エイトが原因不明の病に倒れ、万病に効くと言われるパデキアの種を求めて、私達は新たなる
ダンジョンに挑もうとしていた。戦闘の要であるエイトを欠いてはやはり厳しい道のりになると
わかってはいたけれど、他に手だてがなかったのだ。
ただでさえ心許ないパーティなのだから、本当は3人揃って例の洞窟に挑みたかったんだけれど
いつ帰ってこれるかもわからないのに、エイトを一人にしておくわけにはいかなかった。
トロデ王に頼めればよかったんだけど、例の如く彼が町に足を踏み入れた瞬間に、悲鳴と怒号が…
トロデ王はすねたのか傷ついたのか、すっかりへそを曲げて馬車に閉じこもってしまった。
というわけで、それならばと私が居残り看病組に立候補した。女の私が看病という名目で残るのは
なんとなく自然な気がしたし、回復役のククールはどうしても戦闘には不可欠だったから、
残りのヤンガスと私どちらが看護役にと考えれば、私になるのは当然のような流れだった。
一刻も早く帰ってきてね、でも無理はしないで。そう言って、2人を送り出した直後のこと。
「な、なんなのヤンガス。あなた今出てったところでしょ。いきなり戻ってきて…」
「ゼシカのねえちゃん、頼みがあるでがす」
この時点ですでにヤンガスの瞳はうるうるしていた気がする。
「頼み?エイトのことなら安心してよ、ちゃんと」
「頼むでがす、その役目、やっぱりあっしと代わってくれでがす」
「………私じゃ信用できないって?}
じっとり睨み付けると慌ててヤンガスは頭を横に振った。
「いやいやいやいや、決してそういうわけではなくて。…ただ、あっしは兄貴が心配で心配で。
ねえちゃんがちゃんと看病してくれるだろうことはわかっていても、頭の中は兄貴で
いっぱいいっぱいなんでげすよ。正直あっし、こんな状態で戦闘に出ても使いモンになりやせん。
だから、頼むでげす。どうか、後生でげすから、あっしをここに置いてってくれでがす」
ヤンガスは土下座せんばかりに懇願してきた。
本当にどうしようもなく心配なんだということが伝わってきて、少しだけ切なかった。
「男ヤンガス、一生の頼みでがす」
………大体この顔で詰め寄られたあげく半泣きで見上げられたら、視線を外して降参するしかないわ。
「や、やめてよヤンガス。わかったから」
そう彼をなだめながらも、頭の中で私は正直、とってもとってもとーーーっても困っていた。
ヤンガスに代わって戦闘に出るのはかまわない。だけど、その道中の相手がかまうのよ。
………あの男と2人きりですって?人の顔見れば口説いてきてスキあらば身体のどこかに触れようとして
私のこと「そういう」対象としてしか見てないようなあの軽薄僧侶と!?道中2人きり!?
冗談じゃないわ!!!!
「ゼシカのねえちゃん!!」
顔面どアップのヤンガスに気付き、思わず引いた。ど、どうしたらいいの。でもここであからさまに
あの男と2人きりなんてイヤなのとか言ったら、仲間の危機になんて自分勝手なことを、って感じだし
なんか、なんか…妙に意識してるっていうか自意識過剰なんじゃないのって思われるのがイヤだわ。
そんなんじゃないのに!!
「……………………。~~~~~~~~~ッッ」
涙目のヤンガス。苦しげに横たわるエイト。ニヤけたアイツの顔………
「………………………………………………………………わかったわ。ヤンガス、エイトを頼んだわね」
私の苦渋の決断に気付いているのかいないのか、ヤンガスは躍り上がって喜んだ。
散々お礼を言ったあと(よく考えればお礼を言われるようなことでもないんだけど)、彼はこう告げた。
「ククールには事情を話してあるでげす。待たせたんでイラついてるかもしれねぇんで、あっしが
謝ってたって言っといてくれでがすよ」
……事情は話してある?自分の代わりに私を呼んでくるって?
あの男、私が素直に来るとでも思ってるのかしら?アイツが宿を出て最初になんて言うかが目に浮かぶわ。
ゼシカちゃんと2人きりで旅できるなんて光栄の極みだね。パデキアの種が見つからなければ…
なんて思っちまうのも、男としてエイトなら許してくれっかな?願わくばこの間に、オレ達の関係が
少しでも進展することを神に祈るかな。…あぁ、うさんくせぇカミサマにわざわざ祈らなくても、
本物の女神が目の前にいるじゃねぇか。今日もかわいいね
ハニー。さぁ、ぼちぼち出発しようか?
………イヤだわ。私いつのまにククールの思考回路とこんなにリンクできるようになったのかしら。
頭が痛くなってきた。さ、腹をくくって行きましょ。何を言われたって無視すればいいわ。
私は扉を開けて、待ちぼうけをくらっている赤い背中に声をかけた。
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最終更新:2008年11月03日 03:04