~『運命の日』~
『ハァハァ………』
ボク達は息を切らしながら走っていた………。
一刻も早く港にいってここから脱出しないと………。
カラン
『……の携帯!』
『そんなのいいから!』
携帯を拾うまでマユは逃げ様としない、そう判断したボクは携帯を取りに向かう。
ドォーン!!
……流れ弾だったのだろう。ボクは携帯を拾った直後に爆風に襲われ吹き飛ばされる。
……そして、気がついたボクの目の前には………。
「うわぁぁぁぁ!!!」
ガバッ
オレは悲鳴と共に目を覚ます。全身は寝汗でびっしょりだった。
「シン大丈夫?」
恐らくオレの叫び声で起きたのだろう。
こなたがオレ部屋のドアの前に立って心配そうな顔で聞いてきた。
「あ、ああ……悪い、起こしたな………」
「あー気にしないで……でも、夢でうなされるのは久しぶりだね」
こなたの言う通りオレは最近こういった過去の夢を見なくなっていた。
過去の事を忘れているというわけではないけど、オレは過去に縛られず、特定の人達のお陰で今に生きれる様になったから……過去の夢
を見なくなった……そう思っていた。
それなのに何で今になってあんな夢を――
「こなた、今日は何日だ!?」
オレは思い当たる事があって、怒鳴りながらこなたに尋ねる。
「え?今日は……6月の15日だね……あっ!確かこの日は………」
こなたの考えを肯定するためにオレは首を縦に振る。
そう……6月15日はオレの家族が死んだ日………。
「シン、やっぱり今日はいいよ。
かがみと
つかさにはわたしから言っとくから」
こなたが提案したのは少し遅めの朝食を食べている時だった。
「ダメだ。オレは約束は必ず守る」
「そんなたいそうな……ただの遊びの約束なんだからさ……それにさ………」
「それに……何だ?」
「シンのそんな顔……かがみとつかさも見たくないと思うよ」
そう言ってこなたは下を向く。オレはこなたのその行動に怒りを覚えた。
「そうかよ!こんな辛気臭い顔をしてるやつとは遊びたくないわけだ!!」
「なっ!?そんなこと一言も言ってないよ!」
「いいや、言ってるね!オレを抜いてかがみとつかさと楽しく遊びたいってな!」
「だ・か・ら、言ってないて!!」
「止めないか2人とも」
新聞を見ていた
そうじろうさんが割って入る。
「シンくん、こなたの言う通り今日は遊びに行かない方がいいんじゃないか?」
「な、なんでですか!?」
オレの怒りの言葉にそうじろうさんは少し困った顔をする。
「なんで、か……今の君は周りの人を傷つけてしまうかもしれないからね」
「えっ?」
「今だってこなたを傷つけてる」
オレは慌ててこなたを見る。
「お、お父さん!!」
「こなたの気遣いに対して君は酷い言葉で返した。
でも事情が事情だ。今日ばかりは俺も怒らないよ」
「…なんだよ、それ………」
オレはそうじろうさんの言葉に拳を強く握った。
「同情かよ!?アンタに何がわかるってんだ!?」
「ちょっと、シン!?」
こなたの制止の声も今のオレには届かない。
「今のオレの気持ちが――」
「わかるさ」
「えっ?」
「
かなたを無くした時、俺も今の君みたいだったからね」
「………!」
「その時の俺は周りを傷つけて、色んなものを無くした。だから分かるんだ」
「…………」
そう言ってそうじろうさんは寂しく笑った。
そうだ……そうじろうさんは愛する人を、こなたは母親を亡くしているんだ。それなのにオレは自分だけ………。
「まあ、今日は父の日だし俺の顔を立てるってことで、な?」
「……はい………」
さっき大事な人達を傷つけたばかりのオレに反論する権利なんかない………。
「あっ!そう言えば今日は父の日だったね~すっかり忘れてたよ」
「こなた~お父さん泣いちゃうぞ~?」
「シンに何かやってもらったら?」
「そうだな……ってこなたからはないのか!?」
さっきの事は気にしていない様子で楽し気に会話する2人。
オレはこれ程までに自分に怒りを覚えた日はなかった………。
「あら?………」
夕飯の買い物に出かけた私はあの方を見掛け思わず声を上げます。
確か今日はあの方は泉さん達と遊びに行かれてるはず、ですが周りにはあの人以外にはいません。
最初泉さん達と喧嘩をしたのでは、とも思いましたが何やら違う様です。
上手くは説明出来ませんが、いつもの優しくて強いあの方と違って……怖くて脆いそんな印象を受けました。
そんなあの方を見て最初、私は声をかけるべきかどうか、ためらいました。ですが、こんな私でも何か助けになるのでは、と思いあの方
に声をかけます。
「シンさん」
「……
みゆき?……ここは?」
「私の近所の公園ですけど……道に迷われたのですか?」
「あ、いや……考え事してたらここに………」
「そうですか……何を考えてらっしゃったんですか?」
「そんなの知ってどうするんだよ?」
「え?す、すみません………」
「あっ、いや……こっちこそごめん………。
今日のオレはおかしいから、近付かないでくれるか?」
そう言って自嘲的な笑みを浮かべるあの方に私は胸を締め付けられました。
「何かあったんですか?泉さんと喧嘩なされたんですか?」
「…………」
「かがみさんとですか?」
「…………」
「まさか、つかささんと?」
「…………」
私は原因を尋ねましたが、あの方は私の問いにただ首を振るだけです。
「……バカなことだよ。自分の家族の死んだ日だからって、他の人に八つ当たりしてさ……笑えるだろ?」
「いえ……そんな………」
前にあの方の御家族は不慮の事故で無くなられたと聞いていましたが……今日だったのですね………。
だから今日はいつもと違ってあの方が弱々しく見えるのでしょうか………。
「だからもう放っといてくれ」
「で、ですが………」
確かに私にはあの方の過去の傷に対して何も出来ないかもしれません。
ですが今の様子を見せられては、私にはとてもここにあの方を1人には出来ません。
1人にしたらあの方が壊れてしまう、そんな気がするからです。
「い、今からは特に用事もありませんし………」
「……アンタ、オレが可哀想だと思ってるんだろ!?」
そう言って突然睨み付けて来るあの方の顔は、私が今まで知っている顔ではありませんでした。
「い、いえ………」
みゆきが首を振るのと同時にオレは続ける。
「ハッ!ウソだね!アンタの目はそんな目をしてるね!」
「…………」
「アンタは家族を亡くした可哀想なオレを慰めて優越感に浸ってるんだよな!?」
「…………」
「お嬢様育ちのアンタには、今のオレは捨てられた子犬みたいなもんだろ!?」
「わ、私は………」
みゆきがそんなやつじゃないのはオレがよく知ってる。今だって純粋にオレを心配してくれてるだけだ。
それは分かってるのに、出て来る言葉は罵り、嘲り。オレの一言一言にみゆきが傷ついてるのが分かる。
もうやめろ!これ以上オレの大事な人を傷つけないでくれ!!
もう1人のオレが哀願して来る。だがオレのみゆきに対する中傷は止まらない……止めれない。
「苦労知らずのお嬢様のアンタとオレとじゃ境遇が違うのさ」
「…………」
「家族の誰も死んでないアンタにオレの気持ちがわかるもんか!!!」
「……おっしゃる通り、私にはシンさんの心の傷の深さは分かりません……ですが」
みゆきはそこで言葉を切ると、涙を拭き、顔を上げた。
「ですが、言わせてください!なぜ今泣かないのですか!?」
「な……に………?」 真っ直ぐな瞳でオレを見つめて来るみゆきに対して、オレは言葉を失う。
「シンさんは……シンさんは我慢しすぎです!!……もっと他の人を頼ってください!
私が頼りにならなければ、泉さんに頼って下さい!かがみさんに頼って下さい!つかささんに頼って下さい!……そんなに強がって、自分1
人で傷つくのはやめてください!!」
一気に言い終わるとみゆきはオレに謝る。
みゆきにはしては、理論的ではなく感情的な答え、しかもみゆきの目からは拭ったはずの涙……誰のために?……それは………。
「……オレはお前達に迷惑をかけない様にしてた、つもりだった……でも、それはオレの独り善がりだったんだな………」
「はい。私達はお互いを助け合っているんです……だから今は私が助けさせて下さい。あなたを」
震えるオレに、みゆきはいつもどうりの笑みと言葉でオレを包んでくれる。
「……ごめん……少しお願いできるか………」
「はい、どうぞ」
みゆきは母親の様にオレを抱き締め、オレは子供の様に……泣いた………。
「……なあ、みゆき」
「なんでしょう?」
隣りで座っておられるあの方が消え入りそうな声で呟きます。
顔は俯いていて見えませんが少し落ち着かれたのか、今はあの方から怖い雰囲気は感じません。
ですがそのお姿からは以前、脆さは消えていませんでした。
「……オレは乗り越えられるかな?……過去を………」
「はい」
私は迷う事無くはっきり頷きます。
「もし御一人で無理でしたら泉さん、かがみさん、つかささんが乗り越えるのを助けます。
勿論……私も」
「……さっき見たいにか?」
「はい。さっき見たいに、です」
「……そうか………だったら何とかなるかもな。
オレ何かよりはるかに強いのが4人も助けてくれるんだから」
「はい。鬼に金棒です」
「金棒にしては随分、軟らかそうだな」
「それがいいのでは?」
「……だな」
そう言ってあの方は笑います……やっと笑って下さいましたね。
私はそれが嬉しくて思わず私も笑っていました。
御迷惑かも知れませんが、今度あの方の過去を聞いて見ようと思います。
それで少しでもあの方を助けることが出来るなら………。
私はあの方と笑いながら、そんなことを考えていました。
~fin~
最終更新:2010年01月24日 23:32