アットウィキロゴ
ルクス一の最高峰の麓に、ルクス統一王国の都はあった。
白銀色に輝く城の天守は、戦国時代に築かれ、以降、王国の宝玉として代々伝わる遺物。
城下町を囲む城郭も同年代に造られたようで、外敵の侵入を防ぐため、高く堅牢に設計されており、一度も壊されたことがない。
しかし、当の戦争は千年前に終結し、いまや平穏な時代が延々と続いているのに、この不要な天守や城郭が遺されている理由は、元々、ルクスの民は伝統を重んじるからだ。
何よりも、この城が民にとって大のお気に入りでもあり、また城主も民から敬慕の念が厚い。
城主の善政によって、民は飢餓からも、戦からも、重税からも解放されて、慎ましく生活を営んでいた。
そんな平凡な惑星に、卑しき興味を抱きつつある勢力があろうとは知らずに……。

蒼穹の空の下、眼下に広がる城下町。
市場が交易商人で賑わいを見せる様子が伺える。いつもの風景。
今日も、何もすることがないな…。
いやそれはとってもよいことだ。平和なんだからね。
だけど、こういう平凡な生活が続くと、無気力感に襲われる。
城主として、国をまとめる必要があるが、今ではそんなことをしなくても、各領では自主的に纏まっている。私がやることはない。
大昔のように、身振り一つとって非難したり、戦いが起きたりすることはない。
あるのは恒常的平和と、退屈だけ……。
ううむ。最近病んでいるな。気分転換にでも行くか…。

しかし、執務室から出ると、そんな私の暗鬱な気分を瞬時に吹き払ってくれる存在がいた。
私の愛おしき孫娘。幼きころ母、父、つまり我が娘とその舅だが、それを失った。
執事の運転する浮上車が誤作動を起こし、そのまま崖へ…。
平和なルクスを揺るがした唯一の事件だった。
奇跡的に生き残った孫娘を、私は養子として引き取った。
それから10年もの年月が経った。
15歳だが、次期城主を継いでもらうつもりだ。
養子とて、我が娘の子であるから、正統に城主を継ぐ権利がある。
私ももはや時期が来たようだ。死ぬ覚悟は出来ている。
だが、この顔を見てしまうと、今すぐには死ねないと思い返す。
まだ孫娘は未熟で無謀な面が残る。いまでは平和なルクス王朝だが、政治如何によっては情勢が変わるやも知れぬ。そうならぬよう、私が教えねばならない。
「国王陛下、お出かけなさるのですか?」
「ああ、ちょっとした気分転換に、リグル川沿いを散歩だ」
「わたくしで良ければ、お付しましょうか?」
「むむ…」
「陛下はここ数月ほども、何か思い悩んでいるご様子。長期に休暇を取られてはいかがですか?」
「我が娘よ。助言には感謝する。だが、あいにく私には休暇を長く取る余裕すらもないのだ。わかるかね?」
「……、はい」
我が娘は、白銀の目をしている。それはまるで、我が城の天守の如き輝きを発している。
そして長い髪の色は山麓の紺碧の樹海の如きだ。
私の感が正しければ、この娘の時代にもこの安寧が続くはずだろう。
幼きころは、私の執務室にお盆に載せた紅茶をよく引っくり返して怒られていたもの。
よく紅茶一つ運べん娘が、ここまで成長したかと思えば王家一族としても誇りだな。

「留守はよろしく頼んだぞ?」
「はい」
我が娘、いや王女と呼ぶべきだな。
我が娘と甘やかす次期はとうに過ぎておる。
王女として更なる気品を求めていかねばならない。
これが崇高なる我が一族の掟だ。
"子はある程度育てば、植物のようにどこまでも育つ。苛烈なる保護は害となる"と。
その時に深く干渉すれば、捻くれ者になることが多々あるが、巧くすれば、気高き王女殿下に仕立て上げることが出来る―そういった趣旨のものだが、一族はそれを信じ、子育てでは常に心がけているのだ。

城門には既に護衛兵たちが待機していた。
「国王陛下、私どもは任務により護衛を行いますが、お気になされないように」
「そのつもりだ」
護衛兵などつける必要もないが、形式上、王家の者が出かける時には数名を随伴させる決まりとなっている。
この面倒な決まりをどうにかしたいが、提案すると何かと反対意見が出てくる。
結局、我が父の時代から放置されていた。

城下町はとてもにぎやかであった。
市場には各領地の特産物が並べられ、それを買い求める都民でごった返していた。
普段から親しいある店主からは、今日一番のお勧めはノルメク(初夏になると産卵のためリグル川を遡上してくる魚)だという。後で料理長に買わせておくか。

城下町の中央通りを突き抜け、リグル川沿いに進み、川の水源、ラスイー湖の畔に着いた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年12月22日 02:04