わかってない-前編



どうしてこう、やることなすこと裏目に出てばかりなんだろう。
新法皇即位式に乗り込んで、マルチェロを止めることが出来たと思ったら、逆にあいつが抑え込んでた暗黒神が自由になって、聖地ゴルドが崩壊した。
操られてたんだと思ってたマルチェロが、自分の意志で法皇様を殺したらしいと知って、頭の中はグチャグチャだ。
煉獄島に収監された時に、身に着けてた武器防具の全てを没収されたせいで、ラプソーンの空飛ぶ城に攻め込むには装備がお粗末すぎるってんで、エイトが錬金釜を使って何とかマシな防具を造ると張り切ってる。
心の整理をする時間の猶予が出来たことだけが、唯一の救いってやつだった。
ベルガラックのホテルで部屋を取る時、ゼシカだけでなくオレも個室を取ると良いとヤンガスが勧めてくれた。悪人顔のくせに、こういう時はあいつが一番、人の気持ちってやつをわかってくれる。
だけどそれと全く逆なのはゼシカで、部屋に入って装備を解く間もなく、オレの所に押しかけてきた。
用件は『エイトが錬金してるあいだにマルチェロを捜しに行こう』だ。
ゼシカに悪気がないのはわかってる。何事も逃げずに真っすぐ立ち向かう彼女にとって、大ケガを負ってたマルチェロの手当もせずに、黙って行かせるって行為は理解できなかったんだろう。
だけどオレはゼシカじゃない。あの時のオレにはあれで精一杯だったんだ。それにあのプライドの高い男が捜されることを望んでるとも思えなかった。
エイトとヤンガスがいてくれたら、もう少しどうにかなっただろうに、個室なんて取ったせいで仲裁してくれる人間もないまま言い合いになり、ひどいことも言ってゼシカを泣かせてしまったりもした。
はっきり言って、泣きたいのはオレの方だ。
だけどそれでもゼシカは一度決めたことを譲ろうとはしてくれないんで、オレはつい余計なことを言い、それが自分の首を締めることになった。
『ひとの兄貴の心配してるヒマがあったら、勘当された婚約者の心配でもしてやれよ』
ゼシカが、あのラグサットとやらを相手にしてないのはわかってた。だけど周囲では、婚約解消されたって認識は浸透してないようだから『お前にだってハッキリさせずに状況に流されてる部分があるだろ』って、つい言っちまったんだ。
そういうことを言えば、ゼシカがどういう行動に出るかなんて、予想はついたはずなのに。


「なあゼシカ、頼むからもう戻ろうぜ。まずいって、これ。こんなところで死んだら、誰にも気づいてもらえないぞ。そうしたら誰がラプソーンを倒すんだよ」
「何で死ぬって決めつけてんのよ。こんな所の魔物たちに負けるようで、暗黒神なんかに勝てるわけないじゃない。そんなに帰りたいなら、勝手に一人でどうぞ」
目標まで一直線モードに入ったゼシカにホテルから連れ出され、サザンビークまでのルーラ係にされ、真夜中だっていうのに武装した状態で大臣宅に上がり込むなんて、暴挙に突き合わされてしまってる。
精神的にちょっと参ってたオレはその間ほとんど言いなりで、いかにも怪しく光ってる鏡から異世界らしい所に迷い込むまで、ゼシカを止める気力もなかった。
だけど、もうそんなこと言ってる場合じゃない。この迷宮にいる魔物の大半がトロルとかサイクロプスとかの力押しタイプで、本来後衛タイプのオレやゼシカにとっては、ヤバい相手だ。装備もショボイから、一撃くらうだけでも結構な大ダメージになる。
なのにこっちの魔法もかなり効くもんだから、ゼシカはすっかり強気で、全く引こうとしない。力ずくで連れ帰ろうかとも思ったが、そんな風に揉めてるところを魔物に襲われる方が危険が大きい。こんな時、リレミトを使えない自分が憎いぜ。
「屋敷の住人はここに紛れ込んだのかもしれないって言ったの、ククールじゃない。見つけるまでは戻らないわよ。そうしてキッチリとラグサットと結婚する気は無いって言えばいいんでしょう? それならククールも文句はないのよね?」
「だから、オレは文句なんか初めからないって。どうでもいいだろ、そんなこと」
「どうでもいいって何よ!? 自分から言い出したくせに!」
「怒鳴るなよ、魔物が寄ってくるだろ」
こうしてる間にも、ゼシカはズンズン前に進んでいく。なんでこんなに猪突猛進なんだろう。止められないオレが情けないだけなのかもしれないけど。
そもそも、何でゼシカがこんなに怒ってんのかも実は今一つわからない。
感情が全部顔に出るから、何を思ってるのかは大体わかるけど、そうなる原因がわかりにくいから、余計にとまどうことになる。
こんな迷宮よりも、よっぽど惑わされるぜ。

ああ、でもこれは本当にマズい。
予測通り、大臣一家は迷宮の奥でボストロールに捕まって調理されようとしていた。
ボストロール二匹ぐらい、普通の状態だったら問題なく倒せる。だけど、もうオレはほとんどMPが残ってない。回復呪文なしで戦うのは無謀すぎる。
なのにゼシカはすっかりやる気でいる。状況がわかってないんだろう。
「まさか、このボストロールの食事をジャマしにきたとでもいうのか?」
「当たり前でしょう。私たちが来たからには、人間をエサにするようなマネ、絶対にさせないんだから!」
ゼシカ、頼むから挑発しないでくれ。ここは一旦引き上げて、エイトとヤンガスを連れて戻ってくるべきだ。大臣たちには悪いが、勝てそうにない勝負をして一緒に死んでやるつもりはない。
「だが、ボストロール的には、強いヤツとは絶対に剣を交えたくないのだよ。おぬらは見たところ強そうだ。どうかこの場は見逃してくれんか?」
それに対して、ゼシカは威勢良く反論しようとしてる。
レディに対してこのやり方は乱暴だが仕方ない。後ろからゼシカを押さえ付けて口を塞ぐ。後で仕返しされるのも覚悟の上だ。こんな所で死なせるよりはマシだ。
「いいぜ。魔物にだって食事を楽しむ権利くらいはあるだろうしな。そこまで言うなら、見逃してやってもいい」
ゼシカが腕の中で暴れまくってるけど、力を緩めてやるわけにはいかない。
せっかく向こうが下手に出てくれてるんだ。ありがたく勘違いしてもらったまま退散させてもらおう。うまく鍋の湯を引っ繰り返せれば、大臣たちが食われるまでの時間稼ぎも出来るだろう。
エイトとヤンガスが装備を整え、オレもMPを回復させて、またここまで戻ってくるのに早くて二時間ってとこか。もしかして一番てこずるのはゼシカを説き伏せてリレミト唱えさせることかもしれないな。
「そうか見逃してくれるか。ありがたやありがたや。お礼におぬらを回復してやろう」
この後の展開をいろいろ考えてたのに、ボストロールは親切にもオレたちの体力とMPを回復させてくれた。
「これで気がすんだだろう。そうそうに立ち去ってくれい」
・・・MPさえ回復すれば話は別だ。さっき宝箱の中で見つけた剣の切れ味、こいつで確かめさせてもらうとするか。







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最終更新:2009年03月31日 15:23
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