祈り-後編



ククールったら、どうしてあんなに意地悪なのかしら。
あんなふうに『手でも、ひいてやろうか?』なんて言われて『ええ、お願い』って答えられるとでも思ってるの?
私のこと『意地っ張り』なんて言うけど、そうするしかないように追い込んでるのは誰よ。もう少し普通にしてくれたら、私だって厚意は素直に受けられるのに。
レディには優しく、なんて言ってるけど、私のこと女性扱いしてくれたことなんて、ほとんどないわ。してるのはいつでも子供扱い。
からかって遊んでるのよ。ひどいわ。
あんな頭も勘もいい人が、私が軽薄な口説き文句はキライだって、わからないはずがないもの。それでもやめてくれないっていうのは、もうハッキリ言っていやがらせよ。わざとやってるのよ。本当に腹立つ。

本当は優しい人だってわかってるから、余計に悔しいのよ。
さっきだって、呪いにかけられた人たちに祈る姿なんか見てると、真面目な人なんだって思った。『気休め』なんて言葉で否定しなくたっていいのにって。
まあ、その後は私も失礼なこと言ったと思う。でも、あんまり普段イジメられてるから、つい憎たらしいこと言いたくなったのよ。元はといえば、ククールが悪いんだわ。
それに、あんまりバカなこと言う時もあるから、ギャップに付いていけないことがある。
荒野のど真ん中で、『船やー。返事しろー船ー』とか言い出した時は、頭痛がしそうだったわ。
さっきだって『オレはこのへんを探すから、お前は残り全部を担当』なんて、エイトに子供みたいなこと言って、皆に睨まれてた。もちろん私も含めて。

つかめない人だわ。知れば知るほど、わからなくなってくかもしれない。
強がりの演技のようで、全部が本心のようでもある。
どこまでが本気で、どこまでが冗談なのかわからない。
無理に全てを理解しようとは、もう思わないけど、信頼はしたいのよ。そうでなければ命は預けられないから。
エイトやヤンガスに対しては、こんなこと思わなかったのに。
すぐに仲間だと思えた。だから、素直に言うことだって聞ける。うっかり甘えたこと言っちゃう時だってある。
でも、ククール対して、同じようには思えない。そんな人の手は取れないわ。逆に不安になっちゃう。

船を再び動かすために必要だという月影のハープを探すために、私たちはひとまず、トロデーン城を後にすることになった。
外に出てみると、見事な満月。
オディロ院長がドルマゲスに殺された夜のことを思い出す。

「怖いのか?」
ドキッとした。ククールがすぐ隣にいた。全て見透かしたような顔をして。
ええ、怖いわ。ドルマゲスに勝てないんじゃないかって、そう考えてた。さっきだってそうよ。茨が怖かった。触れたら私たちまで呪われてしまうんじゃないかって。
そんなこと考えてた矢先に『怖いのか?』なんて、訊かないでほしかった。
認めたくなかった、そんなこと。弱音吐くのなんて、一度でも多いくらいよ。
あんまり、鋭く見抜かないでほしい。私は自分で戦って、サーベルト兄さんの仇を討ちたい。誰かに頼りたいわけでも、守ったりしてほしいわけでもない。

「祈ってみるか? 一緒に」
あんまり唐突なこと言われて、私は咄嗟に返事ができなかった。
「少しでも、こいつらの苦しみが軽くなることを」
ククールは祈り始めた。静かな空間が広がる。私もそれに倣ってみる。
どうか、この城の人たちの苦しみが少しでも軽くなりますように・・・。
気持ちが静まっていく。恐怖が少し消えた気がする。
・・・でもわかったわ。さっきククールが『気休め』って言った意味が。
「祈ってる場合じゃないわね」
私は顔を上げた。
「私たちにはできることがある。ドルマゲスを倒して、呪いを解く。まずは船を手にいれるのが先だわ」
ふと気づくと、ククールが私の事を見ていた。少し驚いたような顔をして。
「どうしたの?」
「珍しいもん見たと思って」
「・・・祈ってる姿が?」
「いや、素直なゼシカが」
・・・なによ、意地悪! 
でもいい、ククールは意地悪で。普通に優しくされたら、私きっと、甘えっぱなしになってしまう。それはイヤなの。
だけど、信じるわ、誰よりも。・・・この人とだったら、きっとドルマゲスを止めることが出来るって。

            <終>






最終更新:2008年10月23日 04:17
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。