おい、寄り道大好きエイト君よぉ。お前は何だって、こんな人気のないとこまで足を踏み入れようとしやがるんだ。
オレたちは今、ドルマゲスが逃げ込んだ闇の遺跡の結界をどうにかするために、サザンビークに魔法の鏡を取りに行く途中じゃなかったのか?
お前、本気で馬姫様やトロデ王の呪い解く気あんのか? そんなんで、よく近衛兵なんて勤まってたもんだ。
・・・と、さっきまでは、心の中で不満を並べてたんだがな。
まいった、もうエイトの寄り道好きを完全否定は出来ない。
本当に世界は広い。この世に、呪いを解くことのできる泉が存在するなんて、修道院にいたら一生知ることは無かっただろうな。
このふしぎな泉の近くに住んでるじいさんの勧めで泉の水を口にした途端、馬姫様は、あら、びっくり。絵に描いたような美人のお姫様に大変身だ。
でも世の中は、そうそう都合良く、事は運ばない。人間の姿に戻れたのはほんの少しの間だけで、姫様はまた馬の姿に戻っちまった。
可哀想に、ぬか喜びか。ミーティア姫は、すっかり落ち込んでしまってる。
「さあ、出番だぜ、エイト。姫様になぐさめの言葉のひとつでも、かけてやるんだな」
そう言ってエイトの背中を押したことに深い意味は無かった。ただ、その時はそれが一番自然なことだと思ったんだ。
でもオレはそのことをすぐに後悔することになった。すぐ隣にいたゼシカが、小さく呟くのが聞こえたからだ。
「ショック・・・」
ゼシカは姫様を見てそう言った。再び泉の水を飲み、エイトと嬉しそうに話す姿をだ。
そうだ、ゼシカはエイトのことを・・・。
しまったと思った。よっぽど鈍い人間じゃなければ、一目でわかる。姫様はエイトのヤツが好きで、エイトも姫様のことを大事に思ってるってことぐらいな。
「ゼシカ。その、なんだ、まだ決まったわけじゃないんだからさ、そう落ち込むなよ。ゼシカの魅力があれば、まだ勝負はわからないぜ」
ゼシカは、元気のない顔を、オレの方に向けた。
「ククールはどう思うの? 私とミーティア姫と、どっちだと思う?」
言葉に詰まった。軽々しい気休めなんて言うもんじゃないな。自分の首を締めるだけだ。可哀想だけど、エイトとミーティア姫の間には、誰も入り込めない絆ってやつが、もう出来ちまってる。ゼシカの想いは叶わないだろう。
「・・・やっぱりククールも、ミーティア姫の方が美人だと思うんだ」
・・・は?
「ミーティア姫が、あんな美人なお姫様だったなんてショックだわ!」
ちょっと待て。
「でも、スタイルでならミーティア姫に勝つ自信があるわ。私の胸は最強なんだから!」
何だかわからないところで、ゼシカは熱くなっていた。
オレの思考はおいてきぼりになる。
そういう時は迂闊に口を開くもんじゃないんだが、その時のオレはどうかしてた。
「ショックって、失恋のショックじゃないのかよ!?」
ゼシカは心の底から、わけがわからないという顔でオレのことを見た。
「失恋? いったい、何の話をしてるの?」
三分程度でいいから、時間を戻す魔法ってのがあるなら、どんな修行してでも習得するぞ、オレは。言った言葉を取り消す魔法でもいい。
確かめるまでもない。完全なオレの思い込みだ。そういえば最近、オレに対してとエイトに対して、あんまり態度とかに差がなかった気がする。
落ち着け。まだ決定的な言葉は言ってない。何とかごまかせ。ゼシカは信じやすい、どうにでもなるはずだ。
「もしかして、私がエイトのこと好きだと思ってたわけ?」
おい、こら、ゼシカ! こんな時だけ鋭くなってんじゃねえよ!
「あんた・・・女の子のことなら何でもお見通しって顔してるくせに・・・そんなアホな勘違いしてたの・・・」
ゼシカは必死になって笑いをこらえているようだ。一応、姫様とトロデ王に気を使ってるらしい。
ああ、確かにアホな勘違いだったよ。人の恋路を応援してやろうなんて、そんな似合わない考え持ったこと自体が、もうアホな勘違いだ。
慣れないことしようとするから、こういう恥かくハメになる。
余計なことは考えないに限るな。今はドルマゲスを倒すことだ。そうすれば姫様と、ついでにトロデ王の呪いも解ける。全て丸く収まる。
やっぱり、エイトの寄り道グセは何とかしてもらわねえとな。今回のこと全部アイツのせいだぞ。
どうかしてたぜ、まったく。
・・・何でだろうな。・・・ゼシカが絡むと、ホントにどうかしちまうんだよな。
最終更新:2008年10月23日 04:37