ただそれだけだ――と思う。

「姉さんとの距離? ああ、そんなこと考えたこともない、かなぁ……?
 正直姉さんは、僕が半径十数メートルにいれば、必ず近寄ってくるからなぁ。
 もう抱きつかれているか、正面数歩手前にいることが、当たり前になっちゃったよ」

 そんな答えを、何故か笑顔で返された。なんというか、シスコンごちそうさまです。
 俺のダチでありながら、かなり善良な人間である沫雪の言い分に、俺は微笑みを返した。
 コイツの姉さんは、過去にいろいろあったらしく、今は自宅でニートをしているらしい。
 以前は俺たちの通う高校で、かなりの学業成績を修めた、やり手であるにも関わらず、だ。
 そして家では超のつくブラコンぶりを発揮し、コイツに甘え倒しているらしい。
 もっとも、俺も自分の目でそれを確認したことがあるから、信じないわけではない。

「でもさ、どうしてそんなことを聞くのさ? なんか悩みでもあった?
 ああ、もしかして妹の円ちゃんと、こっぴどく喧嘩でもしたか?」
 笑顔で尋ねてくる沫雪。ああもう、聞くんじゃなかったかなぁ?

「ふん。まあ喧嘩というか――もう少し派手にやっちまったという感じだけどな。
 でも今は反省してる。だからどうにか、距離を縮めたいと思ったんだよ。
 正直俺って、アイツに限らず女の子との距離の取り方とか、下手でしょうがないんだ」
 実際のところは、女の子どころか自分以外の人間全員に対して、距離の取り方が苦手だ。
 沫雪や妹みたいな人間じゃないと、俺は自分から離れていくしかなくなるほどに。

 それに今も、俺は沫雪に嘘をついてしまっている。
 妹と喧嘩した――なんて言ったが、実際はそれどころじゃない。
 喧嘩なんて相互的なもんじゃなく――俺が一方的にアイツを傷つけた。
 もう俺は、アイツに償う方法を探しながら、一生を費やすつもりでさえいる。

 けれど、それでアイツが納得しなかったら?
 それでアイツが納得して、俺から離れたら?
 その場合のことを考えるのが難しくて、沫雪に訊ねたけど――
 コイツはコイツで、もうある程度の覚悟は括っていたようだ。


18 愛憎表裏同体論 (05/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:09:15 ID:8HoXg1iW

「あっ……、あっちゃ~ん! こんなとこにいたんだね~っ♪」
「ふふっ♪ よかったですね唄方センパイ。弟さんに無事出逢えました。
 ――っと、どうやらその横に、ウチの馬鹿兄貴も居るみたいですけど」

 俺が考え事をしながら沫雪と喋っていると、後ろから声をかけられた。
 1人は言うまでもなく、俺の妹――円だった。
 どうやら帰りがわずかに遅くなるのを見越して、わざわざ来たらしい。
 そしてもう1人が、話題に出ていた沫雪のお姉さん――泡姫(ほうき)さんだ。
 どうやら荷物を見るからに、お買い物に行く途中といった風情だ。

「円ちゃん、こんにちは。2人とも知り合いだったんだっけ?
 それにしても姉さん、なんでまたこんなところにいるのさ?
 買い物なら、言ってくれれば、僕が一緒に行くってのにさ?」
「えへへ♪ 今日はどうしても、あっちゃんに食べさせてあげたい料理があったの。
 だからこっそりと買い物に行って、材料をそろえようと思ったんだよ。
 だけど家を出たところで、円ちゃんに逢って、ちょっと話しこんじゃったの。
 そのおかげで、このタイミングであっちゃんに逢えて、なんだか嬉しいかも♪」

 なんというか、傍で聞いているだけでも、相当な甘々カップルっぷりに中てられそうだ。
 よく見ると泡姫さんの横にいる妹も、かなり中てられたのか、うつむきがちだし。
 そんな俺達兄妹に構わず、この姉弟はまだ今日の予定を確認しあってるらしい。

「悪いんだけど角、僕はこれから姉さんと一緒に、買い物に行くよ。
 だから、今日はもうここで帰るから。それじゃあまた明日」
「それじゃあ円ちゃん、それと……角くん、バイバイ♪」
「ああ、じゃあな沫雪。それと泡姫さん」
「さようなら。センパイたち」

 そうして俺と妹は、どうみてもラブラブな姉弟の後ろ姿を見送った。
 心なしでもなんでもなく、それは正直にいって羨ましい光景だ。
 俺もあんな風に――せめて横に並んで一緒に女の子と歩いて行きたい。
 ほんの2ヵ月前までなら、それはまだ可能だったはずだ。
 その時はまだ俺も、学校の先輩に恋をしていたり、妹とも普通に仲が良かった。
 でも、それはもはや、永遠にかなうことのない夢でしかない。


「ふぅん……? 馬鹿兄貴は、アタシ以外にはそういう顔も、できるみたいねぇ~。
 唄方センパイ――あのお姉さんに見とれて、鼻の下のばしたりなんかしてさぁ?」
「ち、違うぞ円。俺にはそんな、泡姫さんに恋慕したとか、そんなつもりはない。
 ただアイツら姉弟の仲の良さが、微笑ましいというか、羨まし――」

 はっきりいって、俺が弁解のために喋れたのはそこまでだった。
 そこから先は、妹が俺に対して放つ殺気のせいで、喋ることもできない。
「――まあいいわ。結局馬鹿兄貴は、見てくれがいいなら、どんな女にも発情するんでしょ?
 そんな馬鹿で最悪な兄貴に対して身を犠牲にするのは、傷んだアタシの役目だからね?」

 そう言って妹は、掴みあげた俺の手の甲に、自分の唇で痕をつけてくる。
 妹がそんな真似をするのは、始まりの合図。
 そう。また今夜も、あの狂宴が始まるんだ。


19 愛憎表裏同体論 (06/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:11:03 ID:8HoXg1iW

 その後は、夜になるまで何をしていたか、あやふやな気がする。
 あのまま俺は妹に手を掴まれたまま、自分の家に帰ってきた。
 決して妹と横並びではなく、妹に引きずられるような、無様な陣形の行進。
 それが俺と妹の関係を如実に表しているようで、なんとなく笑えてしまった。
 もちろん、それを見た妹には、罵倒つきで思いっきり頬をビンタされたけど。

 家に帰ってからは、普通に少しだけ仲の悪い兄妹として振る舞った。
 親父もお袋も、そんな俺たちを年頃の兄妹のよくある姿としてしか、捉えていない。
 それより2人とも、今夜が週に1回の泊まりがけの帰省だから、慌ただしくしている。
 そのまま普通の、どこにでもいる兄妹――家族として、4人で食卓を囲み。
 戸締りの確認を口うるさく注意してくるお袋と親父を、2人で見送って。

 そして、完全に玄関その他の出入り口に鍵をかけたところで、今夜の狂宴が始まった。


 場所は俺の部屋。高校で使う道具と机と、あとは本棚くらいしかない、殺風景な部屋。
 唯一の寝具である、布団シーツをかけただけの、マット式の簡易ベッド。
 そしてその上に、半裸姿で絡み合う男女――俺と妹がいた。
 妹は薄い緑色の、可愛らしい形の下着姿で、俺の胸元に口づけている。
 対して俺は、上半身裸にトランクスで、妹のなすがままにされている。
 それだけでなく、両腕を頭の上で、太めの縄によって拘束されている。

 どう考えても、これは兄妹同士でのじゃれあいを超えている。
 間違いなくこれは異常な光景で、倫理的には誰かが止めなくてはいけない。
 だけど、ここに居るのは『倫理』を捨て去った少女――俺の妹と――
 そんな妹に逆らうことのできない、情けない俺しかいない。 

 このとち狂った狂宴は、実に1ヵ月以上前から続いている。
 毎週1回、もしくは数回――共働きの両親が出かけた日に行われている。
 隣県にある親父の実家に、両親が休日を利用して帰省する日――それが開催の条件。


「なあ円……、今更だけどさ、こんなことはもうやめようぜ……?
 俺が言うべきじゃないけど、こんなこと繰り返しても、何にもならない――」
 毎度毎度繰り返される、俺からの忠告『もどき』。
 それに対して、妹はいつも通り、人を殺せそうな鋭い視線を向けてくる。

「なぁに? こんなことしたくないって言うの?
 こんなこと、許されないって、言いたいのかな、兄貴は?」
 当然だけど、妹は俺の言葉を聞かない。俺の拒否を受け付けない。
 俺が何を言おうと関係なく、俺が拒絶することを、拒絶する。

「あははっ♪ どの口が、そんな戯言を、ほざいているのよ?」
 そう言いながら、俺の乳首あたりに強く噛みついて、自分の歯型を残す妹。
 そしてそのまま、俺のトランクスを力いっぱい引っ張って、破って取り去ってしまう。

「本当は、大っ嫌いなのよ、アンタなんて!
 本当の本当に、最っ低で最悪なのよ、アンタは!
 アンタのせいで、アタシは――処女じゃなくなったのよ!?」

 妹の――円の慟哭に、俺の視界は一度、真っ暗に染まりきってしまった。


20 愛憎表裏同体論 (07/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:16:45 ID:8HoXg1iW

 過去回想。
 それはほんの2ヵ月前――土曜日の夜のことだった。
 その日俺は、自分の部屋でこっそり、チューハイを自棄飲みしていた。
 酒に弱いはずの自分が、自棄飲みしていた理由は、なんだったか――

 そうだ、あこがれの先輩に告白して、デートして、その帰りにフラれてしまったんだ。
『悪いけれど、私のことを理解したつもりで行動するだけの男に、私は好意を向けられない』
 そう言われて、数ヵ月越しの俺の恋は、あっという間に終わりを迎えたんだ。

 それを忘れたいがために、こっそり大量買いしてきたチューハイを煽っていた。
 そこに突然、部屋の扉の鍵を外側から開けて、妹が入ってきた。
 そして自分に一番近いチューハイの缶を開けて、一気飲み。
 直後、唖然とする俺に対して、少々口汚い言葉で、叱責と罵倒をしてきた。

 曰く『そんな女に惚れるなんて、兄貴は見る目がないんじゃないの?』。
 曰く『妹も満足にエスコートできない兄貴に、恋人なんて早いのよ?』。
 曰く『童貞だから、ただ美人なセンパイとやらと、ヤりたかっただけでしょう!?』。
 そんなことを言われて、売り言葉に買い言葉を地でいくように、俺たちは喧嘩をした。


 その後のことは覚えていない。
 気がついたとき、俺は明らかにレイプされた直後の妹を、座ったまま見下ろしていた。
 お気に入りと言っていた洋服は、下着ごとズタズタに破られて、周囲に散乱している。
 全身に俺の精液が飛び散り、特に大量に精液の垂れる股間には、血液が付着している。
 顔は腫れてはいないものの、放心した顔に涙と唾液と――赤い痕が大量についている。
 そして俺は上半身は着衣のままで、血液と精液のこびり付いたペニスをさらしている。

 正気に返った俺は、蹂躙された妹の姿を眺めているうちに、自分のしたことが怖くなり――
 犯されて虚ろな瞳の妹をその場に放置して、1階の親父の書斎に逃げ出してしまった。


 逃げ出した次の日の朝、俺は親父やお袋、もしくは妹本人から、絶縁されることを覚悟していた。
 けれど、そんな機会は一切訪れなかった。誰もそんな話題を出さなかった。
 朝戻った部屋には昨夜の痕跡はなく、すべてが隠滅された後だった。
 親父やお袋は何も知らないようだし、妹も不機嫌ながら、何も言おうとしない。
 ただただいつもと変わらない日常が、いつもと変わらずに展開されていた。

 そんな状況に、俺はありえないような淡い期待を抱いてしまった。
 あの夜のことは、フラれた俺が見ただけの、悪い夢だったんじゃないか?
 だから俺は妹をレイプしてなくて、また妹と喧嘩しあう日々が、戻ってくるんじゃないか?

 もちろん、そんなはずはない。そんなわけがなかったんだ。
 祖母の体調が悪い、と言って予定外に帰省した親父とお袋を見送った後。
 いつの間にか背後に忍び寄った妹に、首筋を爪で撫でられながら、脅された。

「兄貴、父さんと母さんに、アンタの悪行をばらされたくない、よね?
 だったら兄貴、アンタは今から、アタシの奴隷になりなさい。
 言っとくけど、アンタには拒否権なんて、全くないからね?」


21 愛憎表裏同体論 (08/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:20:15 ID:8HoXg1iW

「…………ので、何……うってのかしらね?」
「……ぁは、ようやく人並みに膨らんできたのね」

 妹の罵声で、俺は過去の回想から、現実に引き戻された。
 そして目の焦点を戻すと同時に、俺のペニスを咥えた妹に、罵倒される。

「やっと気づい――その目は何よ、罵られないと勃たない変態がっ!
 こんなことするのはおかしくて、本当は嫌なんじゃないかっての?
 ――そりゃ嫌よ。嫌に決まってるじゃない。気持ち悪い。
 本当はアンタに犯されるなんて、嫌で嫌で仕方がなのよ……!
 そんなこともわからないの? 本当におめでたいわね馬鹿兄貴は!?」

 俺は何も言っていない。そんなことを訴えたつもりもない。
 妹のこの科白は、いつも妹が俺を犯す際に繰り返す、決まり文句のようなものだ。
 もっとも、全体の半分近くは当たっているので、否定も反論も許されないけれど。

「普段の馬鹿兄貴を見てるとさ、いっつも思うことがあるのよ……?
 どうせアンタ、自分のことを『凡人』だとか思っているんでしょ?
 いいえ、どうせ『一般人』だとか、都合よく思っているんでしょ?
 あははっ…………、笑わせるなっ!? この『犯罪者』がぁっ!!」

 手で俺のペニスを扱きながら、時々唇や舌を這わせて、刺激を加える妹。
 その間、俺をひたすら罵倒することだって忘れない。
 そのくせ刺激は的確に加えられ、あっという間に射精寸前の状態に持ち込まれる。
 それも当然で、もう2ヵ月前から10回以上は、こうやって妹に犯されているからだ。

「知らないフリするアンタに、自分がやったことの重大さをわからせるの!
 そのために、いやいやアンタなんかに、アタシを犯させてやってんのよ!」
 その言葉と同時に、情けなく妹の眼前で射精してしまう俺。
 黒い髪に、長い睫毛に、小さな口に大量の精液の直射を受けながら、微笑む妹。

「ふふん♪ くっさくてきったない、兄貴の鬼畜せーしがいっぱい。
 これのカスが、アタシの膣内にたっくさんあるんでしょーねっ?」
 淫靡な笑みを浮かべながら、顔に着いた俺の精子を舐めとる妹。
 その光景に俺は、再びペニスを勃起させてしまった。

「何よその顔? 何か言い訳でもしたそうな顔をしてるよね?
 ああそっか~。自分が悪いんじゃないって、言いたいのね?
 ――ふん! 女の子1人の幸せを奪って、なに言ってんの?
 そんなアンタが、幸せになれるなんて、本気で思ってるの?」

 そう言いながら、俺を仰向けに押し倒す妹。
 そして俺を睨みつけながら、俺の下腹部に腰を落として――
「くっ……ああっ♪ 馬鹿兄貴――また犯罪者になったね、おめでとう♪」
 快楽と苦痛と嘲笑の混じった相貌(かお)で、俺に宣告してくる。


22 愛憎表裏同体論 (09/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:25:56 ID:8HoXg1iW

 そして俺の身体に、自分の身体を繋げたまま、緩やかに動きだす妹。
「あれれ? いつもみたいに、少しは抵抗しないの?
 自分が動いているわけじゃないから、違うとでも?
 アタシの意思があるから、和姦とでも言いたいの?」
 おとなしく抵抗しないでいると、妹はそう言って俺を罵倒してくる。

「ふぅん。そうやって、また自分に言い訳してごまかすのね、この最低人間」
「ち、違う……っ! 俺は自分が酷いことをしたって、ちゃんと理解している!
 それよりも俺は、いつも無茶をする、お前の身体が心配で――」
 そう言いきる前に、眼前に妹の顔が近づき、無理やりキスをされて黙らされる。

「うるさい黙れ。言い訳するな。アタシは騙されないわ。
 アンタの助言や説教なんて、アタシには必要ないの。
 アタシは、アタシの裁量で動くの。そしてアンタを苦しめるの」
 妹のそんな言葉に、俺はなぜか目頭が熱くなり、視界がぼやけた。
 同時に頬の表面を、水滴が流れていくのに気づいたけれど、それを放置する。 

「あはは、泣いてる? もう死んじゃいたいの? 辛くて苦しいの?
 でも、死なせてやんない。死んで楽になんかさせてやんない。
 アンタを苦しめ続けるために、アタシがアンタを死なせない。
 アンタが生き続ける限りは、アタシがアンタを苦しめ続ける。
 アンタは、妹を犯した変態ということを自覚しなさい。
 アンタは、ずっとずっとず~っと、一生後悔しなさい」

 言いながら、腰の動きをいつもより激しくする妹。
 理由は不明だけど、今日はよほど俺に対して、言いたいことがあるみたいだ。


「……本当はね、アタシはね、兄貴のことが大好きだったの。
 いつか身体を許すことがあっても、いいかなって思ってたの。
 もしもその時は、兄貴から優しく告白されて、口説かれて――
 初めてはすっごく痛くって、それでアタシが泣いちゃって――
 そんなアタシを兄貴が抱きしめてくれる――そんな夢さえ見てたのよ?

 なのにあの仕打ち!? 完っ全に、アタシを肉人形扱いしてたよね!?
 痛がっても、聞く耳持たないで、自分の欲望をぶつけてくれたよね!?
 ロマンもムードも、愛情も言葉も、何もへったくれもなかったよね!?
 あんな地獄――最低の行為をしでかしておいて、『許して』だって!?
 ふっ……ざけんじゃないわよっ!? この変態鬼畜馬鹿兄貴がぁっ!?」

 その言葉は、犯される度に毎回聞いている。いや、聞かされている。
 最初に聞いた時は、本気で驚いたし、裏切ってしまったことに愕然とした。
 何度謝ろうと、何をして償っても、その悲しみが癒えないのも、解っている。

「ねえわかる? アタシの膣内で、アンタの肉棒がかき混ぜる液音が。
 ねえわかる? アンタの肉棒で、ガバガバになったアタシの膣内が。
 もうアタシ、他のどこかにいる素敵な男性に、恋なんてできないの。
 その人に、アタシの性遍歴とか悟られたら、一発でオシマイだもの。
 その人に、アンタに広げられたアタシの膣とか、見せられないもの。
 とっくに、アタシが誰かに恋する資格なんて、なくなっちゃったの!」

 いつも俺を犯す時に投げかけられる、妹の呪詛――俺の心を苛む言葉。
 同時に俺を縛りつけて、妹から離れられなくする、鉄の鎖の如き言葉。
 その言葉を、俺はいつも以上に、黙って全て聞きいれる。
 もういつもみたいに、逃げ出したいがために聞かないフリはしない。

24 愛憎表裏同体論 (10/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:29:39 ID:8HoXg1iW

「最悪、最悪、最っ悪! 最低、最低、最っ低!?
 あはは♪ どうしようもない人間ね。生きる価値さえないわ。
 でもアタシが――このアタシだけがアンタを生かしてあげる。
 アンタにズタボロに犯された、このアタシだけがしてあげる。
 生きているだけで害悪を撒き散らす、最低犯罪者としてね!」
 本当にごめんな、円。俺は確かに犯罪者だ。否定はできないし肯定もする。
 だけど――だからこそ、俺は今日沫雪と話して、考えて、決めたことがある。
 だからもう、そんな汚い言葉を紡いで、俺を罵らなくでもいいんだ。

「あれぇ? 馬鹿兄貴気づいてないの? もう縄はとっくに解いてあるんだよ?
 もういつでも、アタシから逃げられるんだよ? なんで逃げないの?
 なんでアタシを振り切って、兄妹同士はダメだって、逃げ出さないの?」
 それにももう気づいている。けれど抜け出せない。抜け出せるわけがない。

「あははは♪ そうだよねぇ!馬鹿兄貴はそんなこと、気にしないもんねぇ!?
 だってアタシをレイプしたんだもん♪ 実の妹を、肉便器扱いしたんだもん♪
 そりゃあ、良心の呵責なんてないよねぇ!? なんでもいいんだもんねぇ!?」
 違う。妹だから――円だからいいんだ。もう、言い訳なんかしない。
 沫雪の――唄方姉弟の2人みたいに、俺も兄妹で、流れ着くとこまで堕ちてやる!
 いや別に、あの2人がそこまでの関係なのかは、知らないけどさ!?

「違うぞ……、まどかっ……! 俺は、お前だから、いいんだっ……!?
 お前だから、こうするんだっ! お前のことを、肉便器なんて、思わないっ!」

 俺の言葉に、ほんの数瞬だけど動くのを止めて、俺の瞳を覗き込む円。
 けれど何かを確信したように、再び俺の腰の上で、身体を揺らし出す。
「あ…、あは…、あははは……♪ 嘘吐き。犯罪者の言葉なんて信じない。
 言い忘れてたけどさ――実はアタシね、今日は危険日なんだ♪
 このままだと、アンタの汚い犯罪者精子で、孕まされるのよ?
 ――最低の犯罪者の子供、できちゃったら、一体どうすんの?」

 その言葉と同時に、俺の身体に両脚を絡めて、離れまいとする円。
 対して俺はいつもとは逆に、自由になった腕を円の身体に絡める。
 そんなことしなくていいから。俺はお前を、拒絶したりしないから。
 ああ……、そんなことよりも、もうすぐ俺も限界――だっ!?

「きっ、来たああァァァッ!? 犯罪者の精子が膣内にぃ……!?
 あははっ♪ 孕ませられる? 馬鹿兄貴の子供、孕んじゃう!?」
「うあっ!? ま、まど……かっ……! 気持ちよ……すぎるっ!」
 我慢なんか一切せずに、円の膣内に向けて、精液を全て放出する。
 もう止まらない――止めるつもりもない。俺は覚悟を決めたんだ。
 その証として、射精し終わっても、ずっと円の身体を抱きしめる。
 いつもは行為後すぐに振り解く円の身体を、そのままにしてやる。

 そんな俺に対して、いつもよりやや易しめな呪詛を向ける円。 
「馬鹿兄貴。アンタに幸せなんか、許してなんてあげない。
 兄貴は、きずつけたアタシを放り出して、幸せになるの?
 そんなこと、絶対許さない。償いもさせない。
 苦しんで苦しんで、苦しみ抜きなさいよ……」

 いつもより激しかったせいか、そのまま眠るように全体重を預けてくる円。
「だから――そのために、ずっとアタシだけを見てなさいよ……」
 意識を失いかけた虚ろな瞳で、それでも俺に訴えかけ続けてくる円。
「だから――そのために、アタシのことだけを考えていてよ……」
 そう懇願するように囁く円を、俺は優しく抱きしめて、眠りについた。

「大丈夫だから。俺はこれからも、お前だけを見てるから。ごめんな、円……」
 完全に眠りにつく前に、円に対して、そんな言葉をかけたような気がする。


25 愛憎表裏同体論 (11/11) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/05/15(金) 23:32:01 ID:8HoXg1iW

 あのいつもとほんの少し違った狂宴の夜から、3日ほどが過ぎた。
 あの夜が明けて次の日から、なぜか円からの暴力を伴う干渉が減ってきた気がする。
 毎朝繰り返されていた、円からの蹴足つきの目覚ましもなく、2回は遅刻しかけた。
 というよりは、家族揃っての食事などの時間以外に、円は俺にからんでこなかった。

 初めは俺も、円が俺に干渉することを馬鹿馬鹿しく思ったのかと考えた。
 けれど別にそういうわけじゃないらしく、昨日の夜、急に円から『お願い』をされた。
 『悪いんだけど、明日の昼休みに、アタシに付き合ってちょうだい』と頼まれたのだ。
 それは否応なしに、どんな先約も無視して引き摺る円らしくない、可愛らしさだった。


 そして昼休み。昼食だけは待ってくれと円に頼んで、沫雪と一緒にパンを食べていた時のこと。
 教室の入口に円が来ていることを沫雪に指摘され、俺は慌てて円のところへ行くことにした。

「あ――しまった。すまねえ泡雪、今日は俺、もう行くわ。
 これ以上ボケっとしてると、アイツにどやされちまうから、さ……」
「ああ、そうなのか。それなら仕方ないか。じゃあ、また放課後に一緒に帰ろう。
 というか、もうちょっと円ちゃんを、大事にしてやんなよ?」
「うっせ。わかってるよそんなこたぁ……」

 なんというか、いつもなら待つより先に俺を引き摺っていく円が、待ってくれてたんだ。
 そのせいで、つい円のところに行くのが遅れたんだから、そう言わないでくれよ、沫雪。


「まったく……。約束を忘れたんじゃないかって、ヒヤヒヤしてたのよ?
 昼食くらいは待つって言ったけど、お喋りしてるなんて……」
「あ~そのさ、ゴメンな円。今日は沫雪のヤツが遅刻したもんだから、理由を――」
「はいはい、男なら言い訳はしないっ!」

 いつもどおりに、先を行く円の後を追いかけて、数歩後ろを歩く俺。
 ただそれだけなのも虚しいので、今日呼び出した用件を、円に訊ねてみた。
 すると、円はこちらを顔だけで振り向きながら、解答を返してきた。

「昨日アタシにさ、身の程知らずにも恋文を渡してきた、上級生のバカ男がいたの。
 当然アタシはこ・ん・な身体だから、ソイツの告白は断るつもりよ。興味ないし。
 でもさ、相手があの時の兄貴みたいに、襲いかかってこないとも限らないでしょ?
 だから兄貴に手伝ってもらって、ご退場願うつもりなの――手伝ってちょうだい?
 ついでにその後、学校をサボって、デートに連れてってもらいたいんだけれどね?」

 これまでみたいな強制ではなく、一通りは俺の意思を確認してから。
 そんな感じの、円の気遣いを感じたような気がして、正直驚いた。
 どうしてそんな風に態度を改めたのか、と聞こうとする俺に先んじて、円が言葉を紡ぐ。

「言っとくけど、アタシは別に、馬鹿兄貴を許すつもりなんて、一生ないのよ。
 けれど、兄貴がアタシにちゃんとついてくるなら、少しは優しくするつもり。
 いいこと? 絶対にアタシのことを、2度と裏切ったりなんかしないでよね?
 その時はアタシ、今度こそ兄貴を絶望に追い込んだ上で、道連れに殺してあげるから」


 物騒なことを言いながら、なぜか顔をそっぽ向けて、俺の数歩先を無言で歩いていく円。
 俺はなんとなく、そんな円に追いついて、自分の手を差し伸べてみた。
 円は少し驚いて、それでも俺の手を握って、肩の寄り添う位置にまで近づいてきてくれた。
 こうしてようやく俺は、円と肩を並べて手を繋いで、共に歩くことができるようになった。

――許されなくても、憎まれていても構わない。俺は俺の意思で、ずっと円についていこう。


                        ― There is the love in the backside of the hatred. ―

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最終更新:2009年05月18日 20:42
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