ひとりじゃない-前編


男の人って、皆こうなのかしら。
ようやく闇の遺跡の結界を払って、いざ決戦だっていうのに、緊張感が無さすぎるわ。
ククールとヤンガスはさっきから、まるで漫才みたいなことばっかり言ってる。
『ドルマゲスはカミサンと待ち合わせ』とか『この中の誰かが帰らぬ人になっても、アッシは皆を忘れない』とか、バカじゃないの?
エイトだけは違うと思ってたら、宝箱に入ってたちょっと珍しいアイテムが錬金に使えそうだからって、一度馬車に戻ったりするし。
もう、みんな真面目にやってよね!

「もしドルマゲスが土下座して謝ってきたら、どうしやす?」
ヤンガスがまた、変なことを言い出した。
「そっ、それは問題だな」
何が、問題なのよ、ククールまで!
「無抵抗の敵に手を上げるのは、騎士道に反する」
「なにが騎士道よ。バッカじゃないの」
ついカッとなってしまう。
あいつ、ドルマゲスは、無抵抗のサーベルト兄さんやオディロ院長を、笑いながら殺した奴なのよ。今さら何をしたって許せるもんですか。たとえ刺し違えてでも、あいつはここで止める。もうこれ以上犠牲を出すわけにはいかないんだから。
「ゼシカ、こえーよ」
ククールは笑ってる。どうして、そんなに呑気にしてられるの?
「ククールは、オディロ院長の仇を討ちたくないの? ドルマゲスが土下座してきたら、本当に許すつもり?」
ククールは肩をすくめる。
「あの野郎が、そんなことしてくるとは思えねえな。だから仇はしっかり討つさ。そしてオレは自由になる。
ゼシカも、敵討ちが終わった後のことを考えた方がいいぜ。オレは勝てない勝負はしない。ドルマゲスは必ず倒す。全員で生きて帰るとか言ってる口で、相打ち覚悟なんて言うなよ。ホントにそうなっちまうぞ」
「・・・ごめんなさい」
わかってはいるのよ、本当は、みんな真剣だって。
「リラックスしろよ、何度も言ってるだろ?」
そう、確かにククールはさっきから何度もそう言っていた。

そういえば、以前ヤンガスが言っていた。私とエイトは場数を踏んでないって。
だから、二人でバカなことばっかり言ってたのかしら。少しでも私たちの緊張を和らげるために?
私には帰る家がある。エイトもトロデーン城の呪いが解けたら、元の暮らしに戻れる。でも、ククールとヤンガスはそういうものはもう無いはずなのに・・・二人とも強いね。

さっき、ククールを誘ってみた。ドルマゲスを倒した後、リーザス村に来ないかって。
でもククールは相変わらずのポーカーフェイスで、どう思ったのか全然わからなかった。また『よけいなおせっかい』って思われたかもしれないわね。でも、言わずにはいられなかった。
ヤンガスは『エイトの兄貴のそばがアッシの故郷』って言ってるから大丈夫だと思うんだけど、ククールとは、一度別れたら、もう二度と会えなくなりそうな気がして。
自分は誰にも必要とされてないって、そう思い込んでるみたいなんだもの。とてもほっておけない。
それなのに私の身の振り方を心配するなんて、どうかしてるわ。いつだって、周りの人のことばっかり。
だから、余計に心配になる。
心配してる人間が、ここに少なくとも一人はいるんだって、せめてそれだけでも知っておいてほしかった。
・・・今はもう余計なこと考えちゃダメ。ドルマゲスは気を散らしてて勝てる相手じゃないわ。
あいつはもう、すぐそこにいる。

何なのこいつ・・・。やっとの思いで倒したと思ったのに。
ドルマゲスは変わり果てた。翼に尻尾、尖った耳。もう人間とは呼べない。
私はもうあまりMPが残っていない。ククールもエイトも多分そう。この状態で悪魔の化身のようなこいつと、戦って勝たなくちゃならないんだ。
でも、ククールを見ると、彼は不敵な笑みを浮かべていた。その姿は自信に溢れていた。
何か策でもあるの? 
・・・まだ、諦めるのは早い。そう思っていいのよね。
そうよ、初めてドルマゲスと遭遇した時、私、怖くて体が動かなかった。
でも今は、ちっとも怖くなんてない。だって、ここに来るまで私たちはたくさんの苦難を乗り越えてきた。みんなの力を合わせれば、どんなことだって出来た。
サーベルト兄さんだって、一人の時じゃなければ決してやられはしなかったはず・・・。
今、私は一人じゃない。だから、こんな奴に負けるわけにはいかないんだわ。






最終更新:2008年10月23日 04:43
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