呪いによって、一晩で廃墟と化したトロデーン城。
茨に覆われた城の中は、想像していたよりも凄惨な光景だった。
思わず手を合わせ、祈ってしまう。そして、すぐに気づく。これは違うと。
「別に祈ったからって、なんかこいつらが助かるわけでもねえよなあ。オレの気休めさ」
祈りの姿勢をとることで、そこにある現実から目をそむけただけだ。
この城の人間はまだ生きてる。ドルマゲスを倒して呪いを解けば、助けることができるかもしれないんだ。
祈ってるヒマがあったら、一刻でも早く船を手に入れて、あの道化師野郎を追うことだ。
ふと気づくと、ゼシカがオレの事を見ていた。何となく不思議そうな顔をして。
「どうしたんだ?」
「いえ、珍しいもの見ちゃったと思って」
素で失礼だな、この女。
「オレはこれでも僧侶だぜ? 祈る姿が珍しいわけないだろ」
「そもそも僧侶に見えないのよ」
ここまでズケズケ言われると、むしろ小気味良さまで感じる。クセになりそうだ。
「そうだな、オレも自覚してる。こんな見目麗しい僧侶なんて、確かにいないよな」
「勝手に言ってなさいよ」
呆れ声で返された。
ゼシカの良いところは、とりあえず何らかのリアクションはしてくれるとこだよな。完全に無視されるのは、結構寂しいものがあるからな。
「バカに付き合ってたら、日が暮れちゃうわ。サッサと行くわよ」
そう言って、先に進むゼシカだけど、いつもに比べて歩くペースが遅い気がする。妙に足元、気にしてるっていうか・・・。
「ゼシカ。もしかして、茨が怖いのか?」
「ち、違うわよ!」
ムキになって否定された。図星か。
「手でも、ひいてやろうか?」
意地悪半分、親切半分で申し出てみる。
「いりません。だって、別に怖くないもの」
やっぱりな。まあ、それでこそゼシカか。なんて、思ったすぐ後だった。
呪いをかけられた兵士に手を伸ばしたエイトに向かって、ゼシカが放った一言。
「ねえ、気をつけて。イバラには、なるべく触らないように。だって・・・怖いわ」
おい、ちょっと待て! さっき言ったことと、えらく違わねえか? 何が『怖いわ』だ。エイトに対してだけ、しおらしくなりがって!
いっつもそうだ。オレに対しては『バカ』の一言で片付けることも、エイトが相手だと態度が変わる。
ゼシカが裏表のあるタイプなら、まあ気にもならないんだが、表しか無いのにあれだけ差別されると、さすがに傷つくぞ。
そのまま好感度の差ってことになるからな。
いいけどよ、別に。男に免疫の無いお嬢様に本気になられても厄介だ。だから、本気では口説かない。ちょっと仲良くなって、楽しい付き合いができればいいと思ってるだけだ。
泥臭い旅だ。野郎ばかりでムサ苦しいより、華があった方がいいに決まってる。
それが、戦闘では強くて、度胸もあって、目の保養にもなるなら、申し分ない。
今のところ、ゼシカは全部クリアしてる。
だから、女性には辛いだろうなって部分は、できるだけフォローしてやろうと思ってるのに、ああもそっけなくされると、やる気なくす。
やっと図書室に着いたけど、かったるくて、探し物なんてする気おきねえ。
エイトにも、つい八つ当たりしちまう。
「オレはこのへんを探すから、お前は残り全部を担当な。じゃ、そういう事で」
・・・ゼシカがオレを睨んでる。顔が可愛いから、怖くねえよ。
ヤンガスやトロデ王は、顔は可愛くねえけど、まあ、こいつらに睨まれるのも怖くない。
一番怖いのは、実はエイトなんだよな。温厚そうな顔して、容赦ない。
あんまりバカ言うと『剣の稽古』と称して、シメられる。
普通稽古で、かえん斬りとか、ドラゴン斬りとか、してくるか? 時々、本気で殺されると思うことがある。
しょうがねえ。棚の上の方はオレしか届かねえだろうし、知性もあるから本探しは要領いい方だ。手伝ってやるよ。・・・別にシメられるのが怖いわけじゃないからな。
でもまあ、何だかんだいったってエイトはいい奴だしな。ゼシカが好きになるのは、わかる気がする。免疫ないくせに、男を見る目があるよ。
うまくいくといいな、ゼシカ。オレも影ながら、応援してやるからさ。
せいぜい頑張れよ。
最終更新:2008年10月23日 04:16