勘違い-後編


ああ、もうサイアク。
いくら魔法の鏡をもらうためだからって、不正行為に手を貸すようなマネ、本当はしたくないのに。
しかも、護衛しなきゃならないのは、もう本当に、どうしようもないとしかいいようがない、態度だけはデカい王子様。
アルゴンハートなら、もう三つも手に入れたっていうのに『これじゃあ小さい』ってゴネて、結局この王家の谷で野宿することになっちゃった。
自分はロクに戦いもしないくせに、よくあれだけ勝手なこと言えるわね。かよわい女性がいるってこと、考えてくれないのかしら。
必要な場合なら野宿でも文句なんか言わないけど、できればちゃんと屋根のあるところで眠って、疲れはしっかり取りたいのよ。ただの見栄とワガママのために、付き合わされるなんて冗談じゃないわ。
うう、冷える。そろそろ夜明けかしら。真夜中より明け方の方が絶対寒いわよね。頭にきてたせいで、あんまり眠れなかったわ。こんな体調で王子が納得するまでアルゴリザードと戦わなくちゃいけないのかしら。

不意に肩に何か掛けられた。顔を上げてみるとククールだった。自分のマントを私にかけてくれたんだ。
「ごめん、起こしちゃったか? 寒そうにしてたから」
「ううん、元々眠れてなかったの。ありがとう、ちょっと冷えると思ってたところ。ククールは寒くないの?」
「ああ、元々オレの方が厚着だからな」
この人は本当にマメよね。ここまで気を遣ってくれなくてもいいとは思うんだけどね。

・・・気を遣うで思い出しちゃった。ククールのアホな勘違い。私がエイトに切ない片思いしてると思い込んでたなんて、バカみたい。
思わず吹き出してしまう。
「・・・どうしたんだよ、いきなり」
ククールは怪訝な顔をしてる。
「いえ、何でもないの、ちょっと思い出し笑い」
嘘じゃないけど、本当のこと全部も言えない。言ったらスネるに決まってるから。
どうして私がエイトのこと好きだなんて、勘違いしたのか聞いてみたら、私がエイトにだけ素直な態度だったって言われて、私つい、正直に言っちゃったのよね。
エイトに対してだけ素直だったんじゃなくて、ククールにだけ、素直になりたくなかったんだって。ムッとされたわ、やっぱり。
でも一応、私のこと考えてくれてたんだものね。笑ったりするのは悪いわよね。

アルゴリザードの親玉を倒して、ようやく王子の納得する大きさのアルゴンハートを手に入れたっていうのに、チャゴス王子はバザーに来てた商人から、もっと大きなアルゴンハートを買ってしまった。
信じられないわ。私たちの苦労って一体何だったの?
しょうがないから、このモヤモヤも、まとめてドルマゲスにぶつけることにするわ。
クラビウス王は王子のしたことを見抜いていたけど、約束通り魔法の鏡は譲ってもらえることになった。王様はまともな人で良かった、一時はどうなることかと思ったわ。
でも当たり前よね。私たちは苦労してちゃんと役目を果たしたんだから。

「アルゴンハートを渡したときのクラビウス王は、なんとも言いがたい複雑な顔をしていたな・・・。なんつーか、痛々しくて正視にたえなかったぜ、ホント」
宝物庫への階段をのぼっている時に、ククールが呟いた。
・・・そうね。王様はまともな人だけに、ショックは結構大きかったかもね。
そういえばさっき、チャゴス王子の行動に私やヤンガスが怒っている時も、ククールだけはアルゴンハートを売った商人さんの心配をしていたっけ。
この西の大陸に来てから、ククールは優しくなったと思う。
元々が優しい人だっていうのはわかってたけど、それを素直に表すようになったっていうか、斜にかまえた感じが無くなってきたみたい。
もしかして人見知りする人だったのかしら。うちとけてきただけ?

「階段あがる時によそ見するなよ。危ないぞ」
言われて初めて気づいた。ククールのこと考えてたら、いつのまにか本人のこと見てたみたい。
「オレに見とれるのは、わかるけど」
こういうバカなこと言うところは変わってないわね。
「見とれる要素なんて、どこにも無いわよーだ」
「あいかわらず、容赦ねえな。ま、いいさ。ゼシカが落ちてきてもオレが受け止めてやるよ。なんてったってオレはゼシカだけを守る騎士だからな」
「その手にも乗らないわよ」
そう、ちゃんとわかってるわ。ククールは相手が誰だろうと、絶対助けるわよ。私だけ守るなんてことありえないって。
そんな言葉で勘違いしたりしないんだから。
そこまで私もバカじゃありません。おあいにくさま。

<終>




最終更新:2008年10月23日 04:38
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。