とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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Wheel of Fortune ~運命の輪に導かれ

今回は下記画像を別窓で出しておいて貰えると、分かりやすいかなと思います。
一番左上に出るのが今回使用した画像、です。
Google画像検索「ウェイトタロット The Star」
Google画像検索「トートタロット The Star」
Google画像検索「トートタロット The Aeon」

時系列は残骸事件後、大覇星祭前。図書館で美琴が第5位といがみ合った後の話。


――9月中旬。

「あ~もうっ、ムカつくっ!」

 常盤台中学の制服を着た少女が、肩を怒らせて歩いている。
「あんの年齢不詳女、今度ちょっかい出してきたら許さないんだから……!」
 ぶつぶつ呟いている御坂美琴は、先ほど図書館で同じLV5と一悶着を起こしてきたところであった。

 折角、先日に行ってきた占い――新たに出来た友達と後輩とで行ってきたのだが、その占い結果を図書館で調べていたところに、女王蜂に絡まれた。
 女王蜂こと、『心理掌握』食蜂操祈のせいで、気分は台無しである。
「何がテリトリー、よ。勝手に絡んできて、勝手に宣戦布告って何様よ! ほんっとフザけす……ぎ?」 
 美琴の思考が何かに引っかかったように止まる。足も止まった。
 ひょっとして前までの、自分があの少年に勝負と称して絡んでいたのと、たいして変わらない……?

(ちっ、違う! だってアイツは私をムカつかせるから、しょうがなく! 私の場合はあの女に何もしてないし! うん、全然違う!)
 心の中で弁解しながらも、これ以上この件を考えるとドツボにハマりそうに感じた美琴は、ブンブンと首を振って考えを振り払う。
「はあー、婚后さん達にあの女には気をつけろ、って言っておかなくちゃね。……さあて、さっさと用事済ませちゃおう」

 美琴は再び歩き始めた。
 今日は頼んでいたものが本屋に届く日である。気が収まらないながらも、美琴は足早に本屋へ向かっていった。

 ◇ ◇ ◇

 一方その頃。とある薬局の中で、一人の少年がため息をついていた。
「……ったく、アイツらは……」
 上条当麻はぼやくようにつぶやきつつ、先だっての教室内での出来事を思い出す。


「カミや~ん、血液型なんやったっけ?」
 全てはこの一言から始まった。

「んだよ、そんなの知ってどうすんだよ」
「もちろん、占いに使うんや! 相性占い相性占い」
 放課後、机の上で頬杖をついている上条に、青髪ピアスがいつものエセ関西弁で答える。
「そんな4×4の16パターンに人間の相性が決められてたまるかっつの。他当たれ」
「アホやねカミやん。10パターンしかないんよ、算数もでけへんのかいな」
「るっせー!」
「10パターンて言うてもやね、女の子って『運命』って言葉に弱いんやで~? その10分の1の『運命』にポワアッ! ってなってまうモンなんや!」
「ポワアはテメエの頭の中身だけだ!」
 と上条が青髪ピアスに噛み付いていた所に、何だ何だと土御門元春と吹寄制理、姫神秋沙が話に加わってきた。

 また加わったメンバーが……、
 かの有名な安倍晴明の子孫の家系である土御門が、占いのことで黙っているわけもなく、
 通販の占いグッズなどに何度も手を出している吹寄もこの時とばかり語りだし、
 血のことでは一家言を持っている姫神も珍しく意見を言い、
――そうして上条は頭上で交わされる論争に、這々の体で逃げ出してきたのである。


 もう授業も終わっていたので学校を脱出し、逃げ出した先は総合施設内にある薬局であった。
「どう占っても、俺には不幸な結果しかでねーしな……」
 上条はあまり占いなど信じていない。
 というより、『運が貴方に回ってきます! 思わぬ拾い物があるかもしれません』という占い結果だったとしたら、鳥のフンという「ウン」を頭で拾ってしまうのが上条当麻である。信じるも何も、不幸な事しか当たらないのである。
 ならば、間違いなく起こるであろう不幸に備えたほうが現実的というものだ。
「んーっと……、バンテージと、応急手当セットと……」
 能力者とのケンカバトル、大覇星祭が近いのだ。右手の能力があろうと、多勢にはどうしようもない。

 適当に見繕って、店を出た。
 その足が、ピタッと止まる。
「……なるほど、逃げた先できっちり不幸が待ち構えているというわけですね。どっちのルートも不幸っちゃ不幸だけど、やっぱこっちの方がより不幸だよなあ……」
「何ブツブツ言ってんのよ?」

 文具も扱っている総合型書店の前を通りかかったら、御坂美琴と鉢合わせした。
 ただそれだけのことである。

「コンニチハお嬢様。デハサヨウナラ」
 上条は、そう言って一歩下がった。
「何でそーやってすぐ逃げようとすんのよ! 失礼でしょ!」
「……弁解の余地なくビンタされたもんでな……。人間心理としては、逃げたくもなると思いませんか?」
「あっ、あれは……アンタが悪いんでしょーが!」
 助けてくれた恩人にアレはやりすぎたと思っているのか、歯切れ悪く美琴は上条から視線を逸らす。

 そう、『残骸事件』の後、ノックもせずに白井黒子の病室を開けたがために、美琴に電撃ビンタの制裁を食らったのだ。それが数日前で、それ以来の顔合わせだ(厳密には、その謝罪でもう一度病室を訪れたが、気まずい空気にすぐ退散した)。
 上条はそのまま立ち去るか考えたが、このお嬢様の場合、適当にあしらうと次回に怒りを増幅させた上で絡んでくる可能性がある。程々に相手しとかないと後で面倒なことになりやすい。
 軽くため息をついて、上条は美琴が手に下げている袋を見つめた。

「ま、それはともかく……お前も買い物か?」
「うん、頼んでたの取りに来たの。アンタは……それ薬局の袋よね?」
 話題が変わってホッとしたのか、美琴の表情が柔らかくなった。
「ああ、バンテージとか大覇星祭用の、な」
「ふーん。……アンタちょっと時間ある? 10分ほど」
「へ?」
「ちょっとコレでさ、話したいことがあんのよー」
 美琴は持っていた手提げ袋を、目の高さに持ち上げる。

 そのまま美琴はキョロキョロと周りを見渡す。
「あー、あのベンチでいいわね。行きましょ」
「俺まだ返事してねえだろ相変わらず強引だなオイ! しょーがねえな……」
 ホントに10分で終わるのかよ、とブツブツつぶやきながら、上条は歩き出した美琴の後ろをついていった。

 ◇ ◇ ◇

 二人はベンチに並んで座った。といっても間に一人座れるぐらいの間を空けて。上条は荷物を足元に置き、美琴はさっきの手提げ袋を、二人の間に置いた。
 そして、袋から何やらごそごそと箱のようなものを取り出した。

「ほら、見て見て」
「ん……タロットカード? ……占いでもすんのか?」
 上条はさっきの教室を思い出す。
(やたら占いづいてる日だな、今日は)
「違うの。あ、いや全く違うわけじゃないけど」

 そう言って美琴は、新品の箱からタロットカードの束を取り出し、更にそこから1枚抜き出した。
「私、『現在』はコレなんだって」
「……は?」
 目を白黒させながら、上条は美琴からカードを受け取った。『17 The Star』とある。
 星が幾つか描かれており、そのうち一つがひと際大きい。裸体の女性が両手それぞれに水瓶を持っている。

「この前占い師さんにさー、友達と占って貰ったんだけどね。いやー、正直タロット占いとか信じてなかったんだけど……あまりにこのカードに書かれていることが私にピッタリで。で、こうやって買うまでに至っちゃったワケ」
「はあ……」
 話したい、ってコレのことかよ、と上条は幾分ゲンナリした。どこへ行っても占い話から逃げられないようだ。
「ほら、こっちの説明書のココ、読んでみてよ」
「えーと? 『(正)自己信頼 希望 芸術 洞察力 快復力 奇跡的な救い 博愛 (逆)夢見がち 失望 無駄遣い』 ふーむ……」

 上条は、美琴がピッタリと言った意味が、何となく理解できた。
(『自己信頼』ってのはパーソナルリアリティと見做せば確かに……LV5だもんな。『無駄遣い』ってのも、嫌でもあの2000円ホットドックを思い出させるわなあ)
 そして。
(『奇跡的な救い』と『失望』ね。……なるほど、シスターズ、か)
 このポイントの意味が分かるのは、白井黒子や、その他友人では無理だ。上条にしか通じない話であり、だからこそ、美琴は上条に話したかったのだろう。上条としても、一方通行との戦いの勝利は奇跡的だと思っている。
「そこには書いてないんだけどね、wikiには手に持った2つの水瓶が『双子』を象徴しているとか書かれててさ……、ホントに他人事に思えなくなっちゃって」
「『双子』、か……意味深だな、確かに」
 まあ実際は双子どころではないが……、そんな事を言い当てられる方が恐ろしいというものだ。

「それに、ね。私が生まれて初めてチカラを使えた日、こう……パチパチって火花が出せたんだけど」
 言いながら美琴は右手を前に軽く出し、手のひらを上にして、その上で軽く火花を散らせた。
「『あっ、お星様だ』ってね。まるで星の瞬きみたいに見えたの。……そんな経緯もあってさ、「The Star」のカードにすごく納得してる自分がいるのよね」
「なるほどな……」
 逆に上条はその占い師とやらに感心していた。よくもまあコイツにピッタリなカードあてがったもんだな、と。

「ど、どう……? 結構当たってるかな、と、思ったんだけど……?」
「どう、って言われてもなあ。まあでも、そうだな……」
 上条はざっと他のカードの説明も眺める。
「この22枚の内、どれかって話なら、確かにコレっぽいな。もう1回カード見せてくれ」
 美琴は、カードを上条に手渡した。

「……このでかい星は何星なんだ?」
 上条は、殊更大きい星を指さす。
「金星って説と、ベツレヘムの星って説があるみたい。ベツレヘムの星ってのは、クリスマスツリーの天辺に飾る星、アレのことね。十字教のナントカさん生誕を知らせたとか何とかってのが元らしいけど」

 上条は、美琴の言葉を半分も聞いていなかった。
(金星……って、おいおい……)
 トラウィスカルパンテクウトリの槍を手に持ち、『守ってもらえますか、彼女を』と上条に託したあの男。たった2週間程前の話だ。
 あの、海原光貴に化けたアステカの魔術師とやらは確か、金星の力、と言っていなかったか――

(ぐ、偶然だよな? 何でそんな出来すぎな話に……)
「ちょっと聞いてんのアンタ!?」
 美琴は上条が考え込んでいる風なのを見て、不機嫌そうになじる。
「あー。いやいやスマン」
 上条はちょっと話題を変えようと、もう一度説明書を読み直した。
「なんだこの補足項目……、ワケわかんねえ。『ネツァク=イェソド。28番目のパス。18番目の文字。ツァダイ、TS、釣針(トートだと皇帝のヘー、窓)。水瓶座。』……専門用語すぎるだろ」
「私も丁度さっきその辺を図書館で調べてたんだけど、難しいのよね。」
 嫌なことでも思い出したのか、美琴がやや顔をしかめる。
「『釣針』ってのは『死の大海に棲む魚を釣り上げる釣針』とか何とか……。どう解釈したらいいのかしらね。で、」

 美琴は袋の中に残っていた、もうひとつの箱を取り出した。

「そこに書いてある『トート』ってのがこれ。トート・タロットっていうんだけどね。さっき見てたほうはウェイト・タロットってので、そっちの方がメジャーっちゃメジャーだけど」
「はあ……」
「私的にはこっちの図柄の方がシンプルで好きなのよね」
 美琴は一枚抜き出し、こちらの『The Star』を差し出した。
 図柄は左上に大きく星が一つ、そして右側に更に大きく女神様と思われる女性が描かれていた。
 さっきと比べ、星が一つになったのと、女性の裸身があからさまで無くなったぐらいだが、……まあ控えめな裸身になった分、上条的には抵抗なく見れる図柄でホッとした。
「確かにこっちの方が今風かもしんねえな」
「でしょ?」

 じっとカードを眺めた後、上条は美琴にカードを返した。
「しかし、お前が占い好きとはなー。もっと現実主義っつーか」
「あ、いや、さっきも言ったけど、そんなに占いを信じてるわけじゃないわよ? でも、何ていうのかな……こういう合致した事柄に対して偶然だとあしらうより、運命的だと楽しむっつーか夢見るっつーか、それくらいの柔軟さはあるつもりだけど?」
「……ああ、そういやさっきも『夢見がち』ってあったな」
「そっちの表現だと何だか馬鹿みたいでカチンと来るのよね……」
 美琴がちょっと憮然とした表情を見せる。

「ところでアンタはどう? 説明読んで、自分っぽいの、何かある?」
「う~ん、そうだなあ……」
 ざーっと説明書を流し読みする上条。これか、と思うものはないでもないが、どうにもピンとこない。というより、明らかに自分にそぐわない項目が一つでもあると、このカードは違うんじゃないかと思えてくる。

「やっぱり『フール』とか『ハングドマン』とか『デス』とか?」
「言うと思ったぜ……」
 美琴の軽口を適当にあしらいつつ、更に上条は説明書を眺める。

 が、最後のほうで動きが止まった。
「御坂、20番のカード見せてくれ。……あー、これはトートの方だな」

「20? はい、『20 The Aeon』。アイオーン?」
 美琴は上条にカードを手渡しつつ、説明書を奪い取った。
「ああ、聞きなれないと思った。メジャーな方では20番って『ジャッジメント』じゃない。トートじゃ名前変わるのねえ」

 説明書を眺めつつ、美琴は首を傾げる。
「でもなんでコレ? 『(正)最終決定 ターニングポイント 再誕生 未来への新しい見地 広大な見方 神人合一 (逆)なし』 んー……どこがアンタなの?」
「まあ、消去法ってか、何となく……他のがあまりに似つかわしくねーんでな」
 嘘である。
 ズバリ、上条は『再誕生』の言葉に目を奪われた。記憶喪失で、以前の自分は『死んだ』ようなものだ。
(今の俺を一言で言い表すならば、やっぱコレだよなあ……。他の言葉もワケわかんねえけど、ズレてる感じはしねえんだよな)

 美琴は、説明書に穴を開けそうな勢いで、文字を追っている。
「うーん、『解放と贖罪の象徴としての水瓶座の木星と土星』……あーもう、小難しくて分かんないわね! どこにアンタ関係あんのよ!」
「……ちなみに俺、水瓶座だったりする」
「えっ!? ……じゃあ、本当に占ってもらっても、当たってるかもしんないのかしら……」
「ま、ただの偶然だと思うけどな」
 そう言いながら、上条は図柄をまじまじと見つめる。

「これ、2人居るのかなあ……誰と誰なんだろ。何の神様って書いてるか分かるか?」
「えーとね……ええっ!?」
 説明書を眺めていた美琴が、絶句したかと思うと、みるみる赤くなりだした。
「お前、何か赤くなってないか? ……放送禁止用語でもあったとか?」
「な、なってないなってない! え、ええとね、2人じゃなくて3人いるみたいでね!」

 挙動不審になりつつ、説明書を読み上げる美琴。
「上の緑っぽいのが『北』を司る天空の女神『ヌイト』、真ん中で座ってるのがその配偶者である『南』を司る『ハディト』、半透明の子供みたいのが2人の子供の『ホルス』で、あの、その……」
 そう説明されても、上条には聞いたことのない名前である。
 そしてなぜ、美琴が泡を食ってるのか、さっぱりわからない。
「……?」
「こ、これ……」
 おずおずと美琴が上条にタロットカードを手渡す。さっきの、星が一つしかないトート・タロット版「The Star」だ。
「これがどうした? お前のカードだよな?」

「その女神が、あの、つまり……『ヌイト』なの」
「ほえ?」
 意味を理解すると共に、上条は美琴が挙動不審になっている理由に気付く。
「つまり御坂。俺の選んだカードに、お前のカードの女神様がいるってこと?」
「…………!」
 上条は美琴の方を見た。美琴は真っ赤になって、説明書を……どう見ても読んでいるフリをしているようにしか見えない。
「……単純な解釈だと、俺が『ハディト』、かねえ? 『ホルス』だと俺がお前の子供みたいになっちまう」
 うーん、と上条は唸りながら呟く。

「配偶者っつーことは、夫婦って事だよな」
「……そ、そうね。で、でもああいう神々の世界の夫婦って、せ、世間一般な夫婦とは別物よねー、あは、あははは……」
 自分でも訳の分からないフォローの言葉だと気付いたのだろう、そのまま俯いてもごもご言っている美琴を、上条はじっと見つめる。
(これって……、夫婦って言葉に反応してるってことだよな……)

『……女の子って『運命』って言葉に弱いんやでえ。その10分の1でポワアッ! ってなっちゃうモンなんや!』
『……こういう合致した事柄に対して偶然だとあしらうより、運命的だと楽しむっつーか夢見るっつーか、……』

 青髪ピアスの言葉と、先程の美琴の言葉を思い出す。
(うーん、俺のカード否定したいけど、そうしたら自分のカードも……だもんな。かといって、これが『運命』だと肯定するのは恥ずかしいから真っ赤、てとこか。そうなると……)
 上条にしてみれば、別段動揺する話でもない。『その幻想をぶっ壊す』上条は言うなれば現実主義であり、「占いでは夫婦の運命!」などと言われても全くピンとこないのだ。

 この場合の「現実」は、ここでこの少女の取り扱いを間違えてはいけないということだ。何だ、子供も予言されてんな、名前どうしよっか? といった下手なボケは高確率で電撃が飛んで来ることぐらい、上条にも分かっている。かといって、この空気のままは、ちょっと気まずい。
(下手ないじりは厄介な事になりかねん。よーし……)
 上条は携帯を取り出し、何やらいじくりだす。

「何やってんのよ。は、話してる途中で」
 上条の動きを素知らぬ顔で伺っていた美琴が、素早く反応した。
「いや、ちょっと検索してんだ。姓名判断……っと、これだ」
「姓名判断……?」
「えーと、上条……美琴……女、っと。美しいに楽器の琴、でいいんだよな?」
「ばっ……!」
 赤みが収まりかけていた美琴の顔が、再度真っ赤に染まる。
「ば、馬鹿なの!? な、なに勝手に人の名前を!」

 上条は年上の余裕を見せつけるように、ニヤリと笑った。
「何だよ。夫婦になるんだろ? 夫の姓で占って何が悪いんですかー? お、出たぞ」
 口をぱくぱくしている美琴を尻目に、上条は現れた結果を読み出した。

「へー、結構いいかも。『おだやかで円満な人生、家庭も人間関係も円満で楽しい人生に。幸運に恵まれます』だと」
「う、嘘でしょ。そ、そんなわけ……ちょっと貸して!」
 美琴は上条から携帯を奪いとり、狭い画面とにらめっこし始めた。

「な? 書いてあるだろ」
「……きっと、褒めるばっかりの姓名判断よこれ! 御坂美琴でやり直す!」
 携帯壊れるぞ、と突っ込みたくなるぐらいにガッシリと上条の携帯を両手で支えながら、美琴は入力し始めた。
「みっ、御坂……美琴……女、……。」

 結果が出たのだろう、美琴はしばし画面を見つめていたが、上条に聞かせるべくつぶやきだした。
「……『強い運気を持ち、困難を乗り越えて成功をつかむ。女性には強すぎる運勢……人より抜きん出る活力を持ち、地位財産を1から築きあげる。』 うう……」
 いろんな意味で『強く』、そしてLV1からコツコツとLV5の地位まで上りつめた美琴には、笑えるぐらいピッタリの言葉が出てしまったようだ。

「まあ、褒め系の占いだろうけど、結構当たってねえか、それって」
「……たっ、たまたまでしょ! こっ、こんなケータイの占いで……」
 上条としては、変な結果が出て「こんな結果じゃ、俺たち夫婦になったらダメだな! ハハハ!」等といった流れで、妙な空気を払拭しようと考えていたのだが、想像以上の相性の良さが出てしまった。
(ま、しょうがねえな。いや、むしろコレで……)
 上条は、大きく伸びをして、えいやっと立ち上がった。ある意味オチがついたとも言える、このタイミングで去るのが無難というものだ。

 美琴からひょいっと携帯を取り返し、画面を確認してわざとらしく「17時丁度、か」とひとりごちる。
「さーてと! んじゃ、そろそろ帰るぞ? ま、たまにはこういう占いも面白いもんだな」
「そ……そうね。う、占いはこうやって適度に面白がってりゃいいのよ、うんうん」
 やたら大げさに頷いた美琴は、箱に収納すべくタロットカードと説明書をトントンと揃え出した。

 上条はカバンと薬局の袋を肩に背負い、一歩進んで振り返る。
「……次出くわすとしたら大覇星祭か。 お手柔らかにな」
「てっ、敵になったら覚悟しといてねー。容赦する気ないから」
「おいおい、人前で能力封じられて無様に泣く姿見せたいのか。それでいいならかかってきなさい! ……じゃーな!」
「誰が泣くかっ! フン、見てなさいよ! ……じゃ、じゃーね!」


 後ろ手にヒラヒラと手を振りつつ、上条は出口に繋がるエスカレーターに向かう。
(運命、ね……ま、夫婦ってのはともかく、俺も一度タロット占いをしてみっかな。もしあのカードが出たら、俺も信じたくなるかもしんねーな)


 ◇ ◇ ◇


 ベンチに座ったままの美琴は、手をヒラヒラと振って去っていった上条の後ろ姿を、姿が消えるまでじっと見つめていた。

「~~~~~~~!」
 湧き上がる感情を押さえこむように、俯く。
(お、落ち着け御坂美琴! カードの意味を深読みして一喜一憂するなんて! 姓名判断だって、漢字の画数での話にすぎないんだから!)

 顔を赤らめながら美琴は揃えたタロットカードを箱に仕舞い、説明書も入れようとしたが、手が止まった。
 もう一度説明書を開き、『20 The Aeon』の項目を眺める。
 一つ、美琴が引っかかる言葉があった。――『神人合一』。

 『神人合一』、何か惹きつけられる言葉だ。
 ……何かの能力は絶対にあるのに、「無能力者」としか判定されない。
 ……LV5の第一位と第三位を撃破、つまりLV5を上回る何かを持っている。
 そこに、『神』というキーワードが関わると、どうしても意味深に感じてしまう。

(黒子も言ってた。結標淡希の空間移動攻撃をどうやってあの殿方は止めたのか、理解できないって。ホント、アイツの能力無効技は異常なレベルだし、……もう『神の力』と言われれば、信じるしか無いみたいな)
 そんな彼が意味深なカードを選んだ。
 そしてそれは、自分のカードとも関連性がありそうだった。

(やっぱり、アイツとは何か縁があるってこと、かなあ……。ふ、夫婦はまあありえないとしても!)
 説明書も箱に仕舞いながら、上条の態度を思い出す。
(……アイツ、占いの結果とかについては嫌がってなかったよね……? ビンタしちゃって、ちょっと嫌われたかもしれないと思ってたけど)

 少なくとも今日の出会いで、大覇星祭では彼に気兼ねなく絡めそうだ。
 美琴は気分良く、勢い良く立ち上がる。
「よっし、帰ろ! あー、こんな時間じゃもう婚后さんたちにタロットカード見せてあげられないなあ。明日でいっか」
 上機嫌で美琴は、先ほどの上条との逢瀬の時を思い出しながら、歩き出す。

「もっとタロットカードの事調べよう、うん。もーあんな年齢不詳女が絡んできても無視無視。私の運命、ちゃんと理解しとかないと!」




――そして数ヵ月後、御坂美琴の運命は、大きく揺れ動く。
 タロットカードに導かれるが如く、彼女は冷たい北極海を前に、立ち尽くす。

 『ベツレヘムの星』が落ちた『北』の大海に、『双子』を伴って。
 水棲生物を模したストラップを『釣り上げて』。

 そしてまた、一方の上条当麻も。北極海からの生還――またしても『再誕生』を果たす。


――『20 The Aeon』にはこう記されている。
 新たな時代――ホルスの時代は、ハディトとヌイトによって、生み出される、と。


 『現在』は『現実』となり。
 二人の再会から、運命の輪は『現在』から『未来』へと、大きく動き出す――


fin.


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