放課後。
「なんか放課後の校舎って不気味だよな」
「訳の分からない事言ってないでとっとと探しなさいよ。あんたが財布無くしたんでしょ!」
シンとかがみは学校に残っていた。
放課後の校舎に二人っきり。といっても、別に青春の男女の逢瀬みたいな色っぽい理由ではなく。ただ単にどこかに財布を落としてしまったシンが
かがみに助けを求めただけである。
ちなみに、
こなたは授業が終わるやいなや買い出し要員の
つかさと
みゆきを連れてとっとと帰ってしまったため、シンが財布を無くした事に気付いた頃にはもういなかった。
固い友情で結ばれた白石にも応援を頼んだのだが、なんかエンディングが近いから海に行かなければならない、とか訳の分からない事を言ってとっとと帰ってしまった。実に友達甲斐のない野郎である。
「ったく。おっちょこちょいにも程があるわよ」
委員会の仕事で学校に残っていたかがみだけが、シンを手伝ってくれた。
「悪いな付き合ってもらって」
「ま、別にいいわよ。今日は予定もなかったし……」
ぶつくさ文句を言いながらもしっかりと探すのがかがみの良い所である。
「俺、向こうを探してみるよ」
「はいはい、行っといで~」
まいったな~。と呟きながら教室を出ていくシン。
ヒラヒラと、手を降って。彼を見送ったあと、身を伏せて、床を中心に探していたかがみだが、
「あっ」
ふと顔を上げると、少し離れた机の中に四角い物体が置いてあるのが目に入った。
「これが探していた財布ね……ってここシンの机じゃない」
シンがここに座っているのを良く見かけるし、何より、その机にはこなたが書いた“シン専用机 椅子とは違うのだよ! 椅子とは!”という落書きがある事からも間違い無かった。
「結局、自分の机に忘れてるなんて、馬鹿ねぇ」
一応、シンの物かを確認するために財布を開いてみる。学生証でもあれば確定なのだが、
「あっ……」
かがみが最初に見つけたのは少女とシンが並んで写っている写真だった。
よく見ると下の方に“マユと”と書かれている。
マユ――確か亡くなった妹さんの名前である。
「……へぇー。これがマユちゃんか」
いつだったか、こなたからシンには妹がいると聞いて「どんな妹なの?」とシンに尋ねた事があった。
妹さんが亡くなっていた。と知った時、悪いことを聞いてしまった、と後悔したのは今でも良く覚えている。
「こなたは少しからかいすぎなのよ。妹が可愛くない兄姉なんていないのに……」
それは自分が一番良く知っている。
「さて、間違い無くシンの物でしょうし。さっさと知らせてやるか」
必要以上に人の財布を探るのはマナー違反である。そう思ってかがみが財布を閉じようとすると、
「んっ?」
一枚の写真がヒラリと落ちた。
「あれ? もう一枚ある」
拾ってみると、それはシンと見知らぬ女性が並んで写っている写真で、黒いペンで“ルナと”と書かれた。
(ルナ?)
初めて聞く名前だった。
しかし、わざわざ財布にまで入れているぐらいだからよっぽど親しい間柄なのだろう。それは写真の二人の笑顔からも伺えた。
(妹……って事はないわよね。お姉さん? それとも双子の兄妹? もしかして……恋人!?)
可能性は無いとは言えない。そもそもかがみはシンの過去を知らない。いつのまにか泉家に居候していて、気が付いたらこなた繋がりで親しくなっていた。
かといって、シンの泉家に来る前に何をしていたのかが全く気にならなかったわけでもなく。シンとこなたに尋ねてみたことがあったのだが、
『へっ? シンがウチに来るまで何してたかって? パイロットしてたよ。ああ見えても優秀な軍人なんだよ~』
『えっ? こなたの家に居候する前は何してたかって? 軍のパイロットしてた。こう見えても、所属してた部隊の中では一番撃墜数が多かったんだぜ』
と、口裏を合わせてまで嘘を付いてきた。一瞬、高校生がパイロット!? 何よ! 私があの某ミリタリー作品が好きだからって馬鹿にしてるのか!
と腹が立ったりもしたが、何か過去を言いたくない理由でもあるのかもしれないと思い、それ以上詮索するのはやめた。
(そ、そうよね。シンだって高校生だし。彼女の一人や二人居てもおかしくないわよね……)
そうだとしても自分には関係ない。そう言い聞かせ、写真を財布に戻そうとした時、
「お~い、かがみ」
ドキッ! 心臓が飛び出るかと思うほど高鳴る。そして、なぜか写真を自分のポケットに突っ込んでしまった。
「シ、シン!」
「ダメだこっちは見つからなかった……」
教室に入ってきたのはやっぱりシンだった。シンは多少疲れた表情でこちらにトボトボ歩いてきたが、かがみの手に握られている物を見つけると、パッと顔を輝かせた。
「あっそれ俺の財布じゃん! なんだ見つけてくれてたのか」
「あ、うん……はい」
シンは財布を受け取ると急いで中を確認する、彼はマユの写真がある事に安堵した。
「サンキュ。大事なもんが入ってるから、見つからなかったらどうしようかと思ってたよ……って、あれ?」
財布を探っていたシンの手がピタリと止まった。
「なぁ、ここに入れてあった写真知らないか?」
「あ、いや……それは……」
自分のポケットにある。もちろん返さなくてはならない。でも、返そうとすると写真の女性、ルナの顔が頭をよぎった。
「し、知らない。私、見てない」
「そっか、おかしいな……まぁ、マユの写真はあるからいいか……」
シンは多少腑に落ちない様子だったが、さすがに女の子をこれ以上自分の用事に付き合わせるのは非常識だと考えたのだろう。
「こんな時間まで付き合わせて悪かった。家まで送ってくよ。そうそう、お礼に帰りに何か奢るよ。何がいい?」
と言いながら教室の出口に歩き始めた。
その頃、かがみの頭の中では色々な思考が行き交っていた。
なぜ嘘を付いたのか。
なぜ写真など見ていない何て言ったのか。
「待って……」
やっぱり返そう。そう思った時、
「んっ、どうした?」
またルナという女性の顔が頭をよぎった。
「あの……しゃ……」
「しゃ?」
(な、なにしてるの私! 写真を返さなきゃ!)
しかし、そう思えば思うほど、やはりルナの笑顔が強く頭をよぎる。
「しゃ……何?」
シンは眉をひそめて聞き返した。
「しゃ……シャーベットが食べたいわ!」
かがみは言い切った。
「はぁ?」
「そ、そうよシャーベットよ! 奢るならシャーベットにして!」
「それは構わないけど。かがみ、昼もアイス食べてなかったか?」
「……み、見つけてあげたんだから言う通りに奢りなさいよ!」
「はいはい。相変わらず我儘だな、かがみは」
「我儘で悪かったわね……」
先に歩きだしたシンについて行くかがみ。
(……何で言えないんだろう)
かがみの胸は何か言いようの無い圧迫感に包まれはじめていた。
最終更新:2007年12月02日 10:22