とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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小ネタ 御坂美琴は恋を知らない



「はぁ…どうしてかしら」

常盤台外部女子寮のとある一室、そのベッドの上で御坂美琴はうつ伏せになり、布団を頭から被った状態で自己嫌悪に陥っていた。
その感情の中心に居るのは、自分の死の淵から救い上げ、(偽)デートをして(自分の居ないところで)誓いを立て、携帯電話のペア契約をした男、上条当麻。

「どうしても、アイツの前だと素直になれないのよね…」
本当は、今の自分の思いの丈をすべて明かしてしまいたい。
上条と一緒にいる事が楽しくて楽しくて仕方ない。
学園都市の中で唯一、素の自分を0から100まで曝け出せる今の関係が心地よくて、二度と手放したくない。
自分のことを「常盤台のエース」でも、「超能力者」でも、「超電磁砲」でもなく、「一人の女子中学生」として接してくれる事が嬉しい。

またそれらと同じように、ある秋の日の夜、22学区で遭遇した光景が、美琴の心に暗い影を落としている。
あの日あの時出会った上条の姿は、それはそれは強烈なものだった。
全身ボロボロ、いくつもある注射痕、引きちぎられた形跡のあるチューブ、目の焦点は合っておらず、覚束ないという言葉ですら物足りないような足取り。
そして、その時美琴が初めて自覚した新しい感情をも考えれば、14年という僅かな一生の中でも最上位にランク出来るだけの強烈な出来事であった。
未だにその新しい感情の実態をつかめているわけでは無く、またあの時ほどその思いが開眼された事も無い。
しかし、『自分だけの現実』に易々と足を踏み入れられ、心をかき乱すだけかき乱され、今尚心の奥深くに眠るその感情を自覚した、その事そのものが、美琴にとって大きな契機となっていた。

他の事は一先ずおいておくとして、とにかく彼が常に無事で、出来れば自分は彼の傍にいたい。

美琴の中に、そんな感情が渦巻くようになるのに、さほど時間は必要としなかった。

「それなのに…」
どうしても上条に対してキツく当たってしまう。
対等な立場で接する関係が殆ど居なかった、という事情があることにはあるのだが、
「このままじゃ…いつか愛想尽かれちゃうよね…」
もし、上条に愛想を尽かれ、距離を置いて接されるようになったら、上条が何らかの理由で自分の前から姿を消したらと考えた所で、美琴は体を猫の様に丸めた。
胸に去来した感情は、不安なんてものではなかった。
当てはめるとすれば、絶望、という言葉がピッタリだろう。
その事を想像するだけで、怖いのだ。

だからこそ、自分の中でだけでも、上条には好かれていたいし、自分も上条に好かれたい。
上条との関係で悩み、自分の気持ちが滅入った時、美琴は己の自分だけの現実をフル活用させる。

自分と上条の関係が、限りなく良い関係であるように。
ただの腐れ縁でもなんでもなく、自分を一番身近な仲間として見てもらえるように。

「『美琴、好きだ、愛してる』か…」
最近読んだ少女マンガに描かれていた台詞を口に出してみる。
基本は少女趣味である美琴にとって、その台詞は是非とも言われてみたいものだ。上条になら尚更特に。
とても甘美で、熱を持っていて、能力制御が全く出来なくなるかもしれないと思うけれど、それでも言われてみたい、と美琴は思う。
他にも言われてみたい台詞や、して欲しい行動は多々あるのだが、その為に超えるべきハードルがまた高い。

まずは、素直になりきれない自分の性格。
次に、素直になったらなったで、RSPK症候群に近い症状を発してしまう、自分の身体。
そして、あの日以来胸に宿る、何とも形容し難い、決して居心地が悪いと感じるわけではない、謎の感情。
まだその感情が何を意味するのかまでは分からないにしても、鉄壁の理性を、自分だけの現実を、遥かに上回るその感情は、恐らく悪いものでは無いだろう。
それならば、その正体を知ってしまうのもまた、悪くは無いのかもしれない。

そこまで考えて、ふっと、一つ息を吐き、御坂美琴は考えた。
どうして、ここまでアイツの事を考えなければいけないのかと。

そして思う。これはきっと、上条当麻という、不治の病なのだと。
ならば、もっともっと、その病に沈んでしまえば良いのではないかと。
それはもしかしたら、カメの歩みよりもずっとずっと遅いかもしれないけれど、時間が、環境が、自分を変えてくれるかもしれない。

自分が上条に持っている、この正体不明の感情に、ハッキリとした『名前』を示してくれるかもしれない、と。


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