いつかのソラ 第2話

255 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 00:58:37 ID:/vgNVV8D
〈7〉

「あれ? お兄ちゃ~ん。起きてますか~?」

 自称、未来から来た紗那こと宙が目の前で手をヒラヒラ振る。
 残念ながら俺の貧弱な情報処理回路はシャットダウン中で、外部情報を受け付けない状態。
 多分、俺の顔面には余裕のない笑顔が張り付いてる。
「いやいや、ありえねぇし」
 引きつった顔で笑いながら、口では理論を唱える。
 未来から妹がやってくるなんて漫画だ。
 『じつは悪戯でした!! 引っかかったわね!!』なんて言われた方がまだ現実味がある。
 それでも、感情は理解している。
 紗那は、俺が育てたようなものだ。
 癖や仕草は把握している。
 それに宙には紗那の面影が強烈にある。
 メガネと髪型で偽装されていたものの、よく見れば生き写しのようにそっくり。
 それが宙に抱いていた違和感の正体。
 なるほど。納得。しっくりくる。
 宙が紗那ならば驚くほど綺麗に解決する。深夜通販の洗剤もびっくりなほど綺麗にだ。
 さりとて、それだけでは受け入れられないのも人間。
 意図せぬ方向からの衝撃を受けると混乱して揺らいでしまうのも人間。
 先程から脳内臨時総会は絶賛紛糾中。
 理性と感情がせめぎ合い、既に脳内はパンク状態。
 認めてるくせに受け入れられない、そんな収拾のつかない事態。

 ど、どうしよう。

 情けない本音が思考を駆け巡る。
 そして、いよいよ耐え切れなくなった俺は……
「あっ、そろそろ夕飯の支度を……」
「ちょっと、お兄ちゃん!! 現実逃避してる場合じゃないんだってば!!」
 うわぁ、何かさっきから宙に『お兄ちゃん』って言われてるよ俺。
 それに宙はなんか呼びなれてる。
 照れとか全然感じさせないくらいには呼びなれてる。
 よく聞いてみると紗那に声までよく似てる。
「あのさ……一時間だけ盛大に凹んでもいいかな?」
 腕の中の紗那に問いかけ見ても、返事はない。
 まるで、眠っているかのような安らかな表情。
「だから……そっちの私は寝てるんだってば!! 早く帰ってきてよ、お兄ちゃん!!」


 十分後。


「少しは落ち着いた?」
「まあ、それなりには……」
 途中、胸倉を掴まれてガクガクされたり、両頬をペシペシされたり、
 シャーペンの先でプスプスされたり、辞書の角でゴスゴスされたような気がしないでもないが、
 その甲斐もあって何とか精神的引きこもり状態からは脱したと思う。
 多少、首から上が馬鹿になってる気がしないでもないが……。


256 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 00:59:15 ID:/vgNVV8D
「話を進めても大丈夫?」
「あまりパンチの効いた話でないなら大丈夫」
「いや、それ無理だから」
 はぁ、と溜め息を一つ。
 宙は疲れた表情を見せる。
「まず、私は紗那。それは大丈夫?」
「だいじょばねぇよ」

「………」
「………」

 こう、何とも言えない気まずい沈黙。
 そしてひどく残念そうな宙の表情。それが記憶にあるの紗那の泣きそうな表情と重なる。
「と、言いたい所だけど……まぁ、話も進みそうにないから保留しとく」
「……保留なんだ」
 ものすごい落ち込んでる感を臭わせる表情。
 それが記憶の中の紗那のシュンと萎んだ表情と重なる。
「……前向きに検討する」
 それでも、確証が無い。
 『何か証拠を見せてくれ』と言えば、宙は納得できるものを提示をしてくれるかもしれない。
 宙が紗那だという証明を。
 でも、本音を言えば俺はあまり聞きたくない。

 恐いんだ。

 宙が紗那だと受け入れてしまうのが。
 その理由の根ざす所は―――よくわからない。

 昨日までの常識を失う恐れ?
 友人に騙されているかもしれない恐れ?
 目の前のわけのわからないものに対する恐れ?

 どれも的外れな気がする。

 宙は不満そうな顔つきで口を尖らせるものの、
 これ以上は意味が無いと思ったのか瞬時に表情を切り替える。


257 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:00:03 ID:/vgNVV8D
「ま、いいか。時間も無いし、まったく信じてないわけでもないみたいだし」
 先程までの表情が演技だったと気付かされる瞬間。
 女性ってズルイなと思ってしまう。
 同時に宙が紗那だって信じたくなくなってくる。
 兄の欲目もあるが俺の知ってる紗那はこんな小細工はしない。真っ直ぐに育ってくれているはずだ。
「準備して。いったんここから離れないと」
 宙はソファに寝かせておいた紗那を抱えると、俺の背中に押し付ける。
「何でだよ? 俺はまだ何も聞いてない」
 宙が紗那に何をしたのか?
 宙の言う荷物がなんなのか?
 大体、鍵だって作ろうと思えば作れる。
 体育の時間には鍵が俺の手から離れる。その間に合鍵を作ってしまえばいい。
 宙が紗那であるよりもよほど現実的な考え方だ。
「説明は後。今は時間が無いの」
 対する宙も真剣な表情で詰め寄ってくる。
「いい? 自覚していないかもしれないけど、今お兄ちゃんは大きな分岐の上に立ってるの。
 ここで間違えたら一生後悔する事になる。お兄ちゃんだけじゃない、私だって苦しむ事になる。
 だから……今は私を信じて。
 一ヶ月間いっしょに過ごした私を信じてよ。今は、宙でも……かまわないから」
 真摯な願い。
 少なくとも俺にはそう聞こえた。
 他人から見れば、お人好しと馬鹿にされるかもしれない。
 宙が役者である事は先程証明されている。

「で、俺は何すればいい」

 結局、俺は馬鹿なのだ。
 あまり頭の良いほうでもない。
 『宙でもかまわない』と言うから、宙を信じた。

「二、三日泊まる準備をお願い。私はちっちゃい私の準備をしてくるから」
 そう指示する宙は心なしか嬉しそうな表情だった。



258 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:00:33 ID:/vgNVV8D
〈8〉

 準備を終えて家を出ると景色はもう夜になっていた。
 ちらほらと彩り始める家々の明かり。
 窓の隙間から薄っすらと香り立つ夕食の匂い。
 いわゆる家族の団欒を横目に俺たち三人は緩やかな坂を登ってゆく。
「結局、『荷物』ってお泊りセットのことだったのか?」
 俺と紗那、二人分の荷物。
 別段重いわけではないが、背中に紗那をおんぶしながらだとなかなか身動きが取りづらい。
「それも含まれてない事も無いけど、不正解。
 二人にはこれから家で泊まってもらう事になるんだけど、
 不測の事態に備えて必要最低限のものはこっちで用意してあるの。ってゆうか、その時いっしょにいたでしょ」
 確かに今日運んだ荷物の中には、日用品も多く入っていた。
 タオルや歯ブラシ。男物の下着。
 まさか自分で使う事になるとは思ってもみなかったので適当な事を言って適当に選んでいた。
 別段こだわりがあるわけでもないが、もう少し真面目に選んでも良かったかもしれない。
 いや、待て。
 よくよく考えると制服の女子に男物の下着を買わせている、同年代の男子。
 店員や奥様方にはどう映っていたのだろう。
 それに宙の家に泊まる? ってことは同伴登校?
 それはそれでいろいろとまずいんじゃ……
 でも、もしかしたら兄妹かもしれないわけだし……
「思い出した?」
「え、ああ……」
「何? その気の抜けた返事は」
「いや、ちょっとな」
 別の心配してました。なんて、おくびにも出せない。
「でも、ほかに持ってきたものなんて無いだろ」
「あるよ」
 俺の両手は塞がってる。宙は紗那の着替えを持ってる。
 肩から下げたスポーツバックにも着替えと教科書が入ってるだけ。
 荷物はこれで全部。
 後は……
「『私』が『荷物』なの。あそこに居られると後々いろいろと不都合があるから」
 背中に体重を預けたままの紗那に宙は暖かい眼差しを送る。
 それはまるで姉が妹を見守るような優しい眼差しと昔を懐かしむような深い羨望の感情。
「で、家のお姫様は何時になったら目覚めるんだ?」
「いやん、お姫様なんて恥ずかしい。もっと言って!!」
 お前じゃねえ。
 くねくねと身体をよじらせる宙に叩きつけてやりたくなる。
 でも、お前かもしれないから反論もできない。
 中途半端に認めるってのもなかなかに不便だ。


259 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:01:13 ID:/vgNVV8D
「お姫様は王子様のキスで目覚めるんだよ」
 ここぞとばかりに宙が耳元で囁く。
「ちなみに私の王子様は、お・に・い・ちゃ・ん」

 ピシッ!

「あうっ!!」
 デコピン一閃。
 宙の額をやや強めに弾く。
「調子にのんな」
 まったく、俺をからかって何が面白いんだか。
 片手で支えていた紗那を抱えなおすと、宙は両手で額を押さえながらそっぽを向いて口を尖らせる。
「……冗談じゃないのに」
 呟くような小さな独り言。
 はっきり言って何が言いたいのか聞こえやしない。
「何だよ、言いたい事があるなら……」
「別に、あ・り・ま・せ・ん!!」
 いぃ~~~、と歯をむき出しにしてから、宙はこちらに向き直る。
「この娘は、私が“帰る”時に目覚めるようにしてある。
 同じ時間軸上で同じ人間が近くに居ると悪影響が出るから、私の用事が済むまではしばらく眠ってもらったまま」
「どんな悪影響が出るんだ?」
「え~っと……」
 宙は脳内を探るように上を見上げて、首を軽く捻る。
 どうやらめんどくさい類の説明らしい。
「まず、未来は現在を基点として成り立ってるの。今、この瞬間が未来を支える土台。
 だから今の紗那の意志や行動は未来の紗那……つまり私に影響力を与えてしまう。
 私はここでの紗那よりも存在的に弱いから、今の紗那の思考や行動で私の在り方が変わってしまう。
 だから私はこの一ヶ月できるだけ紗那に接触しないようにしてきたの」
 丁寧に言葉を選びながら説明をしてくれる宙。
 でも、ゴメン。
 説明を求めたのはこちらだが、言っている意味がさっぱりわからない。
 そのことについては宙も感じ取っているらしく、頭を悩ませる。
「要するに、今の紗那が未来の紗那である私を見てしまったらどう感じると思う?」
「私はこんな風になるはずじゃなかった!! って嘆くだろうな」
 心のままにそう答える。
「……少々、いや多々引っかかる所があるけど……まあ、いいわ」
 平静を装ってはいるが、口元が引きつっている。
 あれは絶対、心の中では中指を立てている。


260 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:01:58 ID:/vgNVV8D
「自分の未来の姿って言うのは、絶対的な未来への指針になってしまうの。
 紗那が今の私を見てどう思うかはわからないけど、いつかそうなる自分に対して明確なイメージを持ってしまう。
 そうすると人間はそれに向かって努力したり、反発して自身を歪めようとする。
 決して、同じにはなろうとしない。同じではいられない。そうすると……今度は私が私じゃなくなってしまう」
「私が私じゃなくなるって……」
「私の器が矛盾に耐え切れなくなる。私は私ではいられなくなる。
 記憶の改ざん、精神の書き換え、肉体の変質、矛盾を補完するためにあらゆる崩壊と再生を繰り返し、その苦痛の果てに……消滅する。
 まぁ、ゆらぎ程度ならば影響はほとんどないだろうけどね」
 鼓膜を通過してゆく冗談のような話。
 だけど、宙は大真面目に語り続ける。
「想像してみて、お兄ちゃんの前にサッカー選手じゃない未来の自分が現れたらどうする?
 そう簡単に夢を捨てられる? 運命を受け入れて絶望しないでいられる?」
 そんなの……
「多分……無理だ」
 それは一瞬にして、理不尽に夢を潰される行為。
 積み重ねてきた歴史など関係なく、描いてきた夢さえ塗りつぶされ、ただ絶望的な結果を突きつけられるだけ。
 そんなものは認められない。
「そう。そしてお兄ちゃんは何らかの行動を起こし、その綻びから未来は変わってしまう。
 それは本来の未来の在るべき姿の死を意味するの。
 だから私は紗那を眠らせた。せめて目的を果たすまでは、私が私でいるために」
 いつの間にか宙の表情は硬くなっていた。
 冗談と呼べる言葉は一つもなく、その瞳には決意が滲んで見える。

「なぁ、そんな危ない橋渡ってまでして、いったい何しに来たんだ」

 投げかけられた問いに宙は笑顔で応じる。
「ヤダ。教えてあげない」
 満面の笑顔。
 まるで悪戯が成功した時みたいな性質の悪い笑顔。


261 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:02:37 ID:/vgNVV8D
「……なにそれ?」
 なんか、真面目な雰囲気がぶち壊しだ。
「要するに喋れないって事」
「喋れないって、何か理由があるのか?」
「ううん、喋りたくないだけ。でも、未来からやってくる理由なんて普通一つしかないでしょ」
 そう言われて思いつくのは確かに一つしかない。
「過去をやり直すため」
「そう。そして、未来を変えるため」
 口調は軽いが相変らず表情は硬い。
 もうこれ以上突っ込んだ所で宙は何も語らないだろう。
 ならば、もうちょっと軽いやつをぶつけてみる。

「じゃあ、未来の俺はどうなってるんだ?」

 何気ない質問にビクリと大きな反応を見せて宙は立ち止まる。
「今までの話を聞いてなかったでしょ。未来を知る事は危険なの。
 それに……そんなの知っても意味無いよ。もう、お兄ちゃんの未来は変わってるんだから」
 それ以上は話さない。
 不機嫌にも聞こえる重い声に乗って、宙の意思がこちらに伝わってくる。
「行こ。私、お腹減ってきちゃった」
 もう視界に入っているあの高級マンションに向かって宙は歩を進める。
 まったく、荒唐無稽な話ばかりだ。
 宙の語る言葉には現実味を感じない。
 結局、何一つ納得のいく説明さえ貰っていないまま。
「どうしたの? お兄ちゃん」
 それでも―――それを語る宙の表情はいつもひたむきで必死に何かを訴えていた。

「……いや、何でもない」

 もしも。
 もしも、宙が紗那だとしたら。
 未来の俺はどれだけ不甲斐ない奴なんだろう。
 宙は何も語ろうとしないけれど、未来の俺はきっと紗那を助けてやる事が出来なかった。
 でなければ、過去をやり直したいなんて口にするはずが無い。
 そして、宙がこの時間にいるということは……

 その時はそんなに遠くないのかもしれない。



262 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:03:06 ID:/vgNVV8D
〈9〉

「どうだった? 私の手料理」

 目の前でもう勝ちを確信している宙はテーブルに肘をついてニヤニヤと笑っている。
 それもそのはず、俺の目の前に置かれている食器は綺麗に平らげられている。
 結果は火を見るより明らかだ。
「ごちそうさま」
 宙は間違いなく俺の好みや嗜好を知っていて今晩の夕飯を作ってくれている。
 好物である唐揚げの味付けは唐辛子と生姜を効かせた醤油味。
 自家製のポテトサラダはマヨネーズを控え、隠し味にカレー粉を加えてあっさりめの味付け。
 葱と豆腐の味噌汁に至っては使っている味噌からして家のものと同じ。

 『これで少しは信じてくれた?』

 あのしたり顔の裏にはそんな期待があるのかもしれない。
 どれもこれも知っている、懐かしくも優しい味。
 そんな手間隙かけた食事にケチを付けるのは相手が宙であっても失礼な気がした。
「おいしかった」
 素直にそう伝えると、ニヤニヤはニコニコに変わる。
「お粗末さまでした」
 多分、今まで見た中で飛びっきりの笑顔。
 そんなに嬉しそうな顔されるのもなんだか気恥ずかしい。
「これ、姉さんに教わったのか?」
「……自分で教えたんでしょ。知らないだろうけどさ」
 そっけない返事。
 先程までの笑顔は何処へやら……そんなにマズイ質問だったのだろうか?
「片付け、手伝おうか?」
「ううん。私がやっとくからいい。
 それよりも、後でちゃんと二人に電話しておいてね。今日は泊まるって」
「二人って、親父とお袋か?」
「そう。あの引き篭もり達のこと」
「お前、そんな言い方……」
「元々お飾りみたいな両親だったでしょ。
 居て欲しい時には居てくれない。居ても私たちの欲しいものに気付いてくれない。
 本当に私達を見ていたのかさえ疑わしい」
 その言葉に胸が深く抉られる。
 生々しい現実と未来を突きつけられたかのような衝撃と不快感。
 宙は知っている。
 両親がどういう人間なのか。


263 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:03:49 ID:/vgNVV8D

『どうしておとーさんとおかーさんはかえってこないの?』

 まだ何も知らない妹の純粋な問いかけに、俺は何も答えてやる事ができなかった。
 悔しかった。
 どんなに面倒を見て、世話をしてやっても紗那に必要なのは兄ではなく親だった。
 兄弟では駄目なんだ。親でなければ。
 それなのに両親は幼い娘を置き去りにして、家にはあまり寄り付かない。
 俺や姉さんの頃はまだマシだった。他に世話をする人間はいなかったから。
 でも、紗那は違った。
 紗那の面倒を俺や姉さんが見ることができると知ると、
 二人は紗那を押し付けてさっさと会社の研究室に篭るようになる。
 子育てよりも二人には仕事の方が楽しかった。
 そして二人は夢を追う生き方を選んだ。
 紗那はその生き方の被害者。
 まだ幼い紗那にそれを打ち明けられるほど、俺は冷酷でも非情でもなかった。
 その事で紗那の笑顔が奪われることにも耐えられなかった。
 だから、俺は二人の代わりに紗那に精一杯の愛情を注いでいる。
 それには俺個人の意地もある。
 この幼い妹に両親が居なかったから不幸だったなんて思わせたくなかった。

「嫌でも電話だけは忘れないで。
 警察に通報されたりしたら面倒だし、今はお姉ちゃんとは話したくないでしょ」

 宙の言葉には感情が無い。
 憤りも悲しみも無く、すでに両親をそういうものだと受け入れてしまっている。
 だから当たり前の様にそういう言葉が出るというのは―――結果的には両親の愛情には恵まれなかった。
 そういうことなのかもしれない。

「ところで……それは何だ?」

 食器を片付け、台所から戻ってきた宙の両手には銀色の缶が二本握られていた。
「炭酸入り麦ジュース」
「いや、さすがに騙されないっすよ」
 皮肉もどこ吹く風で椅子にどっかり腰掛けると、宙は一本を俺の目の前に置いた。
「……私は今、飲みたい気分なの」
「飲みたいって、未成年だろう」
 たぶんだけれど、というか宙は何歳なんだろう。
 同じくらいの年齢に違いないだろうが、もしかしたら……もしかするのかもしれない。
「大丈夫。未来では××才からOKなんだから」
「うそつけ。百歩譲って未来でOKだとしても、今はNGなんだよ」
 手を伸ばし缶を奪い取ろうとするも、指先が触れる寸前にひょいと避けられてしまう。
「もう、うるさいなぁ~。この家では私が法律」
 そう言われてしまうと反論できない。
 そう、主は彼女で居候が俺。俺が兄貴で彼女は妹なのに……


264 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:04:24 ID:/vgNVV8D
「ほらほら、固い事は言いっこなしだよ。私ってば強いんだから、覚悟してね!!」
 プシッ!!
 と、ガスの抜ける音が二度。
 半ば強引に受け取らされた缶はキンキンに冷えていた。
「乾杯!!」
 ゴクゴクと小気味の良い音を立てて、黄金色の液体が宙の喉に吸い込まれてゆく。
 それと共に紗那のイメージが音を立てて崩壊してゆく。
 俺は何時ごろから紗那の育て方を間違えたのだろう。未来の俺に小一時間……
 いや、やはり宙は紗那のそっくりさんだ。そう信じたほうが精神衛生上よろしい。
「乾杯!!」
 一口目から一気にあおった。

 五分後。


「お兄ちゃんには失望しました」
 目の据わってる宙がくだを巻く。
 宙の言う『強い』というのは350mlが限界らしい。
「現実って言うのも残酷だよね。
 子供の頃の私から見たお兄ちゃんってもっと大人っぽくて、落ち着いてるように見えたのに……幻滅」
 幻滅。
 未来の妹らしき顔にそう言われると結構凹む。
「なんかさ、学校では少年みたいな顔して笑ったりするんだもん。なにそれって感じ。
 私の前じゃそんな顔、一度もしなかったくせに。それじゃあガキな同年代の男子と変わらないじゃん………お兄ちゃんて、ズルイよね」
 昔の宙、今の紗那から見れば俺はスーパーマンだったのかもしれない。
 自分にできないことができて、いろいろな事を知っていて、いつも弱みを見せない。
 子供が大人を見る眼差し。
 それはただ経験量の違いだけで、同じ目線に立てば見えていなかったものが見えてくる。
 停滞した相手に実年齢が追いつくなんて珍事に宙は戸惑っているのだろう。
 スーパーマンも見栄やつよがりでツギハギされた、ただの張りぼてだった。
 それが現実。
 でも、どうして最後に突然ズルイ奴呼ばわりされるのかは意味がわかりません。
「そっちだって、未来から来たくせに普通の女の子なんだからおあいこだろ」
「ふつぅの……女の子……」
 酔いが回っているのかほわっとした表情を一瞬浮かべて、すぐに振り払う。
「は!! やっぱりズルイ。本当は全部わかってやってるんでしょ?
 そうやってわかってて期待させるようなこと言って、その反応を見て楽しんでるんでしょ?
 顔に似合わずドSだよね。鬼畜だね、鬼畜お兄ちゃん。自分の兄がこんな異常性癖の持ち主だなんて知らなかった!!」
 気が付けば俺はドSで鬼畜の異常性癖者にまで成り下がっている。
 凄まじい転落っぷりだ。
「純情な妹を弄んでさ!! こっちの気持ちも察しろつぅ~の!!」
 そんなことした覚えは無い。もちろん紗那にもだ。
 それに察しようにも何の話を進めているのかさえわかっていない。


265 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:04:56 ID:/vgNVV8D
「なぁ、もうそろそろ……」
「なに言ってんのよ!! お兄ちゃん全然ペースが上がってないらない!!」
 とうとう呂律まで怪しくなってきた。
「もうお開きだ」
「やだやだやだ。もっとの飲むぅ~」
 そして幼児退行。
 典型的な悪酔いだ。
「ほら、肩貸してやるから寝室に行くぞ」
「何? 押し倒すの?」
 何で嬉しそうな声なんだよ。
「アホ。妹かもしれない奴を押し倒してどうするんだよ」
 肩を貸そうと腕を取ると宙は器用に腕から背中へと這ってゆき、背後から首に腕を回してそのまま宙が体重を預けてくる。
 口から飛び出そうとする文句は……背中に当たるふくらみで打ち消される。
 一瞬だけ、さっきの冗談が洒落にならなくなると思った。
 いくら兄貴だからって無防備だろう。
「はぁ。私、こっちに来てほんの少しだけお姉ちゃんの気持ちがわかったような気がする」
 しなだれかかった宙がため息を漏らす。
 頬をくすぐるアルコールの匂いで頭が少しクラクラした。
「大体、なんで私がこんな思いしなきゃならなひんだろ……馬鹿みたい」
 相変わらず支離滅裂な事を口走りながら、おぶれと言わんばかりに背中にしがみつく。
「でも、この背中……懐かしいな……」
 しょうがなくおんぶしてやると満足したのか、間を置かずにすぅすぅと寝息を立てる。
 勝手な奴だ。
 勝手に連れ回して、勝手に兄と呼び、勝手に酔って、勝手に寝る。
 それも随所に意味不明な単語と思わせぶりな態度を織り交ぜるもんだから性質が悪い。
 夕方に背負ってきた紗那よりもいくぶんか重い身体。
 女性らしい柔らかい感触。
 酒で理性が弱まっている為か邪な感情が首をもたげる。
「まったく、育ちすぎなんだよ……」
 口から出るのは意味不明な愚痴。
 宙はどちらかといえばスレンダーな体型で俺が言いたいのは紗那と比べてほんの少し重くなったり柔らかくなったり……
 って、誰に言い訳してるんだ俺は。
 緩んだ理性の手綱を手繰り寄せながら宙を寝室まで連れて行くと、ベットが一つに布団が二つ用意されている。
 いわゆる『川』の字。
 ベットに寝かされている紗那の横に宙を寝かしつけて、その隣の布団一式を抱える。
「ほんとに無防備すぎ」
 捨て台詞を置いて寝室を後にする。
 その途中、宙が寝ていることを確認して、

「―――お前は、本当に紗那なのか?」

 答えられない相手に一番聞きたい、聞くのが怖い質問をする卑怯者がいる。
 そして返ってこない返事に安心する臆病者もいた。
 逃げるように部屋を出ると、使われていない部屋に布団を放り投げて倒れるように身を任せる。
「もう、そんなに疑ってないくせに」
 いったい何を期待して、何をしたかったのだろう。
 幸いなことに考え始める前には意識が落ちていた。



266 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:05:33 ID:/vgNVV8D
〈10〉

 深夜二時半。
 時計的な意味では翌日ではあるが、俺にとっての今日はまだ終わっていなかった。
 全身にまとわりつく妙な寝苦しさ。
 違和感に気づいて目覚めると、宙が同じ布団の中で身を寄せてこちらを見ていた。
 寝ぼけ眼が捉えた宙はニコリと微笑んでいる。

「懐かしいね」

「う、うおぉぉぉ!! な、何やってんだおまえ!!」
 余程の間抜け面を晒したのかコロコロと宙は笑う。
「ほら、昔はよくこうやって布団に潜り込んでたでしょ」
 昔。
 宙は昔と言うが、今でも紗那はこんな感じで布団に潜り込んでくることがある。
 悪夢を見たとき、不安になったとき、寂しくなったとき。
 紗那は独りが耐えられないときによくこうやって布団の中に潜り込んできた。
 とはいえ、今のこの状況はまずい。
 咄嗟に身を離そうとするも、力強くしがみつかれて動けない。
 全力をもって俺を押さえつけ、まっすぐに見つめてくる宙の表情は必死なものだった。
「今日は信じてくれてありがとう。本当は全然信じてもらえないと思ってた」
 感謝というよりは独白のような口調。
 俺は目を逸らしてしまう。
 あまり長く見詰めていられると、心の中を見透かされそうだったから。
「だからお礼に今までのこと、私の過去のことをほんの少しだけ教えてあげる」
 そう言って、宙は俺への拘束を少し緩める。
 それでも俺は宙から逃れられない。
 宙の華奢な腕よりも強く、宙の過去への興味と自身の未来への関心が俺の身体を縛り付けていた。
「今の所、私達は前回……私の過去とほぼ同じ道筋を辿ってる。同じ舞台、同じ台本。だけど―――役者が違う」
「どういう意味だ?」
「場面ごとの内容は同じ、だけどそれを演じている人物が別という意味。私達が初めて会ったときの事を覚えてる?」
「エロオヤジに絡まれてたやつだっけ?」
 帰り際に同じ学校の制服が変なオヤジに宙が言い寄られていたので、仲裁に入ってお引取り願った事がある。
 その時に絡まれていたのが転校して来たばかりの宙だった。
「そう。ホントはね、あれは別の人が巻き込まれていてお兄ちゃんはその人を助けるの。
 そしてお兄ちゃんとその人はそれがきっかけで仲を深めてゆき、付き合いを始める」
「付き合いを始めるって……」

「恋人同士になる」

 端的に宙は事実を突きつける。
 でも、まるで他人事。想像さえおぼつかない。


267 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:06:03 ID:/vgNVV8D
「だけど私はお兄ちゃんに近付くためにその人と入れ替わった。
 その結果、宙は恋人にはなれなくてもお兄ちゃんのかなり近い位置に立つことができた」
 宙はいったん話を区切ると、そのまま俯く。
「……ごめんね。
 謝って許される事じゃないのはわかってる。でも、私の目的のためには必要な事だった」
 宙は表情を隠していて、そこにある感情を読み取る事はできない。
 俺にわかっているのは、宙は何らかの目的のために俺の過去を変えた。
 それも、宙自身の身勝手のために。
 だからといってそれを悔いているわけでもない。
 それが良くない事だとわかっていて、それでも変えられずにはいられなかった事をすまないと謝っている。
「起こってもいない事を謝られても困る」
 本音として残念だとは思う。
 顔も知らない女性なのか、はたまたすぐそばにいる女性なのかは興味がある。
 だけど―――宙との出会いは俺にとってマイナスではない。
 宙と俺は気の合う友人で、実は兄妹かもしれなくて……何よりも二人でバカをやってる時は楽しかった。
 今だって有り得ない状況だけど、きっと楽しいんだ。
「正直、悲しくも辛くもないし……とにかく実感が湧かない」
 知らないことを謝られてもピンとこない。
 俺にとっては人違いと同じことだった。
 だから、この件に関しては宙の中で消化してもらうしかない。
 宙の背負っている感情を俺は理解してやることができないのだから。
「ところで、なんでわざわざ過去を辿るなんて面倒なことしてるんだ。
 せっかく未来が変えられるならババ!! っと変えちまえば楽だろうに」
「それは、私の目的を遂げる為にはお兄ちゃんの協力が必要だったからというのが一つ。
 そのために一ヶ月前からお兄ちゃんに接触して、その信頼を勝ち取る必要があった。
 いきなりやってきて妹の紗那だって言っても信じられなかったと思うから。
 もう一つはあんまり目立った動きをすると未来が予測できなくなるから。
 歴史を変えるような大きな動きをすれば未来が分岐してしまって、私が知っている未来ではなくなってしまう。
 だから、できるだけ同じになるように調整すれば先が読みやすくなるし、事前に準備したり対策を立てやすくなるの」
「なるほど…ねぇ……」
 わかったような、わからないような返事。
 事実、二つ目の理由に関しては返事どおりの理解くらいしかできていない。
 一つ目の理由に関しては宙の行動は正解だと思う。
 本音を漏らせば今だって疑っていないわけではない。でも、宙は友達だから信用してる。
「なぁ、前回とほとんど同じ流れで進んでるって言ってたよな」
「うん」
「内容は同じで、登場人物が入れ替わってるとも言ってたな」
「うん」
「じゃあ、姉さんのあれも知ってたのか?」
「……うん」
 宙は否定をしなかった。


268 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:06:48 ID:/vgNVV8D
「お兄ちゃんは放課後に恋人と部活をサボって、デートして、その帰りがけに姉さんに会う。
 恋人とのデートを目撃して逆上する姉さんを振り切って、お兄ちゃんは恋人とその場を立ち去るの」
 宙は機械のように用意されていた台本の内容を淡々と語る。
「でも、お兄ちゃんと私は恋人じゃなかった」
 ぎゅっとシャツの胸元を握られた。
「だから不安だった。お兄ちゃんがお姉ちゃんを選んだらどうしよう、って。
 お兄ちゃんの選択を知ってても……私じゃ役不足なんじゃないかって不安だった。
 ―――でも、お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんだった」
「どういう意味だ」
「それはないしょ」
 小悪魔みたいな顔して宙は笑う。
「ねぇ、気づいてる? 今日はお兄ちゃんの初めてのお泊りだったんだよ」
 また、意味のわからない問いかけ。
 別に友人の家に泊まるなんて初めてじゃない。
 妹かもしれないとはいえ、女性の家に泊まるのは初めてだけど。

 ん? 待てよ……。

 今の状況では宙とまだ見ぬ恋人が入れ替わっているのだから、元の未来では俺が泊まったのは恋人の家という事になる。
 つまり『初めてのお泊り』って……そういうことか?
「ふふ、残念そうだね。顔に書いてある」
 艶っぽい表情で肯定すると、宙はゆっくりと布団から這い出して顔を寄せてくる。
「お兄ちゃんには捻じ曲げられた今を取り戻す権利がある。
 そして私はその今を奪った張本人。だから、お兄ちゃんには私を罰する権利がある」
 至近距離。
 互いの息さえ感じられるような距離で宙の唇が動く。

「だから……してもいいよ」

 してもいい。
 何を?

 ドクン。
 と、心音が跳ね上がる。
 腕の中にある柔らかさ。
 鼻先を掠める女性の匂い。
 汗ばむ首筋からはアルコールの揮発臭。
 今まで意識の外にあった状況が、途端に現実の彩りを帯びてくる。


269 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:07:15 ID:/vgNVV8D

「お兄ちゃんは知らないだろうけど、未来では兄妹同士での結婚も許されてる」

 そんな嘘、紗那だって騙されない。
 それなのに動揺して振えが止まらない。
 目の前の光景に心臓がうるさいくらいの早鐘を打つ。
 月明かりを受けて鈍い光を放つ瞳。
 うっすら濡れた小さな唇。
 頬に触る黒くしなやかな髪。
 血の通った温もり。
 これが、俺の育てた少女。

「それに、私は宙だから」

 鼓膜を震わせ、脳髄に叩き込まれる甘い誘惑。
 身体中を這い回る、おぞましい悪夢。
 破綻してゆく理性。

 もしも……

 己の手の中で大事に育てたその果実を……
 その無垢な躯を、己の手で穢してしまえたのなら……

 それはどんなに狂った味がするのだろう。

 そしてそれはこの世界でただ一人、俺だけが知る事のできる甘く濁った蜜。

「ねぇ、お兄ちゃん……私を罰して」

 迷いを見透かしたように宙は嗤う。
 その唇に吸い寄せられそうになり、恐怖に駆られた。

 違う。
 馬鹿げてる。相手は紗那かもしれない。

 違う。
 望んでなんかいない。こんな薄汚れた願望。

 違う。
 違うんだ。俺は……

 唇が触れた。
 どちらから求めたのかはわからない。
 ただ触れ合うだけの口づけ。
 初めてのキスは、なんだか切ない味がした。

 そして、思い出す。
 単純で大切な事を。

 紗那が布団に潜り込んでくる時はいつも……孤独に耐えられなかったからだった。



270 いつかのソラ sage New! 2009/08/08(土) 01:08:03 ID:/vgNVV8D
「信じる事にした」
「え?」
「もういい」
 強く宙を抱き締める。
 でも、それだけ。

 俺はまだ何も知らない。

 宙の変えたい未来も
 宙の抱えてきた苦しみも
 宙がどんな想いで俺と向き合ってきたのかも

 ただ、ずっと辛かったのかもしれない。
 自分が紗那であることを隠しながら、笑顔の裏で自分を偽らなければならなかったこと。
 周囲を騙して、家族を騙して、自分まで騙して、
 帰る場所さえ失って、頼りたいはずの家族にも会いに行く事ができない。
 目の前にいて、吐き出したい想いがあるはずなのに―――それさえも許されない。

 偽りの友人であるが故の孤独。

 それがどれだけ辛かったのか、俺には想像することしかできない。
 知っているのは、宙がそれをアルコールで誤魔化している事ぐらいなものだ。
「もういいんだ……」
 ゆっくり頭を撫でてやると宙が表情が落ち着いてくる。
 そういう所は紗那と同じ……いや、変わってないのかもしれない。

「ごめんな。紗那」

 紗那と呼ばれて、その顔がクシャリと歪む。

 俺は何をやっていたのだろう。
 紗那が最初に頼りたいのは自分だって知ってるくせに……
 紗那を一番知っているのは俺だったはずなのに……

「ぅ……ぅぅ……ぅ……」

 少女は胸の中で声を押し殺して涙を流す。
 それも―――長くは続かない。

「ぅ……ぅうあああああ……わたし、わたしぃぃぃ……
 うああああああああああああああああああああああああああああああ」

 堰を切ったように、宙の……紗那の瞳から涙が溢れる。
 顔をクシャクシャに歪ませて、大きく声を震わせながら、全てを忘れてただひたむきに泣きじゃくる。
 その姿はお世辞にも綺麗とはいえない。

 けれど、俺のよく知ってる紗那がそこにいた。
 俺の望んだ未来の紗那とは似ても似つかない性格をしていたけれど、根っこは何も変わっていない少女。

 それからしばらくの間、紗那が泣き止むまでずっと抱きしめていた。
 シャツの胸元はもうグシャグシャ。
 袖口なんかは原型の面影も無いくらいに伸びてしまっている。
 でもまぁ、今日くらいはいいだろう。
 こうやって泣き疲れて眠ってしまった顔は昔から少しも変わっていないのだから。

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最終更新:2009年08月10日 21:41
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