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みんなは言う
「羨ましいわよね、好きな人と一つ屋根の下なんて」
「好きな人とずっと一緒だなんていいなぁ」
「好きな人と一緒に暮らせるって幸せですよね」
好きな人と暮らせる私は幸せ。私もそうだと思う。相手も私のことを好いていてくれるの
ならば……

「ねえシン~、大好きだよ~」
「何だよ急に~、気持ち悪いなぁ」
「おふふ、ですよね~」
シンは笑いながらそう言う。平気で「気持ち悪い」なんて言うのはこの場合親愛の表れで
ある。私だって本気で言っていないのだから本気で返されなくても仕方がない。そんなこ
とは解っている。でも……
「でもさぁ、女の子から『大好き』って言われてるんだよ?もう少しかわいい反応してく
れたっていいじゃん」
できる限りたわいもないことのように、軽い感じで言う。
「そういやこなたも一応女の子なのか。女の子扱いされたかったらもうちょっと女の子ら
しくしろよ。ただでさえ家族みたいなもんなんだから」
やっぱり笑ってシンは言う。いつもと変わらぬ日常会話。違うのは私の心情だけだ。普段
はうれしいはずの「家族」という単語が、鋭く胸に突き刺さる。
「失礼なやっちゃ!部屋に戻ってネトゲする!」
「おいおい、あんま拗ねるなよ~」
シンの言葉に振り向かず、手を振って答える。今の顔は彼に見せられない。

「女の子らしく……家族……」
部屋に戻った私はさっきのシンの言葉を反芻する。以前も同じような会話をしたことはあ
る。女の子らしくしろと言われれば反論した。家族と言われればうれしかった。
でも今は胸が痛い。
「近いところに居すぎるって言うのも考えもんだよね……」
シンに私のことをどう思うかを聞けばきっと好きだと答える。でもそれは私の好きとは違
う。
お互い「好き」なのにその気持ちが交わることはない。
「……うぇ……うぇぇぇ……」
シンに気づかれるといけないので、私は出来るだけ声を押し殺して泣いた。

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最終更新:2008年05月16日 14:30
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