とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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その右手を避けて



学園都市に7人しかいない、超能力者(レベル5)の第三位。
名門・常盤台中学のエース、無敵の電撃姫、超電磁砲(レールガン)――御坂美琴。
私のステータスを以ってしても未だある男に勝てないでいる。今の所、全戦全敗…黒星続き。
そろそろこの全敗記録に終止符を打ちたい。

そんな私の全敗記録を更新し続ける男――上条当麻とは。
どんな能力も効かない男と、都市伝説ではそう載っている。
書庫(バンク)にも情報はない。それはアイツが無能力者(レベル0)だからだ。
いや…そうじゃない、システムスキャンではそう判断されただけ、生まれたときから持つ能力。
天然素材であるアイツに、私は…たぶんあの時はプライドが許さなかったんだと思う。
でも、今は?と聞かれると全く別の感情が絡んで、色々と複雑…乙女のデリケートな問題になる。

いつも素直になれなくて、つい思ってもないこと言っちゃったり。たまに優しくされて、ついデレちゃったり。
言っておくけど、世間一般で言われてる、わっ私は別にツンデレってタイプじゃないんだからね!
そんなわけがないじゃない。そうよ…私はちょっと照れちゃってうまく言えないだけなんだから、だから本当に違うんだからね?

ああもう、いつの間にか話が違う方向へ逸れてたわ。
アイツと初めてあった時から、今に至るまで追いかけては、勝負を挑んできた。
あの能力はどういうものなのか、最初は避雷針かなにかを出しているのかとも考えた。
でもアイツは無能力者、それはありえない。じゃあ、何だろう…ってことで色々な戦法で試してみたわ。

導き出される答え、アイツの能力は範囲が限定されてるんじゃないかってこと。
いつも右手だけ…そう右手だけなのよ。私が、手加減されてるだけなのかもしれないけど。
アイツ、左手は使うのかしら…使ってないだけ?とりあえず両手は危険だから、他の部位に触れることができれば勝機はあるかもしれない。

よし、憶測の域は出ないけど、実戦で試してみようじゃない。

みんな応援宜しくね!っつーか誰に向かって話してるんだろ私。

いざ、出陣。

 <><><><><><><><><><><><>

夜の河原で。
2人は対峙していた。
いつものように電撃の応酬から始まる。
これは既に決まりごとのようなものだ。
喧嘩とはいえアイツは決して自分から手を出してこない。
だから先手はいつも私からになる。

電撃から、砂鉄ブレード、ムチへと変化させていく。
にしてもどういう反射神経してんのよもう、避けすぎよ。
毎度のことだけど、私の攻撃避けるの段々うまくなってない?
更なる攻撃を仕掛ける、これは入った、避けれないはず。
さぁどうする?見極めるためにじっとアイツの動きを観察する。

それは右手によって打ち消された。

 予想通り。
(やっぱり!右手しか使ってない…)
 私は確信した。
「まだよ!」
 空気中に散った砂鉄を使う。竜巻のように渦をまく。

(いつも見せてる手だから、絶対に油断するはず!)

「何度やっても、同じだ!」
 右手が閃き、砂鉄の渦はかき消される。
アイツの意識が砂鉄にいっている隙に、私は後ろに素早く回りこんだ。
計画通り、全て順調。いざ、実行。

「つ~かま~えた♪」
「しまっ…!?」

(獲った!右手しかその能力が使えないとしたら、これならどう?)
 背後からの奇襲、逃がさないようにしっかり腕を回す。
「これで、私の勝――――」

 覚悟しなさいよね、と初勝利に向かって止めの一撃を繰り
「ちょっ、待て…みっ御坂、そのむ、胸があたって…!」
 …出せなかった。
「………ポン!」

(なっななな何を言い出すのよ!胸が当たるって…えっ?)
 アイツの一言に動揺して、演算もままならない。

 深刻なエラーが発生しました。
 あれ?私、えっと…アイツを背後から抱きしめて……。

(――抱きしめて!?)

「…………ふっ、ふっ」
 どのような状態になっているのか自覚した瞬間、私の思考回路はショートした。
「ふっ…ふにゃ~~~~~~」
 制御できない感情が、パチパチと青白い火花となって溢れだす。
「ってぇぇぇえ?!ちょっ、お前…」
 力の入らない腕を解かれて、向き合ったかと思うと抱きしめられた。
「危ねー、なんとか治まったか…って御坂?」
「………もうらめ」
 ダメって言おうと思ったのに噛んだ。動揺しすぎだ私。

(もう、どうしていいかわかんない…)
 受け入れられる容量をオーバーして、私、息をちゃんと吸えてる?吐けてる?
 抱きしめられるという衝撃に聴こえてくるアイツの鼓動、微かな香り、体温。

「…………………、」
 堪らず、私はアイツのシャツをぎゅっと掴んで、寄りかかってしまった。

「み、御坂…ど、どうした?!」
「………な、なんでもないから」
 息も絶え絶えという様子に。上条は心配になった。
「なんでもないじゃねーよ…」

(もしかしてこいつ、急に体調でも崩したのか?)
 このお嬢様は、無理をしているという自覚症状がない。
 電撃というなまじ高いステータスを持ってるが故に、身体に負担があってもお構いなしな所がある。
 こいつのストレス発散のためにこういう事に付き合っていたとしても、流石に倒れられたりするのはまずい。

 様子を伺う。
 ふむ…僅かに体温が高い気がする。それに顔も火照って…心なしか呼吸も早いな。
 何だかんだ言ってもまだ中学生、しかも女の子。やっぱり無茶し過ぎたんだなと結論付ける。
 それに短パンを履いているとはいえ、そのスカートは短すぎだし寒そうだ。河原から来る冷たい風にやられて、風邪を引いたのかもしれない。

 上条は。
 熱がないか確かめようと、右手で美琴の額に触れる。そして前髪を上げ額同士をくっつけた。
「…………っ!」
 額に触れられて、前髪を上げられて、こつんと額同士がくっつく。
 2度目の衝撃。視界いっぱいにアイツが広がって、クラッと意識はブラックアウト寸前。
「熱は……ないみたいだな…んっ、いや少しあるか。――って今上がってるのか?」
 こりゃ、早く帰らせないと本格的にまずいなと呟くのが聞こえる。

(……ちょっ、ちっ近い近いから近すぎるから!)

 こっちはそれどころではない…その距離は反則だ。無自覚にもほどがあるわよ。
 オーバーヒート、聞こえちゃってるんじゃないかと思うぐらい、胸は高鳴って。
 ああ…頬が熱い、だめだ、顔はきっとものすごく変なことになってるに違いない。
 恥ずかしい。こんな顔、ホントは見られたくない。そもそもこんなハズじゃなかったのに。

 また勝てなかった…。もう同じ方法を実行する事はできないし、っつーか無理。
 あ、でも…ちょっと意識してくれたんだよね私の事。――それだけでも収穫があったかな。

――そうだ、もう開き直ってしまえ。
 今日だけはちょっと素直になろう。
 だから私の心が静まるまで、その胸を貸して。
 いつもの私じゃないけれど、今だけ甘えさせて。
 私に勝ったんだから、それぐらいサービスしてくれたっていいでしょ。

「御坂、お前…ボーっとしてるけど大丈夫か?早く帰ったほうが…」
 寮まで送って行くぞと、気遣わしげな声。
「…うん、大丈夫、べつに」
 掴んでたシャツを離して、私はそのままアイツの背中に手を回す。
 顔を見られないように、その胸に埋めて隠して。
「…?!」
 あ、意識してくれた…鼓動が早くなってる。
「その……も、もう少しこのままでいさせて」
「お、おう…」

(今だけ…今だけなんだから、もう少ししたら…いつもの私に戻るから)





(終)


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