2-無題2

マイエラ修道院、サヴェッラ大聖堂に次ぐ三大聖地のひとつ聖地ゴルド。
エイト達一行はマルチェロを追ってこの地に来ていた。
シンボルである巨大な女神像は今はなく、代わりに巨大な穴がぽっかり口を開けていた。
辺りはすっかり暗くなったというのに、この寒空の下穴を前に銀髪の青年がひとり瓦礫に腰掛けている。手には金の指輪。
「ちょっと、そこのお兄さん!」
不意に掛けられた声にククールは声の主を探して振り返った。
「ゼシカか・・・」
怒っているような、心配しているような表情のゼシカが歩み寄ってきた。
「アンタ、まさかこの穴に飛び込もうなんて考えてないわよね?」
ゼシカの言葉に黙ってニヤニヤしているククール。
「な、なによぉ」
「オレの事心配してるんだ?」
「なっ、ばか言わないでよ!何で私が・・・」
言い掛けて止めてしまった。マルチェロの事で落ち込んでいるであろうククールを気遣いここまで来たのに、これではいつもの調子になってしまう。
「そりゃ・・・心配してるよ」
それでも恥じらいからか声が小さくなってしまう。
「あー、あー、アンタその指輪どうするつもり?」
今度は照れ隠しに声が大きくなってしまった。
自分でも顔が赤くなってるのがわかる。
「コレ?んー・・・わかんね。コレをどういうつもりでアイツがオレに渡したのかも。」
指輪を見つめるククールの瞳。ククールの瞳はいつも悲しみの色を湛えている、とゼシカは思った。
「・・・騎士団長に・・・なれって事じゃないの?」「はぁ?やだよ。オレはね、あんなヤツの跡を継ぐ気はないね」
「うふふ。そうだね。何よりアンタには勤まりそうもないし」
「ム・・・言ってくれちゃって」
フンと鼻を鳴らし、また穴を見つめる。

わずかな沈黙の後、口を開いたのはククールだった。「ゼシカには、話してなかったよな?」
「?」
「アイツ・・・マルチェロは最初は優しかったんだ・・・」
それからククールは自分の事、マルチェロの事を話しはじめた。
ゼシカはククールの瞳から目が離せなかった。いつもおちゃらけたククール。聖職者であるにも拘らず不真面目なククール。ときどき寂しそうなククール。
兄との確執は知っていたが、こんなにもククールは愛情に飢えていたのだ。あの笑顔の裏にはこんなにも苦しみが隠されていたのだ。自分はそれに気付きながらもわかってあげられていなかった。
情けなかった。ククールの事をわかっているつもりになっていたのだ。
笑いながら何でもない事のように話を続けるククール。でも本当は心が悲鳴をあげている。そう思うとゼシカはたまらなく切なくなった。

話し続けるククールの視界が急に遮られ、自分を包む空気が温かく感じられた。「え・・・?」
あまりに突然な出来事にそれがゼシカの腕の中であることに気が付くのにしばらく掛かってしまった。
「ゼ・・・シカ・・・?」「アンタ・・・ずっとひとりぼっちだったのね」
ゼシカの心臓の音が聞こえる。ククールはゼシカの胸に頭を預け目を閉じた。
「私が・・・居るからね」「ゼシカはあったかいなぁ・・・」
「ククールもあったかいよ・・・」
そう言うとゼシカはククールの額にキスを落とした。

今日はなんだか自分でも変だ。とても素直になれる。ククールは立ち上がりゼシカの頬にキスを返し、強く抱き締めた。
「ありがとな。・・・でもオレ、そんなに弱くないぜ?」
「・・・うん。知ってるよ」
わかっていた。ただ、たまらなく目の前の男を抱き締めたかっただけな事も。
「ばかだな・・・。こんなに肩が冷えてる」
自分を気遣いこんな寒空の下に来てくれたゼシカに申し訳なく思い包み込むように抱き締めた。
ゼシカの冷えきった肩に、頬にキスをする。
ゆっくりとお互いの唇が近づく。
「あー、やっぱりタンマ」ゼシカの手がククールの唇を遮った。
「・・・モガ。・・・なんだよぉ、折角いいムードだったのに・・・」
文句を言っているククールを無視してゼシカはニコニコと笑顔。
「魔王を倒して無事帰って来られたら、続きはその時。ね?」
「は?そんなん帰って来られなかったら、このままお預けじゃねーか?」
んー、と再びキスを迫る。「ダーメ」
ククールの腕からするりと抜けると代わりに手を繋ぎ促した。ククールの手を引きゼシカは歩き出す。
「行こ。みんなが待ってるよ」
「そりゃ、ないぜー!」
ゴルドの寒空にククールの声が響き渡った。





最終更新:2008年10月23日 10:40
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