ウイリアム・テル3

567 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17:51:28 ID:XEFB863y
 ドアに伸ばしかけた手を、ふと止めた。
「天野君?」
 怪訝そうな声が後ろから聞こえた。
 振り返り、軽く笑みを浮かべて、
「ちょっと、ここで待っててくれるか?部屋散らかってるから片付けておきたいんだ」
「別に気にしないよ~そんなの。勉強ができるスペースがあれば」
「あ~、そのスペースもないかも」
「え~、本当?たまには掃除もしないと」
「はは、そうなんだけどね。そういうことだから、ちょっとだけ!もう5分くらいでちゃっちゃとやっちゃうから」
「わかった~出来るだけ早くお願いね」
 うん、と頷いて見せて、一人玄関をくぐる。
 ぱたぱた、と足音。
 靴を脱いで、待ち構えて、
「おかえりー、お兄ちゃ――」
「まずは眠れっ!」
「エメラルドフロウジョン?!」
 今日も今日とてコスプレ姿で出迎えた妹を、問答無用で沈めた。
「きゅー」
「……」
 足元で伸びて目をまわす妹の両足をつかみ、無言でずりずりと引きずっていく。
 途中でごんごんと何度か林檎の頭と床がぶつかりあうが、この際気にしない。
 そのままリビングに放り、よし、と息をつく。
 まるで人を殺して、死体を隠そうとする犯人だなと苦笑して、妹の姿を眺めた。
 林檎は残念でならないプロポーションを、それで体守れてんの?と思わずにはいられないような鎧で覆っていた。
 某有名RPGの女戦士の格好だと、思う。
「だから、コスプレするんなら自分の姿をまず鑑みてやれと……」
「それがいきなり、大技決めてきた人の言うことなのかな、お兄ちゃん!せっかくのコスプレの兜がパッカリ割れちゃったよ!」
「……チッ、生きてたのか」
「舌打ち!舌打ちしたよ、今、この人!」
「結構本気でやったんだが、元気だな、お前……。まあそれはどうでもいい」
 どうでもいいって何さー!と頬をふくらます林檎の肩に手を置き、精一杯目つきを鋭くして、
「いいか、今日はお兄ちゃんの勝負の日なんだ。大人しくしていろよ」
「いたた、肩、痛いんだけど、それもイイっていうか……唐突な話の展開についていけないよ!」
「林檎、お兄ちゃんの彼女いない歴を答えてみろ」
「え、今も彼女持――」
「お前は彼女じゃないからな、ちなみに15年だ」
 林檎の言葉をさえぎって、自分で答えた。
 もう、お兄ちゃんのイケズ、と体をくねらせる林檎は無視。
「いいか、今からお兄ちゃんはちょっと気になる女の子と一緒にお勉強タイムだ。だからお前に構ってる暇はない、お前は大人しくしていろ。いいな?」
「……えー、りんご馬鹿だから、よく分かんな――」
「そう言うと思ったよ!」
「オレンジクラッシュ?!」
 今日二発目となる大技を惜しげもなく、敢行。
 ……これで少なくとも2~3時間は目を覚まさないだろう。
 保険として、ロープで体と足をぐるぐる縛っておいた。


568 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17:52:03 ID:XEFB863y
「ふう、むなしい戦いだった」
 やり遂げた思いで、息をつき、玄関へと向かう。
 ドアを開けると、きょろきょろしていた女の子が気付き、ほほ笑んだ。
「あ、終わった?」
「うん、掃除完了。ごめんね、待たせて。どうぞ、あがってあがって」
「おじゃましまーす」
 彼女が靴を脱ぐのを待って、2階にある自分の部屋へと案内する。
 後ろをついてくる彼女は、興味深げに周囲を見渡している。
 あまり褒められた行動ではないが、それが不思議と嫌味に感じないところが彼女の美徳だと思う。
「林檎ちゃんは?いないの?」
「あー、まだ帰ってないみたいだわ」
「でも、確か中学もテスト前じゃ……」
「だよね!全く、アイツは馬鹿なくせにどこで油売ってるんだか。大峰さんですらこうしてまじめに勉強しようとしてるのに」
「ちょ、それってどういう意味かなー。私は確かに馬鹿だけどー」
 ちょっと失礼だぞ、と怒った風で言う大峰さん。
 はは、ごめん、と謝りながら、ほっと安堵。
 彼女、大峰真琴は高校のクラスメイトでクラス委員長をしている少女だ。
 中学からの知り合いだし、今年俺が副委員長に選ばれたこともあって、他の女子よりも比較的良く話す女子だった。
 頭でものを考えるよりも、行動する方が得意で、明るい性格のおかげか人望もある。
 あるのだが、率先して人を纏めるというより、その場の勢いで後ろも見ずに突っ走るという感じだった。
 一言で言うと、猪突猛進、それが、大峰真琴に対する俺の印象だった。
 特に彼女が好きだというわけではない。
 でも、林檎と少し距離を置くための一歩としてちょうどいいと思った。
 最悪だ、と思う。
 結局彼女を利用して、自分の心地よい日常を守ろうとしてるだけ。 

「はー、思ったより片付いてるじゃん。私の部屋よりきれいだよ。何片付けてた――あーそうか、そうだよね」
 俺の部屋に入って大峰さんは、急に。
 男の子にはいろいろあるもんねー、とか言って視線はベッドの下。
 いや、さすがにそんなベタなところに隠してないし、紙媒体は残念ながら存在しない。
「何考えてるのか、ありありと分かるけど、そうじゃないから。それよりほら、早く教科書出して、今回赤点だとやばいんでしょ?」
「そうなんだよ。うちの部活の顧問が、数学のジョリーでさ。次数学で赤点取ったら出さないぞって釘刺されたんだよねー」
 いや、参ったよ、とあっけらかんと笑う。
 どうでもいいが、何で俺の周りにはこう、バカっぽい女の子ばっかりなんだろうか。
 俺は、知性的な人が好みだというのに。
 ――「彼方」
 瞬間、頭の隅をよぎる優しい、静かな声。
 ずきん、と胸に走るのは鈍い痛み。
「わぉ、天野君可愛いー」
 ふと、聞こえてきた声に意識を引っ張られた。
 は、と声の方を見ると、大峰さんが俺のベッドに寝そべっていた。
「……何してんだ、アンタ」
「え、アルバム見てるの。こういうの男友達の部屋に上がったらやってみたいって憧れてたんだよねー」
「一応聞くけど、勉強は?」
「あとでー」
 大峰さんは、アルバムをペラペラとめくっている。
 あれは確か中学の卒業アルバムだったか。
「ていうか、大峰さん俺と同じ中学だったろ?同じ奴持ってるはずじゃ……」 
「そうだけど、こう、シチュエーションが大事なの。わかるでしょ?」
「いや、全っ然分かんないっス」 
 はあ、とため息。
 ため息をつくと幸せが逃げるというのは有名な寓話だが、真偽はどうなんだろうか。
 真実ならば、俺にはもう、ささやかな幸せすら残されていない。
 大峰さんは鼻歌を歌いながら、アルバムをめくる。
 膝から曲げた足が、ぱたぱたと動くたび少し短めのスカートが浮くがパンツは見えそうで見えず、しかしそれでも十分艶めかしい。
 じっと、食い入るように見ていた自分に気付き、意識を飛ばすように勢い良く首を横に振った。
 何やってるんだろう、俺。
 また逃げそうになった幸せを何とかこらえ、俺は一人鞄から道具を取り出して、テスト勉強を始めた。
 ……どうでもいいんスけど、鼻歌、ビリージーンって結構渋いっスね、いや、まあ俺も好きですけど。


569 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17:52:37 ID:XEFB863y
「ねー、天野君」
 数十分くらい経っただろうか。
 だんだん集中できて、問題を解くスピードも上がってきたというところを、能天気な声にシャットダウンされた。
 ちょっとだけイラッとしたが、我慢する。
 まさか彼女に対して、いつも林檎にやっているようなことをするわけにもいかない。
「なに?」
「この子だれ?」
 アルバムを指さして見せた。
 彼女の手にあるアルバムは中学の卒業アルバムではなく、市販のアルバムノートに変わっていた。
 それを見て、しまったな、と心中で舌打ち。
 家族写真は本棚の隅の方に隠していたはずだが、何故か大峰さんは探し出していた。
 隠していたといっても、ちょっと見つかりにくいというだけでそこまで本格的に隠していたわけではなかったことがまずかったのだろう。
 大体、自分の部屋に林檎以外の人間を入れるのは、凄く久しぶりだったから油断していた。
「この可愛い子は、多分林檎ちゃんだと思うんだけど……こっちの綺麗な女の子はだれ?」
 彼女の指す写真には、今より少し幼い俺と、余り今と変わらない林檎、そして白いベッドの上で優しくほほ笑む女の子。
 その顔は林檎に似ていたが、浮かべた笑顔の質や、髪型の違い等から林檎よりも幾分大人っぽい印象を受ける。
 大峰さんの言うとおり、可愛いというか、綺麗という表現が合う女の子だった。
「……姉さんだよ、俺の双子の姉」
「え!天野君ってお姉ちゃんいるんだ?それも双子!」
「まぁね、いたよ」
「……?いた?あれ、でも私この人見たことないよ。同じ中学じゃなかったの?」
「うん、姉さんは余り体が強くなかったから、ね」
「え、と、そう、なんだ」
 さすがに何かを悟ったのか、大峰さんの顔が曇る。
 戸惑うように、視線がさまよっていた。
「元々長くは生きられないって言われてたんだけど、4年前に、ね。死んじゃったんだ。それでも医者が言うには頑張った方なんだって」
「そ、そう……なんというか、ごめんなさい」
 しゅん、と大峰さんはうなだれた。
 突然大人しくなった彼女を見て、まるで借りてきた猫みたいだ、と思った。
「気にすることないよ。もうある程度吹っ切れたし、ね」
「でも……」
「それより、ほら、早く勉強始めよう。赤点取りたくないんでしょ?」
 暗い空気を払拭するように、努めて明るい声を出した。
 うん、と素直に大峰さんは頷いて、テーブルをはさんで二人向かい合った。
「ご教授、よろしくお願いします!」
「うん、ビシバシいくから、覚悟してね」
「はは、お手柔らかにお願い」
 まだ少し泣きそうな目で、大峰さんが笑った。
 今すぐに元気いっぱいとは言えないだろうけれど、やがていつもどおりに戻ってくれるだろう。
 そこが、大峰さんの良いところの一つだと思うから。
 ふと、件の写真に視線を向けた。
 病院での一枚。
 姉さんにどうしても、とせがまれて撮った写真だった。
 このころは、家族4人皆揃って、ささやかでとても幸せな毎日だった。
 狂いはじめたのは、きっと、そう。
 姉さんが、最後に仮退院した、あの夏の日。
 照りつける太陽、蝉しぐれ、そして、畳の上に転がった二人の汗のにおい。


570 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17:56:17 ID:XEFB863y
 1時間くらいして大峰さんも元気を取り戻したころ、ふいに部屋のドアがノックされた。
「あれ、林檎ちゃんかな?」
「え、まさか、あの拘束をこんなに速く――」
「お兄ちゃん、りんご、緊縛プレイは嫌いじゃないけど放置プレイはお兄ちゃん相手でもごめんなさいなんだよ!」
 林檎がドアを勢いよく開けて、叫んだ。
 返事待たないんなら、ノックの意味ないだろ!
「え、緊縛?放置プレイ?」
 大峰さんは頭の上にはてなマークを飛ばしていた。
 あー、やっちまった、と俺は心の中で頭を抱えた。
「というかお前、どうやって……」
「もちろん、りんごは縄抜けの術も習得済みだよっ」
「お前は、どこの忍者だよ!」
 林檎……恐ろしい子っ!!
 ふと、林檎が付いていけずポカンとしている大峰さんをじっと見た。
 その目は少し鋭さを持っていて、大峰さんは訳も分からず気圧された。
 で、と林檎は口を開いた。
 その声はついさっきまでとガラリと変わり、冷たく鋭い。
「で、この人だれ?」
「え、えと私は大峰真琴、林檎ちゃんとは何度か逢ったことあるんだけど、覚えて、ない、かな?」
「知らない」


571 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17:57:23 ID:XEFB863y
「そ、そう」
 大峰さんが困ったようにこっちを見た。
 はあ、とため息。
「林檎、俺たち勉強中だから、邪魔しないでくれ」
「お兄ちゃんの方が邪魔。ちょっと黙ってて」
「……はい、すいませんっした」
 林檎にギンッと睨まれ、速攻で、すごすごと引き下がった。
 大峰さんが、恨めしげな眼で見てくるが、さっと視線を反らした。
 だって、怖いんだもん。
「ねえ、あなた、お兄ちゃんの何?」
「へ、な、何って言われても、友達、かな」
「ふーん、友達、ねえ……」
 じろじろ、品定めの視線。
 胸のところで、はんと馬鹿にした笑み。
「や、さすがに、お前が鼻で笑える部分じゃないだろ、確実に」
「黙ってて、って、言ったよね?」
「サー!すんませんっした、サー!」
 気をつけの姿勢で、びしっと敬礼。
 土下座しようかとも思ったが、ギリギリのところで兄の威厳は守った。
 ……守れていないだろうか?
 林檎の詰問は続く。
「お兄ちゃんのこと好きなの?」
「へ、す、好き、って私が?」
 瞬間、大峰さんの顔がボンっと燃え上がり、みるみる赤くなっていく。
 へぇ、そう、と林檎の声はますます剣呑に。
「惹かれ始めているけど、気付いていないってところかな」
 意外と初心なんだね、と林檎はくすくす嗤った。
 ……さっきから、お前何様なんだよ、一体。
「でも、残念。お兄ちゃんは私のモノなの」
「へ、モノって……。それに二人は兄妹……」
「証拠もあるんだよー。ほら、こ・れ」
 語尾に音符を飛ばしながら、林檎が手に持っていた写真を大峰さんに渡した。
 その写真を覗き込み、瞬間、ひっと大峰さんの悲鳴に似た声。
 そして、俺を気持ち悪いものを見るような目で見てきた。
 え、俺?ていうか、その目、何でしょうか、すっごい嫌な予感しかしないんですけど。
 大峰さんは、妙にあたふたと、慌てたように、
「え、えと、私こういうの経験ないし、良く分からないけど、二人が愛し合ってて幸せなら、応援する、よ。う、うん」
 と、捲し立てるように言った。
「わぁ、本当ですかー。ありがとうございます大峰先輩」
 唐突に林檎の声がいつもの調子に戻った。
 それに、いつの間にか、敬語も使っていた。
 林檎、敬語は使えるんだな、と現実逃避ぎみな感想。
「あー、ええっと、その写真見せてもらっても、いいかな?」
 さすがに、ずっと現実逃避するわけにもいかない。
 何とか空気を立て直す取っ掛かりを掴もうと、大峰さんの手にある写真にゆっくり手を伸ばした。
 その途端、ひっと、大峰さんは後ずさり、
 二人の間になんとも言えない空気が流れた。
「あ、ご、ごめん天野君!」
 数拍の間をおいて、大峰さんは、しゅばばと凄い速さで机に広げられた勉強道具を慌てたように鞄に詰め込み。
 だっと、逃げるように部屋のドアへ。
 途中で立ち止まり、手に持った写真を俺へ押しつけて、
「お、お邪魔しました!天野君また明日!」
 疾風のように駆けていく。
 残されたのは、俺と林檎、そして一枚の写真。
「……」
 何かもう、このまま燃やしてしまいたかったけれど、そういうわけにもいかず、恐る恐る写真を見て。


572 ウイリアム・テル3 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/19(土) 17:59:49 ID:XEFB863y
「ぎゃーー!」

 思わず、叫んだ。
 その写真は俺と、林檎が写っていて、二人とも何故か全裸で睦み合っていた。
「え、お前これもしかして、あの時の」
 妙な笑みでこちらを見ている林檎に問おうとして、ふと、気付いた。
 この写真に写る二人が、今とほとんど変わらないことに。
 あの時はもっと二人とも幼かった、そう、あのアルバムに写っている時の方が近い。
 それに何よりも。
「林檎、お前こんなに胸あったか?それに、俺この年で駅弁とかまだ無理……」
 落ち着いて見れば、成程この写真は違和感バリバリだった。
「なぁ、林檎これ」
「えへへ、気付いちゃった?凄いよね最近の画像加工技術って。本当の写真と遜色ないもん」
「あ、アイコラっ!?」
「へへぇ、りんごが作ったんだ。凄い?ね、凄い?」
 や、確かにこれを林檎が作ったというなら凄いとは思うが……。
「お前、自分の年齢分かってる?っていうか、まさかこれ独学じゃないよな?誰から習ったんだよ……」
「えへ、蓮ちゃん教えてもらったー」
「蓮ちゃん?それってお前をコスプレの世界に引きずり込んだやつか?」
「ううん、それは里香ちゃん。蓮ちゃんは二次元専門だから」
 何で林檎の友人は、何というか、こう、どうしようもないんだろう。
 類友か?類友なのか?
「……お前、もうちょっと友人は選ぼうな?それに何で、お前はくだらない才能にばかり長けてるんだよ」
「それはもちろんお兄ちゃんへの愛ゆえにであります!」
 あー頭痛が痛い、痛いよ母さん。
「お前、これ、大峰さん絶対誤解してるぞ……」
「ふぇ、何を?」
 林檎はきょとんとして。
「誤解じゃないよね、別に」
「――っ」
 言葉に詰まった。
 何というか、自分からむざむざ地雷原に足を突っ込んだような、そんな気持ち。
 敗北感になんとも言えなくなった俺を、ふふと嗤った林檎は部屋を見回し、ベッドの上のアルバムに目を止めた。
 ベッドにポスンと座り、アルバムを暫くじっと眺めて、細い指で、写真に写った姉さんをそっと撫でた。
 その眼に宿るのは、果してどんな感情なのか。
「りんごね、遥ねぇから頼まれたんだ」
 唐突に姉さんの名前が出て、ぎょっとした。
 そう言えば、林檎は姉さんを遥ねぇと呼んでいた、というか姉さんがそう呼ばせていた。
 理由を聞いたことがあるけど、その方が萌えじゃない?とか言っていた。
 ……今思うと姉さんもちょっと変な人だった。
「姉さんから、何を頼まれたんだ?」
「彼方を、お兄ちゃんのことよろしくねって頼まれたの、そのための準備は私がしておいたからって」
「準備?」
 林檎は俺を見上げ、しかし、俺の疑問には答えない。
 そして、にこり、と笑み。
 それは、林檎のいつもの元気を人に与える天使の笑みとは少し性質が違った。
 それは、穏やかで、慈愛に満ちた、女神の笑み。
 そう、まるで、姉さんの笑みに、似た。
 その時、林檎の中に、姉さんの呪いを見た。

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最終更新:2010年01月07日 20:15
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