気づいたらそこにいた。明確に意識していたわけではない。
確かに、彼女に会いたいという願いは在った。
ただ、それだけ。
本来自分がいるべき戦争の世界から、彼女たちがいる平和な世界へ。
気づけばそこにいて、それでも再び戦争へ。
そこで、大きな敵に会った。相手は自分のことをどう思っていたかは知らないが、少なくとも自分は敵だと思っていた。
信念を強く抱き、邪魔な言葉が聞こえないようにと剣を振るう。それを軽々と敵は避け、こう問いかけてくる。
お前が欲しかったのは、本当にそんな力か。
負けていた。技術、精神、経験、あらゆる面が劣っていた。
そんなこと考えたことなどあっただろうか。守るためには力が必要だと。戦意が足りなくなったら憎悪から汲み上げ、それでもなくなったら守りたいものを定めて力を得た。
平和が欲しかった。なんどもなんども挫折を否定し、求めたのは誰も死なない世界。
でもそんな楽園が世に築けるはずはなく。彼は最後に負けた。
しかし、チャンスが舞い降りた。彼にはもう一度やり直す権利が与えられた。
そうして、平和な世界で彼女たちと出会い、過ごすうちに見えてくるものがあった。半人前から一人前へ。そんな大きな進歩ではないけれど、強く、たくましく。
「―――」
久しぶりの感覚を噛み締めるように歩く。時の経過が、建物のくたびれ具合から分かる。
目指すは一軒の家。様々な思い出が詰まった大事な宝箱。
仲のいい姉妹とすれちがい、危なっかしい眼鏡の女性とすれちがう。彼を知る誰もが彼を振り向き、気のせいかと日常へと戻っていく。
例として、彼女らと彼が知り合いだったとしても。彼がこの世界を後にして三年が経っている。時は止まらず、それぞれが目まぐるしく変化し、また心をも塗り替えてゆく。
そうやって、人は生きてゆく。初恋の人だからといって、いつまでもいつまでもその人だけを胸に決める人はいない。新たなものを見るたびに過去のモノは劣化し、いくら美しくともいつかはその座を譲るときがくる。
かすかに笑みをこぼし、彼はまた一歩進む。
辛く、厳しい時間が終わり、彼はまたこの地を歩く。
家がある。
住んでいた家だけに大した遠慮もせずに玄関へと進む。
風が優しく頬を撫でる。
ひとまず深呼吸をし、心を落ち着かせる。
「・・・よし」
ノブを回して家の中に入る。
玄関には呆気にとられた少女が立っている。まるで彼女だけ成長が停止しているかのように大きな変化は見られない。
そのことに内心、ほっとしつつも苦笑し、彼女の顔を見て満面の笑みで呟いた。
少女は驚いた顔を咄嗟に取り繕い、最初のひとことはいつもどおりのゆる~い表情で。
「シン。遅かったね」
それでも瞳の端には僅かな水滴を浮かべて。
休まずに動き続ける時間は同じように。しかし、その時間の中に数え切れないほど在る特別な時間はぎこちなく、だが確かに動き出す。三年前のまま衰えもなく、きれいな輝きを放ったまま爛々と回っていた。
最終更新:2007年11月18日 07:49