籠の中(その4)

313 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 18:28:35 ID:G7gFBpA0
「大きくなったら、結婚しよう」
街のはずれの寂れた空き地。
すでに“蒼”と呼べる空は無い。
輝く七色を反射する星星は黄昏た曇天に呑み込まれ、静かな月は黒くて視えない。
穢れた大地に膝を抱える幼い少女と、その傍に立つ少年。
あの日、『彼』は確かにそう云った。
「僕が理理とずっと一緒にいてやる」
今にも涙が落ちてきそうな暗くて黒い空の下。
羽虫のたかる街灯だけが、惑った視覚を補償して、ぼやけた人工の輝きだけが、互いの姿を確認
させる。
『彼』の言葉に幼い少女はぴくりと震える。
球体を目指すかのように縮こまった身体を駆動させ、ゆっくりと首を持ち上げる。
「おにいちゃん・・・・・・」
少し垂れ気味の、大きな宝石に浮かぶ水質の光。
舌足らずな口からこぼれるコントラルトが今の言葉を確認させる。
「本当に・・・・理理と一緒に居てくれる?」
「本当に・・・・理理をお嫁さんにしてくれる?」
「本当に・・・・理理を愛してくれる?」
繰り返される相似した質問に、『彼』は「ああ」とだけ頷いた。
幼い少女は「嬉しい」と笑う。
乱立する電信柱の影法師が、籠の柵のように二人を囲んでいた。

唯、それだけの風景。
それだけの過去。
そして、たった今見ていた夢――

僕は目をこすりながら、指に絡みついた“銀色”を見つめた。
「これのせいかなぁ・・・・」
あんな夢をみたのは。
「何歳のときだっけか」
それすらも思い出せない。
追憶はいつも断片的だ。
手を移動して、口をぬぐう。
よだれでも垂らしていたのか。頬まで唾液でびしゃびしゃになっていた。
「みっともないなぁ」
汚らしさに苦笑する。
時計を見ると6時半。
いつも通りの起床時間だ。
布団の中に理理の姿は無い。多分、朝食を作っているのだろう。
再び視界は銀色へ
昨日――
理理は涙まで流して、この『プレゼント』を喜んだ。
上気した頬と、潤んだ瞳。耳まで赤くして、けれど躊躇無く。
円環を左手の薬指に嵌める。
「ずっと・・・大切にするね」
上目遣いに微笑んで。
「お兄ちゃんも、ここに嵌めて?」
僕の左手を握る。
『ずっと身につける』
そう約束した以上、破るわけにはいかなかった。

そして、僕には銀の約束が絡みついた。

本当に嬉しそうに。
本当に楽しそうに。
妹は兄の左手を見て笑い。
妹は妹の左手を見て笑う。
いつもと違い、兄に断ること無く手を繋ぎ、指を絡める。
傍に在るのではなく――寄り添うように。
傍で寝るのではなく――絡みつくように。

314 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 18:30:38 ID:G7gFBpA0
“銀色”を嵌めて後、幽かに理理の態度が変わった。
「一緒に寝ても良い?」
いつもならそう聞くのに。
それが自然であるかのように、僕の布団に潜り込んだ。
兄を見つめる視線は穏やかさよりも、もっと重い感情があった。
まるでこの間の聖理のような、無邪気さを失した視線。

理理は僕との約束を違えた事が無い。
僕もそうだ。
理理との約束はきちんと護ってきた。
でも。
飾られた仲の良い兄妹の写真を見る。
はにかんで兄と手を繋ぐ少女の姿。
先ほどの夢は、あれぐらいの時のことだったろうか。

「結婚しよう」

その約束は叶えられない。
そして、叶える気も無い。
子供のときにのみ輝く約束。
長じてからは叶えてはいけない約束。
あいつが今もそんなことを覚えているとは思えないが。
あの時の。
昨日の。
嬉しそうな姿を思い出す。
仲の良い兄妹がペアのアクセサリーをつける。
そこまでは良い。
けれど、それが指輪で、しかも左手の薬指というのはまずいのではないか。
今の僕の願い。
それは理理に自立して貰うこと。
指輪(これ)は、その目的を後退させるのではないか?
そんな風に思う。
あの時の約束。
何も覚えてなければそれで良い。
けれど、もしも覚えているならば――
僕は左手をぎゅっと握った。

「おはよう。お兄ちゃん」
身支度を整え、部屋に入ると理理は近くに遣って来た。
いつも通りのはにかんだ笑顔をし、いつもよりも赤い顔をする。
いやでも目に入るのは妹の薬指。
銀色の、約束。
僕の前まで来た理理も、僕の左手を何度も何度も覗き見る。
(やっぱり・・・・)
やっぱり“これ”はつけないほうが良かったか。
少し気が重い。
「ねぇ、お兄ちゃん」
挨拶を済ませ席に着くと、調理を再開した妹が弾んだ声で話しかける。
「今日ね、夢をみたの」
『小瓶』を取り出し、食事に混ぜる。
いつもよりも量が多いように感じるのは、気のせいだろうか。
「夢?どんな?」
自分のみた夢を思い出す。
「うん。・・・・・・あの、ね・・・・・」
照れたように目を伏せる。
「昔、夜の空き地で――」
ぶつぎりのアルトボイスが『同じもの』を語る。

315 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 18:33:15 ID:G7gFBpA0
僕が顔をしかめると、「どうしたの?」と問うてきた。
「いや」
僕は首を振る。
「俺も今日、その夢をみたんだ」
「本当・・・・・!?」
嬉しそうに目を見開く。
「やっぱり、お兄ちゃんと私は繋がってるんだね・・・・!相性が良いんだね。それとも――」
左手に目を落とす。
「“これ”のおかげかな」
円環をそっと撫でた。
――ああ、やっぱり覚えてる。
僕は肩を落とした。

いつも通りの道を往く。
それは変わらない。
なのに。
横にある少女の立ち位置が違う。
「お兄ちゃん・・・」
話しかけられたのではなく、ただ呟いているだけ。
僕の腕に抱きついて、頭を預けながら歩く。
いつもなら傍を歩くだけなのに。
家を出た瞬間から、妹は僕に腕を絡めた。
従妹のようにぎゅうぎゅうと抱きしめるのではなく、静に、でも力強く腕を抱く。
こういう行為にも性格は出るものか。
聖理は僕を引っ張るように、自分のもとに引き寄せるように腕を組む。
対して理理は僕に縋り付くように、兄のもとに寄り添うように腕を組む。
そんなことを比較する。
景色が変わり、学園に近づくほど視線が集まる。
それはそうだろう。
こんな風に腕を組んでいれば、嫌でも目に付く。ましてや理理は人目を引く容姿なのだ。
(指輪は、見られてないかな・・・・?)
そんなはずはないか。
無駄な希望だ。
一応、テーピングは持ってきている。
だから隠すことはそう難しくない。
外す――そういう選択肢もあるが、「ずっとつける」と約束してしまった。だからそれは出来ない。
外すときは、理理に宣言してから出なければならない。
そして、校門が近づく。
「まずいな」
僕は妹に視線を移す。
「理理」
「なぁに、お兄ちゃん」
「今日、身だしなみチェックがある。ほら、校門のところでやってるだろう?」
鞄を持った手を持ち上げて指を刺す。
そこには幾人かの教師と、その前に並ぶ生徒の姿。
僕や理理は引っかかったことなんて一度も無いが、今は違う。
指には銀色が絡みつく。
「指輪(これ)、外さないとまずいだろう?」
「いや・・・・」
即答だった。
妹は僕を掴む腕に力を込めて、ゆっくりと首を振った。
「でもな、見つかったら取り上げられちゃうだろう?」
「いやだよ。お兄ちゃん、約束、破るの?」
「・・・・今だけだよ、お前だって、買ったばかりでなくなるのは嫌だろう?」
「駄目っ・・・!」
再び首を振る。腕に篭る力が強い。
「私、この指輪外したくないよ・・・。死ぬまで・・・ううん、永遠につけてるの。はずさない、
絶対に外さないよ・・・・・!!お兄ちゃんのくれた指輪だもの。お兄ちゃんと交換した指輪だもの・・・・・!!」

316 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 18:36:05 ID:G7gFBpA0
「理理・・・・」
僕はため息を吐く。
これは。
この理理の状態は、あの時と同じ。
僕と部屋を別別にするように云われた、あの時と同じだ。
理理は普段は聞きわけが良い。
僕の云うことなら何でも聞くし、そもそもからして我を通すことも無い。
だから。
だからその反動故か、一度云い出したことは決して曲げない。
このまま外すように云ったところで、妹は泣き叫ぶだけだろう。
(困った)
頭をかく。
持ち物にテーピングはある。だから隠すことは出来るだろう。
しかし、そういう意見を出して、この娘は納得するだろうか?
しないような気がする。
いや。
それ以前に僕ならばともかく、妹にテーピングは不釣合いだろう。
包帯でも持って来れば良かったか。
僕の腕を抱きしめる妹を見て、また吐息。
仕方ない。
「理理、こっち」
校門沿いに歩き、人気の無い道へ出る。
「お兄ちゃん、どうするの?」
「こっから入る」
壁の高さは一間半弱。助走をつけて壁をけりあがれば、充分乗り越えられる。理理は運動神経が
良いので、このくらいの高さなら問題ない。
「いけるか?」
「うん」
まずは僕から壁に駆け上がり、妹の鞄を受け取る。続いて理理が駆け上がり、僕の手を取って
壁上に跨った。
と。
「こらーーーーー!そこ、なにやってるかーーーーーー!!」
壁の外側、歩道の向こうから怒声がする。どうやら教師の一人が見回りをしていたようだ。
「走るぞ」
「うん」
飛び降りて走り出す。こちらからは教師の顔が見えなかった。つまり、向こうも僕らを特定は
出来ないだろう。
昇降口まで辿りつく。
「ここまでくれば捕まらないだろ」
「うん、ドキドキしたね」
息切れひとつしない妹は微笑んで再び腕に抱きついた。
(これからずっとこうなんだろうか)
妹と、そして銀の指輪を見て僕は眩暈に襲われた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

いつから私がお兄ちゃんを好きだったのかは、覚えていません。
物心ついたときには、あの人なしではいられない身体でした。
お母さんの話によると、赤ちゃんのときからお兄ちゃんが傍にいると喜んでいたみたいで、
引き離されると泣き叫んだようなんです。
つまり、今も昔も変わることなく、私にとって、お兄ちゃんはなくてはならない存在だったと云う
ことなのでしょう。
お兄ちゃんはとても素敵な人なので、昔から悪い蟲がたかってきます。
私のお友だちの中にも、人から蟲へかわったお莫迦さんが何人もいました。
害虫は駆除されるものなんです。

317 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 18:39:11 ID:G7gFBpA0
それを判っているのかいないのか、お兄ちゃんという最高の男性に何匹も何匹も蟲がたかります。
貴女達は蝿や蚊やごきぶりを叩き潰すでしょう?
だから私もそうするだけなんです。
「貴女、あの人の妹さんでしょ?私の後押しをして貰えない?」
だから、背中を『押して』あげました。
「真理さんのことを考えると、胸が苦しいの」
だから、『楽』にしてあげました。
お兄ちゃんという至上の蜜を味わっていいのは、私だけなんです。
だって、妹ですから。
お兄ちゃんのお世話をするのも。
お兄ちゃんに甘えるのも。
お兄ちゃんに褒めて貰えるのも。
私だけにしか許されていないことなんです。
お兄ちゃんだってそう思っているはずです。
だって、今まで彼女なんて作ったこと無いんですよ。
誰に告白されても。
どんな女でも。
あの人の心を動かすことは出来ないんです。
昔、一回だけ、お兄ちゃんに『自称・彼女』がいたことがありました。
酷い女でした。
優しいお兄ちゃんを騙して、付け入ったんですよ。
私はお兄ちゃんを騙すのはやめて欲しい、そうお願いしました。
でもその女――いえ、その『蟲』は首を横に振りました。
「彼のことを愛しているから」
抜け抜けとそう云ったんです。
蟲に人語がわかると考えた私が悪かったのでしょう。まるで言葉が通じません。
だから、お兄ちゃんにお願いしました。
お兄ちゃんは私を世界で一番愛してくれています。
だから、快く頷いて、その雌蟲を放り捨てたんです。
お兄ちゃんは優しい人です。
『蟲』と別れても暫くは落ち込んでいました。
人外にも慈愛を注げるなんて、凄いことだと思います。
でも、“それ”は私だけに注いで欲しいな。
私は沈むお兄ちゃんを出来る限り励ましました。
私だけが、ずっと傍にいるんだよって。
それからは二度と他の女に惑わされることも無くなり、二人で仲良くやってきたんです。
あ、勿論、最大の害虫は昔からチョロチョロしていましたよ?
でもそれは割愛します。
だって、不愉快になるじゃありませんか。あの偽者のことを考えると。
ともかくも、私達兄妹はずっと支えあって来たんです。
お兄ちゃんはいつだって私の味方です。
私を護ってくれているんです。
だから、今度は私の番。
この世界のあらゆるものから、お兄ちゃんを護ってあげます。
お兄ちゃんは優しいから、保護してあげなければいけません。

――籠です。

私は籠になるんです。
悪い蟲を近づけず、お兄ちゃんをすっぽりと囲む。
そんな籠になるんです。
指輪――これは、その一歩。
そのための絆です。
待っててね、お兄ちゃん。
すぐに居心地の良い最高の世界を作ってあげる。
貴方の居場所はここにあるの。

『私』と云う――籠の中に。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

318 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 18:41:46 ID:G7gFBpA0

にいさん。
その単語を口にするたびに。
にいさん。
その言葉を思い浮かべるたびに。
私の表情(かお)は自然ととろけ、頬に手を当ててしまう。
右の頬。
私の家でキスしてくれた場所。
左の頬。
喫茶店でキスしてくれた場所。
思い出すだけで身体が火照る。
右。
左。
なら、次は真ん中だよね?
おなかが疼く。
にいさんは私のことを愛してる。
それは良くわかってる。
だから、私にキスしてくれたんだもの。
昔からそう。
にいさんは私を大切にしてくれている。
いつだって私を優先してくれていた。
家に遊びに来たときも、“あの女”より私を選んでくれるの。
「たまにしか逢えないんだから」
そう云ってコトリを宥めていた。
でも私は知ってる。
それは嘘だ。
毎日会えたって、兄さんは私を選んでくれるはず。
それが両想いってことだもの。
コトリ。
にいさんの妹。
私以外の、妹。
“あの女”はいつでも私達の邪魔をする。
この間、うちに来てくれた――ううん、私の許に帰ってきてくれたにいさんを連れ去った女。
あの日、“あの女”さえこなければ、にいさんは泊まって行ってくれた筈。
一緒にお風呂に入って。
一緒のベッドに入って。
好きなだけごろごろすりすり甘えることが出来たのに。
髪を撫でて貰って。
耳元で名前を囁いて貰って。
頬をすり寄せ合って。
一杯キスをして。
そして、一緒に眠る。
それを総て奪った女。
いや、それだけじゃない。
にいさんが世界で一番愛しているのは私なんだから、あの日だけじゃなく、毎日そういうことが
出来たはずなのだ。
『本物の妹』
たったそれだけの理由で、私のにいさんと暮らし、私とにいさんの時間を奪う。
「お兄ちゃん、もう帰ろう?」
にいさんは私の許にいたいのに、貴女はいつもそう云ってあの人を引っ張っていく。
帰りたいなら一人で帰れば良い。
もとから貴女なんて呼んでないの。
私のにいさんの袖を引っ張らないで。
どうしてにいさんはそこで頷くの?
いつもいつもいつもいつもいつも。
いつもそう。

319 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 18:43:29 ID:G7gFBpA0
好きあっているのに。
愛し合っているのに。
『本物の妹』に私達は引き裂かれた。
にいさんは囚われている。
“あの女”に。
コトリのせいでにいさんは私の許に来ることが出来ない。
コトリのせいでにいさんは私の許からすぐに去らねばならない。
にいさんは、コトリのせいで私のところまで羽ばたくことができない。

――籠だ。

“あの女”は、にいさんを閉じ込める籠だ。
破壊しなければいけない。
これ以上にいさんを閉じ込めようとするならば。
鉄柵をひん曲げて。出口を開いて。
にいさん。
逢いたいよ、今すぐに。
顔を思い浮かべると、また下腹部が甘く疼く。
にいさん。
名前を呟く。
声が聞きたい。
私は携帯電話に手を伸ばす。
それは、あの人に向けて手を伸ばすということだから。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

323 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 20:11:03 ID:G7gFBpA0

「月ヶ瀬っ」
昼休み。
机の上を片付けていると、級友に肩を掴まれた。
「いきなりなんだ。手を離せ」
僕はクラスメイトに顔をしかめる。
「そんなことはどうでも良い!それより理理ちゃんはどうしたって云うんだ?あの娘、指輪
してたぞ。まさか、彼氏が出来たのかぁーーー!」
肩を掴んだままで叫ぶ。その言葉に、クラスの連中がざわついた。
「おいおい、マジかよ。理理ちゃん、兄貴が本命じゃなかったのか」
「あ、私指輪見た!銀色のシンプルなやつだよ。左手の薬指にしてた」
「左手!?薬指!?なんていやらしい!!」
あいかわらず噂好きで煩い連中だ。
僕は自分の左手を見る。銀の円環はテーピングに隠されて不可視だ。
理理の指輪が話題になっているならば、益益これを見せるわけには往かない。無用な騒ぎは避けたい。
「どうなんだ、月ヶ瀬。あれは何なんだ」
「知らないよ、そんな事。あと手を離せ」
態々買ってやった、などと云わない。
このクラスではどうやら僕はシスコンと認識されているらしい。傷口を広げるような真似はしない。
「あれだろ。月ヶ瀬は光陰館のお嬢様と付き合ってるから、理理ちゃんも兄貴離れしたんじゃ
ないか?」
「光陰館!?マジか!?」
「マジらしいよ。超可愛い娘と校門前で抱き合ってたらしい」
「でもその娘、“にいさん”て呼んでたぞ」
「え~、なにそれ~。月ヶ瀬くん、彼女に妹プレイさせてるの?」
「どこまでシスコンなんだ!ゆるせねえ」
「そんなことよりも、理理ちゃんは漸くフリーになったのか?それが問題だ」
口々に勝手なことを云う。聖理の件は火消しが面倒なので放って置くことにした。
「理理がアクセサリーを付けてたくらいで、そんなに血相をかえるなよ。あと手を離せ」
「いいや、変えるね!」
ガクガクと僕を揺さぶる。
「さっき噂で聞いたんだよ。半田(はんだ)の奴、負けたらしいって」
「半田?負けた?突然何を云ってるんだお前は。あと手を離せ」
半田と云うのはこの学園の体育教師である。ドラマや漫画の中にいるような熱血教師で、暑苦しい
ことを除けば概ね好評価である。
彼は古いタイプの人間なので、体罰も厭わない。むやみに暴力を振るう人間ではないが、必要と
あらば拳骨を飛ばす。
所謂『不良』と呼ばれる連中にも怯むことなく拳を下ろし、学園生活に必要ないものを取り上げる。
多分今朝の身だしなみ検査も彼がやっていた筈だ。
「理理ちゃん、廊下で半田とすれ違ったとき、指輪のことで注意を受けたらしいぞ」
「みつかったのか」
よりにもよって半田に。
ならば確実に取り上げられたはずだ。あの教師はそういったものを許さない。女子だからといって、
手心を加えることは無い。
「ああ、それでな・・・」
漸く手を離し、声を潜めるように顔を近づける。
「『それを外してよこしなさい』って、注意された理理ちゃんは『いやです』って首を振ったらしい」
「あの莫迦・・・」
拳骨でもくらっただろうか?少し心配になる。
「で、理理は指輪を取られたわけか」
「いや、それが・・・・」
クラスメイトは口をへの字にする。
「無理やり取ろうとした半田を、理理ちゃんがガン付けしたらしい。そしたらあいつそれだけで
ビビッて、すごすご逃げたってよ」
その言葉にクラスメイト達が笑う。「なんだ、あいつたいしたこと無いのか」と。
「・・・・・・半田って、睨まれたくらいで引き下がるタイプじゃないと思うんだけど」
僕は半信半疑だ。あの教師にそういうことをしても、逆効果のはずだが・・・・。
「それがなぁ」
云いながら腕を組む。

324 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 20:13:08 ID:G7gFBpA0
「『殺されるかと思った』って、云ったらしいぞ、半田の奴。理理ちゃんみたいな弱弱しくて
可愛い娘が迫力あるわけ無いじゃんなぁ!」
一同はまた爆笑する。
だけど僕は笑う気にならない。
大切なものを護ろうとするときの理理は、確かに鬼気迫るものがあるからだ。
「で。で。そんだけ必死になるほど大事な指輪ってなんなのかって話題になってんのさ。そういう
ことなら、兄貴に聞くのが一番早いだろう?」
「・・・・・・・・」
僕は答えない。
理理は。
妹はそこまであれを大事にしているのか。
テーピングを見つめる。
やっぱりこれは、あの娘のためにならないのかもしれない。
首を振った。
その時、廊下からざわめきが聞こえてきた。噂をすれば影と云うべきか。
僕と食事をするために理理が教室に入ってくる。
クラスメイト達が小さくどよめく。
理理の左手には、確かに指輪が光っていた。
「お兄ちゃん、迎えに来たよ」
いつも通りのはにかんだ笑顔。
弁当箱を抱くように抱え、妹は僕を見る。
「――え?」
理理の笑顔が消えた。
「お兄ちゃん、左手・・・・どうして・・・」
何故隠しているのか。
妹の瞳は無言で質する。
「そのことは良い。とりあえず移動するぞ」
僕はさっさと教室を出た。理理はよたよたと兄の後を追った。

中庭で理理と食事をする。
妹はずっと白の巻かれた左手を見ている。
「理理」
「あ、な、なぁにお兄ちゃん」
「今日帰り遅くなる」
「え」
再び表情が消える。
帰りが遅くなる。イコール、一緒には帰れない。
僕はそう云ったのだ。今までも何度か帰りが遅くなったことはあるが、それらはすべて別々に帰宅
する時だけだった。今日は授業終了が同時なので、一緒に帰れるものとものと思っていたのだろう。
「お、お兄ちゃん何で・・・・。今日、何か大切な用事でもあるの?」
「ちょっと呼び出されただけだよ」
「だったら・・・・ううん」
妹は首を振る。
「誰?誰に、何で呼び出されたの?」
「聖理に夕食に誘われた。だから晩飯はいらない」
「――」
妹の顔が驚愕に歪む。
「さとり・・・・ちゃん。また、さとりちゃん?」
理理は独り言のように呟いた。その目は僕を見ているのかいないのか。判断がつかない。
従妹から連絡があったのは授業中のことだった。
僕を知る人間は修業中に電話をかけてくることは無い。メールならば縷縷ある。
何か緊急の用事だろうか?
教室を抜け出し、画面を見る。
蠕動し続ける四角い機械に表示された名前は良く知った従妹のものだった。
こんな時間に直接かけてくるなんて珍しい。
ともかくも電話に出た。
その内容はいたって単純で、僕の声を聞きたくなったから・・・・だと云う。

325 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 20:17:16 ID:G7gFBpA0
(授業中だというのに)
叱ろうとも思ったが、寂しかったと沈んだ声で云われては強く出れない。仕方なく話をした。
食事に誘われたのはその時の事だ。
多分、普段の僕なら断っていただろう。
だが、昨日からどうも理理の態度がおかしい。
僕に対してくっつきすぎるようになった気がする。
勿論気のせいかもしれないし、一時的なものかもしれない。だがいずれにせよ距離を置きたかった。
今朝に見た夢もそのことに拍車をかけているのかもしれない。
僕は理理を見た。妹は首を振った。
「いや・・・・、いやだ、よ・・・・いかないで・・・・・」
どうして。
どうしてたったこれだけのことで泣くのだろう?
矢張りこの娘は僕に依存しすぎている。
やるせなくなった。
「理理」
声をかけると妹が顔を上げる。大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼして。
「そのくらい、聞き分けてくれ」
「できない、できないよ・・・!お兄ちゃん、理理と一緒にいてくれるって云ったでしょう?
一緒にいて・・・一緒にいてよ・・・・理理は一秒でもおにいちゃんと離れたくないよ・・・」
「理理」
僕は妹の肩を掴んだ。
「あんまり聞き分けないと、お前のことを嫌いになるぞ?」
「――え?」
ぴたりと妹の動きが止まる。
その身体はガクガクと震えていた。
「・・・・お、に、・・ぃちゃん・・・・理理の、こと・・・・」
これ以上間を置くと、恐らく妹は狂乱するだろう。
だからその前に声をかけた。
「理理、俺はお前のことが大事だし、大切だ。だから『そういうこと』を云わせないでくれ」
「――ひ・・・・お、おにい、ちゃん・・・が、き、きら・・・・わた、わたし、を・・・・
お、に・・・ぃ・・・」
瞳が震えている。
焦点が定まっていない。
言葉が届いていないのだろうか?
「理理っ」
「ひっ」
びくりと妹が震える。
「俺はお前を好きでいたい。だから・・・・我慢できるな?」
妹はこわばった表情のまま何度も何度も頷いた。
「す、するからっ・・・・・が、がま・・・・・・する、か・・・・から、・・・・だ、だから、
わ、わたし、私のこと、き、き・・・きら・・・・き・・わ、わ・・・・・」
妹が縋り付いてくる。
身体に力が入らないのか、凭れ掛るように僕に触れる。
瞳孔は開いており、歯はがちがちと鳴った。
流石にきつく云い過ぎただろうか?
支える体はいつまでも震えていた。

「にいさんっ」
呼び鈴をならす。
出たのはヘルパーさんではなく、従妹の聖理だった。
「待ってたよ、にいさぁん」
僕に飛びついて、そのまま首に腕を回す。
聖理は小さいので、僕が抱きかかえる形になる。“だっこ”されるとそれが気に入ったのか、
従妹は益益身体を絡めた。
「えへへ。にいさん、にいさん」
頬を摺り寄せてくる。すべすべして、でも柔らかい感触が気持ち良い。
「とりあえず離れなさい。家にも上がれない」
「や」
嬉しそうに否定する。

326 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 20:19:18 ID:G7gFBpA0
「離れなさい」
「んふふ。にいさん、にいさん」
聞く耳待たない。
従妹はひたすら頬を擦り付ける。
仕方ない。無理やりに引き離す。
「あん。にいさん・・・」
「あとでな。とにかく中に入れてくれ・・・」
あいかわらずの大きい玄関を潜る。聖理は僕を居間ではなく、二階に在る自室へとひっぱて往く。
「お前の部屋に入るのも久しぶりだなぁ・・・・」
広い。
とにかく広い室内は品良く整えられている。女の子の部屋、と云うよりは、お嬢様の部屋と呼んだ
ほうが妥当だろう。控えめな豪華さと云うと矛盾するだろうか。ともかくもイヤミにならない高級感
で出来た部屋だ。壁や棚には賞状やらトロフィーやら盾やらの記念品が並べられている。
そういえば聖理はなんでも人並み以上に出来るから、こういうものも増えていくのだろう。
「にいさん、こっちこっち」
ばかでかいベッドに腰掛けた従妹がパムパムと横を叩く。
誘われるまま隣に座ると、
「えい!」
そのままベッドに押し倒された。
「えへへ~。に~いさん」
僕に覆いかぶさる。
「子供か、お前は」
「子供のころに甘えきれなかった分、今甘えるの」
ごろごろとすりついて来る。
「にいさん、頭撫でて」
「・・・・まったく。しょうがない奴だな」
さらさらの髪の毛を撫ぜる。
「んぅっ。にいさん。好きぃ」
「うおっ」
耳たぶを甘噛みされる。
「あはっ。にいさん可愛い」
「こら。こういう冗談はやめなさい」
「ふふっ」
聖理は僕の体をまさぐりながら、にやりと笑う。
「にいさん本当にかわいいよぉ・・・・レイプ、しちゃおうかな・・・?」
「は?」
身体が固まる。
「お前今、とんでもないこと云わなかったか?」
「云ってないよぉ?それよりにいさん」
聖理の小さな手が僕の左手を掴む。
「これ、どうしたの?つきゆびでもした?」
「ん?いや・・・?」
僕は云い澱む。理理を思い出して気分が沈んだ。
「怪我したんでしょう?聖理がなめてあげるね」
「待て」
静止よりもはやく、従妹はテーピングを外してしまう。
数時間ぶりに銀の円環は外気にさらされた。
「――なに、これ」
聖理の顔が歪む。
空白の驚嘆から、怨敵に出逢ったかのような憎悪へ。
「にいさん、これ、なに?」
「痛っ」
従妹が左手に爪を立てる。肉に食い込む感触に思わず声を上げた。
「なにこれ?指輪?ねえ?なにこれ?なんでこんなのしてるの?聖理の指には、まだ嵌めて貰って
ないのに、何でこんなの嵌めてるの?ねえ?なに、これは?」
「い、痛い、痛いって」
「答えて!答えてよ!!なあにこれは!!!にいさん!!!!!」
握られた左手に血が滲む。僕は痛みをこらえて聖理を引き離した。
「説明するから、まずは聞けって」

327 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 20:21:12 ID:G7gFBpA0
「・・・・・・」
睨んでいる。
僕と、左手を。
聖理はこんな顔もするのか。
「にいさん、早く説明して。納得できなかったら、おしおきだよ?」
「・・・・・」
僕はしぶしぶ説明を始めた。

「・・・・そう」
説明を聞き終えると、聖理はぽつりと呟いた。
その顔は怒気を孕んだ無表情。
「にいさん、手を出して」
「え?」
「左手!!早くっ!!!!!」
「・・・・・」
云われるままに差し出す。
「早く外して、こんなものっ!!!!!」
指輪をむしりとり、絨毯に叩きつける。円環は2、3度跳ねて、力なく転がった。
「お、おい、聖理」
「にいさん」
立ち上がって、僕を見る。
「にいさんは“こんなもの”つけたくなかった。そうだよね?」
指輪を踏みつけ、躙りながら僕に問う。
「コトリはにいさんに無理やりこれをつけさせた。そうでしょう?」
「無理やり、というのは少し違う。でも、まあ確かに兄妹どうしでするものではないと思う・・・」
僕が答えると、漸く聖理は笑った。いまだ怒気を孕んで、目元は冷たかったけれど。
「やっぱり。やっぱりそうだよね。にいさんがコトリなんかと指輪を交換するなんてあるはず
ないもの。にいさんに強要した結果がこれだもんね。可哀想なにいさん。左手、痛かったでしょう?」
僕に近づき、血の滲んだ左手をなめる。
「ごめんね、にいさん。でもこれは、コトリが悪いんだよ?聖理はこんなことしたくなかったの」
ぴちゃり。ぴちゃりと、傷口に舌を這わせる。
「ねえ、にいさん。にいさんはコトリが異常だって、思うでしょう?」
「異常・・・・?そこまでは云わないけど、少し、兄離れしたほうが良いとは思う」
「そうだよねぇ」
指をしゃぶる。そこは怪我をしていないのだが。
「にいさん。にいさんはコトリから離れるべきだと思う。コトリはアブナイ娘だから、きっと
にいさんから離れない。なら、にいさんからあの娘を引き離さなきゃ」
「俺、から?」
「そう。にいさんから。それがコトリのためだよ?」
ぴちゃりぴちゃり。
指の股も爪の間も、聖理の唾液で濡れそぼって往く。
「にいさん、聖理ほどじゃなくても、コトリは大事でしょう?だったら、あの娘をまっとうな、
唯の妹にしてあげなきゃ。血を分けた妹は、兄の傍にいてはいけない。それを思い知らせて
あげなければいけないの」
「俺だってあいつには兄貴離れして貰いたい。でも、どうやって・・・」
「どうやって?」
掌をなめ上げながら聖理が笑う。どこか淫蕩な笑み。
「じゃあ教えてあげる。コトリから逃れる方法を」
従妹は舌なめずりをしながら僕を見上げた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

お兄ちゃんに嫌われる。
考えただけで身体が凍える。
あの人がいなくなる。
思い浮かべるだけで心臓が破裂しそうだ。
どうして、お兄ちゃんは偽者の許に往ったのだろう?
どうして、私との絆を覆い隠していたのだろう?

328 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 20:24:04 ID:G7gFBpA0
わけがわからなかった。
今日はお兄ちゃんと一緒に帰って、一緒にお食事する予定だったのに。
それが私達の正しい姿だったのに。
なんでお兄ちゃんはここにいないの?
何でお兄ちゃんは一緒に帰ってくれなかったの?
なんで。何で。
どうして。なぜ?
指輪を見つめる。
これのおかげで、あの時の約束を夢にみれたのに。
あの時、どれだけ私が嬉しかったか、お兄ちゃんわかる?
あの時の言葉が、どれだけ私を支えてきたか、わかってる?
お兄ちゃん。
「逢いたいよ・・・・」
涙が流れてとまらない。
今頃――
今頃あの偽者がお兄ちゃんを独り占めにしているんだ。
なれなれしく抱きついて、赤の他人のくせに『にいさん』なんて呼んで。
一緒に食事をして、いっぱい甘えて。
許せない。
許せないよ、そんなこと。
――そうか。
思い浮かぶ。
きっとお兄ちゃんが冷たくなったのは、あの偽者のせいだ。
そうに決まってる。
だってお兄ちゃんは私を世界一愛してるんだもの。
きっとアレになにか吹き込まれたんだ。
ぎりぎりと音が鳴る。それは、私の歯軋りだった。
この音も。
この音も、本来はあの女が鳴らすべきもののはずだ。
幸せな私達兄妹をひとりぼっちの偽者が、絶望しながら奏でるべき音なのだ。
許せない。
殺してやりたい。
拳を握り締める。
顔の形が歪むくらいに殴って、包丁で目玉を穿り出してやりたい。
でも、あの女はここにはいない。
お兄ちゃんと。
私の愛するお兄ちゃんといるのだ。
「お兄ちゃん」
お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。
お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。
お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。
お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。
お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。
お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。
お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。
逢いたい。逢いたい。アイタイ。あいたいあいたいあいたいあいたいあいたいアイタイアイタイ
だめ。
あの女に対する憎悪以上に、お兄ちゃんに逢いたい気持ちが勝る。
お兄ちゃんに逢いたい。そればかりでむねがいっぱいになる。
そのまま、私は何時間も膝を抱えた。

329 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/06(日) 20:26:04 ID:G7gFBpA0

「ただいま」

愛しい人の声。
私は玄関に走り出す。
「お兄ちゃん!!」
抱きしめようとして、動きが止まった。

無い。

指輪が無い。
お兄ちゃんに嵌っていたはずの、指輪が無い!
「お兄ちゃん、指、輪・・・は?」
声がかすれた。
最愛の人は包帯の巻かれた左手を見つめた。
「理理」
お兄ちゃんは真剣な顔をする。
凛々しくて、頼もしく見えるはずのその表情に、何か嫌な予感がした。
「俺な・・・・」
聞きたくない。
きっと、なにか嫌なことを云うつもりだ。
私は耳を塞ぐ。
けれど、それよりも早く。あってはならない言葉が響いた。

「俺、家を出ようと思うんだ」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年11月26日 21:37
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。