オーブ軍とのメサイア攻防戦で、かつての仲間アスラン・ザラの駆る∞ジャスティスに敗れ、
墜落してゆくデスティニーの中で意識を失ったシン・アスカ。
そして次に目を覚ました時、何故か見知らぬ場所で見知らぬ少女に見下ろされていた。
C.E.からこの世界に渡って、こちらの世界に愛着が持てるくらいの時間が経った。
ここで知り合った人達と交流を深めて様々な思い出も出来た。
だから、なのだろうか。最近、元々いた世界のことを思い出すことが多くなった。
そして考えてしまう、向こうの世界で遣り残したことはないのか。
全て中途半端なまま、色々なものから目を背けてこの世界に逃げてしまったのではないのかと。
今日の学校も楽しかった。
つかさの弁当は旨かったし、
かがみとは借りた小説の話題で盛り上がった。
みゆきの仕事の手伝いも苦にならないし、
こなたの趣味についても段々理解できるようになってきた。
黒井先生の世界史も面白かったし、体育で白石たちと競い合うのも燃えた。
そんな普段と変わらない日常だったからこそ、今日、C.E.に帰ろうと決意した。
シン「ごちそうさま」
こなた「おそまつさまー、ってもういーの?」
シン「ああ、今日は早く寝ようと思ってさ」
こなた「ふーん。なんかあった? お姉さんが相談にのっちゃうよー?」
シン「いや、なんでもないよ。 じゃな!」
こなた「?」
そうじろう「・・・」
電気の消えた自分の部屋でシンは妹の携帯とパイロットスーツを握り締める。
こちら側に存在する向こうの世界との接点。
確証はないがこれで渡れるという気がした。
こなたに向けて言伝も残した。
帰ってこられないかもしれない、そんな思いから最初に書き上げた文面の半分になった手紙。
一つ深呼吸して自分の部屋を見渡してみる。
シン(こっちにきて随分オレのものが増えたな)
こなたと行った何だか異様な雰囲気の店で買ったグッズ。
かがみが絶対面白いから!と渡してきた本。
みゆきから貰った海外旅行の土産。
つかさがくれたよくわからないキャラクターのぬいぐるみ。
シン(もう会えないかもしれないんだよな・・・)
これ以上感慨に浸っていると決心が鈍りそうで、シンは布団に潜り込んだ。
こなた「おーい、シン起きてるー・・・ってありゃ?」
灯りの消えた部屋、ベッドに人が寝ているような膨らみはない。
こなた「んーどっか出かけたのかなー」
ふと、机の上の紙に目が止まる。
それはシンがこなたに残したメッセージ。
こなた「えーと『世話になった、今までありがとう』・・・・・・マジ?」
何度も読み返してみるが、それ以上の言葉はない。
ピンク色の携帯も、シンがこっちに来たときに着ていた服もなくなっていた。
この部屋、この世界からシンが消えていた。
こなた「こんな急展開はないよ・・・打ち切り決定
アニメじゃないんだからさー・・・シン」
ベッドに入って目を瞑ったのは数秒の筈だった。
しかし、今シンの目に映る景色は明らかに異なっていた。
急ぎ現在の状況の把握に努める。
自分が今いる場所は見覚えの在るコクピット、議長から直々に受領した愛機デスティニー。
気体の状態は万全、五体満足でエネルギーも十分にある。
遠くに見えるのはZAFTの要塞、戦っているのはZAFTとオーブ軍だった。
シン(ここはあの時の・・・時間が戻っているのか・・・!?)
突如鳴り響いたアラートにより思考を中断し、モニターを見る。
ルナマリアが駆るインパルス、そしてその青い機体を月面に叩き落した赤い機体。
シン「あれは・・・ジャスティス! アスラン・ザラ!!」
反射的に対艦刀を抜き∞ジャスティスに斬りかかる。
アスラン「この機体っ、シンか!」
咄嗟にビームシールドで受け止めるが、対艦刀の重量を伴った斬撃に大きく体勢を崩す。
その隙を見逃さずに放たれたビームブーメランがジャスティスの左脚を切り飛ばす。
アスラン「くぅっ、もうやめろシン! こんな戦いに何の意味がある!」
崩れた体勢からビームライフルでデスティニーの左スラスターを撃ち抜く。
シン「アンタたちが作ろうって世界で、本当に皆幸せになれるのかよ!」
アスラン「俺たちは何かを押し付けたりするつもりはない! 一刻も早く戦争を終わらせたいだけだ!」
シン「何を!?」
ジャスティスはビームシールドに取り付けたビームソードで斬りつける。
しかし、デスティニーに腕を掴まれ、そのままパルマ・フィオキーナで左腕を破壊される。
シン「アンタはラクス・クラインの言うことを繰り返してるだけじゃないのか!」
アスラン「違う! 俺には俺の守りたいものがある! 守りたい世界がある!
それは人それぞれ違うものだ! 俺が守りたいものは友達や仲間が戦わずに過ごせる未来!
お前が守りたかった世界はっ、守りたいものは何だ!
お前は一体何のために戦う?! 答えろシン!!」
シン「俺の・・・」
守りたかったもの、守りたくて守れなかったもの。
マユ、父さん、母さん、ステラ、ルナ・・・。
守りたいもの。
今の自分が最も守りたいと思うもの、それは・・・。
先ほどまでの攻勢が嘘である様に、デスティニーの動きは精彩を欠くものとなった。
戦いの最中に疑問を持ち、戦闘に集中出来なくなればおのずと動きも鈍くなる。
かつてのアスラン・ザラがそうだったように。
アスランの問いかけが頭の中で繰り返される。
それはこなたやかがみ達と過ごしているときから自身に重く圧し掛かっていた黒い靄。
戦ってきた理由――ZAFTにいた頃は上からの命令にただ従い、多くの敵を討った。
軍人としては何も間違っていない・・・しかし自分がなりたかったのは軍人だったのか?
何を経験して、何を思って力を欲したのか。
力を得て何がしたかったのか。
感情を押し殺してでも戦争ない世界を望み続けたが、その根底となった思いは何だったのか。
望む未来――議長の掲げたDPで統制された世界? DPにより戦争は無くなるかもしれない。
戦争が無い世界以上に幸せな世界なんてあるはずがない。
だが、向こうでの平和な生活はシンに夢を見せた。
戦争が無い幸せな世界での、大切だと思える人たちと暮らす世界。
一瞬、シンの体を浮遊感が包む。
それはパワーダウンを起こしたデスティニーが月の重力に引かれ落ちゆく時の慣性によるものか。
或いは今までシンを苛んでいた黒い靄に射した光明による開放感によるものだろうか。
シン「オレの、守りたい世界はぁ!!」
片翼となった光の翼が最期の輝きを放つ。
最早光の刀身を失った対艦刀を構え、デスティニーは突撃する。
ジャスティスもまた、連結されたサーベルを握り締め加速する。
互いに己が意志を掲げるように――二つの巨体が宇宙に交差した。
月地表に降り立ったシンは大破した自機を見上げる。
ぶつかり合った瞬間、渾身の力を込めて突き出した対艦刀はその勢いと質量をもってジャスティスの頭部を跳ね飛ばした。
しかし、ジャスティスにより最後の四肢を断たれたデスティニーは完全に機能を停止し月面に墜ちた。
シン(アスラン・・・アンタやっぱ強いな・・・また負けちまった)
前回この場所に立った時とは異なり、少なくとも悔しいという感情は湧いて来なかった。
まもなく、ジャスティスが月に着陸しアスランがシンの方へ歩み寄ってきた。
シン「止めでも差しに来たんですか?」
アスラン「バカを言うな。お前の答えを聞かせて貰いたくてな」
シン「オレにも守りたいものがありましたよ。こっちに来て、貴方と話してやっと自覚したって感じですけど」
こっち?と不思議がるアスランに、以前にもこの戦いに参加したこと、戦いの後気付いたら別の世界にいたこと、
その世界で様々な経験をし、多くの友人が出来たことを掻い摘んで話した。
前の戦いでもジャスティスに敗れたことは伏せていたが。
アスランはあまり理解できていないようだったが、そうか、と笑顔を見せた。
話に一段落ついた頃、シンは先程アスランに問われたことに答える。
シン「アイツらのいる世界は平和なところだけど・・・オレにも出来ることがある筈だから、オレはあっちで戦います。
・・・でも、結局この世界から逃げ出すことになるじゃないかとも思うんですよ」
指針は定まった。
しかし、様々なものを抱え込んでしまう性格からか、最後の踏ん切りに躊躇いが出る。
アスラン「最後までその信念を貫け、シン。
貫き通した信念に間違いはない」
シンの言った戦うの意味、その意味を理解できたから。
身近で己の運命に翻弄されながらも進むべき道を選んだ友を見てきたから。
そして、自身もこの激動の世界で迷い、ふらつきながらも自分なりの答えを見つけた者だからこその助言。
アスラン「いつも誰かのために戦ってきたお前だ。
幸せな暮らしを望んでも誰も責めたりなんかしないさ」
最後に「頑張れよ」と残してアスランはジャスティスの方へ歩いていった。
去っていくアスランの背中を見つめるシンの表情は晴れやかだった。
が、ふと気付く。
シン「ところで・・・どうやったら帰れるんだ?」
シン「ん? 通信・・・デスティニーから?」
ノイズが酷く、よく聴き取れないが何かしらの言葉であることは理解できた。
シン(今は誰も乗っていない筈なのに)
とりあえずデスティニーへと向かうシン。
機体に近づくにつれ、通信が鮮明になっていく。
『・ン・・・カく・・・こえ・・か・ ・・た・・・・』
『シン・ア・カく・・・こえ・すか? こ・た・・で・』
シン(オレを呼んでるのか?)
ルナ「いったたた・・・、戦いはどうなったの?」
『シン・ア・カく・・聞こえ・すか? こなた・・です』
シン「こなただって!?」
ルナ「あっ、シン! 今いったいどうなって・・・」
シン「ごめんルナ!」
ルナマリアの呼びかけに御座なりに答えデスティニーのコクピットに入り込む。
モニターには見たこともない画面が表示されている。
白一色の背景に『Touch me』とだけ映っている。
依然聞こえてくる声に導かれるように、シンは躊躇うことなく画面に手を伸ばした。
ルナ「ちょっとシン! 一体なんなのよ・・・ってあれ? シン?」
ルナマリアがデスティニーのコクピットを覗き込んだときには既にシンの姿はそこにはなかった。
シン「ここは・・・何処だ?」
スティング「死んだヤツが集まる場所だ。
どの世界のヤツも死んだらここに来る。
まあ、この辺には俺たちの世界のヤツしかいないがな」
『当番』と書かれた札を下げた緑髪の目つきの悪い男が、呟きの様な疑問に律儀に答える。
シン「え!? じゃあオレは・・・」
スティング「お前に会いたいってヤツがお前を呼んだんだ。
まあ派手にドンパチやらかして死人が大勢出たから紛れ込めたってのもあるがな。
しばらく見物でもしてな。今そいつを連れてきてやる」
見物、と言われ視線を遠くへ向けると様々な人がそれぞれに過ごしている様子が窺えた。
マユラ「なんかさー、ここって若い男の子いないね」
アサギ「周りにいる男ってオジサンか変な人ばっかりだし」
ジュリ「結局私たち生きてる間に彼氏作れなかったのよね」
ミーア「まあまあ、いざとなったら他所のエリアに行ってみればいいじゃない」
フレイ「どこに行っても死人ばかりじゃない」
トール「ここにはオジサンか変な人ばかりだってさ」
ニコル「単に忘れられてるんじゃないでしょうか・・・僕なんて特技ミラコロですし」
アズラエル「えー、皆さん。ここのエリア長の選挙の際には是非この僕に清き一票を・・・」
シャニ「うるさいバーカ」
オルガ「こっちまで来てデカイ顔されてたまるかよ!」
クロト「ヒャーハハハ! 落・選!」
ジブリール「フッ、都落ちの火薬屋め」
アズラエル「お前らぁぁぁあああ!」
エル「おじちゃん何やってるの?」
サトー「妻や娘もここにいるのではと探しているのだがな・・・」
エル「んー、コレあげる!」
サトー「折鶴か。・・・有り難うな」
アウル「ステラ、お前は左! 抜かれんじゃねーぞ!」
ステラ「わかった・・・!」
クルーゼ「無駄だ! 最早止められんさ、私のドリブルはな!」
ステラ「くっ、こいつ!」
クルーゼ「ハーハッハッハ! すまんなぁ、上手くてさあ!」
アウル「オイコラ! オレのセリフパクんなよ!」
シン(・・・本当に色んな人がいるんだな)
スティング「・・・アイツです。
おいっ、連れてきたぞ!」
スティングの呼びかけにシンが振り向くと、そこには帽子を被った背の低い女性が佇んでいた。
シン「こなた!? なんでここに!」
かなた「いえ、私はこなたの母でかなたと申します」
シン「こなたのお母さん・・・」
デスティニーを通してシンを呼んだのはかなたで、シンが帰る手伝いをしたいという。
かなた「貴方がいなくなったことでこなたが落ち込んでいるようで、なんとかしてあげたいと・・・」
それから少しかなたと話していたが、
シン(何故こんなマトモな人がそうじろうさんと結婚したんだろう)
というのが感想だった。
スティング「お話中すみませんが、時間がそろそろ・・・」
アウル「早くしないとバス行っちゃうぜー?」
シン「バス?・・・ってあれはラゴゥじゃないか!?」
???「ハヤクシナイト オイテクワヨ」
スティング「これ逃すと生きて帰れないかもな」
ニヤニヤしながら放たれた衝撃的な言葉にシンは急ぎラゴゥに向かう。
その途中で立ち止まりかなたの方に向き直る。
シン「こなたやそうじろうさんに何か伝えることはありますか!」
かなた「・・・では、私は元気でやっている、と。あと・・・。
シン君、そう君とこなたのこと宜しくお願いします」
シンはわかりました、と返事をすると虎バスに乗り込んだ。
車窓から外を見るとかなたが手を振ってくれている。
???「ハッシャスルワヨ」
シン(これで帰れるんだ・・・ってうわあ!!)
発車した途端、ものすごい振動がシンを襲う。
地上用四脚MSには訓練で搭乗したことがあるが、ここまで揺れるものではなかった。
運転手は平然と操縦している
シン(まるでゆいさんの運転のよう・・・ッ)
上下左右に揺さぶられながらも、この先にまたあの世界があると思えば苦にはならない、筈だ。
シンがいなくなってこちらでは二週間が過ぎていた。
特に世は事もなし、大きな事件もなく平凡な日常が流れていた。
こなた「んじゃーまたねー」
つかさ「こなちゃんバイバイ」
かがみ「また明日ねー」
みゆき「さようならー」
つかさ「こなちゃん今日も元気なかったね・・・」
みゆき「シンさんがいなくなってから、ですよね」
かがみ「あいつがあんなだとこっちまで調子狂っちゃうわよ」
つかさ「シンくん早く帰ってこないかなー」
こなた「んー先生もINしてないかー、って今日はロッテ戦だったっけ。
・・・なんかつまんないなー」
日課になっているネトゲを早々に切り上げ、大きく伸びをする。
ふと窓から外を眺めると綺麗に晴れ渡った夜空が見えた。
何気なく部屋の灯りを消し、窓辺に寄ると満天に輝く星空があった。
こなた「さすがはさいたま、星が綺麗だねー。
そういえばシンがここに来たのもこんな夜だったネ」
空に一筋の流れ星が走る。
こなた(・・・シンが帰ってきますよーに)
既に消えた流れ星に目を閉じ祈りを飛ばす。
こなた(流れ星に願い事なんてこれじゃつかさのこと夢見がちなんて言えないなー)
軽く自嘲し、閉じていた目を開けるとそこには生まれたての子鹿のように四つん這いで蹲る少年の姿があった。
シン「くっそぉ・・・ヘタな耐G訓練よりよっぽどキツかった・・・」
こなた「シン・・・」
シン「えっ、こなた!? じゃあ帰ってこられたのか!」
こなた「・・・シン、おかえりー!」
シン「うわっと!」
いきなりこなたに飛びつかれ少しよろめくシン。
けれど当然のように「おかえり」と言われたことが嬉しかった。
以前ここで暮らしていた時にもかけられていた言葉だが、改めてここが自分の居場所であることを実感させてくれた。
だからシンもこう返事をする。
シン「ただいま!」
そうじろう「シンが帰ってきてまた家が賑やかになるのは嬉しいけどね」
シンとこなたを見る。
そうじろう「なんでこなたがシンに引っ付いてるのかな? かな?」
シン(あー、何か怖いオーラ出てますよ? そうじろうさん)
こなた「シンがまたどっか行っちゃったら困るしねー」
シン「もうどこにもいかないよ、俺の守りたいものはここにあるから」
シン(そうさ、こっちの世界での平和な生活、それがオレの守っていきたいものだから――!)
こなた「わー、シンってば大胆なこと言ってくれるネー(=ω=.*)」
そうじろう「シーンくーん、おじさんとちょっと男の話し合いをしようかー」
シン「え!? ・・・あ、いやそういう意味で言ったんじゃ・・・ってそうじろうさん目が怖い!」
シン「っとそうだ、オレかなたさんに会いました」
シンの言葉に場の空気が少し引き締まる。
こなた「お母さんと?」
そうじろう「そっか・・・かなたは何か言ってたかー?」
シン「あまり時間がなくてそんなに話せなかったんですけど、『私は元気でやっている』と」
そうじろう「そうか――」
シン「あと『萌死はやめてくれ』だそうです」
シン「ほんの数時間のことだと思ってたのに、こっちじゃ二週間も経っていたのか」
こなた「そういえばシン、手紙残してったよねー。
『世話になった、今までありがとう』しか書いてなかったからもう帰ってこないんじゃないかって思っちゃったヨ」
シン「あれ書いたときは帰ってこれるかわからなかったからな。
その続きは帰ってきたときに直接言えばいいって思ったんだよ」
こなた「へー、その続きって何ー?」
シン「これからもよろしく!」
終
最終更新:2009年04月24日 03:53