いつか-前編


いろいろ振り回されたけど、私たちはようやく船を手に入れることができた。
次に目指すのは、ドルマゲスが向かったという西の大陸。
この船の動く仕組みはよくわからないけど、方向を指定するだけで、定期船とは比べ物にならない速度で進んでくれる。

タワーの上で見張りをしていた私のところに、ヤンガスがやってきた。
「交替の時間でがすよ」
「あら? 次はエイトの番じゃなかった?」
「アッシが代わったんでさあ。エイトの兄貴はククールと、剣の稽古をしてるでげす」
・・・ククールの言うところの『シメてる』のかしら。
ククールがあんまり勝手なこと言ったり、したりすると、その後必ずエイトに『かえん斬り』とかされて、本気で命の危険を感じるらしいから。
でもわかってるなら、ククールもやめればいいのにね、アホなこと言うの。
まあ、どっちの気持ちもわかるわ。

船を手に入れた後、私たちは少しだけ寄り道してみることにした。
ドルマゲスの情報があまりにも少なすぎたし、何より、自分たちの船を手に入れたってことで、少し浮かれてたんだと思う。
メダルを集めてる王族が住んでる島では、役に立つアイテムをもらえたりして、まあ、寄り道するのもたまには悪くないって思ったわ。
ただ、やめておけば良かったって思う場所が二か所あったのよね。

まずは法皇様がいらっしゃるサヴェッラ大聖堂。そこであの『二階からイヤミ』改め『どこでもイヤミ男』マルチェロにバッタリ会ってしまい、最大級のイヤミを言われてしまった。
もうククールったら、すっごくむくれちゃって、エイトに対して『ごちゃごちゃ話しかけてくんな』とか『うっとおしい』とか、言いたい放題。さすがのエイトもあれには腹が立ったんじゃないかしら。
それでもまあ気をとりなおして、今度は巨大な女神像がある聖地ゴルドに行ってみたら、そこでもまたあのイヤミ男に会っちゃって、またイヤミ言われて。サヴェッラでは少しは言い返してたククールも、もう言葉も出ないって感じで。
その晩は、二日酔いになるまで飲んでたみたい。仮にも聖堂騎士なんてやってる人が聖地といわれるところでお酒飲むのはどうかと思ったけど、あの時だけは何も言えなかった。
最悪だったわ。本当に。

夕食の支度を始める時間まではまだ間があるし、私はトロデーン城の図書室から借りてきた本を読むことにした。
船を手に入れたおかげで、旅に出てから初めてこういう時間が持てるようになった。
自分の足で歩かなくて済む分、体力的にも大分楽だし。
とてもいい天気なので、船室に籠もるのはもったいない気がした。ひなたぼっこも兼ねて、船尾の方で読書しよう。
そう思って移動したら、先客がいた。ククールだった。無造作に転がって眠っているように見える。
エイトの姿は見えない。剣の稽古はもう終わったのかしら?
・・・ククール、生きてるわよね? エイトのことだから、殺しちゃったりしないとは思うけど、こんな所で横になるなんて、ククールらしくないから不安になる。
でも、確認するのは、ちょっとためらっちゃう。

まだ仲間になったばかりの頃、私、眠ってるククールに近づいて、殺されかけたことがあるから。
野営をしていた時、火から離れたところで、木に背を預けて眠っていたククールに毛布をかけてあげようとしたら、いきなり首筋にレイピアを突き付けられた。
もちろん切られはしなかったし、私だと気づいたククールはすごく真剣に謝ってくれたけど、あの時は本当に怖かった。
『気配の変化で起きられるようにしておくのは騎士のたしなみ』なんて言ってたけど、あの殺気はそんなかわいいもんじゃなかったわ。
・・・やっぱり、修道院にいた時、マルチェロに殺されかけたことがあったのかしら?
あっても不思議じゃないとは思う。油断なんてできない環境で長く過ごしてきたら、他人のことなんて信用できなくなっても、仕方ないのかもしれない。

でも、ちょっと寂しいな。
私は、ククールのこと、仲間として信頼してるのに。
思えば、お母さんも私のこと信頼してくれなかったよね。
私って、そんなに頼りない人間? 努力すれば、いつかは認めてくれる? 私だって、頼りにしてもらいたいのよ? 守られてばかりなんて、そんなのイヤよ。
ククールが眉間にシワを寄せてる。悪い夢でも見てるのかしら。
そっとのぞき込む。あら? よく見るとなんともない。
でも、私が頭をあげると、また眉間にシワが寄る。
・・・手に持ってた本を掲げてみる。そうすると、また普通の顔に戻る。
なんだ、ただ単に日差しが眩しかっただけなのね。こんなところで寝るからよ、ホントにしょうがないんだから。
少し考えて、隅の方にあるタルを転がして持ってくる。角度を計算して、そのタルを椅子がわりに座る。ククールの寝ている場所に影ができるように。
私が日よけになってあげるわよ。以前、安眠を妨害したお詫び。特別大サービスなんだからね。
私は、持っていた本に目を落とした。

持ってきた本は結構面白くて、夢中になって一気に読み終えてしまった。今は失われてしまった魔法『ドラゴラム』や『パルプンテ』とか、そういった呪文を使いこなす勇者たちの物語。最後が完全なハッピーエンドじゃなくって、ちょっとせつないのよね。
余韻を感じながら本を閉じると、いつのまに目を覚ましていたのか、ククールが私のことを見つめていた。
「やだ、いつから起きてたのよ。声かけてくれればいいのに」
「二十分くらい前かな? ゼシカがあんまり夢中になってるから、声かけられなかった。ところで、何でこんなところで読書してたんだ?」
そんなに前から? 百面相してなかったかしら。恥ずかしい。
「ククールがまぶしそうにしてたから、日よけになってあげてたのよ」
その私の言葉に、ククールは心底意外そうな声で返してきた。
「優しいとこ、あったんだな」
「失礼ね! まるで私が普段、全然優しくないみたいじゃないの!」
「ああ、いや、違う、つい、うっかり。じゃなくて、ほら、あれだ、感激しすぎて口がすべった」
慌てて弁解しなくていいわよ。ククールが私のことどう思ってるか、今のでよ~くわかったわ。
「嬉しいよ、サンキュ」
素直にお礼を言われて、拍子抜けする。何だか、いつものククールより優しい顔してるみたい。何かいいことでも、あったのかしら?
・・・いつでも、こんな感じにしててくれたらいいのに。



最終更新:2008年10月23日 04:30
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