小ネタ ぴろーとーく
もうすぐ冬がやってくる。
「うー、寒みー」
上条当麻は首筋を這う冷たい空気にブルリ、と身を震わせる。
両手で自分の体をかき抱くと、
「おー、御坂じゃねーか。今日はやけに冷えるし、立ち話も何だから入ってけよ」
御坂美琴に向かって手を差し出す。
「アンタねぇ……。言葉だけ聞くと、私がアンタとばったり出会ってアンタの部屋に誘われてるようだけどさ」
御坂美琴が苦笑いする。
上条は自分のベッドに潜り込み、寒さのあまり頭からすっぽりと上掛け布団をかぶっているのである。
しかもこの状態で美琴に向かって腕だけ伸ばして『おいでおいで』しているのだ。
一方、『おいでおいで』された方の美琴は長袖のぶかぶかなパジャマを着ていた。やや濃い緑の布地にかわいいカエル柄がプリントされたパジャマだ。
就寝準備を終えた美琴はベッドの前で逡巡する。
このままシングルベッドに二人で横たわっても良いものかどうか。
ベッドの大きさや二人が寝転んだ時の耐荷重といった性能面についてはすでに把握済みだ。
今ここで問題にしているのはそんな数値のことではない。
美琴はほんの少しだけ悩む。
そう、あとは横になるだけ。あとは寝るだけ。
―――だけ、なのだが、
「何やってんだよ御坂。早くしねえとベッドの中が冷えちまうだろ」
「……はいはい。分かったからちょっと場所詰めて」
真面目に考えていた自分が馬鹿らしく思えてくる。
ベッドに膝をつき、上掛け布団を少しめくる美琴。
冷気がベッドの中に入り込まないよう素早く体を滑り込ませて、
「ちょ、ちょっと!? いきなりどこ触ってんのよ!!」
「はー、人肌の温もりって良いよなー」
美琴に抱きつく上条。
美琴は上条の腕の中で両手をブンブン振り回し、
「こら揉むな撫で回すな指先でツツーッてするなこのお馬鹿!!」
「良いじゃねーか。寒いんだし狭いんだし」
「夏は『暑い。くっつくな』って言ってたくせに」
「夏だってさっきだって、俺達さんざんくっついてただろ?」
「ちょ、ちょっと! こんな夜中になんて事言ってんのよ!!」
「もう少しこっちに来いよ。暖かい寒い以前にベッドから落ちるぞ」
「し、仕方ないわね」
「何でお前はそう言うところでツンデレになるんだ? さっきはあんなに……モガフガモゴ」
言葉を続けようとする上条の口を手で塞ぐ。
どうせ真っ暗なのだから表情など分かる訳がないのだが美琴は上条を一睨みして、
「よ、夜も遅いんだしそう言うことは言わなくて良いの!! とっとと寝るわよ」
「だからもっとこっちに来いって」
グイ、と。
上条が美琴を抱き寄せる。
いつもの温もり。
いつもと同じ腕。
いつも同じ匂い。
「悪りぃな。ベッドは狭いしまともな暖房器具はねーし」
そして、いつもと同じ言葉。
ギュッ、と美琴は上条を抱きしめ返して、
「……、良いわよ。アンタがいるから、それだけで良い」
寒い夜だから、お互いの体温を分け合って眠る。
それだけで幸せだから、それだけで良い。