513 名前:
龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/14(月) 13:34:46 ID:lcTWIr7c
黒崎美弥子
残念なことに、彼女は諦めてくれなかった。
この先に待つ道は二本しかない。一本は龍ちゃんが彼女の想いを断る道。
もう一本は彼女の想いを受け入れ、私がそれをずたずたにしてしまう道。
「龍ちゃん、部屋に入っていいかしら?」
「…どうぞ。どうしたの?こんな時間に。もう夜中だよ。」
「今日は龍ちゃんとお話しながら寝たい気分なの。だめかな?」
「わかった。何か理由があるんだろ。」
私は龍ちゃんの布団に潜り込んだ。正面を向くのが恥ずかしいのか彼は
背中をむいている。私はそこに顔をつけ話し始めた。
「こうやって一緒に寝るのも三年ぶりかな。」
「みゃー姉にはすっかり騙されてたよ。何年も。」
「随分と悩んでいるみたいね。」
「お見通しか。実はずっと友達…いや、親友と思っていた人から告白された。」
「それでどうしようと思っているの?」
「みゃー姉はどうしたらいいと思う?」
「貴方なりに考えて、貴方のいいと思うとおりに行動すればいいと思う。
私はどんな答えを出したとしても、龍ちゃんの味方だから。」
心にもない台詞…。後ろを向いててくれているのが本当に有難い。
嫉妬に狂いそうな今の顔は余り見せたくない。キスのことを思い出すと
煮えくり返ってくる。だけど、義姉の言葉を盲信して何も決めれない駄目な男には
したくない。それは私の望むところではない。
「でも、付き合うとなると恋人の振りはできないね。
楽しかったのだけど少し残念。」
「そうだね…でもいいの?」
「ええ。龍ちゃんがそれでもし幸せになるのなら。安心して。家族はずっと一緒だから…
私は消えたりはしないから。安心しておやすみなさい。」
出来れば断って欲しい。傷は少しでも浅い方がいいから…。
でも、どんなことになっても悪役は私が引き受けてあげる。
既に破滅の種は植え付けた。後は育つのを待てばいい。
514 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/14(月) 13:35:42 ID:lcTWIr7c
白沢龍彦
眠れないかと思いきや、熟睡できたらしい。さっぱりした朝だ。
珍しく一人で起きるとみゃー姉は朝の準備を始めていた。
答えは決めていた。
一つしか年齢が変わらないのに本当に頼りっぱなしだと苦笑してしまう。
いつか僕は彼女を守れるようになるのだろうか。
今日は昨日と違い普通に並んで登校する。そういえば今まで並んで学校に
登校したのは昨日と今日だけだった。いつもみゃー姉は朝早くに出てた。
「みゃー姉。今日は昼、別で食べるから。」
「そう…。決めたんだ。じゃあまた後でね。」
義姉は今まで浮かべたことのない種類の表情、寂しそうな微笑を
浮かべて自分の教室へ去っていった。その顔が何故か心を抉った。
教室に入ると相沢さんの姿を探す。
「おはよう。相沢さん。」
「お、お、おはようっ!白沢君」
「昨日の返事。すぐに恋人らしくって無理かもしれないけど僕でよければ喜んで。」
そういうと相沢さんの顔が真っ赤に染まって、笑顔になる。
わたわた腕を振り回してあせっている姿は見ていて楽しい。
「で、でも、黒崎先輩は?」
「いいんだ。僕がいつまでも頼ってたら
姉さんに迷惑だからね。」
「じゃあ、これから名前で呼び合うところから始めようね。」
彼女の明るい笑顔は本当にかわいい。
これでよかったのだと思う。
だけど、最後に見たみゃー姉の微笑を思い出すと、胸のざわめきは止まらなかった。
515 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/14(月) 13:37:09 ID:lcTWIr7c
相沢祥子
嬉しい嬉しい嬉しい!
夢が叶った。あたしを選んでくれたんだ。
追い詰められたけどあたしがあの人に勝ったんだ。
何にも変えがたい幸せ。絶対に離したくない。
クラスの友人たちも祝福してくれた。
「龍彦君、一緒にかえろ?」
「あ、でも僕は晩御飯の食材を買って帰らないといけないから…。」
「じゃあ、買い物付き合うよ。」
少しでも一緒にいたいし、寧ろ嬉しい。
「そう、ありがとう。ああ、祥子さんがもし良かったらうちで食べてく?
二人分作るのも三人分作るのも変わらないしね。晩御飯は僕が作ってるんだ。」
どうしよう、龍彦君とは一緒にいたいけどあの人がいる。
出来れば顔をあわせるのは避けたい。
最後の別れ際は目を瞑ると今でも浮かんでくる。
何を考えているのか全然わからない。
「どうかした?やっぱり駄目かな。」
「ううん。龍彦君の料理の腕前をぜひ見たいっ!」
ま、いいか。先輩にもう彼はあたしのものだって見せ付けるのもいいかもしれない。
昨日の仕返ししなきゃ。
先輩にきっちり諦めさせないと。
恋人はあたし。わからせておかないとね。
516 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/14(月) 13:40:23 ID:lcTWIr7c
黒崎美弥子
今日は流石に憂鬱な気分。
いつもなら龍ちゃんの作る夕食を楽しみにしながら授業の復習をしているけど
それも手がつかない。朝の態度を考えると恐らくは受けるつもりだろう。
この先に起きることは大体予想できる。私はそれを早めるように動けばいい。
問題は…
湧き上がる焦り、龍ちゃんへの欲情、奪われることへの怒り、その他諸々の感情を
抑えきることができるか…だ。自分の想いに焼き尽くされるのが先か、相手を
焼き尽くすのが先か。そういう戦いだ。冷静に冷静に。
家のチャイムがなった。どうやら龍ちゃんが帰ってきたらしい。
「ただいまー。今日はお客様連れてきたよ。」
「お邪魔しますー。」
っ!!??
龍ちゃんに続けて聞こえた声。一瞬で思考が焼ききれそうになる。
龍ちゃんのファーストキスを盗んだだけじゃなく私と龍ちゃんだけの聖域にまで
進入するなんて…この雌猫…保健所に連れてって駆除しなきゃ…
「姉さん、どうかした?」
心配そうに聞いてくる暖かい龍ちゃんの声でふと我に返る。頭で考えている以上に
これは辛いかもしれない。だけど安易に直接手を出すのは最後の手段だ。
目的は雌猫排除よりも龍ちゃんゲットなんだから。
「晩御飯の買い物ご苦労様。相沢さんもいらっしゃい。龍ちゃん、下ごしらえ手伝うわ。
ほんとは、私が一人で作ればいいんでしょうけど。」
「気を使わなくていいよ。でも助かる。さっさと作ろう。ああ、祥子さんには紅茶と
お菓子を出すな。暫く待っててくれ。」
「龍彦君ありがとう。私も手伝おうか?」
龍彦君……。名前で呼ぶなんて馴れ馴れしい。
今だけだから…そんなに勝ち誇っていられるのも。
「…いいのよ。貴女はお客さんなんだから。ゆっくりしてて。」
これ以上私の二人きりの楽しみを奪わせてなるものか。
私は龍ちゃんと料理をして会話を楽しみ至福の感情を感じながら、
この先の計画を練り始めた。
517 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/14(月) 13:41:20 ID:lcTWIr7c
白沢龍彦
この食事会は失敗したのかもしれないと僕は思った。
祥子さんにはこれを機会にみゃー姉とは仲良くして欲しかったのが
すっかり当てが外れてしまった。
みゃー姉と二人で料理を作り終えるころには祥子さんはすっかり不機嫌な
様子だった。待たせすぎたかな?
「ごめん、祥子さん。おまたせ。今日は肉じゃがを中心に作ってみた。」
「料理作るの楽しそうだったね。」
彼女が何に怒っているのかわからないので普通に返答する。
「え、ああ。家事は結構好きなんだよ。料理とか食べてくれる人がいると思うと
特に楽しくてね。口に合えばいいんだけど。」
「うん、美味しいよ。あたし料理とか出来ないから…尊敬する。」
「料理を覚えたいなら私がいつでも教えてあげるわよ?」
夕食は和やかに進んでいるけど、祥子さんはみゃー姉と目を合わせようとしない。
みゃー姉は普段どおりなんだけど…合わないのかな。なんだか武道の試合のときよりも
空気が重い。やっぱりいきなり自宅って言うのはまずかったんだろうか。
「龍彦君ご馳走様。それじゃお姉さんも…失礼します。」
「ああ、送っていくよ。夜ももう遅いしね。姉さんいってくるよ。」
「ええ。気をつけて。ね…ゆっくり付き合えばいいのよ。ふふ…ずっと一緒に
いるんだから。」
その言葉は祥子さんに向けられたもののようだ。
みゃー姉は今日の様子を気遣ってくれてるらしい。相変わらず優しい人だ。
だけど、帰りの祥子さんの様子は上の空でどうにもおかしかった。
何かに怯えているような…?
最終更新:2007年11月01日 01:26