とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とある科学の執行部員

改訂版 はこちら。



第3章(1)


9月19日、大覇星祭初日。
楽しいはずの学園都市きってのイベントなのだが、美琴は何処か緊張した顔をしていた。

「うー」

「そんなに緊張するなよ。
 恋人の両親に挨拶するので緊張するのは男子だけだと思ってましたが…」

「そんなことないわよ。
 やっぱり第一印象は大事だし、それに当麻に相応しいって思ってもらいたいからね」

「世間体ではレベル5の美琴に無能力者の俺の方が釣り合ってないんだけどな」

上条と美琴は開会式が始まる前に上条の両親と顔合わせすることになっていた。
美琴の両親は翌日以降にならないと来れないらしく、
実は上条も明日のことを考えると緊張して仕方ないのだが、
年上なのでその様子を見せることはしない。
そして上条と美琴は待ち合わせ場所に向かっているのだが…

「あっ、いたいた」

上条を見つけて、こちらに手を振っている男女の姿がある。
しかし美琴は上条の両親を見て、特に母親を見て驚きの声を上げた。

「若っ!?」

「あらあら、こんなおばさんを若いだなんて嬉しいわ」

「す、すみません、つい…」

「父さん、母さん、紹介するな。
 俺がお付き合いさせてもらってる、御坂美琴さん」

「み、御坂美琴です、当麻さんとお付き合いさせていただいています」

「上条刀夜といいます、そして妻の詩菜です。
 いやー、当麻がこんな可愛らしいお嬢さんとお付き合いさせていただいてるなんて…
 親として冥利に尽きるな、ねえ母さん」

「いつも当麻さんを支えてくれてありがとうね、美琴さん。
 当麻さんったら、偶に連絡すると美琴さんの話ばかりで…」

「ちょっ、母さん!!
 余計なことは言わなくていいよ!!」

詩菜の言葉に上条と美琴は顔を赤くした。
そして美琴は刀夜と詩菜のことをしっかりと見つめる。
上条から過去の話を聞いた時はゾッとした。
上条の不幸が怖かったわけではない。
人がそこまで汚くなれるという事実が怖かった。
しかしそんな過去を背負っても上条が歪むことなく真っ直ぐでいられるのは
恐らく目の前にいる上条の両親のお陰だろう。
初めて会ったにも拘らず、一緒にいると心が温かくなるのを感じる。
そして美琴は自分も上条にとってこんな拠り所になりたいと思うのだった。

「そろそろ開会式が始まるから、また後でな」

そう言って手を繋いで歩いていく上条と美琴のことを
刀夜と詩菜は微笑ましく思いながら見送るのだった。






やたらと長く、そして数の多い校長先生達の話を終え、
まるで地獄のようだった大覇星祭の開会式から解放された上条は
来た道を逆戻りして自分の学校の校庭へと向かう。
大覇星祭には地獄のような開会式の他に、
こうやって一々会場を移動しなければならないという難点があった。
美琴も別の開会式の会場から応援のために上条の学校に向かっているはずである。
美琴がこの暑さにやられてないか心配する中、上条が校庭へ向かうと…

「うっだー…、やる気なあーいーぃ…」

完全にだらけ切ったクラスメイトの姿があった。

「ちょ、ちょっと待ってください皆さん。
 何故に一番最初の競技が始まる前からすでに、
 最終日に訪れるであろうぐったリテンションに移行してるんですか?」

すると反射で汚れがつかないことをいいことに
完全に地面に突っ伏してる白髪の少年が言った。

「あァ、どっちかっつゥとテメェのテンションの方ォが異常ォだろ?
 あンな糞長ェ校長共の話を聞かされて、こっちはやる気なンて起きねェっつゥの」

そんな少年に向かって茶髪で美琴を少し年上にした感じの少女は呆れたように言った。

「第一位は反射を使って熱にやられることがないだけ、まだマシでしょ。
 ミサカは暑すぎて、色んなところが蒸れて嫌んなっちゃうよ」

そう言ってハーフパンツを広げて上から覗き込む少女に男子の目は釘付けになっている。

「あンま下品な真似をしてンじゃねェぞ」

「あれ、第一位ったら妬いてんの?」

「テメェの品格が疑われねェよォに親切で言ってるだけだ」

そうして言い争いを始めた少年と少女の名前は一方通行と番外個体。
先日になって上条の通う高校に転入してきたばかりだ。
転校生が同時期に同じクラスに三人もやってくるなど本来はありえないが、
何か見えない力が働いたに違いない。
打ち止めも小学校に通い始めており、今日は一方通行と番外個体と別行動を取っている。
一方通行も番外個体もクラスに馴染んでいるようで、上条も安心していた。
ちなみにキャラの濃い二人に新学期初日に転入してきた姫神は

「…。完全に食われた」

と嘆きつつも吹寄と番外個体と仲良くしている。
そんな風にますます喧しくなった上条のクラスだが、今は見る影もない。
するとそんな所に大覇星祭運営委員の吹寄がやって来た。

「…な、何なの、この無気力感は!!」

吹寄はクラスメイトの様子を見ると、真っ先に上条に詰め寄ってきた。

「上条、また貴様が無闇にだらけるから、それが皆に伝染して。
 貴様…これはどう収拾をつける気なのよ!!」

「なっ、それは完全に濡れ衣…」

「吹寄ちゃん、上条が大覇星祭なんてやってられないって言ってました!!」

「番外個体、てめぇ!?」

「ほう、クラスが一丸になって戦おうとしてる時にやってられないとは…
 貴様、覚悟は出来てるんだろうな?」

「不幸だー!!!!」

そんな騒々しいクラスの様子を見て、小萌は微笑んでいる。

「今日もウチのクラスの子は元気なのですよ」

「…一人、戦闘不能になりそうな奴がいるじゃんよ」

そして同僚の黄泉川は小萌とは対照的に苦笑いを浮かべていた。

「…でも上条ちゃんが都市伝説の『執行部』の人間だなんて信じられないのですよ」

「確かに、ああやってると馬鹿なガキにしか見えないじゃんよ。
 でも確かにあの時は仕事に向かう人間の目をしてたじゃん。
 それに…」

「何かあったのですか?」

「上条の体育の成績は上の中程度じゃん。
 でも試しに授業が終わった後に、基本的な種目を本気でやるよう言ったじゃんよ。
 そうしたら全種目S+の成績、肉体強化の能力者に匹敵する結果だったじゃん」

「じゃあ普段は上条ちゃんは手を抜いてるのですか?」

「恐らく『執行部』という関係上、あんまり目立つ訳にはいかないじゃんよ」

「…大人に何か出来ることはないのですかね?」

「…子供の居場所を守ってやるのも立派な大人の役目じゃんよ」

「そうですね…」

そして大人達は今日も自分達の仕事へと戻っていく。






そして上条達の学校の第一種目が始まることになった。
上条達が参加するのは棒倒しだった。
自軍の陣地に長さ7mの棒を立て、
自軍の棒を守りつつ相手の棒を倒すというオーソドックスなものだ。
火炎や念動力の槍等が飛び交うことを除けば…
上条達のクラスはやる気がないことに加え、相手の学校はスポーツのエリート校。
頼みの綱の一方通行は干渉数値の関係で大会中、能力が全く使用できない。
勝負の行く末は明白だった、上条がある会話を耳に挟むまでは…

「そんな事は絶対にないですよーっ!!」
 ウチの設備や授業内容に不備があるのは認めるのです!!
 でもそれは私達のせいであって、生徒さん達には何の非もないのですよーっ!!」

上条は競技前に急に尿意に催され、校内のトイレに向かっていた。
そしてその帰り道、小萌が対戦校の男の教師と言い争いをしてるのを見かけたのだ。

「はん、設備の不足はお宅の生徒の質が低いせいでしょう?
 結果を残せば統括理事会から追加資金が下りるはずなのですから。
 くっくっ、もっとも落ちこぼればかりを輩出する学校では申請も通らないでしょうが。
 まったく、失敗作を抱え込むと色々蕾労しますねぇ」

「せ、生徒さんには成功も失敗もないのですーっ!!
 あるのはそれぞれの個性だけなのですよ!!
 みんなは一生懸命頑張っているっていうのに!!
 それを…それを、自分達の都合で切り捨てるなんてーっ!!」

「それが己の力量不足を隠す言い訳ですか?
 なかなか夢のある意見ですが、私は現実でそれを打ち壊してみせましょうかね?
 どうやって第一位を招き入れたかは知りませが、
 大覇星祭じゃ能力が使えないと聞いていますよ。
 うん、ここで行う競技は棒倒しでしたか。
 くれぐれも怪我人が出ないように準備運動は入念に行っておく事を、
 対戦校の代表としてご忠告させていただきますよ?」

「なっ…」

「あなたには、前回の学会で恥をかかされましたからねえ。
 借りは返させていただきますよ、全世界に放映される競技場でね。
 一応手加減はするつもりですが愚図な失敗作どもがあまりに弱すぎた場合は
 どうなってしまうのかはこちらにも分かりませんねえ」

そう言って男の教師は高笑いを上げながら去って行ってしまった。
上条の位置からでは小萌の顔は見えない。
しかしその肩は震えているように見える。

「小萌先生…」

「あっ、上条ちゃん。
 早くしないと競技に遅れてしまうのですよ」

小萌の目は赤くなっていた。

「今の話を聞いてたのですか?
 気にする必要はないのですよ、ただ怪我をしないように気をつけてくれさえすれば…」

小萌はそう言って笑顔で上条の顔を見る。
しかしそこにあったのは、いつになく真剣な表情をした、
小萌が今までに見たことがない上条の顔だった。






「土御門、悪いけで今日はちょっとマジでやるわ」

「何かあったのかにゃー?」

「…ちょっとな」

上条の真剣な眼差しに土御門はニヤッと笑うと悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

「どうせちょくちょく『執行部』の名も知れ渡ってきたところぜよ。
 カミやんの好きなようにやって構わないにゃー」

「サンキューな」

そして競技を伝える笛の音が鳴った。

「いくぞーーーー!!!!」

相手の陣営から凄まじい掛け声が聞こえてきた。
それに比べて上条の学校はやる気がイマイチ伝わらない。
そもそもエリート校に対して真正面からぶつかる競技で勝つのは至難の業だった。
挙句の果てに相手校に攻め込むのには怪我のリスクがあるので、
攻めの人員はジャンケンで決めるほど消極的だった。
しかしそんな中、上条は敵陣に向かって一人突撃を開始した。

「無茶よ、早く下がりなさい!!」

吹寄の声が遠くに聞こえたが上条は気にせず突撃を続けた。
そして上条を目掛けて超能力の嵐が襲ってくる。
上条は超能力者と戦ったことは魔術師に比べて極端に少ない。
しかしその攻撃は『プロ』である魔術師に比べて一辺倒だ。
そのような攻撃で幾多の戦場を駆け抜けた上条を捉えられるはずがなかった。
超能力の嵐を掻い潜り、避け切れない時は右手を使って打ち消し、
上条は敵陣にどんどん進んでいく。

「何をやってる!?
 相手は一人だぞ、人数を使って取り押さえないか!!」

先ほどの男の教師の怒声が聞こえてきた。
男の教師の指示に従って十人近くの人数で相手校の生徒が上条を取り押さえにきた。
しかし上条は人数を物ともせず合間を縫うように進んでいく。
すると上条の行動に鼓舞されたのか、
上条の学校の男子生徒が次々と上条に続いて敵陣に向かって走り始めた。
やがて相手校は防戦一方の展開になり、
相手との距離も近いので能力の使用があまり出来なくなってくる。
そして戦いは肉弾戦に縺れ込んだ。
そうなればいくら能力においてエリート校といえども、上条の学校にも勝機が出てくる。
そして最初から攻撃寄りに傾いていた上条の学校の陣営がそのまま押し切る形で、
相手校の棒を見事打ち倒したのだった。

「何をやってるんだ、貴様らは!?」

第一種目から手に汗握る攻防を展開した生徒達に惜しみない歓声が送られる中、
例の男性教師は自分のクラスの生徒達に向かって怒鳴り散らしていた。

「あんな底辺校に敗北するなんて、私の顔に泥を塗りおって…」

そう言い掛けた時、男性教師は何処からか視線を感じた。
男性教師が視線を感じた方に目を向けると、
そこにはただひたすら冷たい目をした男子生徒が佇んでいた。
別に敵意を向けられているわけではない。
ただ冷たい、凍らされるような視線だった。
背筋が凍るような感覚に男性教師は縮み上がった。
そして気付いた時には自分に視線を送っていた男子生徒はいなくなっていた。
男性教師に怒鳴り声を上げる気力はもう残されていなかった。






クラスメイトから惜しみない賞賛を送られ、もみくちゃにされた後、
上条は美琴の下に向かっていた。
上条が顔を見せると美琴は笑顔で上条のことを出迎えてくれた。

「凄かったわね、当麻!!」

「まあ色々とあってな、少しだけ本気を出した」

「凄く、かっこよかったよ」

「ハハッ、美琴にそう言ってもらえたら頑張った甲斐があるってもんだ」

上条は美琴の横に並んで座る。
すると美琴が黙って上条に体を預けてきた。

「どうした?」

何処か不安そうにしている美琴の肩を抱きながら上条は尋ねる。
すると美琴は少し罰が悪そうに答えた。

「あのね、変な風に思わないでね。
 当麻があれだけ頑張るのって誰かのためだと思うの。
 それでそれが女の人のためだったら嫌だと思って」

美琴は少し恥ずかしそうに頬を染めていた。
そんな美琴に上条は苦笑しながらも、正直に答える。

「まあ確かに女の人のためだけど、ウチのクラスの担任の先生のためだ。
 なんか相手校の教師にウチの学校を含めて馬鹿にされれてな。
 ったく美琴は割と嫉妬深いよな」

「だって、当麻のことが大好きなんだもん」

「いや、悪い意味で言ったんじゃないんだ。
 俺も同じ立場だったら嫉妬せずにはいられないと思うしな」

「本当?」

「ああ、上条さんは美琴が他の男と話してるのを見てるだけでも
 嫉妬するくらい嫉妬深いぞ。
 だから本当は片時でも美琴に傍からいなくならないで欲しいくらいだ」

「ふふ、嬉しいな」

「そこは呆れるところだろ?」

「ううん、喜ぶところよ」

上条と美琴はそう言うと顔を見合わせて微笑みあう。

「次は美琴の借り物競争だな。
 それじゃあ、そろそろ向かうか?」

「うん!!」

そして上条と美琴は手を取り合って歩き始めるのだった。








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