ドルマゲス、強さを増したのは、てめえだけだとは思わねえ方がいいぜ。
確かに感じる。オレの中に芽生えた新しい力を。
でも、その力を使うための肝心のものが不足中だ。
「MPを補給するまで防御に専念しててくれ!」
皆に指示を出し、まほうのせいすいを振り撒く。
回復したMPはベホマに換算すると5発分。ダメだ、まだ足りない。
頭上に小さな影が落ちる。慌ててよけると、中の液体が肩口に降り注いだ。その場所から魔力が沸き立つ。まほうのせいすいだ。更にMPが回復する。
十分な量ではないにせよ、ギリギリどうにかなりそうだ。
ビンが飛んできた方向を見ると、エイトが苦笑いしていた。目測誤ったな、このヤロウ。もうちょっとで頭に当たるところだぜ、後で覚えてろよ。ちゃんと礼はしてやるから、必ず生きて帰ろうぜ。
なんて、気を抜いてる場合じゃなかった。ドルマゲスの攻撃をモロにくらっちまった。続けて、羽根の雨が降り注ぐ。冗談じゃねえぞ、こんな時に倒れてられるか。
「ホイミ!」
ドスの聞いた声と共に、癒しの光が体に染みとおる。ヤンガスか。ニカッと笑いかけてくる。
ヤンガス、お前、ドルマゲスに直接恨みがないことに引け目を感じるって言ってたよな。バカ言ってんじゃねえよ。自分に直接関係ないことなのに、ただエイトのためだけに、こんな戦いに身を投じる。カッコ良すぎるじゃねえか。お前は最高にイイ男だよ。
光の衣が体を覆う。今度はゼシカのフバーハだ。
防御してろって言ったのに、どいつもこいつも、しょうがねえな。
まあ、仕方ねえか、指示だしは本来、エイトの役目だもんな。
羽根の雨で全員傷ついている。新呪文の初披露にはもってこいだぜ。
この土壇場になってこの力を目覚めてさせてくれるとは、神様もたまには粋なことをしてくれる。勝利の女神様もオレにホレたか? ここはしっかりキメてやるか。
「ベホマラー!」
全員を包むことの出来る癒しの光。さっきの羽で受けた傷は全て塞がっていく。
「待たせたな、これから先の回復は全部任せてくれ。新生ククールさんのお披露目だ」
エイトが頷いた。手にした剣を握り直し、ドルマゲスに斬りつける。
ありがとよリーダー、信じてくれて。期待には必ず応えてみせるからな。
不思議だな。この旅に出たばかりの頃、正直、ドルマゲスに勝てる気がしてなかった。なのに今はサッパリ負ける気がしねえ。
どうしてだか、教えてやろうか? ドルマゲスのおじさん。
答えは簡単だ。4対1で負けてたら、みっともねえだろう? どんなに大きな力を手にいれても、お前は結局独りぼっちだった。可哀想にな。同情するぜ。
だけど、オディロ院長を殺したことだけは許せない。そのカタだけはつけさせてもらう。お前はやっぱり、ここで死ぬんだ。
ドルマゲスの攻撃は緩まない。オレは回復に手一杯だ。
本当なら、院長の仇に一撃くらいはくらわしてやりたかったが、まあいい。オレにとっての雪辱は誰も死なせないこと。ここにいる全員の命を守りきってみせることだ。トドメはゼシカにでも譲ってやるか。敵討ちって動機は一緒だしな。
「ゼシカ! 悪いけど回復で手が空かねえ! オレの分まで、キツイの一発、ぶちかましてやってくれ!」
ゼシカはオレの方を向いた。こんな時まで相手の目を見ることを忘れない。おまけに命懸けの戦いの真っ最中だってのに、可愛らしく微笑んで頷いてきた。こんな女、二人といないな。
「任せといて!」
ゼシカはテンションを上げた。
厳しい攻撃が続く。全員、立ってるのがやっとだ。オレも最後のベホマラーを放つ。もうMPは残っていない。
ゼシカがその手に火球を生み出す。見た目には大きくないが、意識の全てを集中した魔力の固まりだ。それがドルマゲスに向けて投げ付けられた。先刻エイトが付けた刀傷に入り込み、炎がその傷口を引き裂く。
そして、ヤツは崩れ落ち、砕けて灰になった。
見事にトドメを刺し、敵討ちを終えたゼシカは、すっかり沈んじまってる。さっきまでのハイテンションはどこへやらだ。
ホントに自分の感情に素直だよな。ちょっと羨ましくもなる。
ドルマゲスを倒したら一人で旅に出て、二度と会うことも無いなんて思ってたけど、たまにいきなり会いに行って、驚かしてみようかなんて思ったりもする。珍しい土産なんか、持っていったりして。
きっとその時も、素直な感情を表すだろうから、反応が楽しみだ。連絡ぐらいしろって、怒鳴られる可能性が一番高そうだけどな。
だけどもし、少しでも嬉しそうにしてくれたなら・・・。
・・・そういうのも、きっと悪くないよな。
<終>
最終更新:2008年10月23日 04:45