「シンいる~?……っていないのか?(=ω =.)ショボーン」
なんとなく顔が見たくて部屋を訪れたのだが、そこに彼の姿はなかった。おそらくは外出中なのだろう。
まあ、なにかと女性に好かれるたちの彼のことだ。歩けば旗に当たっているのだろう。
「それならそれで、私といい雰囲気になってもいいのね……」
私の家に居候し、四六時中顔を合わせ、誰よりも――他の娘よりも側にいるはずなのに、私と彼がいい雰囲気になることは皆無だ。
確かに普段の私がゆる~く振舞っているということもある。気恥ずかしくて、そんな雰囲気になる気配があったら話題を変えてしまっていることもある。
だけど、それでも――
「シンの馬鹿……」
他の娘にするように、私にも雰囲気を作って欲しい。私を誤解させて欲しい。嘘でも刹那の夢でもいい。淡い夢を見させて欲しい。
でも、シンは私をひとりの女の子としてではなく、ただの同居人兼、遊び相手として扱っている。
妙に小奇麗に整理された彼の部屋が夕焼けに朱く染まっている。居候として慎ましく過ごしている彼は私の家事まで手伝ってくれる。
だけど、私に頼ってくれない。私を必要としてはくれない。私を求めてはくれない。
「ばかぁ……」
力なく拳を振り落とし、隅に畳んである布団を打つ。本当はシンに向かって叫びたい。『私を見て』と。だけど、言えない。
同居人、手間のかかる姉のような存在、気兼ねなく遊べる相手、側にいる存在、女性として気を使わないで済む気を許せる相手。
そんな立ち位置を失うのが怖くて、私は臆病になってしまっている。好きだといって拒否された時のことを考え、そんな雰囲気になるのも恐れてしまっている。
「私の……馬鹿……」
頬を伝う涙が床に落ちるのを嫌い、私は咄嗟にそこにあった枕に顔を埋めた。やわらかい感触と、ほんのりと香るシンの髪のにおいが私を包んだ。
「シンも男の人なんだね……汗臭いなぁ……」
枕を抱きしめる両腕にぎゅっと力をこめる。臆病な私はシンに想いを告げることも、シンを抱きしめることもできない。
だからせめてこの枕だけは手放したくはなかった。夏の西日が差し込める部屋で、私はただ何も考えずにこの私だけの瞬間を捕まえ続けていた。
「……あれ?」
焦点が合う。見上げるのは見慣れない天井。ああ、ここはシンの部屋だ。私はあのまま寝てしまったのだろうか?
「おう、起きたのか?」「ん~、シン?」
シンの声に私は身体を起こす。いつの間にか床に寝崩れていたのだろうか?
「――きゃぁっ!?なんで!?」
自分がどんな格好をしているのか気づき、咄嗟に肩を抱く。夏で薄着だったのは自覚はあるが、上まで脱いだ覚えはない。まさか、シンが――!?
「……お前、俺の部屋で寝るのはいいけど、暑いんなら布団被るなよ。汗かきながら眠ってたぞ。その辺に服を脱ぎ散らしながら」
呆れたようなシンな声。シンの言葉を信頼するなら、私は西日の射す部屋の部屋の暑さに耐えかねて、寝ぼけて服を脱ぎながらも寝続けていたらしい。
枕を抱いてたはずなのに、いつの間にか布団に潜り込んでいたなんて……そこまでしてシンの残り香に包まれたかったのだろうか?
暑くて服を脱いでも、シンの匂いのする布団は手放したくなかったんだろうか?
「ほれ、服着ろ」「あ~、ありがと、シン(=ω =.)ポリポリ」
彼の前でみっともない姿を見せてしまったのが恥ずかしくて、私はゆる~く振舞う。大丈夫、いつもの私だ。
「……しかし、
こなたも『きゃぁ』なんてかわいい声出すんだな。正直、驚いた」「……どう、萌えた?(=ω =.*)」
ちょっと上ずった声で、からかいの言葉を返す。きっと私の顔は真っ赤だったはずだけど、鈍感な彼は気づかない。気づくはずもない。
でも、私は気付いてしまった。もう、我慢の限界だということに、彼に想いを告げずにいられないということに。
私、泉こなたはひとりの男性として、シン・アスカを愛してしまっているということに――
最終更新:2007年11月13日 15:12