龍とみゃー姉(その2)

412 名前:龍とみゃー姉  ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/11(金) 12:07:07 ID:V2sJVJEI
白沢龍彦

雨の音が聞こえる…。
僕は夢を見ていた。雨の日に必ず見る夢。
実際には見ていないはずの両親を失う夢。
今は怖くない夢。
いや、
耐えることが出来るようになった夢。
雨は嫌いだった。悪夢を見るから。
今は結構好きだ。家族の優しさを感じることが出来るから。

叔父さんに引き取られてから暫くした雨の夜、夜中にノックの音が聞こえた。
「龍彦君、入っていいかしら?」
「うん。どうしたの?美弥子お姉ちゃん。こんな夜中に」
僕は、最近義姉になってくれた人を部屋に招きいれた。
「ごめんなさいね。お姉ちゃん、恥ずかしいんだけど一人で夜眠れなくなる
 ことがあるの。」
枕を抱え顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに告白する義姉。
「そのとき一緒に寝てもらえない?」
僕は初め何も気づかず、しっかりした義姉の意外な一面に困惑しつつ
単純に彼女に頼られることが嬉しくて快諾した。
僕が真相に気づいたのは一年後、義姉が修学旅行で不在の日に雨が
降ったときだった。
隣の部屋の義姉は判っていたのだろう。雨の日に僕が苦しんでいることを。

中学生になった日、僕は貯めていたお小遣いで特大のぬいぐるみを
義姉にプレゼントした。
もう大丈夫、ありがとう。とメッセージを添えて。

僕は義姉のような優しい人になろうと努力している。


413 名前:龍とみゃー姉  ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/11(金) 12:09:31 ID:V2sJVJEI
黒崎美弥子

「飽きないわ。本当にかわいい寝顔。」

朝、彼の目覚ましが鳴る前までの10分間は至福のとき。
私は二人分の朝ごはんとお弁当を用意して龍ちゃんの寝顔を
眺めるのが毎朝の日課だ。
雨の日の朝でも気持ちよく寝ている彼を見ると成長したんだなあと、
感慨深い。
龍ちゃんが一人で寝ることが出来ると宣言したとき嬉しかったけど…。

「ちょっと…寂しいよね。それに…」

その頃には一緒の布団で寝ていると身体が熱くなって、
龍ちゃんの匂いは催淫効果を私にもたらしていると信じていた。
龍ちゃんは一度寝ると絶対に朝まで起きないので、龍ちゃんの手で
自分を何度も慰めたこともある。始めてのときは触れただけで
イッてしまった。もし、このことがばれて離れたんだとしたら、
恥ずかしすぎて死ぬしかない。
もう少し続けていれば私は彼を襲ったかも。
そう…それもよかったかもしれない。

「そろそろ時間か…。残念。じゃ、今日も頑張りましょうか。」

目を覚ます前に、龍ちゃんの頬に軽くキスをする。
同時に目覚ましのベルが鳴り響き始めた。

「朝ですよ。龍ちゃん。起きないと遅刻しますよ。」

今日はきっと大変な一日になるから頑張らないと。
私と龍ちゃんが幸せになるための第一歩だ。


414 名前:龍とみゃー姉  ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/11(金) 12:11:39 ID:V2sJVJEI
白沢龍彦

「そう、叔父さんと叔母さんはまだ一ヶ月近くかかるんだ。」
「少しこじれちゃったみたいね。暫くは二人っきりよ。」

よかった。いつもどおりだ。と朝食を取りながら僕は思った。
昨日、みゃー姉は思いつめたような表情をしていたから。

今日の朝食は和食。平日は朝昼をみゃー姉が、夜は僕が担当している。
姉の味噌汁を啜る。相変わらず絶品だ。僕も料理は得意だが、
どう材料を使ってもみゃー姉の味は出ない。
前に聞くと愛情が隠し味と冗談っぽく笑っていたが隠し味は僕の分だけらしい。

「ところで龍ちゃん。ちょっと聞いていい?」
「何を?」
「恋人っているの?」

僕は飲んでいた味噌汁を吹きかけた。

「ごほっごほっ!いきなり何をっ…びっくりしたじゃないか。何でそんなこと聞くんだ。」
「ほら、昨日いたじゃない。相沢さんとか。」
「あの子は…ただの幼馴染みたいなもんだよ。向こうもそう思ってるん
 じゃないかな。みゃー姉と違って僕はもてるわけでもなし、
 取り柄も無いから恋人なんて出来ないよ。そっちこそ恋人作らないの?」

何とか思ってることをいうとみゃー姉は微笑んだ。
作らない自然な微笑み。

「私は自分から好きにならないとダメだからね。龍ちゃんよりいい男は
 今のところいないから。」
「からかうなよ。恥ずかしいし、僕よりいいやつはいっぱいいるよ。」
「恋人がいないなら龍ちゃんにお願いしたいことがあるんだけど。
 聞いてくれる?」
「僕がみゃー姉のお願いを断るわけないだろ。」
「暫く恋人の振りをして欲しいの。」
「はっ?」
「最近ストーカー紛いの人もいて…一人だと少し怖いの。
 彼氏がいるってことにすれば殆どの人は諦めてくれると思うし。ダメかな?」
「でも僕たち姉弟だし…釣り合わないから誰も信じないんじゃ…」

みゃー姉が目を潤ませて上目遣いで覗き込んでくる。僕はこれに弱い。
普段の凛々しい表情とのギャップが…。

「わ、わかったよ。どうせ寂しい一人身だし喜んでやらせていただきます。」
「ほんと?龍ちゃん大好き。姉弟って学校で隠しててよかったよかった。」

義姉には一生勝てそうに無い。


415 名前:龍とみゃー姉  ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/11(金) 12:17:42 ID:V2sJVJEI
相沢祥子

通学路を歩きながら考える。昨日は最低の一日だった。
黒崎先輩は合気道部の先輩で、技も型も後輩の指導も上手い憧れの人だった。
大人っぽくて美人で優しくて賢くて強い。
まさかよりにもよって白沢君の近くにいるのがあの人なんて。

「はぁ…こんなことなら、強引にでも告白しておけば…」

白沢君のことは好きだ。自分に言い訳はしない。
元々、あたしはこの学校に来る学力が無かった。彼と三年間一緒に
過ごすために泣きながら努力してきたんだから。
彼を守るなんておかしな使命感だったけど一緒にいると楽しいし
優しい彼が大好きなのだ。
でも、相手があの人ならあたしも諦めたほうが…

「ちょ、美弥子先輩!わざわざ腕組まなくても!」
「ほらほら。これくらいで慌てない慌てない。恋人なら普通なんだから。」

どくん…

「うう、高校生にもなって恥ずかしいなあ…」
「これでも距離をあけているのよ。本当ならこうはぐっって感じで…」

黒崎先輩はあたしに気づいてる…見せてるの?
なんのために?
何故?あそこにいるのは、
何故、
あたしじゃないんだろう。
あたしじゃだめなのかな。
やっぱ諦めきれないよ。絶対に諦めない。
彼は誰にも渡さない。あたしが手に入れるんだ。
彼はあたしのものなんだから。
あの人が彼を盗もうとするなら、盗んだとしても取り返して見せる。
あたしは拳を握り締めると学校への道を早歩きで歩き出した。

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最終更新:2007年11月01日 01:22
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