シンが真っ白な灰なり、保健室経由で病院に運ばれてから、数時間後。
とある場所では秘密の宴が開かれていた。
「カンパーイ!」
「カンパイ」
二人の異質な男がグラスを合わせる。
なぜ異質なのかというと、二人とも頭に○キシード仮面みたいな仮面と帽子をしているからだ。
ちなみにその仮面にはI、もう一人の男にはHのマークが書いてある。
「全生徒の十分の一ぐらいには話したかな。これぐらいで十分だろう、噂というものは自然に広まっていく」
とI。彼は不敵にニヤリと笑う。
「同士長I。私の担当地区でも反応は良好でしたよ。いやはや、あなたの持ってきた情報を少し変えて伝えただけでこうも上手くいくとはね」
とH。彼はやんわりとほほ笑みながらも静かに、しかし通る声で言った。
「何を言いますか。あなたの立てた計画があったからこそですよ」
「いえいえ、発案はあなたではないですか、私は少しアドバイスしただけです。しかし、流石の彼も、まさかあなたが犯人だとは思わないでしょうね」
「ふふふ、敵は外だけではない。という事ですよ」
「獅子身中の虫、ですか。ま、私も若い時は色々やってきたので人の事を言えた義理じゃありませんが、あなたも相当ワルですね」
「ほほぅ。では、家に帰ってお宅の娘が、ある男とメイドごっこしていたなんて事実を知ったら、あなたはどうするんですか?」
「……失礼。正義は我らにありでしたね。まぁ、彼は女性と少々――いや、すごく親密になりすぎな面もありますから――」
と、同士Hは唐突に言葉を止めると。その肩を小刻みに震えさせた。
「ど、同士H?」
「あのやろう……この前なんか、偶然を装って私の目の前で娘と妻で
パルマのフルコースをかましやがって! サンプル風情がぁぁぁぁぁぁ!」
「ど、同士H!? 落ち着いてください!」
「だから私は家に男なんて連れてくるのは反対だったんだ! でも――」
『ねぇお父さん。今度、っていうか二日後なんだけど、シン君を晩御飯に呼びたいんだ。いいかな? ねっ。いいでしょ?』
『ま、まぁ。別に私はどっちでもいいんだけど。呼んでやってもいいと思わけよ……。どうかなお父さん?』
『そんなのいいに決まってんじゃん。そっかぁ、シン君呼ぶんだ。じゃあ、美容院でも行っとこうかなぁ~。予約予約~』
『
まつり、それ、いつもの所? 無理ね。さっき私とお母さんで明日の予約一杯になったから』
『うふふ、ごめんねまつり。ところで、あなた。どうです? シン君を呼ぶのは反対ですか?』
「って五人揃ってジーーっと見られたら嫌なんて言えないだろ! 大体なんでみきまで美容院の予約を入れて――」
「同士H!」
「はっ! す、すみません同士長I、私とした事がつい感情的になってしまって……」
「色々あったんですね。心中、お察しします……」
そう、なにを隠そう、
シンだけに都合が悪い形で噂を広めたのは彼ら、“正体不明”の“娘を守る会”だったのだ!
「ゴホン。それにしても同士H。このような神聖な場所で騒いでも大丈夫なのかな? あと、奥さんとかにバレたりとかは……」
「なに、お酒あっての神仏ですからね。神もこれぐらい大目にみてくれますよ」
「奥さんは?」
「妻にバレたらそれこそ天罰以上の愛国者的なお仕置きがありそうですが。今は近所の奥様方と旅行に行ってるので留守です」
「はっはっは、なるほど。抜かりは無いというわけですな。大した神主――じゃなかった。大した会の作戦参謀だ」
「いえいえ、お褒めいただく程ではないですよ。ただ、先ほども言いましたが裏で暗躍するのは昔から慣れてましてね」
二人はがっはっは。と今度は大声で笑う。
と、そこに一人の男の声が割って入った。
「同士長I」
同士長Iはその声の方に顔を向ける。するとそこには同士長と同じ仮面をした男達がいた。
「おお、同士TA、それに、同士IW、K、M、KO、TAM。アメリカから参戦してくれた同士Pまで」
それぞれの男の仮面には、それに対応したマークが付いていた。
「シン・アスカの情報漏えい計画は順調です、同士長Iよ」
「我々の方でも、陵桜の生徒達の反応は上々です」
同士達は恭しく報告した。
同士長Iはその報告を聞くと満足げ頷く。
「うんうん、圧倒的じゃないか我が“娘を守る会”は」
「我ら“娘を守る会”は一心同体ですからね。ささ、みなさんもこちらに来て一杯やりましょう」
「おお、ありがたい」
そして、男達の宴が始まった。
○
宴は最高潮に達していた。
酔っ払った男達は思い思いに叫び、笑い、大いに娘への愛を語り合いながら杯を交わす。
「よって我々は、娘を守るために立たねばならんのであぁぁる! ジーク…………ドーター!」
同士長Iがどこぞの総統よろしく、演説の終わりに高々と手を掲げる。
「ジーク ドーター!」
「ジーク ドーター!」
「ジーク ドーター!」
それに続く同士達。ビバ☆ガ○ダム世代。
彼らのは敵は消えた。
彼らは勝ち取った。いや、取り戻したのだ。
あったはずの平穏を、注がれていたはずの娘からの愛を。
ある男に虐げられてきた歴史は幕を下ろした。
と、思われた……。だが、人生はそう上手くいかないようだ。
『ちょっと聞き込みしたらすぐに分かったよ。そういう所が甘いよね男って……』
「!?」
招かれざる来訪者。
同士達は一斉に声の方へと顔を向ける。
そこには、
「巨大なるパルマの輝きは、確かに少女達を守り続けた小さな輝きを霞めさせたかもしれない。
しかし、それならば己の輝きを強めるよう努力をする事こそ人の道。親の道……
にも関わらず、人を――娘の想い人を貶めることで、己の欲望を満たそうとするとは親の風上にも置けない行為。娘それを――」
「『お父さんウっザイ!』って言う!」
太陽の光を背に浴びて、本堂の入り口に少女が立っていた。
変な仮面をしている。しかもスクール水着を着ている。
その姿を見て、同士たちのほとんどはこう思った。
こいつ変態だ……。
どうやら彼らの辞書に、五十歩百歩という文字は無いらしい。
「ええい! 貴様は何者だ!」
殺気立つ同士達。当然だ、作戦の漏洩は絶対に防がなければならない事だ。
もし、こんな計画がバレようものなら(主に娘との関係が)破滅である。
それだけは、死んでも避けなければいけなかった。
しかし、そんな殺伐とした視線を浴びせられているにも関わらず、スク水少女は毅然と言い放った。
「貴様らに名乗る名前は無い! と言いたい所だけど、馬仮面もといコナ仮面とでも名乗っておこうかな。
まぁ、さすがにあの格好は抵抗あるから、普通のスク水だけど……」
「おのれ! 小娘一人ぐらい!」
「サンプル一人ぐらい!」
二人の同士がコナ仮面に襲い掛かる。
コナ仮面はどう見ても子供だ。大人二人でかかれば押さえつけるのはわけ無いだろう。
と、同士一同は誰もが思っていた。一人を除いて……、
「ま、まて同士HとM!」
そんな中、同士長Iは慌てた様子で同士を呼び止める。だが、
「遅い! 必殺……」
コナ仮面は腰を落とし、戦闘態勢を取ると。
「爆竜拳!」
次の瞬間。某RPGの技を参考に習得した奥義が同士HとMに炸裂した。
「!!!!」
二人は、叫ぶ間もなく吹っ飛び、
どすーん!
同士達の後方に落下した。
「なっ――」
一同に衝撃が走る。
只者では無い。というのは誰の目から見ても明らかだった。
大人二人を吹っ飛ばす出鱈目な腕力。見た目が少女なだけにそのギャップで尚更怖い。
しかし、情報漏洩は絶対に防がなければならない。絶対にだ。くどいようだが死んでもだ。
娘に嫌われてまで、生にしがみ付きたい人間などここにはいない。
「ぜ、全員でかかれ!」
誰が言い出したかは分からない。恐怖に彩られた男たちは、その言葉に従って、
「「「うおおおおおおおおおお! ジーク! ドータぁぁぁぁぁあ!」」」
愛する存在を叫びながら、恐怖を振り払うかのように突進した。
「ま、待て! 同士諸君!」
同士長はまた、仲間に制止の言葉を投げかけるが、
「輪舞墳竜連撃!」
しかし、遅かった。
魔力っぽい渦が同士達を巻き込み、舞い上がり。それぞれに、綺麗な打撃を食らってまた舞い上がる。
そして、同士達は重力に従って床に叩きつけられた――
死屍累々。
その中心で、少女は息も切らさず悠然と立っていた。
「さて、お次は……」
コナ仮面は、今だ健在の同士長Iに冷ややかな視線を送った。
「ケーキを先に食べられた仕返しにしては、少々度が過ぎてない? いや、それだけじゃないのかな。塵も積もればってやつ?」
コナ仮面はゆっくりと同士長Iに近づいていく。
同士長Iは、自分がターゲットに設定された事を感じた。
「ま、待て
こなた! 父に手をあげるのか!」
「こなた?」
コナ仮面はふん、と鼻息を鳴らした後、慎ましい胸を大きく張った。
「違う! 私はコナ仮面だ!」
「だぁ!? こなた! お父さんだよ!
そうじろうだよ!」
「父? 違うでしょ? 同士長Iなんでしょ」
「いま、証拠を――」
同士長Iはコナ仮面の父であると証明するために、仮面を取ろうとする。
だが、
「おっと」
「んなぁ!」
風のような動きで、距離を詰めたコナ仮面の手によって、仮面は上からガシっと押さえつけられた。
同士長Iは必死にその腕を振りほどこうとするが、
(うおおおおおお! 万力かこいつわぁ!)
悲しいかな、腕力はコナ仮面の方が上だった。
「ん~? やっぱり父親だと証明できないみたいだね~。ならやっぱり同士長Iじゃ~ん。じゃあ、遠慮はいらないよね~♪」
微笑を浮かべるコナ仮面。ちなみに、その仮面から覗く瞳には情のカケラが一片も見当たらない。
やばい。こいつマジでキレてる……。
同士長Iの額から滝のように汗が流れた。
「こなた! お、お父さんが悪かった――」
「…………………本当にそう思ってる?」
コナ仮面は首をかしげた。
なんと、少し光が見えた。
上手くいけば助かるかもしれない。
よし、とりあえず誉めて機嫌を良くしていただき、その後はとにかく土下座して見逃してもらおう。
そう考えて、同士長Iは自分の手をスリスリしながら、
「ホントです! 本当に反省してますとも!」
「ホントに? ホントに、本当に、反省してる?」
「ええ、本当ですとも! 見目麗しいコナ仮面様に嘘なんて付けません!
いやぁ、その格好良く似合ってます。けど、やっぱりオリジナルとはあまりにボリュームが違――」
ピシィィィィ!
何か、空間が裂けるような音が聞こえた。
(……し、しまったぁぁあ!)
同士長I。
愛する二次元に対しては誰よりも厳しく真摯な男。それゆえ、こと、このジャンルに対してはとっさな嘘が付けない。
しかも、よりによって口走ったのは禁忌中の禁忌。
普段「貧乳はステータスだ!」なんて強がっていても、想い人の歴代の彼女が巨で、自分は貧である事に気付き、その事をメチャクチャ――それこそヤンデレ並に気にしているのを、同士長Iは誰よりも知っていた。
「こ、こな――」
同士長Iは恐る恐るコナ仮面を下から覗き込む。
普段、その瞳はうっとりするぐらい愛らしい。だが、そんな瞳は今現在……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
その視線は氷雪。
その色は虚無。
その瞳は光を失った漆黒に彩られている。
表情は無。ただ無。笑いも、怒りも表さず。各パーツはただ顔という集合体を表している。
要は、無表情でただジッと目の前の“親”いや、ただの“生物”を見ているのだ。
“殺すか?”
だだ――その目はそんな風に呟いている気がした。
「こ、こなた――」
次の瞬間。こなたはパァっと天使のような笑顔を振りまいた。
「ごめんねお父さん♪ ボリューム足りなくて♪」
「い、いや、なに。お父さんは大好きだぞ。貧――」
同士長Iに、仮面をへし折った拳がめり込んだ。
「ぐおおおおおお痛い! っていうか今、お父さんって認め――」
拳がめり込む。
「な、殴った! 二度も殴られた!
かなたにすら殴られた事無いのに――」
言い切る前に、今度はこなた――じゃなかった、コナ仮面の踵が同士長Iの頬にめり込んだ。
ゲシ! ゲシ! ゲシ! ゲシ! と、その行為は何度も繰り返される。
「痛い! こなた痛いってぇぇぇ! ごめん、ごめんよォォォォォォお!」
一分後。同士長Iは遠い世界に旅立った。
同士長Iの亡骸を一瞥して、コナ仮面は深くため息をついた。
「まったく……そろそろ子離れして欲しいよ」
そして、忍び足で逃げようとする同士達に向き直る。
「さて、あんた達」
全員の肩がビクッ! と震えた。
「今日の一件がバラされたくなければ私に協力するように」
そして、コナ仮面は背筋が凍りつくような妖艶な笑みを浮かべ、
「言われたくないでしょ。娘に「お父さんウザイ!」って」
死刑宣告をした。
「「「ひいいいいいいいいいい!」」」
男達の間から悲鳴じみた声が上がる。
「協力するの? しないの? 私は別にどっちでもいいんだけど?」
「「「「はは! コナ仮面閣下! 何なりとご命令を!」」」」
同士達は土下座で、永遠の忠誠を誓う。
かくして、彼らは僕らのニューヒーロー、コナ仮面の奴隷と化した。
翌日、シンが力無い足取りで病院から登校すると、相変わらずほとんどの女子生徒の目は冷たかったが、
「シン、ごめんなさい」
「シン君、ごめんね……」
「シンさん、申し訳ありませんでした……」
朝のHR前。窓際の机に座るシンの前で
かがみ、
つかさ、
みゆきは深々と頭を下げた。
「?」
シンは何か不思議な物を見るような目で、目の前の人物達を見つめる。
「ど、どうしたんだよお前達?」
「昨日ね、お父さんに言われたのよ――」
『人を疑うのはいけない! 断じていけない! 決していけない! 人として許される行為ではなぁぁぁぁあい!』
「って……」
「あんな怖いお父さん始めてみたよ――。あと、シン君は一生懸命否定してたのに、それを信じられないのは本当の友達じゃない。とも言ってた……」
「私も、昨日父が珍しく酔っ払って帰ってきたんですが、そのせいか知りませんけど、今まで見たことが無い様な凄い剣幕で諭されまして……」
「「「本当にごめんなさい……」」」
と、三人は再び頭を下げた。
シンは、はてな。と首を傾けた。
「さっきの一年組もそうだし、
みさおや峰岸さんからもそうやって謝られたんだよな……」
シンは、ちょっと考えこんで。でも結局何がなんだか分からないので、
「みんな、いいお父さんなんだなぁ……そんなに必死になって俺のために……」
人の優しさに感謝する事にした。本当に父は偉大である。
「そりゃあ必死でしょうよ。一日で説得できなかったらバラすって言ってあるし」
後ろの席のこなたが、机に突っ伏しながら何か言ってきた。
「? こなた。なんか言ったか?」
「ううん。別に~。っていうかシン。私お腹空いたな」
「何だよ唐突に……まぁいいや、昨日の失言の事もあるし、今日は気分も良いし、放課後なんか奢ってやるよ♪」
「どうも。……でも、それぐらいしてくれなきゃ、ワリに合わないよ」
「?」
「という訳で。私たちもシンさんの誤解を解くのをお手伝いします」
「日下部や峰岸も、すでに動いてくれてるわ」
「きっと、すぐに元通りだよ」
「あ、ありがとうみんな。おれ、いい友達を持ったなぁ……」
シンはまた涙ぐんだ。けど、その涙はこの二日間で流したどの涙より、心地よい気分で流せた涙だった。
その後、いつものメンバーのお陰で、噂はすぐに消えたそうな。
『バレンタイン・デイ・メイドプレイ~後日談~』END
みき「あなた! なんで私が居ない間に、本堂があんなにボロボロになってるんですか!」
ただお「申し訳ない。ただ、親として譲れないものがあったというか――」
みき「親として譲れないもの? ……あなた、まさかまた、シン君に何かしたんじゃないでしょうね」
ただお「うぅ……。だ、だって……」
みき「あなた」
ただお「は、はい!」
みき「人との正しい付き合い方、教えて差し上げましょうか?」
ただお「え、まさか……遠慮します! あっ! やめて! 襟を掴まないで――」
ちゃんちゃん♪
最終更新:2008年05月02日 15:44