「おい、待てよ。待てってば!」
「うるさいわね、ほっといてよ」
「何怒ってんだよ?」
「怒ってなんかいないわよ!あの女の子と仲良くしてれば?」
バタバタとトロデーン城の廊下を
ゼシカとククールが怒鳴り合いならが歩っている。城の者達が振り返り二人を見ていた。
ラプソーン討伐後の城での宴の席でククールの悪い癖が出た。こともあろうにゼシカの目の前で小間使いの少女を口説き始めたのだ。その夜のことだ。
「やっぱり怒ってんじゃねーか」
「怒ってなんかない、って言ってるでしょ!連いて来ないで!」
バタンと勢い良くククールの鼻先でドアが閉まった。今夜はトロデーン城に泊まる事になっていたので各自に部屋があてがわれていた。ゼシカの部屋はミーティアが選んでくれたとても女の子らしい部屋だった。至る所に花が飾られ、バスルームまで付いていた。
「・・・おーい、ゼシカ」「・・・」
「ったく、いい加減にしないと、こっちが怒るぞ?」応答はない。完全ムシを決め込むつもりだ。
フー、と息を吐きククールはこの場を離れる事にした。頭に血ののぼったゼシカを説得するのは困難だと思われたからだ。
落ち着いた頃にまた来よう。
自室のベッドに突っ伏したままゼシカは部屋を離れていくククールの足音を聞いていた。
ふん。何よ。ちょっと諦めが早いんじゃないの?
またムカムカと腹が立ってきた。でも同時にたまらなく泣きたくなった。
「ばか・・・」
呟いて涙をこらえた。
どうせククールなんて、どの女でも一緒なのよね。そう考えるとまたククールがあの小間使いと仲良くしているのではと不安になってきた。
ククールはきっと忘れているのだ。聖地ゴルドでのあの夜のことを・・・。
イライラした。我慢できない。でもここで追い掛けたりなんかしたらククールの思うツボのような気がした。
じっとしていられなくて部屋の中を行ったり来たり。まるで動物園のクマである。
ゼシカだってククールの事は気になる。だからこそ、腹も立つのだ。
「あー、もう!何で私があんなヤツの事でイライラしなきゃなんないのよぉ!」落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせ深呼吸した。
無理!一度気になったら解決するまで落ち着くはずがない。部屋を飛び出した。
……………
部屋の外にはククールが壁を背にして立っていた。
「あ・・・」
「おっ、思ったより早く出て来たな。お姫さま」
一気に顔が赤くなっていく。動揺が隠せない。
「あ・・・アンタ、どっかいったんじゃないの?」
「行ったよ。でも、戻ってきた。こんな状態のゼシカほっとけないし」
「ほ、ほっとけばいいじゃない。そうすればあの可愛い女の子と仲良くやれるのに。」
言っているうちにまた腹が立ってきた。
「どーせ、誰にでもアンタは私と同じ事言ってるのよね。君を守る騎士になるなんて言ってたけど、あのセリフも口説き文句のうちのひとつなんでしょ?私は騙されな・・・」
ククールの指がゼシカの唇を押さえた。
「ゼシカ、焼きもち焼いてるんだ?」ニヤリ。
あまりにもククールの顔が近くにあるので、また顔が赤くなってしまった。
「や・・・焼きもちなんて・・・」
やいてないもん。赤くなった顔を見られたくなくてゼシカは顔をそむけた。
こんなにも美人なのにゼシカは恋愛関係に結構縁がなかった。
そんなゼシカがとても可愛い。
ゼシカの唇にククールの唇が重なる。とても簡単なフレンチキス。
「!」
「ゴルドでの続き」
ラプソーンを倒したらキスをさせる、というゴルドでの言葉をククールは覚えていた。
忘れていると思ったのに。だから腹を立てていたのに。
「もう・・・ムカツク」
「あ?」
「ムカツクって言ったのよ!私一人でヤキモキしてアンタは涼しい顔してて、ばかみたいじゃない!」
ムカツクを連呼しながらククールの胸を叩き続ける。その両手を押さえ、もう一度キスをする。
「かわいいなぁ、ゼシカ」「ばか!何すんのよ!」
ばかばか。
埒があかないのでククールはゼシカを抱きあげると、ズンズン歩きだした。
「きゃあ!ちょと、何よ!?」
「廊下じゃムードがないからオレの部屋行って続き」しれっと言い切るククールに一瞬ア然としてしまった。
「やだ、おろしなさいよ」「ぃやだね」
ジタバタと腕の中で暴れるゼシカに構わずククールは自室へと入る。
ゼシカをベッドに押し倒し、覆いかぶさる。
ドキドキドキドキ。これは本当に自分の体なのだろうか。まるで体のあちこちに心臓があるかのように脈打っている。
ククールの真剣な顔から目が離せない。
「・・・ま、またいつもの冗談でしょ?」
「ゼシカ、オレは男だぜ?ここまで来たらもう止まんねぇよ」
「こ・・・心の準備も出来てないし!」
「怖いのか?・・・怖かったら目閉じてろ」
もうこうなったら覚悟を決めるしかないんだろうか?ククールは相変わらず真剣な顔をしているし、心臓はバクバク言ってるし、もうゼシカは頭の中がグチャグチャになっていた。
グッと目を閉じる。
「・・・・・・」
「・・・プ・・・ククク」ククールの声が聞こえる。目を開けるとククールが真っ赤な顔で笑いを堪えていた。
瞬時に理解した。騙された!
「ククール!アンタねぇ!」
起き上がりククールを殴り付ける。
「騙したわね!」
「ち、ちげーよ。だってさ・・・あははは」
まだ笑っているククールに更に腹が立つ。バシバシとパンチの応酬。
「信じらんない。ムカツク!」
「わ!ごめんごめん。だってさ、ゼシカがあんまり可愛いんだもん」
可愛いの単語に殴り付ける手が止まってしまった。
「・・・何よ、それ」
「それにさ、ゼシカが嫌がってるのに出来ねーだろ」ベッドの脇に移動して俯いてしまったゼシカを覗き込むが、プイとまた顔を背けられてしまった。
やっぱり可愛い。
「・・・こう見えてもオレ、ゼシカを大切に思ってんだぜ・・・」
え?またドキっとした。
上目遣いでチラッとククールを見るとこころなしか彼の顔が赤く見える。
ククールでも女に対して照れたりする事があるのだろうか?様子を伺っていると、それに気付いたククールにコツンと頭を小突かれた。
「・・・ったく、オレにこんな事言わせんのお前だけだよ」
まったく、と言いながら今度はククールが背を向けてしまった。ククールの耳は真っ赤になっていた。
ゼシカはそれに気付くと、何だか恥ずかしいのもおあいこのような気がしてエヘヘ、とこっそり笑った。
最終更新:2008年10月23日 04:57