宴が終わると、城はものすごい勢いで日常を取り戻す。
日の出前の城門、ククールはすでに旅姿であった。
「なに? もう行く気?」
「世界中の美女が俺を待っているのさ、
ハニー」
「あっそ。良かったわね」
呆れて肩をすくめるゼシカは、あと数日、ここトロデーンに滞在する予定だった。
そんな彼女にククールは「それじゃな」と軽く笑む。
けれど彼女は、「で、また行方不明になるんだ?」と続けた。
だから、彼はいかにも心外だという顔をした。
「酷いな、ゼシカ」
手慣れたものだ。
「俺にはルーラがあるんだぜ? いつでも君の元へ飛んでいくさ。ゼシカはただ望むだけで良い」
自分が嘘吐きだという自信がある。
可能ならば、二度と会わない。
それがいいのだ。
あきらめるには。
「……。」
彼女の返事は無かった。
ちらっとみた顔に、『喜』も『怒』も『哀』も無くて少し残念な気持ちになったが、それでいい。
ついでだから、親愛の意味を込めて彼女の頬にキスをした。
軽く。
で、さっさと離れる。
つもりが上手くいかなかった。
ゼシカがマントをいつの間にか掴んでいたのだ。
彼女は眉をきゅっと寄せて。
ちょっと下を向いて。
「じゃあちゃんと来なさいよ…」
理解出来ない魔法の言葉。
うっかり空耳かと思い過ごしてしまいそうな。
夜明け前は薄暗い。
彼女の顔はよく見えない。
「ちょっと! 聞いてるの?」
今度は『聞こえた』。
聞き間違いなどではありえない。
最終更新:2008年10月22日 22:02