*スライダリンク機構 かわさき脚などで有名なリンク機構のうち、スライダリンクの解説ページです。 **その前に スライダリンク機構は、4節リンク機構の発展としてとらえるのがいいでしょう。 ちなみに4節リンク脚については以下のソフトが優秀です。 [[Links>>http://signed.bufsiz.jp/Links.html]] かわさきロボットの脚でよく使われている2種類のスライダと発展型の計3種を解説します。 **直線スライダリンク機構 最も簡単で「かわさき脚」と呼ばれるリンクといっても過言ではないリンク。 クランクと直線スライダだけで作ることができ、サイズも抑えやすい。 完全左右対称のリンクのため、前後で差が出ないというところも特徴の一つ。 弱点としては脚先の円弧軌道が楕円となり、必ず上下に振動が発生してしまうか、回転速度にむらが出ること。 もちろんパラメータを調整することで上下振動は抑えられるので、十分実用的です。 #image(スライダ.jpg,width=363,height=333,title=直線スライダ,left) (赤がスライダ部分、白い円がクランク) **疑似ヘッケンスライダリンク機構 かわさきロボットでよく使われている高性能リンクの疑似ヘッケンリンクを、 そのままスライダリンクにしたもの。 スライダ化の強みとしては節が一つ減らせること。 脚先軌道が限定的にほぼ理想的な円を描くため、 上下振動が非常に少ないことからタイヤ脚と呼ばれることも。 #image(ヘッケン.jpg,width=300,height=300,left) 動き・原理については以下のページが一番わかりやすいでしょう。 [[かわさきロボットに魂を売り払うためのWiki ヘッケン脚>>http://uemurakoubou.xsrv.jp/kawarobowiki/index.php?%A5%D8%A5%C3%A5%B1%A5%F3%B5%D3]] **特殊スライダリンク機構:うしとら脚 理想ヘッケンスライダリンクのスライダを途中で歪ませることで、 完全円軌道を実現したスライダリンク。 構造は疑似ヘッケンスライダリンクと同じで、 途中でスライダの円弧を変えることが特徴。 この原理を応用すると、減速比が途中で変わるリンクなども実現できる。 「艮」の名前については過去にこのリンクを使ったロボットの名前からだったと思われる。 #image(うしとら.jpg,width=300,height=300,left) **スライダリンクシミュレータ 3種類のスライダリンク専用のシミュレータを作成中です。 もう少しお待ちください。 **直線スライダリンク脚の設計法 脚先の軌道が円にならないため、人それぞれ何を優先させるかで設計法が異なるようです。 代表的な設計方法は以下の通りです。 1.シミュレータなどで以下のパラメータを決定する -クランク径 -固定軸の距離 -脚先高さ -脚の円弧形状(半径・角度) 上下振動、超える段差などから、設計のパラメータを決定します。 2.パラメータからクランク円・固定軸を書く #image(スライダ設計法1.jpg,width=500,height=400,left) 固定軸の太さは想定している軸の太さにします。 クランク円は設計の基準として使います。 固定軸とクランク円の中心を結ぶ直線は不要です。 3.クランク円の下を基準として、スライダを書く スライダの長さは、クランク直径と等しくなります。 クランク円の下に脚がいるとき、固定軸から最も遠くなりますので、 スライダの上端が固定軸、下端までの距離がクランク直径となります。 #image(スライダ設計法2.jpg,width=400,height=400,left) 4.脚先を書く シミュレーションで決めたパラメータを使用し、クランク円の下を基準として脚先の円弧を書きます。 ついでにクランクを受ける軸も書きます。 #image(スライダ設計法3.jpg,width=450,height=400,left) 5.肉付け 脚先の円弧の上から、クランク、スライダを囲うようにフレームを作ります。 強度、剛性、クランク軸を受ける方法などから、厚みを決めてください。 #image(スライダ設計法4.jpg,width=450,height=400,left) ここで問題となるとは理想的な円に近づけるほど固定軸とクランク受けの距離が近くなることです。 設計に問題があれば、また1のステップからやり直しになります。 **疑似ヘッケンスライダリンク脚の設計法 基本的なステップは直線スライダと同じですが、スライダの書き方が異なります。 1.パラメータを決める シミュレーションなどでパラメータを求めます。 直線スライダのパラメータと似ていますが、 オフセット値(いわゆる何mm上げ)が追加となります。 2.クランク円、固定軸を書く 基準となるクランク円と、固定軸を書きます。 クランク円の中心を原点と呼ぶことにします。 固定軸はクランク円と水平とします。 ここで水平とするか、高さにオフセットを加えるかは設計法によって異なるかもしれません。 #image(ヘッケン設計法1.jpg,width=400,height=300,left) 3.オフセット位置から固定軸を通る円を書く 円の中心から上方向にオフセット分の直線を書き、 そこから固定軸を通る円を描きます。 これがスライダの円のベースになりますので、スライダ円と呼ぶことにします。 #image(ヘッケン設計法2.jpg,width=450,height=400,left) スライダの半径は軸間距離と異なります。 4.スライダの動作角を求める まず、クランク円の下を中心に、軸間距離+クランク半径、軸間距離-クランク半径の2つの円を描きます。 ここで使うのはあくまで軸間距離で、スライダ半径ではありません。 するとスライダ円との交点が上下左右で4箇所ありますので、右の2箇所までオフセット位置から直線を引きます。 ついでにクランク受けも書きます。 #image(ヘッケン設計法3.jpg,width=539,height=514,left) これがスライダが動作する角度となります。 上下対称にならないのがこの設計法になりますので、 上下対称にしたい場合は、また違った設計法を試してください。 5.不要な線を削除し、脚を書く 角度が求まったので、スライダ円を2本の線の間だけになるようにトリムして、 最大円、最小円は削除します。 そして、オフセット位置または原点が中心となるように脚裏の円弧を描きます。 これも設計法で若干異なるかもしれません。 足裏の円弧軌道は理想的な円にほど近いので、足裏半径は自由に設定できるのが特徴です。 #image(ヘッケン設計法4.jpg,width=539,height=514,left) 6.肉付け あとはフレームの厚みをつけて完成です。 #image(ヘッケン設計法5.jpg,width=539,height=514,left) 7.ちなみに 最大角を求めたときに、原点から最小円、最大円の接線の角度が求められます。 これが最大圧力角となります。 オフセット値を0とすると理想ヘッケンスライダとなりますが、 この最大圧力角が90度=死点となることがわかります。 #image(ヘッケン設計法6.jpg,width=450,height=450,left) **うしとら脚の設計法 理想ヘッケンスライダでは死点が生まれますが、 それを回避したのがうしとら脚となります。 1.パラメータを決定する。 シミュレーションなどで決めます。 新たに追加となるパラメータが、 標準スライダ角度と最大スライダ角度です。 2.クランク円、固定軸を書く 疑似ヘッケンスライダと全く同じです。 固定軸は必ず水平になります。 3.原点中心に軸間距離が半径となるスライダ円を書く 原点中心で固定軸を通るスライダ円を書きます。 理想ヘッケンスライダのスライダ円です。 #image(うしとら設計法1.jpg,width=450,height=450,left) 4.クランク円の下を基準にクランク受け、最大円、最小円を書く 疑似ヘッケンスライダと同じように、クランク円の下から、 最大円(軸間距離+クランク半径)、最小円(軸間距離-クランク半径)の、 2つの円を書きます。 #image(うしとら設計法2.jpg,width=450,height=450,left) 5.標準スライダ角度、最大スライダ角度で直線を引く 原点から水平から上下に標準スライダ角度と最大スライダ角度が開くように直線を引きます。 (このとき上下にオフセットをかけるとまた違った特性が得られるかもしれません) 円より長い分にはトリムすればいいので問題ありません。 #image(うしとら設計法3.jpg,width=450,height=450,left) 6.標準スライダ角度でスライダ円を引き、最大スライダ角度と最大円・最小円の交点まで直線を引く まずはスライダ円を標準スライダ角度で円弧にします。 次に最大スライダ角度の直線と最大円・最小円の交点まで、スライダ円弧の橋から直線を引きます。 (下図の黄色の線です。) #image(うしとら設計法4.jpg,width=450,height=450,left) 原点から交点までの直線とスライダの角度が最大圧力角となります。 これが90度ではないことが確認できると思います。 7.不要な線を削除し、脚をつける 黄色の線が引けたのでスライダはほぼ完成となり、最大円、最小円はもう不要となります。 不要な線を削除して、原点中心となるようにクランク中心・脚裏円弧を引きます。 #image(うしとら設計法5.jpg,width=450,height=450,left) 8.肉をつける 最後にフレームとしての肉厚をつけて完成です。 #image(うしとら設計法6.jpg,width=450,height=450,left) オフセットを利用するとスライダの端と直線の間でずれが生じるので、 適当にフィレットしてください。 または直線ではなく、円弧で補間するという手もあります。 **ところで なぜヘッケンスライダとうしとら脚では、最小円、最大円という概念があったのかという事について。 まず2辺3節、片側オープンのリンクを考えます。 軸が固定された回転軸を第1節 接続部を第2節 端点を第3節 第1節と第2節の間を第1辺 第2節と第3節の間を第2辺 と呼ぶことにします。 下図がイメージです。 #image(スライダ解説1.jpg,width=450,height=450,left) このとき、第3節の取りうる位置は、 第一節の回転軸を中心として、第1辺-第2辺を半径とする円から第1辺+第3辺を半径とする円の間となります。 #image(スライダ解説2.jpg,width=450,height=450,left) これが最小円、最大円となります。 一方で、第3節の位置を決めても第1辺、第2辺は2通りの置き方があります。 #image(スライダ解説3.jpg,width=450,height=450,left) この置き方が2通りあることを利用して、リンク脚は戻しを行っています。 この置き方を変える作業が、切り返しとなります。 ゴイル脚、観覧車脚(並行リンク脚)と呼ばれるリンク脚には、この切り返しが存在しません。 ただしリンクを切り返すには、第3節が最小円または最大円の上を必ず通る必要があります。 よってクランク軸が無限回転できるリンクというのは、 最小円、最大円を通って切り返しがあるか、 最小円、最大円の上を通らずに1周する、 という2通りになるわけです。 さて、スライダリンクに話を戻すと、 クランクの回転中心とスライダの最短位置および最長距離が、最小円および最大円に当たります。 最小円または最大円をなぞるようにスライダ線を引くとそこが死点となります。 よって、最小円から最大円までどのような線で結ぶか、がスライダリンクの設計となるわけです。 さて、ここまでほとんどが自論になりますので、正しい、間違っているなどあるかと思います。 (ちなみに機構学を受けたわけでもないので・・・) 間違いなどあればコメントいただくか、wiki式なので修正してもらえると助かります。