「ちがう、学業御守りはこっちよ!」
「そんな事言ったって…」
「似てるから仕方ないよね~」
元旦。シン・アスカは鷹宮神社で売り子のバイトをしていた。
…女装して。
「しっかし、ほんと女に見えるわねー」
「あはは、シンちゃん可愛いよ」
「なんか嬉しくない…」
・
・
・
なぜこんな事をしているのか。遡ること一週間。
「え、バイト?俺が?」
「そうそう、なんでもかがみん達の神社、最近急に参拝者が増えたらしいんだよ」
「で、俺が助っ人ってわけか」
「さっすが!ザフトの赤は話が早い!」
親指を立てながら
こなたがウインクする。
「まぁ…普段世話になってるし俺は構わないけど。」
たしかに、何だかんだで二人には世話になっている。
こう言う恩返しもありか。シンは頷いた。
「でね、衣装なんだけど」
「あーおじさんが着てるような神主の?」
「むふふ…」
シンは嫌な予感がした。言うなれば第六感…SEEDを持つものの力だろうか。
「おい、お前何を…」
満面の笑みのこなた。
その手には、よく見慣れた服が…
「喫茶店の衣装だよ☆」
「な、何を言ってるんだあんたは!」
「あは♪きっと売上も伸びるよ~☆」
「断固拒否する!」
いかにこなたの言い付けでも、ザフトレッドのプライドが許さなかった。
「ダメだったらダメだ!」
「ねぇー、お願いぃ~ん」
色っぽく頼んだつもりだろうが、シンには効かない。
「着ない、着れない、着たくない!」
しばらくの沈黙―――。
「うっ…うぐっ…」
「!!」
最終兵器。いつかの
かがみよろしく、ストフリミーティアなぞ足元にも及ばない
、女の武器がシンをロックオンしていた。
「ひどい…あたしにはあんな格好やこんな格好を求めてくるのに、あたしのたっ
た一つのお願いも聞いてくれないなんて…うぐっ…あ、あんまりだぁーHERYY」
最後の言葉は訳が分からなかったが、取り敢えずこの場を収めないとまずい。
「え、ちょ!いみわからない!」
いくら鈍感なシンでもそれくらいわかる。
「分かった!分かったから!なくな!着るから、着させていただきます!」
「うっうっ…まだたりない…」
「なにがだよ…」
もうわけがわからない、早くこのばを脱したかった。
「前教えたでしょ…だっこしてぎゅっなのだよ☆」
ガッシ、ボカ。
「いだっ!何をするだー!」
アホ毛にチョップ。
「調子に乗るな。」
「あは♪」
「ほら!御神籤も補充して!」
「わー、なんかお客さん多いよ~」
「なんて数と熱気だよ、こいつら!」
冗談抜きにかなりの人。
「おっかしいなぁ、そんなに限定レア御守りが欲しいのかな~」
そういって休憩から上がってきたのは柊家の長女、いのりである。
「だからあたしは反対したのよ!あんな物で釣るような…」
「でも…大切にしてくれるなら御守りも嬉しいんじゃないかな」
つかさが両手をもじもじさせながら言う。
「まぁ…そうかもしれないけど」
妹に諭されてバツが悪そうなかがみであった。
「さて、ここはあたしと
まつりで見てるから、あんたたちも休憩行ってきなさい」
嬉しい事である。正直シンはさっきから動きっぱなしでヘトヘトになっていた。
(こんな仕事を毎年…かがみもつかさも凄いな)
心で感心して見せる。
「あ、それと」
いのりが付け加える様に言った。
「二人で取り合いっこしちゃダメよ~!もし喧嘩したら…お姉様が没収します、
ホホホホ…」
そういうと、いつからいたのか、まつりと一緒に売り子に戻っていった。
「取り合いって…しないわよ!」
「取り合うなんて、ど…どんだけ~…」
二人は少しだけ恥ずかしそうな、困ったような顔で言った。
「取り合う…?なんだ、振舞い酒の事か?」
(この鈍感バカ…)
(シンちゃんらしいな…)
かがみの睨みとつかさの苦笑いを見つつ、人ごみから少し離れた場所へ。
三人は本殿脇の石段に座った。
「ハァー!疲れたー!」
「確かにね…いつもよりずっと多いわね。」
「御守り…一種類だけやけに早く売れたね~」
三人三様の感想を吐く。
(でもなんか…こう言うのもありかな…)
あちらでの生活と対比させて、決してどちらがいいなどとは言えない。
(今が充実している…それが明日なのか?…レイ)
「……シン、シン!」
「…え?」
ぼーっとしていたらしい。かがみの声にようやく気付いた。
「なにボケッとしてんのよ!飲み物もらいにいくわよ!」
「え…ああ…悪い。」
「シンちゃん…疲れてる?大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと考え事してた。」
「アンタ、学校でもそうだけど、時々そういうところがあるわよね」
「お姉ちゃん、よく見てるね…」
「え!?いやったまたま!たまたまよ!たまたま…」
妹の指摘に顔を赤くするかがみ。教室の前を通るたびに覗いているなんていえたものではない。
「ごめんな二人とも。心配させて。でも俺は大丈夫だから。」
元気に笑ってみせるシン。
「そう、ならいいけど…」
「無理しちゃだめだよ…」
「ああ、ありがとう。さっ、飲み物もらいにいこうぜ」
かがみは温かいお茶。
つかさは甘酒。
シンは振舞い酒。
それぞれキャラ通り?の飲み物を飲む。
「苦い…」
「バカねぇ」
「あはは…」
お茶を飲み干すとかがみが口をひらいた。
「さて」
「どうしたかがみ、おかわりか?」
「アンタはどうしていつもそう私をそんなキャラに…」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ
い」
ちょっとしたほろ酔いのシンのボケは、いじられた当人によってつぶされた。
「まあまあ…絵馬と御守り…だよね、お姉ちゃん?」
「その通り!」
そう言うとかがみは懐から三枚絵馬を取り出した。
「準備がいいな」
「さすがおねえちゃん」
「ツインテールは伊達じゃないな。」
「なにがよ…とにかく、さ、書くわよ!」
妙に張り切っているかがみ。何がそこまで神頼みを楽しくさせるのか。
シンにはまだわからなかった。
(シンとラブラブ…って誰かに見られたらやばいわね…
じゃなくてえっと…あいつの鈍感が治りますように…うーん、まだ弱いわね…それじゃあ―――)
(シンちゃんのお嫁さん…わっわたし何書いてるんだろ…
じゃなくて、シンちゃんが、もっと私を見てくれます様に…いやいや―――)
(二人とも、笑ったり照れたり、何を書いてるんだ?…まぁ覗くのも野暮か。さて俺は…―――)
・
・
・
「さて…奉納も終わったし、売り場に戻るわよ。」
「はいはい…って御守りは?」
「えっとね、先にあたしたちが買う分だけ抜いておくんだよ」
「そーゆーこと。私は自分の分と…」
かがみがチラリとシンを見る。
「今年運勢が悪そうな人に渡す分よ」
フンと腕を組みながら顔を背けるかがみ。教科書通りである。
「あたしは自分の分とこなちゃん、ゆきちゃん、それにシンちゃんの分だよ。」
ニコニコしながらつかさが言う。こう言うことをサラリと言えるのはキャラの違いなのだろう。
かがみは少し悔しかった。
「そっか。じゃあ俺もみんなの分買っとくかな。」
そう言うと三人は元いた場所へと戻っていった。
―――早朝。
「お疲れさまでした」
「お疲れさま~」
「お疲れさまー」
三人の長い戦いは終わった。
「さてと、じゃあ御守りも買ったし今日は帰るな。」
「あ、まってシンちゃん」
つかさはシンに駆け寄ると持っていた袋から御守りを渡した。
「はいこれ。友情の御守りだよ。今年も仲良くしてね。」
「あ、お守りか。ありがとうな、つかさ」
シンが微笑んだ。赤い、やさしい瞳がつかさをとらえる。
「わっ…ううん、いいよいいよ!」
つかさは真っ赤になった顔を見られまいと下を向く。
なーんかいい雰囲気…に耐えられないのはこの人。
「はいはい、それじゃこれは私からね」
「これは…学業御守り?」
「いい加減アンタに日本史教えるのも飽きたしね。さっさと覚えなさい。」
「確かに。ありがとう。かがみ。」
再びシンの微笑みである。ギ○スの様にそれはかがみの心を射抜いた。
(ばっ、こいつなに正直にお礼いってんのよ…しかもこの笑顔…反則じゃないの!)
「どした、顔赤いぞ二人とも、疲れてるんじゃないか?」
『ちがう!』
声を合わせる二人はやはり双子である。
「おわっ…元気ならいいや。じゃあこれは俺からのお礼だ。まずつかさ」
そう言うと、シンはつかさに翠のストラップ型御守りを渡した。
「これ…学業御守り?」
「ああ、俺たちいつも補修ばっかだろ。いつかは抜け出せるように、な!」
「うん、ありがとう。」
つかさにとって数少ないシンとの接点が補修だった。
しかしそれ以上にシンに御守りをもらったことが、つかさを嬉しくさせた。
「ほんとにありがとう」
満面の笑み。シンも嬉しくなるような笑顔である。
「んで、こっちがかがみのだ」
スッと手渡されたそれは…
「あっ…つかさと色違い?」
「ああ、そのほうがいいかなって思ってな。」
「そっか…でも赤…赤?」
「健康長寿だ。」
シンは胸をはってこたえた。
「ちょっと!なんで私が長寿なのよ!」
いまにもつかみかかりそうな勢いで迫ってくるかがみ。
「うわ、話を聞けって!」
「フー!フー!」
「お姉ちゃん…」
「前から思ってたんだ。かがみは無理なダイエットをしすぎ!体壊すぞ!」
「だって、それは…それは」
「何のためにやってるのか知らないが…かがみは別に太ってなんかない。今のままで充分だ。」
「うぅ…そうかしら…」
嬉しいような、恥ずかしいような。複雑な言葉である。
「ああ、だから、あんまし無茶するなよ、な。」
シンはかがみの肩に手を置き言い聞かせるようにいった。
(バカ、顔が近いわよ!)
かがみの焦りをよそに、シンは続ける。
「まぁそういうわけで…二人とも、今年もよろしくな!」
敬礼の様なポーズで二人に言葉を送るシン。
二人にはそれが、とても頼もしく、愛しく、輝いて見えた。
(あたし…やっぱりシンちゃんのこと…)
(シン…)
お互いに姉・妹がいなければすぐにでも声に出していたかもしれない。
そんな空気だった。
…シンが叫ぶまでは…
「アッーーー!」
『!?』
「こなたと
そうじろうさんに頼まれてた限定御守り買うの忘れてた!!」
「ばか…」
「シンちゃん…ひどいよ…」
「どうしようどうしよう…あれを買うまで家に入れないとか言ってたし…やばい
、やばいぞ!」
(いっそこのまま)
(うちにきちゃえばどんだけ~)
そう思ったその時。
「これでいいかしら?あたしからのお礼よ」
そこに現れたのは…第三の女、いのりである。
「え…あ!これは!限定100名様のフルコンプ版!?」
「記念に取ってたんだけどね。
アスカくんならあげちゃうわ」
ウインクしながらそれを差し出す。
「でも…こんなレアなもの…」
「お礼だって言ったでしょ?それに、二人の面倒も見てくれたしね」
(あたしらは子供か!)
(おねえちゃん、いいとこどり…)
「すいません、ありがとうございます!えっと…」
「いのり。名前は覚えて帰ってね」
「いのり姉さん、ありがとうございます!本当に!」
そう言うとシンは停めてあったバイクの方へ走り出す。
「かがみ!つかさ!それじゃあまたな!」
「ちょ、ちょっと!」
「もう帰っちゃうの~?」
「アスカくん、またね~。」
三人の見送りを背に、シン・アスカは走り出す。
「シンちゃん、行っちゃったね。」
「そうね・・・」
「うーん、やっぱりいい子ね」
「お姉ちゃん!?」
「冗談よ、冗談。ところで・・・」
ニヤニヤしながら二人を覗き込むいのり。
姉がこの表情をするときは何か企みを持っているときであることを、二人は知っていた。
「二人は絵馬になんて書いたのかな?かな~?」
『え!?』
例年と違うことを書いたのはわかっている。では一体何を?
いのりはそれをふたりの口から言わせたかった。無論言えるはずも無いが・・・
「べ、別にいいでしょ!関係ないじゃない!」
「あたしもあんまり・・・見てほしくないなぁ・・・」
一人は顔を赤くしながらプンスカ。
もうひとりはモジモジ。
見る人が見たらさぞ萌えるのだろう仕草をナチュラルに繰り出す二人。
「そういうと思ったわ。ま、答えづらいこと書いてるってのが分かっただけでよしとしますか」
『!!』
してやられた。亀の甲より云々とはよく言ったものである。
まんまと作に陥れられた。言いたくない絵馬の内容を、言わされたも同然だった。
(ぐぐぐ・・・はめられた・・・)
(お姉ちゃん・・・やっぱり勝てない・・・)
悔しがる二人をよそに長女いのりは続ける。
「さーってと。あたしはちょっと仮眠を取るわ~。今夜もあるしね~。」
そう言うとさっさと家に戻ってしまった。
残された双子姉妹。
「はぁ・・・うまくやられたわね・・・」
「あはは、そうだね・・・でも」
つかさは少し間を置いて、笑顔で続けた。
「お願い、叶うといいね!」
「・・・うん、そうね」
かがみも笑顔で返す。
去年は色々あった。前年以上に笑った。泣いたこともあった。
そして・・・大切な人も出来た。
今年は一体どんな年になるのか。それは誰にも分からない。
しかし、去年よりは絶対楽しい一年になる。そんな予感がしてならない二人であった。
終わり
最終更新:2008年03月12日 14:23