とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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ひとカミコトうぜ!




「一狩りいかない!?」

上条が美琴からの呼び出しに応じて、待ち合わせ場所のファミレスに行ってみると、、
店に入った瞬間、美琴に開口一番でそう言われた。
上条は軽く溜息を吐きながら、
美琴から電話で「用意するよう」に言われていた携帯型ゲーム機を、自分のカバンから取り出す。

「いきなりそれかよ。
 …まぁ、『モンハンも一緒に持ってこい』って言われた時点で、そうだろうとは思ってたけど」

『モンスターハンター』
「ハンター」となったプレイヤーが、村や街の依頼でモンスターの討伐等のクエストに臨み、
倒したモンスター等から得た素材を元に、より強力な装備を作成していく…というゲームである。

「けどさぁ、俺と一緒にやってもレア素材は期待できないぞ? ほら、上条さんって不幸体質だし」
「べ、別にいいのよ! 今からやるクエストは、欲しい素材のドロップ率が100%の奴なんだから!」
「そうなのか?」

確かに今から行うクエストは、狩猟すれば美琴の欲しい素材が確実に手に入る。
上条が不幸体質だろうと、ドロップ率100%ならば関係ないだろう。
しかし美琴にとっては、素材収集よりも、
上条と一緒にプレイするというこの状況こそが、それ以上の目的だったりするのだ。
チャレンジクエスト『勇気を出してあの馬鹿でも誘ってみようかな…』である。
その成功報酬は『上条との二人っきりの時間』だ。
本来の難易度は★1だが、上条に対してすぐにテンパってしまう美琴にとっては★3である。
ちなみにこの上位クエストである
『こ、ここここの雰囲気で告白したらもしかしたらもしかしてなんじゃないのっ!!?』の成功報酬は、
『上条と付き合える』なのだが、こちらの難易度は★10以上となっている。
だって狩らなきゃならない相手は鈍感キングの上条だし。

「で? どんなクエストするんだ?」

上条【どんかんキング】は主電源を入れてゲーム機本体を起動させながら、美琴に尋ねる。
すると美琴から返ってきたクエスト名は、

「『ゲコ太おじさんを救い出せ!』、よ!」

だった。上条は、一気に帰りたくなってきた。
モンスターハンターシリーズは他企業とのコラボ企画が多く、
このイベントクエストもその中の一つで、ラヴリーミトンとのコラボらしい。
クエスト内容はガノトトス(湖などに棲息している水竜。カエルが好物)2頭の狩猟。
成功すると「ゲコ太フード」と「ゲコ太スーツ」の作成が可能になるとの事だ。


「しかもね! サブターゲットの腹部破壊でオマケとして、
 釣りカエル(釣りをする時に餌として使用するアイテム)の特別バージョン、
 『ヒゲ付き釣りカエル』も貰えるのよ!
 このイベントでしか手に入らない、超レアアイテムなんだから!」
「ヒゲ付きのカエルって…それゲコ太おじさんじゃねーのっ!?
 腹部破壊ってつまりは胃袋掻っ捌けって事だよな!? 胃の中から取り出せって事だよな!?
 おじさん、ガノトトスに食われてんじゃねーかっ!!!」

もう一度言うが、
クエスト内容はガノトトス(湖などに棲息している水竜。『カエルが好物』)2頭の狩猟だ。
あまりにもな設定に絶叫する上条である。本当に、それでいいのかラヴリーミトン。

「そうよ! だから私達が助けてあげるんじゃない!
 その後、作ったゲコ太フードとゲコ太スーツをアイルーに装備させちゃう【きせちゃう】んだ~♪」

アイルーとは、モンスターシリーズに於けるマスコット的モンスター
(ドラクエでいう所のスライム、ポケモンでいう所のピカチュウのような)で、
ネコのような獣人である。語尾に「ニャ」をつけて喋る。あざとい。かわいい。
しかも「オトモアイルー」としてプレイヤーのお供に連れて行く事ができる。
でっかい武器を持って、プレイヤーの後をポテポテと歩いて付いて来るのだ。あざとい。かわいい。
報酬で作成可能になるカエルのフードとスーツは、
「オトモ装備」と呼ばれるオトモアイルーの専用装備なのである。
しかし上条は、そのカエルの防具一式をアイルーが装備した姿を想像して一言。

「それもう、ネコなのかカエルなのか分かんねーな」

上条は何となく、カエルの気ぐるみを着たネコがフェアリーテイルに出ていた事を思い出す。
しかしそんな上条の一言を肯定的に受け取った美琴は、満面の笑みを浮かべながら、

「でしょっ!? もう、超~可愛いでしょっ!?」

きゃっきゃと喜んでいた。
色々とツッコミたかった上条だが、その笑顔を見た瞬間押し黙り、

(ぐっ…可愛いな……)

なんて事を思ってしまったのだった。
隠しクエストの『上条の好感度を上げよう』は、美琴の自覚のない所で成功していた。


二人でゲームをプレイする。
クエスト攻略中の二人の会話や状況説明は、モンハンの専門用語が飛び交う為めんど…
もとい長引くので省略させてもらうが、とりあえずクエストは成功した。
ただ攻略中も上条(の使うハンター)が敵の攻撃から、身を挺して美琴(の使うハンター)を護ったり、
上条が「いや~、ミコっちゃんがいるとやっぱ心強いわ。このままずっと一緒にいてくれない?」などと
無自覚に言ったりと、ゲームプレイ中でも上条のフラグ体質は健在だった。
しかもそのせいでイチイチ美琴が「ふにゃー」しかけた為、
上条が慌てて「そげぶ」しなければゲーム機がぶっ壊れていたであろう瞬間も、
一度や二度ではなかったのである。

「っキャー!!! 『ヒゲ付き釣りカエル』いっぱい採れちゃった~♪」
「…それは良かったね~」

美琴はハイテンションだが、上条にとってはどうでもいいシロモノなので、二人の間には温度差がある。
だが美琴が喜んでくれるのならばと、上条からのサプライズ。

「なぁ、もし良かったら俺のカエルも美琴に―――」
「いいのっ!!!?」
「―――やろう…か……ああ、うん…どうぞ…」

上条がまだ喋っている途中で食い気味にきた。まぁ、あげるつもりだったので別に構わないが。
しかしこのまま素直に渡してしまうのもつまらない。上条は少しだけイジワルな事を言ってみる。

「ん~、でもそれじゃあ上条さんの取り分が減っちゃうからな~。せっかくの成功報酬だし~」
「じゃ、じゃあ私の持ってるレア素材全部と交換で!」
「…えっ、いや……それは流石に…」

このイベントでしか手に入らないと言っても、
「ヒゲ付き釣りカエル」は普通の「釣りカエル」と効果が同じアイテムで、ただの消耗品だ。
元々あげようとしてた物だし、それとレア素材の交換では上条の気が引ける。
物々交換は、それぞれの価値が同等ではないと成立しないのだから。
なので上条は、こんな事を言ってきやがったのだ。

「…じゃあ成功報酬として、ミコっちゃんのキッスでもいただきますかな」

脳内処理が追いつかず、一瞬硬直する美琴。キッスというのは、つまりはキッスの事だろう。
数秒後、みるみるうちに顔を赤くしていった美琴は、上条に対して大声を出す。

「なっ!!!? バ、ババババカな事言ってんじゃないわよっ!!!
 そ、そそ、そんなの出来る訳ないでしょ!!?」
「おっや~? じゃあカエルはいらないのでせうか~?
 じゃあいいよ。これは上条さんが使うから。丁度、釣り餌が欲しかった所だしな~」
「えええっ!!?」

確かに、そのアイテムは釣り餌として存在しているのだが、
しかしもう二度と手に入らない訳で、ゲコラーの美琴からしたら、それはとても勿体無い事だった。

「だっ、駄目っ!!!」
「じゃあ…分かってるよな?」
「…ううぅ………ぁぅ…」

美琴はこれ以上ないくらいに赤面し、上条はそんな美琴を楽しみながら目を瞑る。
なんだかんだ言っても、美琴がそんな事をしないだろうと高を括っているのだ。

「な~んて冗談冗d、おおぉうわあぁっ!!!」
「………んー…♡ …………………へ?」

数秒後に、目を開けて「冗談冗談」と驚かせようとした上条だったが、
目を開けた瞬間に彼が見た物は、目を閉じた状態の美琴の顔だった。
テーブルを挟んで向かいの席にいるはずの美琴が、何故か目の前まで迫っていたのだ。
上条があと0.3秒声を出すのを遅らせていれば、唇と唇が接触していた程の距離に。
美琴はこの数秒の間に葛藤に葛藤を重ね、導き出した答えが『恥ずかしさ<<<<<ゲコ太』だったのだ。
しかしそれにしても、何故わざわざ『唇を選んだ』のだろうか。ほっぺとかでも良い筈なのに。

「あ、ああっ! じょじょ、冗談ねっ! あ、あはははははっ! そっかそっか!」
「お、おうっ! おお、驚かせて悪かったな! カエルは普通に渡すから!」

お互いに妙な空気を作ってしまい、何か会話がぎこちなくなってしまった。
二人は自分のゲーム機の画面に視線を落とし、プレイを再開させる。
しかしどうにも、さっきの今で気まずい沈黙が流れてしまっている。


と、その時だ。突然、「プルルルルル」と安っぽい電子音が鳴り響く。
上条は慌てて、カバンから携帯電話を取り出した。

「す、すまん! 電話だ!」
「あ、ど、どうぞ! ごゆっくり!」

やはり微妙にギクシャクしているが、それでも電話に助けられた。
あの気まずい空気を壊してくれたのだから。
上条は通話ボタンを押し、「もしもし?」と電話をかけてきた相手に話しかける。

「もしもし? …あ、オティヌスか。何?
 ……インデックスが? ああ、分かった。夕飯までには帰るから。…ああ。そう伝えてくれ。
 え? いや、冷蔵庫にあったと思―――えっ!? 食ったの!? それ、上条さんのですよ!?
 ……はぁ。へーい、分かったよ。諦めますよ。あい、あーい。じゃあな。うん、はーい」

上条は溜息を吐きながら、電話を切った。

「…誰から何だって?」

上条の通話の内容で、電話をかけてきた相手も用件も何となく察した美琴だが、
それはそれとしてもやはり気になるので、上条に尋ねる。若干、不機嫌になりながら。

「いや、オティヌスからだったんだけど、インデックスが腹空かせてるから早く帰って来いってさ。
 それと、楽しみにしてた俺のプリンさんがインデックスに食べられましたとさ」
「……プ、プリンくらい私が奢ってあ―――」

ちょっとした勇気を出して、「プリンくらい私が奢ってあげるわよ」と美琴が言いかけた瞬間、
再び上条の携帯電話が鳴りだした。

「あ、ごめん美琴。まただ」
「奢ってあ―――…どうぞ」
「もしもし? 姫神? ……えっ!? 提出すんの明日までだっけ!? やっべ、すっかり忘れ…
 えっ!!? ホ、ホントにいいのか!? サンキュー姫神!
 うん、うん。ああ、書き写したらすぐに返すから。いや~、これで補習しなくて済みますよ。
 本当にありがとな! ああ、じゃあな!」
「…今度は?」
「ん? ああ、クラスメイトから。実は課題やるの忘れててさ。
 今日この後ノートを借りにいく約束をしたんだよ」
「べ、勉強くらい私が一緒に―――」

と、またもや携帯電話が鳴りだした。美琴は何だかイライラしてきた。

「あ、雲川先輩? はい。今、大丈夫ですけど―――」

だがその後も

「吹寄か? ああ、さっき姫神から聞いたよ―――」

その後も

「五和? どうした急に? ……えっ!? 今度、学園都市に来るって―――」

その後も

「よー、神裂。よく電話かけてこれたな。……あっはっは! 冗談だって、そんなに怒るなよ―――」

その後も

「その声は御坂妹だな。今、病院か?
 ……あ、じゃあ冥土帰し【いつものせんせい】に伝言頼めるか―――」

その後も

「しょく…ほ…? ん~…聞き覚えあるようなないような…? まぁ、いいや。で、俺に何の用―――」

その後も

「…オルソラ? それ多分、俺じゃない。間違え電話だぞ―――」

電話を切ればまた別の女から。
その電話を切るとそのまた別の女からと、取っ替え引っ替えに着信が来る。
最初は我慢していた美琴だったが、やがて限界に達した。
ゲーム機を持っていた手にも思わず力が入り、「みしり…」とゲーム機から嫌な音を出させながら、
美琴は大声で叫ぶ。

「ア・ン・タ・は~~~……
 私とゲームしてるっつーのに、何、他の女とイチャコラしてんだゴルァアアアアアッ!!!」

そんな嫉妬という名のタル爆弾を爆発させている美琴の心境を知ってか知らずか、
ゲームからは暢気な声が聞こえてきたのだった。

『上手に焼(妬)けました~』

と。










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