『………私、シン先輩のことが好きです』
『まだ、好きって気持ちが良く分からないけど…もしかしたら、違うのかもしれないけど…』
『私は……先輩の、傍に居たいんです』
『
みなみ、俺と付き合ってくれないか?』
『……はいっ///』
『ありがとう、みなみ』
『あっ…そんな、ダメです…シン先輩――』
「――!」
ガバッ!!
そんな音が聞こえてきそうな勢いで私は体を起こした。
「?」
不審に思いながら周囲を見回す。先ほどまで目の前にいたはずのシンさんの姿はなく、代わりにあるのは見知ったソファーやテレビ。ここは私の家のリビングだった。
「……えっ?」
状況が読み込めずに、私は再度周囲を見回す。テレビの横に置いてある時計の針は午後1時を示していた。次に自分の格好を見直すと、先ほどまで着ていた制服ではなく普段着姿。
「あっ……」
そうだ。先日から春休みに入って、さっきまで軽めの昼食をとっていたんだ。そうしたら、つい眠くなってきてうたた寝を……
「ということは……夢?」
ぼふっ
「///////」
なっ……なんて夢を見てるんだろう////
確かに私はシンさんに「付き合ってくれ」と言われた。けれど、あの時の私は、想いを伝えてしまったという不安と、急に抱きしめられたという驚きで頭が真っ白になっていてとても返事ができる状況ではなかった。
ただ抱きしめ返すことで自分の気持ちを表現することしかできなかったはずだ。
それが夢の中の私は、微笑みながら返事し、シンさんが近づけてきた唇に自分の唇を………
ぼふんっ!!
「////////////」
止めよう……思い出せば出すほど、恥ずかしくて死にそうになる。
『みなみちゃんは、何時までも初々しいね』
『そう…?』
『イエス!とってもシャイですヨ~』
『いやぁ、
ゆたかちゃんも十分そうだと思うッスよ?』
『え~、そうかな?』
前にゆたか達と話していた内容を思い出す。確かに自分でも、シンさんと付き合うようになったのだから少しくらい慣れてもいいと思うのだが、この性格だけは直りそうになかった。
「…………」
シンさんはすごい。かっこいいし、何よりも優しい。感情もうまく表現できない自分とは大違いだ。
不釣合いだと思う。私よりもっと相応しい相手がいるんじゃないかとも感じる。
それでも、私は彼を誰にも渡したくない。そう考えられるようになったのは、他ならない『親友』のおかげだった。
シンさんに想いを告げた翌日、私はゆたかを自分の部屋に呼んでいた。シンさんと私が付き合うことになったことを伝えるためだ。
「どうしたの?みなみちゃん」
「あの……その……」
でも、なかなかそのことを言い出せずにいた。私はゆたかも、いや……他にも多くの人がシンさんのことを想っていることを知っていた。にもかかわらず、私は抜け駆けした形でシンさん奪ってしまった私をゆたかがどう思うか怖かったからだ。
私にとって一番の友達であるゆたかを失いたくない。けれど、最初にこの関係を壊してしまったのは私なのだ。
「………すぅ」
目を閉じて軽く息を吸い、覚悟を決めた。
「ゆたか」
「何、みなみちゃん?」
「聞いて欲しい……話しがある」
私はすべてを話した。
私がシンさんに好きだと言ったこと…
私とシンさんが付き合うことになったこと…
私がゆたかの想いを知っていたということ…
私がゆたかを裏切ったということ…
「…………」
うまく言葉にできない部分もあったが、ゆたかは黙って聞いていてくれた。
「…………」
すべてを話し終えた私は怖くて、ゆたかの顔を直視できなかった。
どんな言葉が返ってくるだろう。泣きながら罵倒してくるかもしれない。あるいは黙ってこの部屋を出て行き、もう二度と口をきいてくれないかもしれない。
そんなことを考えていた私は、次の瞬間ゆたかが言った言葉が理解できなかった。
「それは違うよ」
「………えっ?」
驚いて顔を上げ、ゆたかの顔を見る。ゆたかの顔から怒りの感情は見えなかった。
「それは違うよ、みなみちゃん」
呆然としている私にゆたかは再度言った。
「みなみちゃんは悩んで、苦しんで、精一杯勇気を出して、お兄ちゃんに告白することを選らんだはずだよ?だったら、私がとやかく言う資格はないよ」
「でも……ゆたかも、先輩のこと」
「そうだね。私もお兄ちゃんのことが好きだった……ううん、今でも好き。でも、私はみなみちゃんみたいに一歩を踏み出す勇気が出せなかった。『兄と妹』っていう関係のままでいいと思っちゃたんだ」
そう言ったゆたかの瞳から、一筋の涙が零れ落ちていた。それを振り払うかのようにゆたかは私に笑いかけた。
「だから私はみなみちゃんが裏切ったなんて思ってないよ?みなみちゃんが出した答えなんだもん」
「ゆたか……」
「おめでとう、みなみちゃん。精一杯応援するよ。だってシンさんは私の『お兄ちゃん』で、みなみちゃんは私の『親友』だもん」
「あり、がとう…!」
この瞬間、私はゆたかを抱きしめて泣いていた。泣いて泣いて、泣き続けた。
こんなにすばらしい、親友を得ることができた喜びを噛み締めながら………
「………ん」
カリカリカリカリ…
窓から聞こえる不審な音に、私は再び起き上がった。どうやら、色々と思い出しているうちに再び眠ってしまったらしい。思わず苦笑する。
今日は寝すぎ……
そんなことを考えながら窓のほうに目をやると、向こう側からチェリーが何かを催促するように窓を引っかいていた。
「あっ……」
慌てて時計を見ると、午後の3時……普段の散歩の時間はとっくに過ぎていた。
「ごめんね、チェリー」
「バウッ!」
急いで散歩の準備をして外に出ると、チェリーは待ちかねたように尻尾を振って出迎えてくれた。
「はぁ……」
まだまだだな、私。
ドジで、恥ずかしがり屋で……こんなことじゃシンさんの隣はふさわしくなくない。
それでも……
「行こう、チェリー」
「バウッ♪」
それでも、少しずつでいいから前へ進んでいこう。応援してくれる親友もいるのだ。
「今度……夕食に誘ってみよう///」
それがのみなみの当面の目標となった。
しかし、その目標を達成する機会が意外と早く訪れることを、彼女はまだ知らない……
最終更新:2009年09月06日 18:36