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「なにが、なるほどなのよ!」
 かがみは、相変わらずシンの前でどっしりと構えて、後輩を睨み続ける。
「なにか言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ! 気持ち悪いわね!」
「カガミ……嫉妬は見苦しいですヨ」
 パティはとんでもない事を言った。
「んなぁ!?」
 カガミは顔を真っ赤にして素っ頓狂な声を上げた。
「しししし、嫉妬ですって!? 冗談じゃないわよ! そんな訳ないじゃない! 何を根拠に!」
「暴力的なカガミより、シンは優しいメイドさんの方が好きデス。そして、それを実現できている私への嫉妬デスね……」
「ふ、ふっざけんな!」
「メイドの三大原則。従順。清楚。ご奉公。しかしカガミはどれも満たしているとは思えまセン」
 そしてパティは小声で、でもかがみにはしっかりと伝わる声量で、
「まぁ、言うならカガミは、暴力、腕力、食欲と言った所デス」
 パティはヤレヤレと頭を振った後、
 どうだ、と言わんばかりにえっへん、と大きな胸を張った。
 プチン。
「あ、やば」
 シンは何かが切れるような音を確かに聞いた。
 出来ることなら今すぐ教室を出て、地の果てまでランウェイしたい所だが、
 残念ながら、今まで何度も自身のピンチを救った軍人の勘は“残念だが諦めろ”と告げる。
『それが……、君の運命なんだよ』
 議長の言葉まで、走馬灯のように頭によぎる。マジで縁起でも無い。
 シンはおそるおそるかがみを見る。
 彼女は俯いて黙っている。だが、その無言は、まるで嵐の前の静けさを体験しているような感覚をシンに与えた。
 刹那、
「ケ・ン・カ売ってるのかお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
 咆哮。
 某歌姫の歌声が人々を魅了する天上の調べならば、その声は地獄の初号機暴走といったところか……。
 まぁどっちでもいい、とシンは思った。
 嵐は到来した。ならば、ただの人である自分が出来る事と言えば、嵐が通りすぎるのをじっと堪えて待つだけである。
「わぁ~怖いです~ご主人様~」
 しかし、運命はいつもシンを戦場に駆り立てる。
 パティは白々しく甲高い声を上げると、かがみの横をすり抜けて、すかさずシンの後ろに隠れた。
 結果、不幸にもシンはかがみの前に突き出される形になった。
「す、少し落ち着けよかがみ!」
 シンは、とりあえず目の前のかがみを説得しに入った。
 なぜなら、そうでもしないとすぐに目の前の嵐は、自分にビンタの暴風を飛ばしそうだったからだ……。
「なによ! あんたはどっちの味方なのよ!」
 かがみがヒステリックな叫びをあげる。
 そして、その迫力に元軍人であるシンも思わず歩を下げた。
「味方ってお前な……。そもそも、女の子がそんな敵とか味方とか言うもんじゃないぞ」
 そして、あくまで俺は中立でいたい。と思った。
 それはかつて自分が卑怯と罵った理念と似ている気もするが……。
 いや、ウズミ様は間違ってない。とにかく敵味方に分かれるのは良くない。特にこの場合、自分の身の安全的によろしくない。
(すいませんウズミ様。あなたは間違っていなかった……)
 向こうの世界に帰る事があったら、ウズミ様のお墓に花を添えよう。そうシンは心に決めた。
「シン! 何黙ってるのよ!」
「い、いや、ちょっと考え事をしてて――」
 シンは冷や汗交じりでかがみをなだめに入る。しかし、
「マイマスター♪」
「!?」
 シンの背中にとてつもない衝撃が襲い掛かったため、説得作業が続行できなかった。
 首だけ動かして後ろを見ると、パティが背中にがっちりと抱きついていた。
 しかも、指でシンの体にのの字なんか書いたりしている。
「パパパパ、パティ! 一体何を!?」
「ねぇ、マイマスター。こんな暴力な女(ひと)なんか放っておいテ、私と学校サボタージュしませんカ? ワタシ、良い場所を知ってマス……」
 と、背中に顔とインパクト二つをうずめながら、囁くように言った。
 シンは葛藤した。
(こ。これは色々とマズイ! っていうか良い場所って何だ!? いや駄目だぞシン・アスカ! ……ああ、でも背中の衝撃は何とも言いがたい――)
「シン……」
 シンはかがみの低音ボイスではっ、と現実に戻る。
 かがみを見る。俯いているので表情は分からないが、その様子はまるで、

 発 射 寸 前 の イ デ ○ ン ガ ン。

「ま、まてかがみ! 怒るなよ! 暴力的なのお前の魅力の一つじゃないか――」
 星にされたくないシンは懸命にかがみをなだめに入る。だが、
「暴力的?」
 かがみにピシッっと青筋が浮かんだ。
「そう、あんたも私の事、そういう風に見てるんだ……」
「あっ、いや。そういう意味じゃなくて……」
『それが……、君の運命なんだよ』
 再びよぎる議長の言葉。
 嫌だ。そんな運命に従いたく無い。従うぐらいならシンはグフでも奪って逃亡すだろう。
「だから、俺はかがみにはかがみの良い所があるって事を――」
「シン~♪」
 突然のスーパーバストインパクト! 某オトメが扱う禁断の必殺技がシンに炸裂した!
「――――!」 
 シンの背中に、幸せすぎるインパルスが襲い掛かる。
 しかし、シンは歯を食いしばって耐える。
(こんな……こんな事で俺はぁ!)
 今はパティを諌めてる場合ではない。かがみの説得を優先しなくては。
「だ、だからなかがみ。お前はなんであれ、とても魅力的な女性だよ」
 歯なんか光らせてみる。これ以上ない微笑みも付け加えた。
 だが……。
「鼻の下伸びてるわよ。ド~ンと伸びてるわよ……」
「へっ?」
 バッチーン!
 本日二発目の乾いた音が教室に響き渡ると、シンの世界は反転する。
 ドスン! とシンの体に痛みが走り。
 気が付いたら、シンは床とキスをしていた。
「ふん! 暴力的でごめんなさい! さようなら変態ご主人様! 一生私とつかさに話しかけないでね!」
 冷たい捨て台詞が響く。
「か、かがみぃ!」
 シンはすぐに起き上がり、ユウナ・ロマ・セイラン並みの情けない半泣き顔でかがみを呼び止める。
 しかし、かがみは鼻息を鳴らし、がに股で教室を後にした。
 シンは諦めた。
 あの様子では例えケーキバイキングに誘っても……いや、絶対付いては来るだろうが、話は聞いてもらえないだろう。
「シン~」
 パティは相変わらず体を摺り寄せてくる。
 シンは体では天国を感じているが、頭の中は真っ暗闇の地獄だった。
 欝だ……死のうかな……。
 シンはもう、人生なんて糞かもしれないとか思えてきた。
「シン~♪ 落ちこまナイデください。あなたにはワタシがいるじゃないデスか」
「こらパトリシア! お前なんて格好してるんだ!」
 その時、一人の教師が教室に入ってきた。
 シンは視線だけ向ける。見覚えがあった。たしか一年D組の担任だ。
「セ、センセ!?」
 パティは明らかにマズイ! といった感じに驚きの表情を浮かべた。
「パトリシア! ちょっと生徒指導室まできなさい!」
「まだワタシはシンとの話が付いてないデス!」
「いいから、すぐに着替えなさい!」
「あ~ん、シン~!」
 先生は多少強引にパティを引っ張っていった。
 シンはその光景を虚無の瞳で見つめたあと、ゆっくりと立ち上がった。
 力ない瞳でクラスを見渡してみる。
 冷たいのなんの……。
「……どこで間違ったんだ」
 シンは自分に問いかけるように呟いた。
 おかしいではないか。それにいくらなんでも一日で、ここまで噂が広がるなんてありえるだろうか。
 というか、そもそも高良もみなみもペラペラと人に言いふらすような子じゃない。
 なにか、巨大な意思が水面下で動いてる。誰かの手の上で踊らされているような気さえする。
「あ~、くっそぉぉ!」
 しかし、その正体が皆目検討もつかない。いや、そもそもそんな巨大な意思すら存在しないのかもしれない。
 そう、全ては偶然なのかもしれない。
『それが……、君の運命なんだよ』
 また、あの言葉が頭をよぎる。
「っく! そんな事あるかぁぁぁぁあ!」
 シンは行き場の無い怒りに身を震わせて、髪をクシャクシャと掻く。
 しかし、それが悲劇の始まりだった。
「……あれ? 馬鹿な!? 馬鹿なぁぁぁぁ!」
 シンは自分の手を見て愕然とした」。
 そこには――少々多めの髪の毛が握られていた。
「ぜ、絶望したぁぁぁぁあ!」
「お~いご主人様! 授業始まっとんのやけどぉ!」
 シンは、自分の運命を受け入れられず。黒井先生の声を聞いたのを最後に真っ白に意識を失った。

つづく。(次回で最後)

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最終更新:2008年05月02日 15:43
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