ウイリアム・テル4―上

57 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00:10:10 ID:lfgsXOlZ
わたし、天野林檎は呪われている。
 あの、美しい、女神が浮かべた悪魔のようなほほ笑みに。


 わたしには兄がいて、4年前までは姉もいた。
 二人は双子で、当時の幼かったわたしにも分かるくらい、何か特別なものでつながっていた。
 姉、遥ねえは生来の病気で、その短い人生のほとんどを、病室で過ごした。
 だから、余り会えない遥ねえはわたしにとって姉と云うよりも寧ろ遠い親せきの人という感覚が強かった。
 それに、両親は遥ねえにつきっきりだったから、お兄ちゃんがわたしの一番身近な家族と言ってもよかった。
 お兄ちゃんは、普通ならば両親に構ってもらいたい盛りのわたしを、両親の代わりに面倒見てくれた。
 ――今思うとそれは、わたしのためではなかったんだろうと思う。
 きっと、わたしが両親の手を煩わせることで、延いては遥ねえに迷惑がかかることを、きっとお兄ちゃんは危惧したんじゃないだろうか。
 お兄ちゃんは、遥ねえが好きで。遥ねえはお兄ちゃんが好き。
 その間に、わたしが入る隙は、微塵もなかった。

 ある日、遥ねえのお見舞いに行った時。
「ねえ、私林檎と二人っきりで話したいことがあるんだけど、いいかしら」
 突然の遥ねえの言葉に不思議がる両親とお兄ちゃんを上手く丸めこめ、病室にはわたしと遥ねえの二人きりになった。
 突然のことに訳も分からず、更にはその時点では嫌いだなと思っていた遥ねえと二人きりになってオドオドしていたわたしに、遥ねえは笑いかけてきた。
 遥ねえの笑顔を、たくさんの人がまるで女神のようだと称していたけれど、わたしは相変わらずその笑顔がとても怖く寧ろ悪魔のそれに思えてならなかった。
「林檎は私のことが怖いのね」
 そう言って遥ねえは、クスクスと口に手を当てた。
 真っ白な部屋に、遥ねえの黒く艶やかな髪が映えて、まるでTVでみたお化けみたいだ、と思った。
「ねえ、林檎は彼方のことが好き?」
 彼方。遥ねえはお兄ちゃんのことをそう呼んでいた。
 けれど、わたしにとってお兄ちゃんはお兄ちゃんだったから、その彼方がお兄ちゃんのことを指すと気づくのに少し遅れた。
 好き?わたしが、お兄ちゃんを?
 考えて、わたしは、こくりと頷いた。当時のわたしにとって一番好きな人は、間違いなくお兄ちゃんだった。
 遥ねえは、またクスクスと笑う。
「そう、でも残念ね。彼方が好きなのは、私なの」
 その言葉にわたしはむっとして、
「りんごのことも好きでいてくれるもん」
「でも一番ではない。そうでしょう?」
「……あぅ」


58 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00:10:47 ID:jegjhLty
 否定できなかった。お兄ちゃんが誰を一番好きで大切に思っているかなんて、お兄ちゃんを見ていれば誰だって気づくことだったから。
 ねえ、林檎。と遥ねえがわたしの顔を覗き込んだ。
 わたしやお兄ちゃんと顔のパーツは似ているけれど、何処か人形めいた顔立ち。
 外に出て、日の光を一身に浴びながら目一杯遊んだ経験などないであろう、白く透き通った白磁の肌。
 黒い宝石に見据えられたわたしは、その場を逃げだすことも、目を反らすこともできず、その場に固まることしかできなかった。
 遥ねえは、一生のほとんどを病気と闘いながら、世間と隔絶された病室で生きてきたせいか、わたしはもちろん、双子で同じ年である兄さんと比べても随分大人っぽい人だった。
 若くして死と向き合い続けた遥ねえは、他の誰よりも達観し、そして聡明だった。
「彼方の一番に、なりたくはないかしら?」
「お兄ちゃんの、一番」
 鸚鵡返しに呟く。今思えば、この時わたしは遥ねえの空気に飲まれ、半ば催眠をかけられているような状態だったのかもしれない。
「そう、林檎は彼方が一番好きなのよね、それなら彼方の一番も林檎になったら、とても素敵な事だと思わない?」
「お兄ちゃんの、一番……なりたい」
「ふふ、そうよね、なりたいわよね。それじゃあ、これから私が林檎を手伝ってあげる。だから林檎は私の言うことをよぉく、聞くのよ。いい?」
 ぼんやりと、霞がかったような頭で特に深く考えることもなく素直に肯いたわたしに、遥ねえは満足げに嗤い。
「じゃあ、私と約束しましょう?ほら、林檎も小指を出して」
「うん」
 そして、わたしは遥ねえと約束を交わした。
 その約束こそが、わたしの人生を大きく変える契約の原初だった。

 その契約の日から、遥ねえとわたしは度たび二人きりで話し合った。お兄ちゃんはそのことが不満だったようで少しだけわたしに冷たくなってしまった。
「そう彼方と喧嘩したの。でもね、林檎。彼方は決して貴女のことを嫌っていないわ。寧ろ貴女のことを凄く大切に思っている」
「そんなの、うそだもん。りんご、お兄ちゃんに嫌いだって言われたもん」
「彼方は少し恥ずかしがり屋さんなの、今日だって私に林檎のことで悩んでることを私に相談してきたのよ」
「……何て?」
「林檎と仲直りしたいけど、どうしたらいいかなって。ね、彼方は林檎のこと嫌ってなんかいないわ」
「……」
「林檎は彼方のこと嫌い?彼方の一番にならなくてもういいの?それなら、私が彼方を貰っちゃうけどいい?そうなると林檎は一人ぼっちになっちゃうわね」
「……いや」
「そうよね、林檎は彼方のこと大好きだものね」 
 当時のわたしのお兄ちゃんへの想いは恋愛感情ではなく、家族に対する親愛感情だった。
 遥ねえは二人きりの会話の中で、幼いわたしに舌先三寸でその感情を恋愛感情だと錯覚させすり替えていった。
 そんなお兄ちゃんをわたしに意識させるような会話が1年近く続けられ、元々頭がよくなく、人に流されやすいわたしは、物の見事にお兄ちゃんを男として愛するようになってしまった。
 その頃には遥ねえの病状も、もう明日を生きれるかどうかと云うところの一歩手前まで来ていた。
 そのことを、遥ねえは一番知っていたのだろう。
 遥ねえは、最後の仕上げに取り掛かった。
 舞台は、夏、遥ねえの最後の仮退院。
 照りつける太陽、蝉しぐれ、そして、畳の上に転がった二人の汗のにおい。


59 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00:12:38 ID:lfgsXOlZ

 遥ねえの仮退院の日、私たちは山間にある祖父母の家に遊びに来ていた。
 その日のわたしは、遥ねえに珍しく遊んでもらい、遥ねえの子守唄でうとうとと眠りこけていた。
 誰かの声と何かが倒れるような大きな音がして、わたしは目を覚ました。
 蝉しぐれに交じり、ひそめたような声が聞こえてきた。
 声は、隣の部屋から聞こえた。
 お兄ちゃんと遥ねえの声。
 気になったわたしはその部屋へ行き、襖の前で耳をそばだてた。
「ね、姉さん、痛いよ。それに大きな音を立てて誰かが来たらどうするのさ」
「ふふ、彼方が余りにも可愛いものだから襲っちゃったわ。でも大丈夫よ、今家にはだれもいない、だって両親は林檎を連れて買い物、
祖父母は今夜私に美味しいものを食べさせるため畑仕事、私は昼間はしゃぎ過ぎて体調を崩し、仕方なくお留守番。彼方はそんなわたしの看病、そうでしょう?」
「う、うん、そうだけど……姉さん、体調は大丈夫なの?」
「只の仮病だから、大丈夫。それに、彼方とこうしていれば直ぐに元気になれるもの」
「……本当?」
「ええ、病気にも負けないくらい元気になれるわ。だから、ほら、彼方、私をもっと気持ちよくさせて?それと二人っきりと時は遥と呼んでって言ったでしょ?」
「……うん、は、遥」
 ちゅぱ、ちゅぱと音。
 わたしは、何となく、部屋の襖を、そっと開けた。
 畳の上で、お兄ちゃんは下半身だけ、遥ねえはワンピースをはだけて下着を着けていない格好でお互いの唇を合っていた。
「彼方、舌を出して」
「うん……ん」
 遥ねえの言葉に従ったお兄ちゃんの舌を、遥ねえが自分のソレと絡めた。
「ん、じゅ……ぢゅ、ぢゅ……ちゅ、ず、ぢゅじゅっ!……あふぅ、はぁ…ん、こく、んん……ふふ、彼方の涎、美味しい」
「ん、んむ……ぢゅ、遥……」
 ディープキス。
 今でこそ、それくらいで赤面することもなくなったが、当時のわたしにはそれはまるで異世界で起きていることのようだった。
 お兄ちゃんと遥ねえは、精々数時間くらいしか年も離れていないのに、普段から遥ねえはお兄ちゃんに対してもお姉ちゃん風を字吹かせていた。
 でも、目の前の二人はいつもの姉弟という枠を超えて、まるで主従関係にすら見えた。
「はぁ、はぁ、……彼方、いつものように、私が気持ちよくさせてあげる」
 遥ねえの病的なまでに白い肌が、赤く火照っていてまるで本当の人間みたいだとぼんやりとそんなことを考えた。
 遥ねえは、体をうつ伏せに横たえ、畳の上に座り込んだお兄ちゃんの股の間に潜り込んだ。
 お兄ちゃんの股間を細く白い骨ばった指で、愛しげに撫でた。その表情が、少し辛そうに見えたのは錯覚だろうか。
 お兄ちゃんの股間は以前一緒にお風呂に入った時に見たものより、大きく長く、進化していた。
 遥ねえがお兄ちゃんのモノにふぅーと息を吹きかけると、股間がビクンと反応した。
「は、遥っ」
「……どうしたの彼方?」
 ふぅー。ビクン。
「お、俺っ」
「なぁに、どうしてほしいのかしら、彼方?」
 ふぅーと三度の吐息。遥ねえは嗜虐的な笑みで、お兄ちゃんを見上げた。
 お兄ちゃんは、羞恥に顔を染めながらも、幼いからこそ抗う術もなく欲望に身を委ね、
「舐めて、気持ちよくして、ほしい」
「よくできました。ご褒美をあげなくちゃね」
 遥ねえは対照的に喜色に頬を緩め、お兄ちゃんのモノをペロンとアイスキャンデーにするように舐めはじめた。
「はあ、ん、れろ……」
 遥ねえの赤い舌が貪欲にお兄ちゃんに絡みついた。
「れろ、ちゅ……ちゅぷ……ちろちろ、ちゅぶ……」
 当時は行為の意味すら理解できていなかったけれど。
 遥ねえの舌使いはたどたどしさを残した遥ねえの舌使いが、決して初めてのそれではなく、ある程度慣れていたモノであることが今ならば分かる。
「ちゅ……れむ……ん、んー……ちゅる、んんっ……ちゅぷっ」
 美味しそうにお兄ちゃんのモノを舐める遥ねえ。
 お兄ちゃんは目を知事手快感に耐えていた。
「んん、んー……ちゅぱ……ちゅ、ちゅ、ちゅっ……はあっ、ねえ、彼方。舐めるだけ、いいの?」
「あ……と……」
「ん?なぁに?」
 遥ねぇはお兄ちゃんを見上げながら、れろ、と舌舐めずり。お兄ちゃんは俯いて、声を絞り出す。


60 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00:13:45 ID:lfgsXOlZ
「く、くわえて……ほしい」
「もちろんいいわよ、彼方にならお姉ちゃん、何だってしてあげるわ」
 遥ねえが、再びお兄ちゃんのモノを一度舐めあげて、口の中に咥えた。
「あーん、ん……んぐ、ん!……んむ、ちゅぱっ……ふふ、美味しいわ彼方」
 言葉通り、遥ねえは本当においしそうにお兄ちゃんのモノを咥えていた。
 遥ねえの顔は、まるで至高の料理を食べているかのようだった。
 遥ねえは、お兄ちゃんのモノにキスをひとつ落とし、再び食む。
 そして、そのまま、お兄ちゃんのモノを唇でゆっくりと扱きながら吸い始めた。
「あむ、ちゅう……ちゅぷ、んふっ、じゅるる……」
「あ、遥、気持ち、いいよぅ」
「んふふ、うれひい」
「あぅっ、く、くわえたまま……喋らないで」
「んふ、ちゅっ、んちゅぅぅっ……んっ、んぶっ、じゅるるるっ!」
 遥ねえの動きがだんだんと激しくなっていき、音もそれに比例して大きく、妖艶になっていく。
 遥ねえが口から肉棒を引き抜くたびに、遥ねえの唾液が零れ、夏の日差しにてらてらと輝く。
「じゅるる、じゅぷっ、んむむ……ぢゅるるー、れりゅ、ちゅぱ、ぢゅぢゅじゅるるるっ!!」
「ん、は、遥……で、でそうだよ、もう……」
 その時、遥ねえが口を離し体を起こした。
 お兄ちゃんが、物足りない不満そうな顔で、
「え、な、なん……で?」
「んふふ、だって射精しちゃったら終わりでしょ。今日は、これで終わりじゃないの」
「え?終わりじゃないって?」
 がばっと遥ねえがお兄ちゃんにしなだれかかるように抱きついた。
 お兄ちゃんの耳元で、囁く。
「ねぇ、彼方、お姉ちゃんの初めて貰ってくれるかしら」
「は、初めてって、え、ま、まさか」
「そう、そのまさか。今日はお姉ちゃんの処女を彼方が突き破るの」
「そ、んな……女の人の初めてってそんなに簡単に誰かにあげちゃいけない、って」
「あら、お姉ちゃんの初めてを彼方にあげないで、誰にあげろというの?彼方は誰か知らない人にお姉ちゃんとられてもいいの?」
「よくない!……よくない、けど、でも……」
 お兄ちゃんが言葉を濁し、俯いた。
「でも?」
「俺たち、姉弟、だから……」
 お兄ちゃんが辛そうに呟いた。
 遥ねえはそんなお兄ちゃんを愛しそうに見つめ、慈愛の笑みを浮かべた。
 そ、とお兄ちゃんの頭をやさしく撫で始めた。
 その表情を見てわたしは、ようやく他の人たちみたいに遥ねえを女神のようだ、と思った。
 お兄ちゃんは、女神に愛されているんだ。
「彼方、私はね、もう長くは生きられないわ」
「っ!……そんなことない!」
「ううん、そんなことあるの。見て、私の体、やせ細って、骨が浮き出てまるで骸骨みたい」
「そんなことないよ、遥は、姉さんは、綺麗だよ。だから僕は、姉さんが、ずっと一番、大好きなんだ」
 お兄ちゃんの拙い言葉。それでも遥ねえは本当にうれしそうな顔をする。
 でも、その表情はすぐに曇り、諦めへと。
「多分、この仮退院が最後になるわ。これが終われば、あとはもう、狭く白い匣の中でただ終わりを待つだけ。そしてその終わりは、もう間近まで迫ってる」
「なんで、何でそんなこと言うの?姉さんは俺と一緒にいれば、元気になれるって、病気にも負けないんだってそう言ったじゃないか!」
「そうね、彼方とそばにいて、彼方とこうして愛し合って私は元気を貰った。それは、本当よ、嘘じゃない。だからこそ私はここまで頑張れた。頑張って何とか初潮を迎えることができた」
 確かに、この日の1月前くらいにお赤飯を食べた記憶があった。
 その時のわたしには、お赤飯の豆が嫌いで何で普通のご飯じゃないの、と駄々をこねたはずだった。
「私はね、彼方。この日のために今まで生きてきたの。文字通り血反吐を吐きながら、みっともなく生にしがみついて」
 遥ねえが、ぎゅっと強くお兄ちゃんを抱きしめた。
 お兄ちゃんは、既に大粒の涙をこぼし、遥ねえの言葉はきっと正確に届いていなかっただろう。
 それでも遥ねえは言葉を紡ぎ続けた。
「彼方、私に、お姉ちゃんに最後の思い出を頂戴?思い出と、彼方と私の愛の結晶をその身に宿して私はようやく生から解放されるの」
「やだよ、ねえさん、しんじゃ、やだよ」
「ごめんね、彼方。私の命はきっとあと1カ月もたせるので精いっぱい。今だって痛くて、苦しくて、もう、終わりにしたくて。でも、まだ死ねないから。だから私は耐え続けてる」
 ねえ、彼方。
 抱擁を解くと、遥ねえがお兄ちゃんの顔を両手で挟み、語りかけた。


61 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00:14:33 ID:lfgsXOlZ
「ねえ、彼方、お姉ちゃんに愛を頂戴?世界に愛されなかった私をせめて彼方は愛してちょうだい。そして彼方の愛で、私の生を赦して……」
「ねえさん、おれ、愛とか死とかまだわかんない、わかんないよ」
「うん、それでいいの、彼方はまだそれでいい。今はただ、ひたすらに私を求めて」
 そ、と遥ねえがお兄ちゃんを押して畳の上に倒した。
 遥ねえがその上にまたがった。
 そして、瞳をうるうるさせてお兄ちゃんの上からキスを降ろす。
 お兄ちゃんのモノをつかみ、萎んでしまったソレを再び硬くさせるために、扱きはじめた。
「そこで、見てて」
 挿入できるくらいに十分大きく硬くさせると、遥ねえは唐突に呟いた。お兄ちゃんの視線に小さく首を振った。
「彼方、ごめんね、お姉ちゃんを許してね」
 そう言って、また、キスをひとつ。啄ばむように。
 そして、遥ねえはそっと、お兄ちゃんのモノをつかみ、ゆっくりと腰をおろし始めた。
「んっ……あああぁっ!、くぅっ!……」
 遥ねえが苦しそうに、呻く。
 無理もない、遥ねえの年ではまだ早すぎたのだ。
 姉さん、と心配そうな声でお兄ちゃん。大丈夫だから、と遥ねえは気丈に応えた。
「う、くっ……あぅああっ!」
「あ、あぅぅぅ、いたっ!」
 今度はお兄ちゃんも苦しそうな声を出した。
 遥ねえがまだそういう行為のために体が成熟していないのなら、それはお兄ちゃんも同様のことだった。
 幼い二人が痛みに呻きながら、体を重ねる。
 残酷な時に追い立てられ、どうしようもなくなった二人が、未成熟な体で愛を確かめ合っていた。
 そこに、官能などは存在しない。
「だいじょうっぶ、彼方?……ほら、力を、抜いて」
「う、んっ、でも、姉さん、血が出てる」
「いいの、この血は私が一生の内に流した血の中で最も愛しい物なのだから」
 遥ねえは最奥まで何とかお兄ちゃんを飲み込み、そこで動きを止めた。
 ああ、と遥ねえが感嘆の息を吐き、祈るように中空を仰いだ。
 そこには天井しかなかったが、遥ねえの目にはきっと、何か尊いものが映っていた。
 ありがとう、と小さく遥ねえが呟き、そ、とお兄ちゃんの唇に触れるだけのキス。
「動くわね」
 遥ねえはそう宣言すると、一度腰を少し浮かせて、またゆっくりと沈めていった。
 その繰り返し。
「あ、ん……っふ……ふぅっ!」
「あ、あぅ……あ、あああっ!」
「ん、くぅ……あふ、あうぅ……ふ、ふふ、彼方気持ちいいのね」
 嬉しそうな、遥ねえの声。けれどその目には、苦痛がもたらす涙が溢れていた。
 幾度目かの抽迭を経て遥ねえの声はまだ苦しみが強かったけれど、お兄ちゃんの声は快感を感じることができるようになっていた。
 それは、お兄ちゃんの体が慣れたからじゃなくて、きっと、遥ねえがお兄ちゃんのために痛みに締め付け過ぎないように微妙な力加減を維持していたからだろう。
 献身的な遥ねえの愛情に、今のお兄ちゃんは気づいているだろうけど、当時のお兄ちゃんには分かるはずもない。
 だから、遥ねえの苦痛を犠牲にした快感を感じていた自分をお兄ちゃんは今も恨んでいる。


62 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00:15:09 ID:lfgsXOlZ
「んくっ……あぁぁ、あぅ、……かなた、彼方」
「ん、ああ、ああぁぁ……ね、えさん」
 遥ねえが、お兄ちゃんの名前を呼んでお兄ちゃんの唇を貪った。
「んふーっ、ちゅ……んんっ、ちゅるるっ!」
「んくっ!んうううぅぅ!」
 幼い二人の情事。大人になれない遥ねえと、お兄ちゃんの精一杯の背伸び。
 それは、とても拙く、どうしようもなく幼くて、見る人によってはきっと滑稽にすら見えたかもしれない。
 刹那の生にあがき、ひたすらにお互いを求めあっていた二人の情事はきっと人と云うよりも動物のソレ。
 けれど、理性をかなぐり捨て、苦痛を超えて、本能でお互いを貪る二人の姿は、きっと何よりも美しい。
 事実、当時の何も知らない、ネンネなわたしでさえも、二人から視線を反らすこともできず、瞬きすら忘れて二人の姿に釘づけになっていた。
 ただ、純粋に、羨ましい、とすら思った。お兄ちゃんを迎えるのが遥ねえでなく、りんごだったらと、心の中で呟くわたしがいた。
「ちゅぶっ、れろ……んむー、じゅぢゅじゅっ!」
 キスを続けながら、遥ねえが抽迭を続けていた。
 上下だけでなく、左右にも腰をひねりくねらせながら、そして大きく円を描くように振りながら、たどたどしい腰つきで。
「んく、くぅ!……ひっ、あぅ……いっぅ……かなた、かなたぁ」
 愛おしげに遥ねえは啼く。
 遥ねえの目にはお兄ちゃんだけ、そして、お兄ちゃんの目には遥ねえだけ。
 その瞬間だけは、世界に二人だけしか存在していなかった。
「うれ、しいよ……んっ、彼方……ひぅ、私、生きていて、良かったよぉ……ひゅ、んぅぅ!」
 遥ねえがとうとう大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。
 わたしが、初めて見た遥ねえの涙。幼いながらもわたしは、美しいな、と素直に感じていた。
 そ、と遥ねえがお兄ちゃんの手をとって自分の胸にあてさせた。
「ごめん、ね……んっ、本当は大きくて柔らかい胸をもませてあげたかったけど、無理だったね」
「そ、そんなの、関係ないよ。遥の胸暖かくて、柔らかい。それに、トクトクって確かに生きてるよ」
「そう、ね、確かに、私は生きてるわね。ええ、そう、そう」
 お兄ちゃんが、愛おしげに遥ねえの胸を揉みつつ、時折淡いピンク色の乳首を転がす。
「あ、あんっ……んぅぅ、あんっ」
 気のせいか、しだいに遥ねえの声も苦痛以外のものに色づき始めていた。
「あ、っくぅ、あんぅ……んんんっ!あはぁっ!」
「は、るか、俺、俺、もう……」
「あぁぁぁ!いい、のっ、我慢しないの。んううぅっ、あ、私の中で、気持ちよくなってっ!私の中に、あんっ、全部射精してっ!」
「で、でる、遥、あうぅぅぅ!で、でるよっ!」
「きて、きて彼方、私の、一番奥まで、私が、そして彼方がお互いを忘れないようにっ、ぶちまけってっ!……あはあぁぁぁぁっ!」
 瞬間。
 二人の体がびくびくっと小刻みに震え、ぺたんと遥ねえがお兄ちゃんの胸に倒れこんだ。
「あっ、あぐぅぅっ!……あっ…………あはぁ…」
「うっ、あっ!…あ…………あぁぁ」
 二人の荒い呼吸音が、部屋に満ちた。
 思い出したかのように、蝉時雨が降り注ぎ始めた。
 暫くして遥ねえが、そっと自分の膣で包み込んだお兄ちゃんを引き抜いた。
 どろり、と血と精液がまじりあったものが溢れだした。
 遥ねえは、それをひと掬い、まるで自分の愛し子を見つめる母親のような表情で口に含んだ。
 そして、襖を、いや、襖の向こうで立ち尽くすわたしをしっかりと見据えた。
 にぃ、と遥ねえが嗤った。女神の笑顔が、悪魔のそれへと変貌した。
 そして、余韻に浸りぐったりとしたお兄ちゃんを抱き起し、見せつけるように、強く抱きついた。
 その目に宿るのはきっと、満足感と執念、そして諦観。


63 ウイリアム・テル4―上 ◆TIr/ZhnrYI sage 2009/12/22(火) 00:16:13 ID:lfgsXOlZ

「どうして、あんなことしたの?」
 あの情事のすぐ翌日、遥ねえは倒れ、一週間ほど面会謝絶の日が続いた。
 お兄ちゃんは、その事を自分のせいだと思い込み、遥ねえの容体がひとまず落ち着くまでの間の落ち着きようと言ったら、それはもうひどいものだった。
 そのせいで一週間近くお兄ちゃんとまともに会話すらできなかったわたしは、一人でこっそり病院へと行き、遥ねえに詰め寄った。
 遥ねえは、わたしが顔出してからずっと笑みを浮かべたまま、わたしのその言葉を待っているようだった。わたしの剣幕に遥ねえは、笑みを崩さず、ただ、ごめんねと呟いた。
「遥ねえ……?」
 わたしは遥ねえの様子に違和感を抱いた。何かが、違う。遥ねえは元々覇気やら、元気やらとは無縁の人だったけれど、今の遥ねえからは生気すら薄くしか感じられなかった。
 そう、まるで、この世の未練を断ち切り、あとは、ただ、終わりを待つ抜け殻のようですらあった。
 ふふ。弱弱しい声。
「私はね、林檎。産まれてこの方、死を運命づけられた事を恨んだことはなかったわ。寧ろ、私じゃなく彼方が病に臥せっていたらと思うと神様に感謝したいくらい」
 遥ねえの言葉は、わたしの詰問の答えではなかった。戸惑うわたしを無視して遥ねえは言葉を続けた。
「愛する人より早く死ねるというのは、きっと、幸せな事。私はきっと彼方の死になんて耐えられないから」
 でも、と遥ねえの声に、唐突に怨嗟が満ちた。
「でも、それでも不安はあった。私が死んだあと彼方の隣に私以外のメス犬が立つのかって思うと私の心は乱れた。彼方が笑っていて、その笑顔は私に向けられていなくて、
その笑顔をメス犬から奪うことも、メス犬を駆除することもできないなんて」
 そう考えると、悔しくて悔しくて。
 声がまた萎み、遥ねえは俯いた。今思うと、その時の遥ねえの状態は情緒不安定だったのだろう。死をもう目に見えるまで直前にして、遥ねえは怖くなったのかもしれなかった。
「その思いに至った時から、私は死を怖がりながら生きなくてはいけなくなった。避けられない死に怯えて、遺されたわずかな時を生きるなんて、考えるだけでもゾッとしたわ」
 遥ねえが両腕で自分を抱きしめ、ぶるると震えた。その腕を見てわたしは、遥ねえの腕ってこんなに細かったっけ、と思った。
 遥ねえの髪は潤いをなくし、肌の白さも美しいというよりは不気味ですらあった。
 お兄ちゃんとの情事の時の遥ねえと比べて、1週間という短い日々の内に人はこうも老いるものなのか、と感じた。
 そこでわたしは漸く違和感の正体に気付いた。遥ねえは老成をひと足に飛び越え、枯れていた。
「そんな、辛酸をなめるような日々を過ごしているうちに私は、ある考えに思い至ったわ。林檎を私の代わりにすればいいと。性質は違うけれど林檎は年々私に似ていっていたし、
私と同じ血を流す唯一の存在。彼方のそばに寄り添うのがそんな林檎なら、私の心も幾分落ち着けたわ。でもそのためには林檎に彼方を好きになってもらう必要があったわ」
 遥ねえの話にそうか、と納得した。だからこそ遥ねえは、いつもお見舞いのあとの二人きりの会話の中で妙にお兄ちゃんを意識させるような話をわたしにしていたのだ。
 わたしのお兄ちゃんを好きな気持ちは、遥ねえの画策によってもたらされたものだった。
「もう彼方のことをどうしようもなく愛してしまっている貴方に、今更、倫理感なんかで想いを諦めることはできないわ。林檎に残された道は、近親相姦の道か、
彼方に捨てられて打ちひしがれるか、それしかない」
 遥ねえの骨ばった指がわたしの手をつかんだ。その力は予想以上に弱く、儚かった。
「ああ、哀れな林檎。愚かな姉のせいで、何も知らず無理やり壇上に上げられて、数多の矢の標的にさせられる。林檎が歩む道はきっと、真っ当な道ではあり得ない」
 遥ねえの生気のない目から、ほろりと涙がこぼれた。
「林檎、彼方のことをよろしく頼むわ。安心して、彼方はきっと林檎を一番大切に思ってくれる。そのための準備は、ちゃんとしておいたから」
 そう言って、遥ねえは許しを請うようにわたしの手を、そっと自らの額にあてた。わたしは何処か遠いところでその様子を眺めていた。

 それから、数日後。林檎ねえは静かに引き取った。最後まで自分のお腹を愛しそうに撫でながら。そしてその直ぐ後のことだった。
 両親が、交通事故で二人ともこの世を去ったのは。不幸中の幸いか、わたしは遥ねえの死に更にふさぎ込んだお兄ちゃんが心配で、家に残っていた。
 そうして、わたしたちは二人きりになった。これが遥ねえの言っていた準備なのかとも思った。それを確かめる術なんて、もうなかったけれど。

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最終更新:2010年01月07日 20:22
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