14 キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw sage 2009/07/28(火) 20:46:01 ID:+V3YdPHP
「慎二、ちょっと理香を呼んできてくれない?」
母さんが、申し訳なさそうな様子で頼んできた。俺は露骨に嫌な顔をして答える。
「えっ……? んー……あんまり行きたくないなあ……」
「だってあの子、私が行くと暴れるんですもの」母さんは憂鬱そうにため息をついた。「『私の部屋に入らないで! 入ってきったら手首切って死んでやる!』なんて言われたら、さすがに行けないわよ」
まあ、いつものことだししょうがないかと、俺は渋々承諾した。
本当にごめんね、という母さんの声を背中に受けつつ、俺は重い足取りで二階の
姉さんの部屋に向かう。
姉さんは、外出をしないのはもちろん、基本的に部屋から出てこない。風呂に入らず、排泄も部屋で済ませ、食事もドアの前に置かれたものを引き入れて食べるだけだ。俗に言う引きこもりである。
俺は姉さんの部屋の前につくと、ゆっくりと二回、ドアをノックした。
「姉さん、慎二だけど。開けるよ」
「ししし、慎二? ちょっとっ、ま、待って! ああ開けないで!」
姉さんの焦った声とともに何やらガサガサと音が聞こえるが、俺は無視してドアノブを回した。
ドアを開けた途端、強烈な臭いが鼻をつく。思わず鼻を抑えるが、これも毎度のことなので、我慢して部屋へと足を踏み入れる。
部屋の中は、相変わらずひどい有り様だった。床にはゴミが散乱し、ゴキブリが何匹か這い回っているのが見える。ベッドの白いシーツはあちこち汚れ、黄色い大きなシミもある。おそらく姉さんの小水だろう。
さらに部屋の隅に目を向けると、何かの入ったビニール袋が散らばっていた。ひどい臭いはここからしており、どうやら姉さんの便らしかった。
そんな中で姉さんはというと、鏡を持ちながら必死に手で髪をとかしている。どうやら俺に会うにあたって、髪だけでも整えようとしているらしい。だがもう一ヶ月以上も洗っていない髪はボサボサで、姉さんの必死な努力にも関わらず髪はまとまろうとはしなかった。
諦めたのか、それとも本人なりに満足いく髪型になったのか、姉さんはボサボサの髪のままでこちらを向き、挨拶をしてきた。
「しし、慎二、ひ、久し、ぶり」
いつも家にいながら久しぶりというというのも変だが、実際姉さんと顔を合わすのは実に二週間ぶりだった。
15 キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw sage 2009/07/28(火) 20:47:14 ID:+V3YdPHP
「久しぶり、姉さん」
そう言いながら、俺は姉さんの体を眺めた。その様子は、前にも増してひどい有り様だった。着ている服はヨレヨレで、あちこちにシミが見られる。
特に股間の辺りには、以前はなかった大きなシミが出来ている。どうやら排尿をするに当たって、ズボンを降ろすことさえ面倒くさくなったようだ。
さらに肌は荒れ、あちこちに吹き出物が出来ていた。頬はこけ、黒く見える。細長い腕を辿って指先を見ると、爪は伸び放題で凶器のようになっていた。その風貌には、かつて美人と評判だった頃の面影もない。
「ああ、しし、し、慎二、やっと、ああ会いに、来て、くくれた、のね」
姉さんは必死に言葉を吐きながら、手を前に出して覚束ない足取りでヨロヨロとこちらに歩いてきた。抱きつく気だ。俺は思わず避けてしまいそうになるが、そうするとパニックになって余計面倒くさいことになるのでぐっと我慢した。
だが臭いのきつい姉に抱きつかれることも躊躇われ、俺は近付いてくる姉の肩を掴んで止めた。
「ちょ、ちょっと、姉さん」
「なな、なあに? あ、ああ、私と、キ、キ、キスでもし、したいの?」
自分で言いながら、姉さんは頬をぽっと染めた。俺は唇が迫ってくる前に答える。
「いや、ごめん姉さん。そういうつもりで来たんじゃないんだ」
「あ……そ、そうなんだ……」
姉さんはしゅんと落ち込んで下を向いた。俺は少々気の毒に思いながらも、用件を伝える。
「今日はさ、用事があって来たんだ」
「よよ、用事?」
「うん。母さんが、ちょっと下に来て欲しいんだって」
姉が大きく目を見開いた。体を震わせ、ペタンと座り込んだ。
「かか、かかか母さんが? え、んん、いいいや、いや、い、いやあ!」
姉さんは頭を激しく左右に振り、泣き出してしまった。
怯えているのだ。母さんに、というよりも、俺以外の人間に。
16 キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw sage 2009/07/28(火) 20:48:24 ID:+V3YdPHP
姉さんがこんな風になってしまったのは、俺への好意が原因だった。
本人によると、小さい頃から俺のことが好きだったが、弟を愛するわけにもいかず、ずっと我慢し続けていたそうだ。いつかはこの思いも静まるだろうと考えていたのだが、同じ屋根の下で暮らしていると弟への思いは募るばかりだった。
そしてついに高校を卒業した頃、蓄積された思いが最悪の形で爆発した。慎二のことが好きだと泣き叫び、俺は危うく逆レイプされそうにもなった。親と協力してその場は何とか収められたが、その際に親に、そして俺にまでその思いを否定され、心を病んでしまったのだ。
弟を愛することがタブーであるにせよ、もっと早く思いを誰かに打ち明けていればこんなことにはならなかったかもしれない。姉さんの強い倫理意識が自らをきつく縛り、悲劇をもたらしてしまったのだ。
俺は泣きじゃくる姉さんを、下までどうやって連れていこうかと考える。話し合っても無駄なことはわかっているので、俺はとりあえず姉さんの腕をとって引っ張ってみた。だが姉さんはがんとして動こうとせず、余計激しく泣き出してしまった。
自然と、ため息が漏れる。
「はあ……姉さん……」
「ひっぐ、ひっぐ、行きたくない……うぅ、行きたくないよおおぉ、ひっぐ」
「……行きたくないって、どうしてさ? 母さんと会うだけだろう?」
「怖いの、ひっぐ、怖いのぉぉ! ううぅ」
俺はどうしたものかと考えて、姉さんの頭をぽんっと叩いて撫でてみた。
「姉さん……怖くない。怖くないよ」
「うぅ……慎二……ひっぐ……」
「俺も一緒に行ってあげるからさ。さあ、立って」
そう言って俺が手を差し出すと、姉さんは俺の差し出した手をじっと見つめたあと、手をとってヨロヨロと立ち上がった。どうやらうまくいったようだ。
「一緒に……ひっぐ……慎二……うぅ」
長い引きこもり生活で足の弱った姉さんを支えつつ、俺は姉さんと廊下に出た。漂ってくるきつい臭いに顔が歪むし、正直気持ち悪いが、我慢するしかない。
階段を降りる途中、姉さんの様子を伺いながら言ってみた。
「部屋さ、綺麗にしないと駄目だよ。それに小便とかもさ、姉さん、女の子なんだから。ちゃんとトイレに行ってしないと」
「だ、だって……うぅっ……し、し、慎二のこと、考えると……ぼ、ぼうっと、ししちゃって……なな何も、手に、つつつつかなくて……」
17 キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw sage 2009/07/28(火) 20:50:23 ID:+V3YdPHP
「……不衛生な人は、嫌いだよ」
俺がそう言った途端、姉さんの目にまた大粒の涙が溜まり始めた。しまった、そう思った俺はあわててフォローする。
「で、でも姉さんがちゃんと綺麗にするなら、好きになるかもしれない」
その言葉に、姉さんがじっと俺の顔を見つめてくる。
「お部屋、き、綺麗にしたら……すすす、す、好きに、なってくれるの?」
「う、うん……かも、ね」
「私……し、慎二のためなら……お部屋、綺麗にする」
俺は、ほっと安心する。
だが実は前にも同じようなことを言っていて、それで今の有り様なので、正直あまり期待していない。
リビングに入ると、既に母さんがテーブルに座って待っていた。二階から泣き声が聞こえたときから待っていたのだろう。
その向かいに姉さんを座らせ、俺も隣に座る。さっきのように激しくはないが、また泣き出してしまったので背中をさすってやった。
母さんがゆっくりと口を開いた。
「理香……」
「かか、母さん……うぅ……ひっぐ」
「今日はね、今後のことについて話し合おうと思って呼んだの」
「こん、ご……? ……ひっぐ」
「そう。昨日、お父さんと話しあったんだけどね。理香ももう二十歳でしょ? いつまでも引きこもってるわけにはいかないんじゃないかな、って。
ちょっとずつ、最初は家の中だけでもいいから、外に出るように頑張ってみない? 私たちも……もちろん慎二も、協力するから、ね?」
激しく泣き出そうとする理香を見て、慌てて『慎二も』と付け足したようだった。まあ、姉さんが引きこもりを脱出するためならもちろん俺も協力する。
「私は……私は……」理香が何かモゴモゴと言っている。「わわ、わたしは、慎二が、私を、すす、すきに……なって、くくくれるまで……おお部屋で、ま、ま……待ってるの」
いつもの言葉だった。このままじゃ何も進展しないので、俺も姉さんのために言ってみる。
「姉さん、俺も昔みたいにちゃんと部屋から出て、普通に生活したほうがいいと思うよ」
「……そ、そ、そう? そしたら、す、すきに、なってくれる?」
本心ではないが、先程と同じように俺が曖昧に肯定の返事を返そうとしたところで、母さんが先に口を開いた。
「理香」
「ひっ……! は、は、はい」
18 キモすぎる姉 ◆YMBoSzu9pw sage 2009/07/28(火) 20:51:40 ID:+V3YdPHP
「あのね、そうやっていつまでも慎二への思いを引きずるのはやめなさい? あなたたちは、姉弟なんだからね」
「で、でも、わ、わ、わた、わたしは、慎二を、し、慎二を……うぅ……ううっ! 慎二ぃ、慎二ぃぃぃ!!」
母さんのきつい言葉に、姉さんはまたわんわんと大声で泣き出してしまった。
とにかくまず姉さんを立ち直らせることを優先させる自分に対して、母さんは姉さんの俺への思いを断ち切ることを優先していた。それこそが姉さんの問題の大元なのだから、それをどうにかするのが第一だと考えているのだ。
心を病んでしまったのはそれを否定したことが原因なのだから、とりあえずまずはその思いを認めてあげることが一番大事だと俺は考えるのだけれど。まあ、思いを受け入れる気はないけど。
なかなか泣き止まない姉さんに、母さんも俺も困ってしまった。しょうがなく、俺は姉さんの頭を胸の辺りに抱き寄せる。姉さんがうっうっと声をあげる。
俺は母さんのほうを向くと、少し強い口調で非難した。
「母さん。そんなこと言ったって、いきなりは無理だよ。今、姉さんは肉体的にも精神的にもすごく衰弱してる状態なんだから。少しずつ、少しずつ、頑張っていかないと」
「……そうね、今のは母さんも少し言い過ぎたわ」
そうして俺は何度もゆっくりと姉さんの頭を撫でていると、次第に泣き声が収まってきた。
「ひっぐ……うう……」
「姉さん……落ち着いて。ほら、母さんもちょっと言い過ぎただけだって」
「慎二……ひっぐ……慎二……うう……落ち着く……し、慎二の、腕の中……落ち着く……」
そう言うと、姉さんは頭を俺の胸にもたれかけさせて目を瞑った。まるで小さい子供のようだ。
気持ち悪い姉さんだけど、こういうときはかわいいな。そんなことを考えていると、下のほうからピチャピチャと音がしだした。
いったい何かと思って下を向くと、床に黄色い液体がポタポタと垂れていた。姉さんが小便を漏らしている。
「ね、姉さん!」
俺の驚いた声に、姉さんがビクリと体を竦めた。尿の放出がピタリと止まる。
「ん、な、なに? 慎二、ど、どうしたの?」
「どうしたのって! お、おしっこ、漏らしてるじゃないか!」
「あ、ご、ごめん……なさい……しし、慎二に、だ、だ、抱かれて、あ、安心、しししたら、つ、つい」
……前言撤回、やっぱり姉さんは気持ち悪い。
「し、慎二! きき嫌いにならないでぇ! 慎二ぃぃ!!」
最終更新:2009年08月02日 22:46