Silver restriction

562 Silver restriction (1/2) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/09/20(日) 05:22:06 ID:oFbntymX

 今年の9月後半には、とある大型連休が存在する。
 5月のアレに対抗して、『シルバーウィーク』とか言われてるらしい。
 土日祝日その他混ぜ合わせた、公的に休める素晴らしき5日間。
 そんな夢のような日々の、一番最初の日の早朝。
 何故か俺は、実の姉貴に拘束され、しかも折檻されていた。

「ねえ、なんで私が怒ってるか、あなたはわかる?」
「何言ってんだよオイっ!! いいからこの手枷と足枷を……ぐあっ!?」
 反論しながらもがくと同時に、頬に姉貴の平手が炸裂した。
「もう一度聞くよ? なんで私が怒ってるか、わかる?」
「お……俺が、外泊旅行に……行こうとしたから……です……」
「ふふっ♪ まあ正解――ってことにしといたげる」

 何だこの状況。誰だ目の前のイカれた姉貴は。
 俺はただ、姉貴に「今度の連休いっぱい、外泊旅行に行くから」と伝えただけだ。
 なのになぜか眠らされて、気付いたら手枷足枷で拘束されて、こんなことに――!
「なんでだ!? 俺は別に姉貴に、迷惑なんて掛けてないだろ!?
 旅費だって自力で――バイトで稼いだんだ。貧乏なうちの家計には――」
「そんなことはどうでもいいの。お金だっていくらでも貸してあげる。
 あなたが、私を見捨てて、旅行に行く。そのことが重要なの。
 なんで仕事を休めない私を放って、私の知らないところに行くのかな?」

 姉貴はいま、社会人として働いて、うちにお金を入れている。
 俺たちの父親は昔事故で死んで、今までは母親が働いて家計を支えていた。
 その母親が過労で倒れ、長期入院を余儀なくされたのが、1年以上前のこと。
 その時から、姉貴は大学を辞めて、地元の中小企業に勤めだした。
 そこそこ忙しい分、稼ぎの良い職場で、生活費をなんとか維持できている。
 だからこそ、俺は今まで遊ぶことは控えて、姉貴の代わりに家事を始めた。

 でも、俺だって、やっぱり少しは遊びたかった。
 今回の旅行だって、高校の友達に誘われて、一緒に行きたいと思った。
 だから必死に姉貴に頼み込んで、バイトを始めて、自分でお金を貯めた。
 姉貴に迷惑をかけず、ほんの少しの期間だけ、息抜きをするために。
 けれど目の前の姉貴は、俺のそんなささやかな願いさえ、許さないらしい。

「やりたいことがあるからって言うから、夏休み中のバイトも公認してあげた。
 私が仕事から帰っても、あなたが出迎えに来ない夜にだって、独りで耐えた。
 私がどんなに眠くても、バイト帰りのあなたを迎えるため、寝ずに待ってた。
 私がどんなに辛くても、私とあなたの生活のため、いつも私は頑張れた。
 私は、あなたが私の傍に居てくれるために、今まで何だってやってきた……」
 姉さんの独白が聞こえる。俺を独占したいという、仄暗い欲望が。
 今俺の目の前に居るのは、姉貴の姿をした、悪魔だとしか思えない。


563 Silver restriction (2/2) ◆6AvI.Mne7c sage New! 2009/09/20(日) 05:25:59 ID:oFbntymX

「それとね、あなたが私から離れることだけに、怒っているんじゃないの。
 あなた、私のことを蔑ろにして、彼女を作ろうとか思ってたんでしょ?」
「!!? なんで、そんな――」 
「だってあなた、嬉しそうに言ってたじゃない。
 その旅行って、男女混合――他所の牝猫と一緒に行くんでしょう?
 さっきの表情からして、その中に好きな娘でも、居るんでしょう?」
 姉貴のその言葉に、俺の全身が恐怖で竦みあがる。
 確かに、前から興味のあった女の子が、旅行のメンバーにいるけどさ?
「駄目よ、行かせない。あなたを飢えた牝猫の群れになんて、やるもんですか。
 あなたは私が愛してあげるの。あなたは私の傍に居れば――いいのっ!」

 歪んだ愛を告白した次の瞬間、俺の唇に口づける姉貴。
 数分間舌で掻きまわして、俺の口内から唾液を奪い取る。
 そうして俺の頭が蕩けた頃に、姉貴は俺から身体を離した。
「まさか……姉貴、俺のことを……男として愛して――」
「そうよ悪い? 私はあなた以外いらないって、言ってたでしょ?」
 瞳に狂気の光を湛え、語りながら俺の瞳をじっと見つめる姉貴。
 正体不明に対する恐怖。もし約束を破ったら、無事に済まない。
「わ、わかりました……。もう姉貴を放って、外泊なんてしません……。
 旅行も諦めます……。だから、お願いだから俺を、解放して下さい!」 
 もう既に、俺の心はへし折られている。
 もう姉貴をほったらかしにして、外泊旅行なんていくつもりはない。
 そんなことしたら、確実に殺されかねないことも、身体で理解した。

「嘘ね。私が仕事に行っている間に、抜け出して旅行に行く気でしょ?」
「な……!? 俺はそんなつもりは――」
 姉貴は、俺の言葉を信じてくれなかった。
 やめてくれ……! 本当に逃げるつもりなんて、ないんだよっ!?
 どれだけ弁解しても、どれだけ説得しても、姉貴の耳にはもう届かない。
 姉貴は孤独に俺を愛するあまり、俺の言葉さえ信用できなくなっていた。

「姉である私に嘘を吐くなんて、いつからそんな悪い子になったの……?
 決めたわ。この連休の間に、私があなたを『再教育』してあげる。
 もうあなたが二度と、私を放って、どこかに行かないように。
 仕事は――ちょっと出勤日数が減るけど、別に構わないよね?
 だって、私たちの未来のために必要な、儀式に費やす時間だもの?」

 俺の首にかかる、姉貴の細い指。女性らしい、細くて綺麗なパーツ。
 それに信じられない力が込められて、俺の頸動脈を圧迫する。
「愛してるわ。私の、かわいい――」
 それ以上の言葉を聞きとることもできず、俺は正気を失った。

――この日を最初に、俺の人生で最悪の『調教週間』が始まった。


                               ― The worst silver week, hello!! ―


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最終更新:2009年09月21日 20:36
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