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3-478

「…雨が降り出したじゃないか。なにが天気予報だよ、詐欺師め…」
 昼あたりまでは晴れだったのに、今になって突然、降り始めた雨。
オレは、今朝のこの地域の降水確率を思い出して…もう天気予報なんて二度と信じないと固く誓った。

  季節は初夏…。誰かから聞いたのだが、この時期は梅雨というらしく…雨が多くて、そんでもってジメジメしているらしい。
その話を聞いただけで、なんだか気分もジメジメしてきた。間違いなくオレがもっとも嫌う部類の気候である。
そして今、オレはこうやって梅雨というものを実際に体験しているのだが、正直言って耐え難いものがあった。
こうも暑苦しいと今すぐ上半身裸になって、下敷きでパタパタと体を扇ぎたいところだったが…黒井先生に怒られそうなのでやめておくことにする。

 んで、現在の状況を説明しておこうと思う。もう下校時間となってはいるのだが、いきなり降り始めたその雨は、一向に止む気配がなかった。
そしてその雨が止まないことには…オレは帰ることができなかったのだ。
…なぜかと言えば、マヌケなことに…今日オレは傘を持ってきていないから。

 悔しいことに…周りを見るとなぜか傘を持ってきているヤツが多かった。まるでこうなることをわかっていたかのような皆の行動にオレは驚くことしかできない。
ZAFTのエースの名を欲しいままにしていた俺が、この程度の状況変化も予測できなかったという事実に、オレはプライドを傷つけられた。
そして、一向に止まない雨。ただでさえイライラしていた短気なオレは、あっという間に痺れを切らした。

 傘なんて、いるもんかッ!
こうなったら、雨の中に特攻だッ!…なんてことを考えてると、突然オレに傘を差し出してくる救世主…もとい人物がいた。
それはピンクのクラス委員長…高良みゆきである。

「シンさん、あの…傘がないのでしたら……これを」
「え?…これをオレに?」
 いきなりオレに傘を差し出してきた高良。 とてもありがたい申し出ではあるが、よく見ると…傘が一本しかない。
 これだと、高良がオレの代わりにズブ濡れで帰るハメになってしまう。
「悪いから遠慮しとくよ。アンタのなんだから、アンタが使えばいい。オレは多少雨に濡れようが、風邪は引かないと思うし」
「いえ、…その、違うんです。私が言いたいことはそういうことではなくて…この傘を私とシンさんの二人で一緒に使えばいいかなって…」
  あ、なるほどな。それは確かにグッドアイデアだ。この傘が覆う面積なら、二人分でもなんとかなりそうだし。
「わかった。じゃあ、そうさせてもらうよ」
「は…はい///」
  なぜか高良は頬を染めている。何か恥ずかしいことでもあるんだろうか…?

 こうして、二人で一つの傘に入った俺たちは…雨がこれ以上酷くならないうちにさっさと帰っちまおうってことで、校門を出た。
そこで気になったのは学校の幾人かの男子からオレに向けられた視線である。なんというか、これはオレが戦場で感じるものと同質だった。いわゆる、殺気である。
けど、幾戦もの修羅場を越えたオレにとっちゃ、この程度など屁でもない。…少し奥歯がガタガタしているのは気のせいということにしておこう。
なんたって、ザフト軍人は…決してうろたえないのだから。

 そして歩き出して5分といったところだろうか。
途中でバスに乗るので、雨の中歩くと言ってもそう大した距離ではないのだが…オレは少し息苦しさを感じていた。
それと言うのも…高良と全く会話が続かないからだ。なぜかといえば、高良に問題があったからだ。
どういうわけか高良がえらく緊張してるみたいで…喋ることすら満足にできていない。さっきから、喋ること全て…噛んでばっかなのである。
まぁ、どうしたのかは知らないが…無理して喋ることもない。バス停まで、後…もう少しだし。

  だが…無理をしなくてもいいのに高良がオレに質問してきた。
「シンさん…。あの、わ…私の顔には慣れましひゃか?」
  …また噛んだな。何をそう緊張しているのだろうか? 伝えたいことは大体わかったけど。
「ああ、アンタがメガネをかけてる分にはな」
  忘れるわけもない。初めてメガネを外した高良を見た時、泣いて逃げ出してしまったという大失態は。
「あの時は、悪いことをした。もう何度も言ってはきたけど、…ホントにごめん」
「いいんです。トラウマなんですから…仕方ありません。けど、シンさんに素顔を見せられないのが…ちょっぴり悔しいです」
  高良は笑ってはいたが…どこかその表情は言葉の通り、悔しそうに見える。
「それにしても、私とシンさんのトラウマの人物というのは、そんなに似ているんですか? なんだか一度、お会いしてみたいです」

  はいはい。
「言っとくけど、そんな血迷ったことは考えるな…! 絶対に会わない方がいい。アンタも洗脳されちまうぞ」
  それを聞いた高良はフフッと笑った。オレとしては、笑えるようなことは一言たりとも言ってないはずなのだが。
とにかく、あの女に会いたいなんて考えは改めさせとかないと。
「まぁ、確かに顔は似てる。だが、性格は大違いだ。アンタはとても真っ直ぐだが、教祖は腹黒の極みに達している。まさに暗黒の女帝だ。
そんなヤツに会ったところでメリットなんてない。それに胸だって、高良のほうが断然…大k」
 と、ここまで言って俺は気づいた。最後のは、ただのセクハラ発言だったじゃないか…。傘を忘れたりと、今日のオレはいろいろとウッカリしすぎている。
「む、胸だなんて…! そ…そんな///」
 案の定、高良はオレのセクハラ発言を受けてか、俯いて顔を真っ赤にしていく。
だけど今日の高良の顔はずっと真っ赤ではあるものの、どこか嬉しそうにも見えるのは…オレの考えすぎだろうか。

そうこうしているうちに、小さくバス停が見えてくる。いつもは地味に長く感じるこの道のりも、今日はそうでもなかったと思う。
やっぱり誰かと話しながら帰ると、道のりもどこか短く感じるものなんだろうか。
「それで…あの、シンさん! 今日は大事なお話が……あるんです」
「いきなりなんだよ。ってか、大事な…話?」

 高良は大きく息を吸って、大きく息を吐いた。何度も言うが、ホントに何を緊張しているのだろうか。
 顔は赤をも超える赤さとなって、茹ダコのようでもある。正直、オーバーヒートでも起こさないかと心配になってきた。
「実は私、ずっと前からシンさんのことが…す…す…す…」
「す?オレのことがどうかしt…ってオイ、高良! 前を見ろ、前!」
 高良の歩く先に、電柱がそびえ立っていた。そして高良は、全く前を見ている様子がない。 
――このままじゃぶつかる! そう思ったオレは、とっさに手を動かしていた。
間一髪ではあったが、高良が電柱に頭をぶつかる直前に…なんとか彼女を止めることに成功したのである。

「高良…ボケッとするなよ。アンタ、危うく電柱n」
 けど、ボケッとしていたのはオレの方だったのかもしれない。言葉を発している最中に、オレは自身の手が何を掴んでいるかに気づいたからだ。
「う…うわぁぁぁあぁあああッ!!ぐぉ…ぐぉめんッ!!!!」
発音がおかしくはなってしまったが、一応は謝っているつもりである。とにかく、オレは掴んでいるものから急いで手を離した。

 一方、高良はというと…俯いたまま、恥ずかしそうに自身の胸に手を置いていた。そんな彼女の姿を見ていると…急速に罪悪感が湧いてくる。
また…やってしまったのだ。俺は何度、同じ過ちを繰り返せば気が済むのだろうか? 
でも、かがみのソレなんかとは比べ物にならない大きさ・柔らかさ・弾力性を持つ高良のソレは…まさに圧倒的だと言えるだろうな。
――――…って何を冷静に分析してるんだよ、俺はァァァァァァァァァァッ!!!!

「あの…シンさん。大丈夫ですか…?」
 高良は、頭を抱えて身悶え始めた俺を見て心配したのか…気遣わしげな声をかけてくれる。
 オレがあんなことをやった後だと言うのに…高良のなんと優しいことか。それに比べてオレは…なんて汚いんだろう。
 なんだか自己嫌悪に陥ってしまいそうだ。
「それと、あの…鼻血、出ていますよ」
 そして高良がやんわりと、オレに事実を告げてくれた
 え? 鼻血? そんなまさか…。
始めは信じられなかったが、鼻に手を当ててみると…高良の言うとおり、そこには血がベットリとついていた。

 なんてことだ…!カッコ悪いったらありゃしない。

 しかし、オレはつくづくマヌケな男だ。で、今日は特にヤバかったぞ、と。
こんなんで、よくZAFTのエースを張っていたな…と、自虐的に考えずにはいられない。

 そして自分で言うのも悲しいが、今のオレはかなりのマヌケ面だ。
鼻の穴にティッシュを差し込んだまま、オレは歩いている。なかなか血が止まらなかったからな。
とはいえ、今のオレの顔はまるで鼻の穴からドバッと白い液体が出ているように見える。
そのあまりのダサさ加減に…オレは泣きたい気分だった。

 で、オレのそんな気持ちも知らずに…高良が不意に笑いかけてきた。
「なんだよ? アンタもオレのこの顔がおかしいのかよ?」
「いえいえ、そうじゃないですよ。私…シンさんはもっとクールな方だってイメージがあったんですけど…」
「へ?…オレが、クールだって?」

 オレがクール…。オレのことをよく知ってるやつが聞いたら真っ先に否定するだろう要素だ。まぁ、オレは短気で喧嘩っ早い面があるのは否めないしな…。
「でも、やっぱりシンさんだって普通の男の子だってことがわかりました。
だって、今日はシンさんの意外な一面を見ることができたんですから。それが…とっても嬉しいんです」
「そ、そんなんで…嬉しいと思うのか?」
 なんだか…情けないところばかり暴露してしまったオレにとっちゃ、なんとも複雑な話だ…。そんなオレの心境など知るはずもなく、高良は話を続ける。
「はい。だから私、シンさんのことがもっとたくさん知りたいです…。これからも、シンさんのこと…いっぱい勉強させてください」
「オレを知りたい…?まぁ、アンタがそう思うんなら、別に構いやしないけど…!」 

 でも、オレを知ろうとするのは構わないのだが…正直な話、知ったところで高良にいいことは全くないと思うんだけどな…。
ってか、それ以前に高良はなんでオレを知りたいと思うのだろうか。彼女の知的好奇心というのは…オレにとっちゃことごとく謎だらけってことだろう。
高良…やけに嬉しそうだしな。

「ありがとうございます。…じゃあ、もっとシンさんのことを知ってから…私の貴方への気持ち、伝えることにしますね」
「へ?…気持ちって、何をだよ?」
「それは……秘密です。あ…バスがちょうど付いたみたいですから、少し急ぎましょうか」
「あ、ああ…」

 ここで今更ではあるが、バスに乗る前に…オレはあることを思い出した。ここにくる途中で、高良がオレに言いかけていたことだ。
大事な話とか言ってたが、あの時…彼女はオレに何を伝えようとしていたのだろうか――――?
…って、こんなことは高良にでも聞かない限り…わかりっこない。
まぁ、どうせ大したことでもなかっただろうから…どうでもいいや。
だから、バスの中で高良にオレのこのイイ加減な面を…教えてやるとしようかな。

 そんなことを考えながらも、オレは鼻にティッシュを差し込んだマヌケな顔のままで…バスのステップに脚を掛けたのだった。


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最終更新:2008年01月31日 04:31
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