いつも私を温かく包んでくれるククールの優しい手。
この手にだったら、ククールにだったら何をされてもいい。
何をされても、ククールから受けるものなら怖くない。幸せに思える。
……そう思っていたのに─────。
…どうして…?
気がついたら私のの両手はククールを突き飛ばしていた。
唇からこぼれた悲鳴は拒絶の意を示してて、ククールが愕然とした表情で私を見ていた。
ククールの大きな身体が私の上に覆いかぶさった瞬間に湧き上がった言いようのない感覚が芽生えた。
前にも感じた事がある、耐え難い感覚。
ふいにフラッシュバックする断片的な光景。パズルのピースの一部のようで、はっきり形はなしていなかった。
だけど次にククールの指が私の首筋をなぞり、胸に降りてきた時に、太ももを撫でられた時に、
いつもとは違う情欲を強く感じさせるその手つきが、雰囲気が、私の心の奥底に眠っていたものをいっきに呼び覚ました。
※ ※ ※
私の上に馬乗りになって見下ろす男の顔。
どんな顔をしていたのかなんてもうはっきり覚えていないのに、
そのぎらついた目だけはやたらと鮮明に、私の脳裏に焼き付けられている。
欲望を全身に滾らせ舌なめずりをしながら私を押さえつける男達。
その様は普段闘っているモンスター達よりも、よっぽどケモノと呼ぶのに相応しいものだった。
最初は恐怖よりも、くやしい気持ちでいっぱいだった。
普段だったらメラミでもお見舞いして軽くあしらっているような相手。
数人の男達に突然囲まれ、一瞬の油断をつかれマホトーンをかけられて、武器も奪われた。
男達は私を強引に路地裏に引きずり込むとそのまま押さえつけ、服を脱がしにかかった。
抵抗しても、魔法が使えない私は自分でも驚くほど非力で、
男達は嫌がる私を見てますます嬉しそうに口元を歪めた。
くやしい。くやしい。くやしい。
動ければ、せめて魔法さえ使えれば、こんな奴らあっという間にのしてしまえるのに。
もがけばもがくほどはまってしまう蜘蛛の巣にかかった虫は、きっとこんな気分なのだろうか。
そして、男の1人がナイフを取り出し、私の服をいっきに切り裂いた。
鋭いナイフの刃が服の布を持ち上げ、下着をつけた胸が弾けるように露出した。
まるでスローモーションのように私の目に映る。
男達が口笛を吹き、感嘆の声をあげる。
「たまんねえな。今からこの身体を好きにできるのか」
この言葉を聞いた瞬間、始めて私は自分の状況を理解したのかもしれない。
くやしいなんて気持ちはすっかり消えうせていて、それよりも…。
「いやああああああ!やめ…て…助けて…っ…誰か…」
誰か………
『君だけを守る騎士になるよ』
────ククール!!!!!
「ククール…っ…、ククール!ククール…ッ!」
恐怖に支配された私は心に浮かんだただ一人の名前を、一心不乱に叫び続けた。
男達が私の声を煩がり黙らせようと頬を打ってきても、それでもなおククールを呼ぼうとした。
見かねた男が口の中に切り裂いた私の服の布きれを私の口につめ、声を塞がれた。
私を押さえ込む力がますます強くなり、首筋にねっとりと男の舌が這った。
胸を鷲掴みにする手、太ももを弄る手、さらにその奥に手を進めようとする手。
何もかもが気持ち悪くて、凄まじい嫌悪感に頭がおかしくなりそうだった。
ククール、お願い、助けて……………。
絶望すら覚え、そっと目を閉じたその時に、自分の身体の中に熱が灯るのを感じた。
何度と体験していたその感覚に、マホトーンの効果が切れた事を悟り、
私の身体は解放された魔力をいっきに放出していた。
※ ※ ※
「ゼシカ、ごめん。悪かった」
そっと耳元に降る優しい声と、抱き寄せられた腕の感触にはっと我に返った。
…そうだ、今は私がいるのはククールの腕の中。
誰よりも私を大切にしてくれる、私を守ってくれる愛しい人と共にいる。
大丈夫。最後までされた訳じゃないから、こんなのすぐに忘れられる。
あんな下劣な男達に、無理矢理羽交い絞めにされた忌々しい記憶なんて
ククールの手が、唇が、声が、全てが全部拭い去ってくれる。
そう信じていた。
なのに…。
「どうして……、ククールなのに………。なんで…駄目なの………なんで……」
咽びかえって泣く事しかできない私をククールは壊れ物を扱うように、
どこまでも優しい抱きしめていてくれた。
最終更新:2010年05月10日 18:43